うつ病概念の拡張 子供のうつ病
うつ病概念の拡張ということでこれまでいくつも紹介していますが、
今回は 子供のうつ病 について。
「従来型うつ病」は、勿論、人格の成熟した大人に見られるものでした。
しかし最近は、子供の抑うつも、うつ病として、拡張解釈しています。
下記の新聞記事の中で、
『うつ病の診断で広く使われている米国精神医学会の基準で「大うつ病性障害」(うつ病)と診断された』
と書かれている部分がありますね。
これが、うつ病の拡大解釈を招いている一因です。
『うつ病の診断で広く使われている米国精神医学会の基準で「大うつ病性障害」(うつ病)と診断された』
ものは、「従来型うつ病」を含みますが、それ以外も含んでしまいます。
診断として「ゆるい」、「精密でない」のです。
結果として、うつ病概念の拡張になっています。
記事の中で、
有病率は、中学1年(総数122人)に限ると10.7%に上った。研究チームの伝田健三・北大大学院准教授(精神医学)は「これほど高いとは驚きだ。これまで子供のうつは見過ごされてきたが、自殺との関係も深く、対策を真剣に考えていく必要がある」としている。
とあります。122人のなかで、13人が、DSM-4でいう「大うつ病」だったという結果らしいですが、中学一年生の10パーセントがうつ病らしいなどと、数字を一人歩きさせてはなりません。そんなことを言ったら、NHKのテレビ番組、「ためしてガッテン」レベルになってしまいます。
子供たちのメンタルヘルスにもっと関心を持つべきだというのは、賛成、しかし、注意深く、子供専用の精神医学を考えなくてはならないと、個人的には考えています。
精神病院で10年以上にわたりうつ病の治療と研究にあたってきたような医者の「うつ病」概念と、
DSMでいう「うつ病」の概念には明らかに差があります。
精神病院で30年くらい仕事をしている先生の予想や注意はよくあたります。その正確さを実体験している者にとっては、ドイツから始まり日本で成熟したうつ病診断学こそが本物だと思いたくなります。「あの患者さんは、3ヶ月ではすまない、半年はかかるだろう」「あの患者さんは、病棟で××さんと一回もめるだろう」「あの患者さんは、そのうち○○の症状が出て、△△の薬を使わざるを得ないだろうけれど、使えば使うで、これこれの問題が出るだろう」など、ちらっとアドバイスされて、実際その通りになるのですから、本物だと信じるにいたります。
DSMは、原因がはっきりわかって、その知見を基にして、明確に診断基準を提示しているというものでは、「まったく」ありません。
極端に言えば、病気の原因を探り、薬や精神療法の効果を統計的に処理するために規定された、操作的な疾患概念でしかありません。そして、アメリカ精神医学会の政治の産物でもあります。
しかしまた、長い間鍛えられてきたドイツ-日本の「うつ病」診断学も、最近の外来精神医学では、新しい展開を余儀なくされつつあるようです。
DSM流に操作的に概念規定していくのは、とりあえずよいと思うので、できるならば、もっと精密に、細分化して、診断したいものだと思います。「大うつ病」という「箱」が大きすぎるのです。
ともあれ、以下に紹介。
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小中学生の「うつ病」、1.5% 北大調査
これまで小中学生本人へのアンケートをもとに1割前後が抑うつ状態との結果が出ているが、今回は医師の診断に基づく。北海道千歳市内の小学校8校の4~6年生616人と、中学校2校の1年生122人を対象に、学校の健康診断に合わせて4~6人の精神科医が診断に当たった。
その結果、1.5%に当たる11人が、うつ病の診断で広く使われている米国精神医学会の基準で「大うつ病性障害」(うつ病)と診断された。高学年ほど増える傾向にあり、中学1年生では5人だった。軽症のうつ病や双極性障害(そううつ病)を含めると4.2%の31人(中1は13人)だった。不登校の児童・生徒も調べたが、うつ病は一人もいなかった。
伝田准教授は「本人へのアンケートではうつ病の可能性も含むため数字が高めに出がちで、今回の結果が実態だろう。大人の有病率は約5%と考えられており、中学生は大人と変わらなかった」としている。
また、最初の簡単な面接でうつ病や双極性障害を疑ったうちの約4分の1は、広汎性発達障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)とみられるという。伝田准教授は「ADHDなどの多動や衝動性といった特徴が、そう状態の症状と混同されている可能性がある」と指摘している。
調査は今年4‐9月に北海道内の小学4年から中学1年までの児童、生徒計738人(男子382人、女子356人)を対象に実施。調査への協力が得られた小学校8校、中学校2校にそれぞれ4‐6人の精神科医が出向き問診、小児・思春期用の基準などに基づき診断した。それによると、軽症のものも含めうつ病と診断されたのは全体の3.1%、そううつ病が1.1%。
学年別にみると、小学4年で1.6%、同5年2.1%、同6年4.2%と学年が上がるほど割合が高くなった。就寝・起床時間や1日のうちに外で遊ぶ時間、テレビ視聴時間、ゲームをする時間、朝食を取るかどうか、など生活スタイルについても尋ねたが、分析の結果、関連はみられなかった。
これとは別に、高機能自閉症などの「高機能広汎性発達障害」や、注意欠陥多動性障害(ADHD)が疑われたケースが2.6%あったが、日常生活や発達歴に関する情報がないため明確な診断には至らなかった。うつ病やそううつ病と診断された児童、生徒の親らには、症状に応じて医療機関の受診を勧めるなどしたという。調査結果は12日から徳島市で開かれる日本精神科診断学会と、30日から盛岡市で開かれる日本児童青年精神医学会で発表する。
■うつ病・そううつ病
うつ病には、症状が5つ以上あり2週間以上続く典型的な「大うつ病性障害」や、比較的軽症の「小うつ病性障害」、軽症だが1年以上症状が続く慢性の「気分変調性障害」がある。そううつ病は双極性障害とも呼ばれ、うつ病期とそう病期を繰り返す。
(新橋心療内科注……大人の場合は1年ではなくて、2年ですが、子供の場合は1年となっています。)
成人のうつ病に関しては、厚生労働省研究班の2004‐06年度の報告書によると、約4100人の地域住民が対象となった面接調査で、約2%が過去1年に大うつ病性障害を経験していたとのデータがある。
■薬より安心感と休養を 児童精神科医の石川憲彦さんの話
今回の調査データは、学校などの子供社会に不自然なストレスがかかっている現状への警鐘として位置付けられるが、一方で、診断された子供や親の不安をあおる懸念もある。子供のうつ病は症状の重さに非常に幅があり、うつ病と診断されたからといって、すぐに投薬が必要なわけではない点に注意が必要だ。いらいらなどの症状がある子供には、まず安心感と休養を与え、症状を生んでいる原因を周囲が協力して取り除いてやることが何より大切だ。
=2007/10/09付 西日本新聞朝刊=
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また別の新聞にはこんな記事。
不登校対策の「メンタル・フレンド」が成果
不登校や引きこもりなどの若者を支援している福島市のNPO法人ビーンズふくしまは、かつて不登校だったスタッフが外出できない若者の自宅を訪問する「メンタル・フレンド」に取り組み、成果が出始めている。
自らの経験を糧に、スタッフが年齢の近い若者と向き合い「心の鎖」を解きほぐす試み。
訪問事業へのニーズは高く、ビーンズふくしまは11月にも学生スタッフを募り事業を拡大する計画だ。
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