母親の喫煙は子供のADHD発症に影響する?
以下、前半は日経メディカルからの引用です。
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母親の喫煙は子供のADHD発症に影響する
安原こどもクリニック(大阪府寝屋川市)院長
注意欠陥/多動性障害(ADHD)の子供を持つ母親は、喫煙率が高い傾向にあることが明らかになった。母親の喫煙と児のADHDの関連性について、海外では報告はあったが、わが国では初めて。調査を行った安原こどもクリニック(大阪府寝屋川市)院長の安原昭博氏に調査の結果と経緯について聞いた。
安原こどもクリニックの安原昭博氏
私は2006年1月に、ADHD、自閉症、広汎性発達障害をはじめとする小児神経科の専門的なクリニックを開業し、診察に当たっています。勤務医時代も含めると、これまでに600人以上のADHDの子供たちを診察してきました。
ADHDの原因については、これまでに遺伝、妊娠中の飲酒、喫煙、鉛の摂取などが指摘されています。中でも喫煙については、私自身、ADHDの児の母親や父親に喫煙者が多いという印象を持っていましたので、以前から注目していました。
そんなとき、縁あって子供の禁煙外来(卒煙外来)についての勉強会に参加し、当時、静岡県立こども病院にいらした加治正行先生(現在は静岡市保健福祉子ども局保健衛生部参与)とお話をする機会がありました。そのとき先生に「海外には、妊娠中の喫煙と子供のADHD発症に関する論文があるのに、日本には一つもない。一度調査をしてみてほしい」と要請され、調査を行うことになったのです。
妊娠判明後の禁煙では間に合わない
昨年12月に少数で予備調査を行ったのですが、その時の喫煙率は66%と非常に高い結果になりました。その後、改めて今年1~3月に当院に来院したADHDの児を持つ母親167人(平均年齢39.1歳)を対象に調査したところ、喫煙率は46.7%でした。中でも、出産時の年齢が20~24歳の母親だけで見ると、喫煙率は87.5%とさらに高率でした。2002年に実施された第1回21世紀出生児縦断調査(厚生労働省)によると、一般の母親の喫煙率は17.4%で、喫煙率が高いとされる若年齢の母親でも34.7%と報告されていますから、ADHD児を持つ母親の喫煙率の高さは際立っています。
一方、妊娠時点で見ると、ADHDの児を持つ母親167人のうち58人(34.7%)が喫煙をしていましたが、そのうち約半数に当たる26人は、妊娠が分かった時点(平均妊娠2.5カ月)で禁煙していたことも分かりました。また、父親についての喫煙率も調べましたが、ADHDの児を持つ父親では70.1%、厚労省の調査で一般の父親は63.2%で、大きな差はありませんでした。
今回は、自施設での少数の調査ですし、厳密にADHDの発症リスクを算出したわけではありませんが、少なくとも、ADHD児の母親の喫煙率が高いことは明らかになったと考えています。ぜひ日本でも全国的な調査を行って、母親の喫煙(特に妊娠中の喫煙)とADHD児出生の関連性を調べ、母親が喫煙することのリスクを把握するべきだと思います。
また今回の調査では、妊娠後の禁煙は平均2.5カ月後に行われていましたが、大脳は妊娠3カ月くらいまでに形成されますから、妊娠初期の喫煙とADHDの発症に因果関係があるとすれば、このタイミングでの禁煙では間に合いません。「妊娠したらタバコをやめる」ではなく、「妊娠適齢期の女性はタバコは吸わない」が、あるべき姿ということになります。
これは私の印象ですが、最近ADHDの子供が増えているように思います。その原因の一端は、若年女性の喫煙率の上昇にある、というのが私の考えです。そして、日本では少年少女が簡単にタバコを買えてしまったり、いまだに国がタバコの宣伝を許しているといったことが、大きな問題だと考えています。
今回のような調査は、既にADHD児を持つ母親にとっては酷かもしれません。もちろん、そうした母親を責めることが目的ではありませんが、ADHDを発症した子供の治療法はいまだ確立されていないのが現状です。だからこそ、調査を行って喫煙とADHD児発生の関係を明らかにし、そうしたデータに基づいて、若年女性に強く禁煙を勧めなくてはならないと私は思うのです。
*****引用終わり
たしかに、私の印象でも、ADHDの子供は増えているように思います。
母親の喫煙と関係があるかといわれれば、統計的な実証はできないものの、何となく、そのような傾向があるのかもしれないとは思います。
ですから、上の文章は、そういった漠然とした印象を肯定してくれているわけです。
しかし、科学的論証としては、
「母親の喫煙は子供のADHD発症に影響する」ではなく、
「母親の喫煙と子供のADHD発症は、相関がある」という命題になると思います。
「母親の喫煙は子供のADHD発症に影響する」という命題を主張するならば、具体的なメカニズムの解明が必要です。
たとえばの話ですが、
「母親がテレビを一日3時間以上見ることが、本当の原因で、
母親が喫煙することもその結果であり、
子供のADHD発症もその結果である」というメカニズムを想定しても、
母親の喫煙と子供のADHD発症についてデータをとれば、同じ結果が出るのです。
それができない段階では、メカニズムを抜きにして、
「母親の喫煙と子供のADHD発症は、相関がある」という命題を検証する作業になります。
だとすれば、喫煙は別の原因の結果かもしれないのです。
極端に言えば、
「母親の喫煙は子供のADHD発症に影響する」という命題を逆転させて、
「子供のADHD発症は母親の喫煙に影響する」という命題を立ててもいいはずです。
メカニズムとしては、
ADHDである子供は、胎内で特別な物質を分泌し、
その結果、母親はタバコを吸いたくなる、と考えてもいいわけです。
実際は、それは極端すぎるというもので、
タバコの成分のなかで、たとえばニコチンは、身体の細血管を収縮させるので、子宮へ血液を送る血管も、また、胎児の血管も、収縮させて、……という因果関係は当然推定されるわけで、まあ、胎児にいろいろな影響が出そうだということは漠然と推定できるところではあります。
しかし、実際の科学的思考としては留保が必要だということになります。