出生時に低体重→ストレスに弱い成人?
Stress response in older adults linked to birth weight
J Clin Endocrinol Metab 2007.
以下、「」内は引用部分。
「成人後期に心理社会的ストレスを受けている時のコルチゾール濃度と出生時体重との間にはU字型の逆相関が見られる。」
という研究である。
「胎児期の状況が心血管疾患や抑うつ状態などの成人に多く見られるいくつかの障害に対する感受性に大きな影響を及ぼすことが徐々に明らかになってきた」とNational Public Health Institute(フィンランド ヘルシンキ)のDr. Eero Kajantieらは言うのであるが、本当か?
背景にあるのは、
「高コルチゾール症と低コルチゾール症が双方とも胎児期にプログラムされるのではないか」という仮説。
それが、調査の結果では、
「成人後期に心理社会的ストレスを受けている時のコルチゾール濃度と出生時体重との間にはU字型の逆相関が見られる。」というのだから、的中である。
つまり、出生時体重が普通くらいなら、成人したとき一番ストレスに強くなり、低体重でも高体重でも、ストレスに弱くなるということ。
出生時体重と、心理社会的ストレス因子(TSST:試験者用社会的ストレス検査)と唾液中のコルチゾール濃度、血漿コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の濃度が測定された。
体重と血漿ACTHとの間には一次関係が認められたのに対して、出生時体重と唾液中および血漿中のコルチゾールの間には二次関係が認められた。
視床下部下垂体副腎系(HPAA)はストレスに対する抵抗システムのひとつであると考えられている。胎児期に視床下部下垂体副腎系(HPAA)の形成に不全があると、成人後のコルチゾール値が低くなり、つまりストレスに弱く、結果として、外傷後ストレス、線維筋痛、慢性疲労症候群などの障害になりやすいと考えているようである。
成人後期としていて、つまり、中年になってからと論じているようで、なぜなのかはっきりしないが、若い頃は、性ホルモンが充分にあることが、視床下部下垂体副腎系(HPAA)の不全を補っているのかもしない。
さて、こうしてみてくると、まあ、ありそうな話ではある。ただ、おそらく、低体重は、胎児期における全体的な発育不全を予想させる指標であり、低体重であれば、身体の各システムに不全はあるかもしれないとの可能性を想定していいだろう。その中のひとつが、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全であり、低体重と視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全の特異的な因果関係を示すものではないだろう。
一部は、何か別の原因があり、低体重と視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が両方結果であるということになるだろう。
また一部は、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が原因となって、低体重が結果となった場合もあるだろう。
出生児高体重の場合も、中年期になって、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全がありそうだという結果も、興味深い。これもいくつも解釈できると思う。
先天性に形成不全があるか、母胎の側に、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全や血糖システムの不全があるか、あるいは胎児期に何か一時的なストレス要因があったか、など。
視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が胎児期に決定され、その後訂正されない可能性があるというのは、困ったことだが、このシステムを補助することなど、治療的な関与はできるかもしれない。
昔は、うつ病の診断に、視床下部下垂体副腎系(HPAA)の検査をする場合があると、ハリソン内科学に記載があったものだ。