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非定型うつ病の症例研究

こうした論文を読むと、comobidityの問題はやはり大きいと思う。
くっきりとしたclinical entityを立てきれない現状では、記載を精密にしていくしかないのだろう。

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非定型うつ病の症例研究
多田幸司,山吉佳代子,松崎大和,小島卓也
Koji Tada,Kayoko Yamayoshi,Yamato Matsuzaki,Takuya Kojima:
Atypical Depression in Japan-39 case series-

目的と方法: Columbia大学の研究グループによれば,非定型うつ病とは気分の反応性のある抑うつ気分に加えて,過眠,過食,鉛様の麻痺,拒絶に対する過敏性の4項目のうち2項目を満たすものである.本邦における非定型うつ病の臨床特徴を捉える目的で非定型うつ病の診断基準を満たす外来患者39名(男性10,女性29)について発症年齢,合併精神障害について調べ,各々の非定型症状について症例ごとに検討した.さらに,対人過敏性と非定型症状の関連,うつ病発症前のライフイペント,心理的ストレスの有無についても調べた.

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結果:平均発症年齢は22±6歳と比較的若く,合併精神障害では社会恐怖が20例と最も多かった.過食症状は30例に認めそのうち25例が女性と性差が際立っていた.過眠症状は29例に認めたが眠気を訴えるものは7例と少なく,多くは気力がなくて起きていられないと訴えた.鉛様の麻痺を認めたものは19例と比較的少なかった.拒絶に対する過敏性を認めたものは32例であり,この症状はFNE,LSASおよびBSPSのスコアと相関していた.過眠は対人過敏と関連した症状であるとのParkerらの研究をふまえて対人過敏と過眠,過食との関連を調べたが有意な相関は得られなかった.うつ病発症の誘因としては異性との別れが7例と目立ち,社会恐怖を合併しているものでは,恐怖症状のため社会生活で自信をなくし絶望することが心理的ストレスとして重要であった.双極性障害を合併しているものは7例であり,そのうち6例が全般型の社会恐怖を合併していた.

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考察:これまで海外で報告されていた非定型うつ病の特徴が今回の研究でも一部確認された.また,非定型症状の特徴についても明らかになった.合併精神障害ではとりわけ社会恐怖の意義が大きく,拒絶に対する過敏性は,合併する社会恐怖と関係があることが明らかになった.また,社会恐怖全般型では非定型うつ病の経過中に双極性障害へ発展する可能性があること,恐怖症状により自信をなくし絶望することがうつ病の背景にあるストレスとして重要であることなどが明らかになった.予後については合併精神障害のないものや非全般性社会恐怖を合併しているものでは比較的良いが,全般性社会恐怖や人格障害,双極性障害を合併しているものでは不良であった.<索引用語:非定型うつ病,社会恐怖,過眠,過食,拒絶に対する過敏性>

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はじめに
1950年代に,英国の医師WestとDallyはモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)に反応するうつ病の特徴について報告し,非定型うつ病という名称を初めて用いた.MAOI反応群は非反応群に比較して自責の念,早朝覚醒,午前中の抑うつ気分の悪化を訴えることが少なく,電気治療に対する反応性が悪かった.また,MAOI反応群では極度の疲労感,恐怖症や転換ヒステリーの既往,周囲の出来事に対する過剰な反応などの特徴が観察された.その後,Sargant,HordernもMAOIに反応するうつ病の患者群についてほぼ同様の臨床特徴を認め報告した.KleinとDevis,LiebowitzとKleinは自己顕示性人格,非抑うつ時の活動とエネルギー水準の亢進,拒絶時の抑うつ状態へのなり易さ,過食,過眠,極端な疲労感,抑うつ時の気分の反応性で特徴付けられるうつ病の亜型についてhysteroid dysphoricsと命名しMAOIに特異的に反応すると報告した.その後,Columbia大学の研究グループによって非定型うつ病の操作的診断基準が提案された.彼らは診断基準に沿って診断された非定型うつ病の患者群について,MAOI(phenelzine),imipramine,プラセポの3群間の治療反応性を比較した.その結果,非定型うつ病の患者ではimipramineに比較してphenelzineによる治療を受けた方が有意に改善することがわかった.

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本邦ではMAOIがうつ病の治療薬として用いられてこなかったためか,MAOIに特異的に反応するうつ病群に関する研究に注意が向けられることはほとんどなかった.わずかに過眠をきたすうつ病に関する報告があり,記載された症例には過食など非定型うつ病の他の特徴が見出せる.DSM-IVではColumbia大学グループの診断基準が取り入れられているが,本邦では非定型うつ病は十分に認知されているとは言いがたい.今回の研究では,非定型うつ病の臨床特徴を捉える目的で非定型うつ病の診断基準を満たす外来患者について発症年齢,合併精神障害について調べ,各々の非定型症状について症例ごとに検討した.さらに,対人過敏性と非定型症状の関連,うつ病発症前のライフイペント,背景にある心理的ストレスの有無についても調べた.

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対象と方法
対象は1994年から2003年の間に日大板橋病院ないし駿河台日大病院精神科外来において筆者が担当した初診患者(約2700名)の中で非定型うつ病と診断した39名である.診断はColumbia大学の研究グループによって作成された非定型うつ病評価スケール(atypical depressive disorder scale(ADDS))を用いた.1996年以降は初診時に非定型うつ病が疑われる症例ないし,社会恐怖や強迫性障害の診断で経過中に非定型うつ病の症状が出現した症例についてADDSを施行した.それ以外の症例(症例18,35)についてはADDSを用いてあらためて評価した.表1にADDSの邦訳を示した.なお,邦訳にあたっては横山らの文献を参考にした.合併精神障害はDSM-III-RまたはDSM-IVを用いて診断した.

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過眠症状は鎮静作用のある薬物を投与されている場合は評価できないため,睡眠薬や他の鎮静作用のある薬物による治療を受けているものは除外した.また,過剰診断を避けるためここでは非定型うつ病発症以前に大食症の既往が認められる場合には鉛様の麻痺あるいは過眠が認められるものについてのみ非定型うつ病と診断した.また,拒絶に対する過敏性が非定型うつ病の中心的な症状であるとのParkerらの指摘を参考にして,拒絶に対する過敏性と関連が深い批判的評価に対する恐れの尺度(fears of negative evaluation(FNE)),社会状況からの回避と苦悩の尺度(social avoidance and distress(SAD))を用いて患者を評価し,得られた得点と非定型症状の関係について回帰分析を用いて調べた.また,非定型うつ病は社会恐怖との合併が多いことが知られているためLSAS(Liebowitz social anxiety scale)およびBSPS(Brief social phobia scale)を試行し得点を求め,非定型症状との関係を求めた.LSASとBSPSは社会恐怖の診断スケールではないが,重症度や治療効果を反映する尺度であり今回は社会恐怖の診断がつかない症例に対してもLSASとBSPSを施行した.個々のLSAS得点の評価を行う時は朝倉らの論文を参考にし,44点以上を高値とした.BSPSはLSASが利用出来る以前は社会恐怖の尺度として用いていたため引き続き利用した.しかし,LSASは北大グループによりカットオフ値など詳細な研究がなされているが,BSPSは本邦ではほとんど検討されていない.そこで,個々の症例のBSPS得点の評価は行わなかった.統計解析は,SPSS12.0Jを用いた.

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表1
非定型うつ病評価スケール(atypical depressive disorder scale(ADDS))

Ⅰ 気分の反応性

何かよい出来事がまわりにあった時気分が持ち上がるかどうか,その程度について質問する.
質問例;この3ヵ月間に,もし誰かがあなたに親切にしてくれたり,なにか素敵なことが起こったり,誰かがあなたを励まそうとしてくれた時,あなたは一時的にでも元気になりますか?100は全く落ち込みのない気分,0はこの3ヵ月間の全体的気分として,上記のことがあった時あなたがどの程度反応するか教えてください.誰かが,あなたやあなたの子供を誉めたらどうなりますか?誰かが,あなたが本当に行きたいと思っていた場所に招待してくれたらどうなりますか?金銭的に成功したり,経済上の業績が上がった時,あるいはその他の好ましい事柄が起こった時,仲の良い友人や,子供があなたをに励まそうとした時はどうですか?
あなたは少なくとも一時的にせよこれらのことに反応することが出来ますか?
特別なテレビ番組,音楽,好きな本によってはどうですか?
あなたの通常の,あるいは最も典型的な反応はどうですか,最大の反応はどうですか?
(通常の反応a.__%,最大の反応b.__%とし
bが50%以上の時反応ありとする)

Ⅱ 関連症状(陽性と判定するにはA-Dのうち2つを必要とする)

A 睡眠
過剰に睡眠をとるか質問する.
質問例;この3ヵ月間の睡眠はいかがでしたか?1日に何時間睡眠をとりましたか?
(1日に10時間以上眠る日が週に3日以上あれば陽性とする)

B 鉛様の麻痺
重い,鉛のような,重りをつけられたような身体の感覚について質問する.
質問例;この3ヵ月間における,興味や意欲といった精神エネルギーではなく身体のエネルギーについての質問です.どれだけエネルギーがないか教えてください?全くエネルギーがないのか?手足が鉛でできているように重く感じる時があるか?階段を登ったり,椅子から立ち上がるのに身体的な努力が必要だったことがあるか?あるとすればどれくらいの頻度であるか?どのくらい持続するか?1週間のうち少なくとも1時間以上,鉛のような感覚がする日は何日くらいあるかについて教えてください?
(明らかなエネルギーの低下があり,1週間のうち少なくとも1時間以上,抑うつ状態に伴って鉛のような感覚がする日が週3日以上あれば陽性とする)

C 食欲/体重(下記の1),2),3))のどれかが陽性であればCは陽性と判定する.
1)食欲
食べたいという強い衝動について質問する.食べる量とは無関係である.
質問例:この3ヵ月間の食欲はいかがでしたか?実際に食べた量ではなく,食べ物に対する強い要求があったか教えてください?それが過剰かどうか,その頻度は?過食衝動があったか,1日のうちどのくらい考えていたか?
(週に3回以上過食したいと思う,あるいは週のうち5日以上食べたいという強い衝動があれば陽性とする)

2)食事量
食事の過剰摂取について質問する.
質問例:食欲とは無関係に,この3ヵ月間にどれだけ食べたか教えてください?
(落ち込んだ時,週に2回以上むちゃ食いする,ほとんど一日中なにか口にしている,1日に何回も軽食をとる日が週3日以上あれば陽性とする)

3)体重
質問例;この3ヵ月間の体重の変化について教えてください?体重は減りましたか?あるいは増えましたか?どのくらいの期間でそうなりました?
(10ポンド(3.73kg)以上の体重増加があれば陽性とする)

D 拒絶に対する過敏性
対人関係の過敏性によってどの程度,機能が障害されるか質問する.この場合,任意の2年間について問う.

1)対人関係の過敏さ(拒絶や批判に対する情緒的過剰反応)
質問例;あなたの人生をふりかえって,他人のあなたに対する接し方に対しどれほど敏感だったか教えてください?普通の人と比べて容易に拒絶された,あるいは馬鹿にされたと感じる人間だと思いますか?もしも,あなたが拒絶,批判あるいは馬鹿にされた時,落ち込むか,激怒するか,そしてそれはどの程度か教えてください?にこでは恋愛関係,友人関係,職場の人間関係,偶然の出会いなどについて尋ねる.明らかに過剰に落ち込む,怒る場合を陽性とする)

2)対人関係の質(拒絶や批判に対し過剰に反応することによって生じる激しく不安定な対人関係)
質問例;一般に他人とどう付き合っていますか?かなりうまく付き合っていますか?批判や拒絶に対して過敏なため,しばしば喧嘩,言い争い,誤解が生じますか?あなたにとって重要な人物に突然,ぷんと怒って仲たがいして,その後,元通りの間柄になったりする傾向はありますか?上司と頻繁に言い争うことはありますか?店員,管理人,あるいはあなたの手助けになるべき人と頻繁に言い争っている自分に気付くことはありませんか?(嫉妬や批判に対する過敏さのため対人関係は不安定となり,仕事や家事を続けることも困難となる,また,喧嘩,誤解,議論となる,あるいは過敏さのため,対人関係がほとんどもてないようであれば陽性とする)

3)機能の障害(批判や拒絶に対する過剰な反応によって生じる仕事,学校における障害)
質問例;仕事や学校を辞めたり,行かなかったりしましたか?約束をすっぽかしたり,重要な家事ができなくなったり,酒におぼれたり,薬に走ったりしたことがありますか?あったとすればこの2年間にどのくらいありましたか?(この2年間に4回以上批判や拒絶に反応してすぐに職を辞める,重要な家事ができなくなる,酒におぼれるようなことがあれば陽性とする)

4)関係の回避(拒絶を恐れて人間関係を作らない)
質問例;現在恋愛関係にありますか?2年間恋人がいませんか?それはどうしてですか?何が障害になっているのですか?人との関係を避けているのではありませんか?それはあなたがとても傷つきやすいからですか?どのくらい拒絶されることを避けようとするか教えてください?
(人との表面的関係は保っているが,拒絶を恐れて親しい関係を作らないようであれば陽性とする)

5)その他の拒絶の回避(拒絶を避けようとして,生活上の重要な課題を回避する)
質問例;拒絶されるかも知れないと心配しすぎてその他の活動が出来なくなることがありますか?例えば,面接で断られるのではと考えて就職の面接に行かない,契約が取れないと思って約束をすっぽかす,学校の先生に批判されるから授業に出席しない,配偶者に批判されると恐れて料理をしないなどです.これはなんらかの方法であなたの機能を障害しましたか?あるとすればどの程度ですか?そのため,2年間以上仕事を離れているということはありますか?そのため,結婚生活がかなり悪化していますか?2年間に何回か解雇されましたか?退学させられましたか?
(拒絶を回避するため重要な機能の障害があれば陽性とする)

III 判定
1 気分の反応性のないうつ病(lbが50%以下)
2 単なる気分反応性うつ病(lbが50%以上でIIのA-Dは陰性)
3 非定型うつ病の疑い(lbが50%以上でIIのA-Dのうち1つか陽性)
4 明らかな非定型うつ病(lbが50%以上でHのA-Dのうち2つ以上が陽性)

補足:通常4の「明らかな非定型うつ病」を非定型うつ病と診断する.

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結果
症例呈示
合併精神障害のない男性症例(症例12)
初診時19歳の男性,大学1年生.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.同胞はいない.母は知的で患者に対して理解がある.元来人と喋るのが苦手,対人場面で緊張し易い.小学生の頃から人前での発表や実技のテストなどとても嫌だった.批判されるといつまでも気にしてくよくよ考え込んでしまう性格だと言う.平成X年2月頃より夜十分に寝ているのに昼間も眠い,だるい,すぐに横になりたくなると感じるようになった.友人に誘われても億劫で断ってしまう.内科で血液検査等を施行したが異常はなかった.気力もなく,なんとなく物悲しいように感じる.クラブ活動で剣道をしている時は楽しめるが,以前ほどではない.生きていくのも辛いと考えることもあるが自殺したいとは思わない.こうなってから睡眠時間は12時間ほどに延びた.食欲はやや減ったように思うが体重は変わらない.だるくて辛いが手足が重い,体が重いとは思わない.ADDSでは,気分の反応性に加えて過眠,拒絶への過敏性があると思われた.食欲はやや低下しており体重増加はなく,鉛様の麻痺を示唆する所見は認められなかった.なお,社会恐怖に限りなく近い性格傾向を有しているが,程度は軽くかつそれによる機能障害を認めないことから合併精神障害はなしとした.治療経過;平成X年3月29日fluvoxamine50mgより開始,4月12日より100mgに増量した.5月頃より元気になった.クラブ活動中は眠くなることもなく,睡眠時間も8時間ほどに戻った.洋服を買いに出かけたり,友人と外出するようにもなった.6月頃よりほぽ以前の自分に戻った感じがすると言うようになった.

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合併精神障害のない女性症例(症例8)
初診時22歳の女性,大学生.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.両親は地方で生活し本人は東京で独り暮らしをしている.同胞はいない.性格は本人や母親からの陳述ではまじめ,几帳面,がんばり屋,親切,人前に出るのが好きとのことである.17歳,高校2年の頃から,朝起きても体が重く,再び寝てしまうようになった.神経科病院受診,服薬するが改善せず高校3年はほとんど登校できなかった.高卒後2年間浪人したが19歳時,抑うつ気分が悪化し6ヵ月間神経科病院に入院した.20歳で大学に合格し登校するようになったが,1年に数回2週間から1ヵ月ほど気分が落ち込み登校できなくなった.気分が落ち込むと食欲が出て体重が増え,睡眠時間が14時間ほどになるというパターンを繰り返していた.気分の日内変動はなく落ち込んでいる時でも友人と会うと気分が軽くなる,しかし自宅に戻るとどっと疲れが出るとのことであった.両親ともに保護的であるが,本人の意思を尊重し自由に行動させたいと考えている.母はうつ病の既往があるが現在は寛解している.ADDSでは気分の反応性に加えて過眠,鉛様の麻痺,食欲の増加が認められたが拒絶への過敏性は見られなかった.治療経過;平成X年10月22日nuvoxamine50mgより開始,11月13日より100mgに増量,11月20日頃から気分も良くなり,だるさもとれてきた.友人と映画や遊園地に行くなど活動的になった.しかし,増加した体重に変化はなく,睡眠時間も平均14時間と過眠状態は続いていた.12月からnuvoxamine150mgに増加したがやはり過眠状態は変わらず,元気にアルバイトをして,友人と楽しく遊んだかと思うと些細なことで落ち込んで登校できなくなるという状態が続いた.治療開始後2年6ヵ月経過,治療薬はparoxetine,milnacipran,amoxapineなどに変更したが症状は変動し安定しない.うつ状態になるため生活が制限されることが一番のストレスと言う.

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社会恐怖と非定型うつ病の合併例(症例16)
初診時20歳の女性,看護学生.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.両親と妹との4人暮らし,父は厳格で批判的,あまり誉められた記憶はないという.母と妹とは仲がよい.性格は本人によると心配性,他人に言われたことをくよくよ考える,新しい場面では緊張し易いという.高校生の頃から人前で喋ると緊張し動悸がした.しかし,そういった状況を避けるようなことはなく,我慢していたという.学校での実習が始まる1週間ほど前から不安感が強くなった,実習で患者さんに嫌な思いをさせたらどうしよう,指導教官に怒られたらどうしようと考え不安になっていた.実習が始まり教官に質問されたが緊張してしまい声が出なくなったり,どもったりした.緊張しているところを見られると思うとますます声が出なくなるという.

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治療経過;社会恐怖(非全般性)と診断し,平成X年2月14日よりethyl lonazepate 1mgを投与した.抗不安薬投与後不安は和らぎ実習も比較的緊張せず終えることが出来た.しかし,初診から1ヵ月たって留年が決まったことから抑うつ的となり,気力もなくなった.集中力もなく勉強も手につかない.自殺する人の気持ちがよくわかるようになった.テレビを見ても楽しめないが,友人に誘われてスポーツをすると気分がよくなると言う.身体もだるく手足がとても重い.こうなってから甘いものが好きになり1週間で3kg以上太ってしまった.不眠はなく休日には10時間以上眠るが平均睡眠時間は8-9時間であるという.この時点で診断を社会恐怖と非定型うつ病(ADDSでは気分の反応性に加えて鉛様の麻痺,食欲の増加,拒絶への過敏性があるが過眠症状はなし)の合併と考えた.3月7日よりnuvoxamine50mgを投与したところ2週間ほどで気分の暗さがとれ,だるさや手足の重い感じもなくなり,甘いものも我慢できるようになった.4月には,学校に行っても以前よりリラックスして教師と話ができるようになったと言う.

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社会恐怖と双極性II型障害の合併例,大うつ病エピソードは非定型の特徴を伴う女性例(症例13)
初診時19歳の女性,大学2年生.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.両親は患者が3歳のとき別居,その後母と姉との3人で暮らした.小学校6年の頃から人前で話をすると緊張してしまい,顔が赤くなるようになった.中学時代は部活の友人と気まずくなり登校出来なくなった.高校時代は勉強が嫌になり机に座っているのもつらくなり2ヵ月ほど不登校になった.平成X年4月大学に入り東京で一人暮らしするようになったが10月頃から学校や駅で他人から見られているように感じ怖いと思うようになった.他人と一緒だと緊張するが自宅ではリラックス出来た.12月頃より気分か落ち込み,体が重く,動くのもやっとで睡眠時間も10-12時間に延びた.大学には行けず,自宅で菓子類を過食するようになり体重も2-3kg増えた.しかし,友人に誘われて外出すると楽しむことが出来た.平成X+1年5月抑うつ気分悪化し,自宅で泣いてばかりいるため当院受診した.ADDSでは気分の反応性に加えて過眠,過食,拒絶に対する過敏性が認められた.この時点では社会恐怖(全般性)と非定型うつ病の合併と診断した.

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治療経過:fluvoxamine50mgより開始,6月24日には200mgまで増量した.症状が改善しないため7月8日よりnuvoxamine100mg,paroxetine20mgに処方を変更した.7月10日頃から気分が良くなり,今すぐ必要ではない衣類,ハンドバッグ,小物などを店員に勧められるままに一度に買ってしまった.店員とも仲良くなれてすごく嬉しくなった.食欲は低下し,睡眠も短くなり朝早く目覚めて朝市に行き野菜をたくさん買った.しかし,自宅に帰ると急に悲しくなり包丁で手首を傷つけた.7月14日よりFluvoxamineとparoxetineは中止し,炭酸リチウム200mg,sodium valproate 200mg,trazodone 25mg,nitrazepam 5mgを投与した.爽快気分はなくなり,買い物もしなくなった.過去に友人に意地悪されたことを思い出し泣いたり,腹を立て訴えると言い出した.8月5日より炭酸リチウム600mg,nitrazepam5mgとしたところ8月中旬より落ち着きを取り戻した.しかし,再び抑うつ気分,無気力,過食,過眠が出現した.その後,nuvoxamine, paroxetine, milnacipran などの抗うつ薬を用いたが平成X+1年6月の時点で抑うつ症状は改善せず,時に軽躁状態となるエピソードを繰り返している.この時点では双極Ⅱ型障害と考えた.

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強迫I生障害,境界性人格障害と非定型うつ病の合併例(症例9)
初診時23歳の女性,大学生.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.両親と弟の4人暮らし.両親ともに過保護,過干渉である.小学生の頃から汚いものが苦手で雑巾をバケツで洗うことが出来なかった.自宅でも何か触ると手洗いを繰り返し,入浴も一番でなければ気がすまなかった.高校2年生(17歳)の頃から特に理由なくイライラするようになった.自分ばかり教師に叱られるように思い登校できなくなり高校は中退した.その後浪人して大学に入学したが志望校ではなくそれがコンプレックスになっていたと言う.19歳頃から心療内科外来に不規則に通院するようになったが詳細は不明である.この頃から手を消毒するため外出時アルコールスプレーを持ち歩くようになった.23歳時当院初診,その2-3ヵ月前から抑うつ気分,希死念慮,イライラ,過食嘔吐(一日中何か食べている)が目立つようになり,無気力になり自宅で一日中寝ているようになった(睡眠時間はおよそ14-15時間,本人は寝逃げしていると言う).体もだるく指一本動かすのも大変だと感じるようになった.気の合う友人に誘われてカラオケに行くとその時は元気になった.ADDSでは気分の反応性に加えて過眠,過食,拒絶に対する過敏性が認められた.この時点では強迫性障害と非定型うつ病の合併と診断した.

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治療経過;平成X年6月7日nuvoxamine50nlgより開始,6月17日には100mgまで増量した.過食はなくなり,睡眠時間も8-9時間に減少し,だるさも多少改善した.この頃から多弁になり,踊りに行きたい,買い物をしたいと母親にせがむようになった.しかし,思うようにならないとまた寝込み,死にたいと訴えた.はっきりした躁病エピソードは認めなかったが気分の安定化をはかる目的でsodium valproateを600mg投与した.その後も抑うつ気分,希死念慮強くイライラすると床に水をまく,壁を蹴るなどの行動が続いた.何が一番辛いのかと聞くと「卒業後の就職が決まっていないこと」と答えた.どうなればいいのかと尋ねると「学者か,一流テレピ局のアナウンサー,歌手」と答え,納得できない就職は考えられないと自己愛的な側面も窺えた.11月中旬よりcarbamazepine 400mg を追加投与したところイライラは多少改善し,抑うつ気分も和らいできた.しかし,将来に対する不安は強く,些細なことで落ち込み寝てしまう状況は続いている.

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強迫性障害と双極I型障害の合併例,大うつ病エピソードは非定型の特徴を伴う女性例(症例37)
初診時30歳の女性,両親と弟の4人暮らし,家族に精神科治療歴はないが,母は患者が仕事をやめて自宅にいるようになってから夫と患者間に男女関係があると疑うようになった.既往歴として甲状腺機能亢進症を認める.性格は極端な恥ずかしがり,人前に出ると何も話すことが出来ず,まっ赤になったと言う.5歳頃から忘れ物がないか何回も確認する,水道の蛇口を力いっぱい閉めるなどの強迫的傾向があった.22歳頃より,自分の大切なものを落としてしまうのではと考え不安になり,外出する際には衣類に大切なものがついてないかどうか確認するようになった.事務職をしていたが書類を捨てる際,確認に時間がかかり仕事が続けられなくなり24歳で会社を辞めた.なお,23歳時会社の診療所で強迫神経症と診断されている.27歳頃より動悸,労作時呼吸困難,発汗,頚部腫脹などの症状が出現するようになったが外出時の確認に時間がかかるため放置していた.30歳時,呼吸困難が強くなり甲状腺機能亢進症及び心不全の診断で著者らの勤務する病院に緊急入院した.入院後確認がひどく内科病棟での治療が困難となったため精神科病棟に転棟した.入院後.甲状腺機能,心機能は正常化したが確認行為は改善せず1年10ヵ月に及ぶ入院後,強迫症状不変のまま退院した.退院後,不規則に外来通院していたが,32歳頃より抑うつ気分,過眠,過食などの症状が出現するようになった.35歳よりは一過性の軽躁状態がときに出現(高価な買い物,気分の高揚,不眠)するようになった.しかし,すぐにうつ状態となり,外来通院も出来なくなり,自宅で寝てばかりいて入浴もしなくなった.確認もひどく自宅はゴミだらけになっているとのことであった.38歳時急に多弁になり「この病院の総長になる,私がほしいのは世界jなど誇大的言動がみられるようになった.「楽しくて仕方ない,確認も楽になった.今まで出来なかった入浴もできる」と爽快気分とともに強迫行為が軽減していることも明らかになった.なお,この時点で双極I型障害と診断した.薬物療法としてはclomipramine150mg,trazodone150mg,tandospirone60mg,炭酸lithium600mg,alprazolam2.4mg,thiamazole10mgを服用していたが,躁状態になる2日前から服薬を中止していたとのことであった.無銭飲食をするなど逸脱行為も激しくA県の精神科病院に紹介入院となった.6ヵ月後に退院し著者の勤務する病院の外来に再び通院を開始したが,強迫行為は以前と同様であり,時に抑うつ的,過眠,過食となり自宅にこもり何週間も通院出来なくなるというエピソードを繰り返している.なお,甲状腺機能異常を示唆する症状や内分泌機能障害は観察されなかった.

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神経性大食症と非定型うつ病の合併例(症例22)
初診時22歳の女性,両親と妹との4人暮らし.母は過保護で帰宅時間にきびしい.父は物静かで子供のことに口を出さない.性格は明るく,生真面目,友人は多いが他人に気を使い疲れてしまうこともあるという.20歳時,宴会が続いて体重が増えたため自分で嘔吐するようになった.21歳時,彼氏から別に好きな女性がいると告白された.その人はやせている人だと言われショックを受けた.この頃から食後に菓子パンを5-6個,おにぎり2個,1リットルほ330どの飲料を30分ほどで食べ,その後自分で嘔吐するようになった.また,一時期自分でも知らない間に彼氏との写真を破る,石を叩いて手から血が出ていたというエピソードもある.某大学病院で神経性大食症と診断され45日ほど入院したが改善しないため治療は中断した.その後も過食,自己誘発性嘔吐は続き,22歳時,抑うつ気分,意欲の低下(何もやる気がおこらず一日中横になっている),希死念慮,過眠(1日13時間以上眠った),倦怠感,手足のだるさを訴え当院初診した.抑うつ気分は過食の後強くなり,友人と外出する時はほぼ消失し楽しむことができた.初診時診断は神経性大食症,非定型うつ病(ADDSでは気分の反応性に加えて過眠,過食,鉛様麻痺が認められた)とし解離性障害の既往があると考えた.

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治療経過;nuvoxamine(50-150mg),domperidone投与3週間後からは驚くほどだるさがとれた,過食も若干減った(朝からしていた過食が昼と夜のみになった),気分も楽になり,テレビを見ても楽しめる,気力はないが編物をするようになった.睡眠時間は6時間になり昼間は横にならないですむようになったという.その後,過食は週に3回ほどになり,意欲もでて初診から6ヵ月後には仕事も始めた.気分もよく友人と旅行をするがやはり遊んだ後はかなり疲れると訴える.事務員として働いているが過食,嘔吐はほぼ毎日続いている.

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症例のまとめ;症例のまとめを表2に示した.非定型うつ病初発エピソードの平均年齢は22±6歳であった.また,合併精神障害の初発年齢は17±4歳であった.男女比はほぽ1対3と女性が男性のおよそ3倍であった.

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合併精神障害;合併障害で最も多いのは社会恐怖であり39名中20例(51%)に合併していた.また,そのうちの10名は全般性の社会恐怖,10名が非全般性の社会恐怖であった.また,社会恐怖症状は自発的に語られることはなく,症例16を除き,ほとんどがうつ病エピソード発症前に社会恐怖症状による精神科受診歴はなかった.また,社会恐怖と診断できない症例の中にも社会恐怖心性(対人恐怖心性)が観察されるものやLSASの得点が高いものが5例認められた(症例39;人前にでるのはどちらかというと苦手.LSAS48.症例7;自発的に語られる社会恐怖症状は認めず,問診では社会恐怖と診断できなかったが,LSASは70と高得点であった.症例23;問診では社会恐怖と診断できないが,LSAS54と高値.症例21;同様にLSAS45.症例37;18歳までは極端な恥ずかしがり屋,人前に出ると真っ赤になった.その後強迫症状出現し,社会恐怖症状は目立たなくなった.LSAS未施行).強迫性障害は4例(症例1,9,17,37)でこのうち2例(症例1,37)は双極性障害の診断であった.このうち1例(症例1)は全般性の社会恐怖を合併しており,もう1例(症例37)は「強迫症状出現以前は人前にでると真っ赤になる,人前では何も話すことができなかった」と社会恐怖症状の既往があると思われた.残る2例(症例9,17)は思春期から強迫症状と過食症状を認め性格傾向としての強迫性と自己愛的傾向を認めた.図1に合併精神障害とその数を示した.

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過食症状;過食または体重の増加を示したものは30例(男性5例,女性25例)であり,そのうち18例(男性1例,女性17例;症例3,4,5,9,10,13,14,17,18,19,21,22,23,27,29,30,37,38)がむちゃ食いエピソードを経験し,そのうち4例(症例4,17,21,22すべて女性)に過食の後,自己誘発性嘔吐を認めた.過食後に嘔吐するものを除いて多くは過食のため体重が増加した.むちゃ食いエピソードがみられる症例の多くは憂うつ感を紛らわすために過食すると訴えていた.また,神経性無食欲症の診断基準を満たすものはいなかった.

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過眠症状;過眠症状は29例に認めた.過眠症状が認められないものでも不眠を訴えるものはほとんどいなかった(症例39に軽い不眠を認め,一時的に睡眠薬が使用された).眠気を訴えたものは7例(症例2,10,12,17,26,32,37)と比較的少なかった.多くはだるくて,気力がなくて,疲れて起きていられないと訴えた.眠って逃げていると説明したものも3例(症例7,9,26)いた,昼夜逆転したものは2例(症例2,10)みられた.

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鉛様の麻痺;「体が重く,まるで鉛のようですか?」と尋ねると,「鉛?そういうことはないですね」と答えるものが多い.ADDSの質問帳のように「手足が時に鉛のように感じますか?あるいは階段を上る時,または椅子から立ち上がるのに努力を要することはありましたか?」と尋ねると「体が重くて動くのも大変です」と答える場合が多い.鉛にこだわっているとこの項目は否定されてしまうように思えた.この症状があると判断されたものは19例いた.

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対人関係における拒絶に対する過敏性;32例に対人過敏性が認められた.ADDSでは対人関係の過敏さに関する項目で「拒絶,批判あるいは馬鹿にされた時,落ち込むか?激怒するか?」と質問する.また,関係の質の項目では拒絶や批判に対する過敏性のために激しい,不安定な対人関係になるかどうか質問する.今回,我々が経験した症例は拒絶や批判された時に傷付き,落ち込むものがほとんどであり,激怒あるいは激しい不安定な対人関係となるものは稀であった.ただし2例は過剰な怒りの感情のため対人関係が損なわれていると考えられた.

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発症の誘因;個々の症例をみるとうつ病発症前に特定の急性ないし慢性ストレスが見出せる症例が見受けられた.7名が異性との別れを契機に抑うつ状態が出現していた.

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社会恐怖を合併している症例の中には,対人緊張が強いため,不登校,外出困難,仕事が長続きしないなど社会生活が著しく制限されてしまい,その結果自信をなくし絶望的になったと訴えるものが8名いた(症例1,10,11,13,15,16,20,38).また,この8名のうち6名は全般性社会恐怖であった.

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FNE,SAD,LSAS,BSPSの得点と非定型の症状との関連を表3に示した.FNE,LSAS,BSPSの得点は拒絶に対する過敏性の項目との間でのみ関連が認められた.FNEは批判的評価に対する恐れの強さを表す尺度であり,ADDSで評価した拒絶に対する過敏性と相関するのは当然といえる.LSASおよびBSPSは社会恐怖の重症度や治療効果を反映する尺度であり,LSASおよびBSPSが共に拒絶に対する過敏性と相関することはADDSで拒絶に対する過敏性が陽性となる原因として,合併する社会恐怖症状が寄与していると考えることができる.
治療経過のまとめ;抗うつ薬としては主としてnuvoxamineを使用したが,その他三環系抗うつ薬も用いた.抗うつ薬に対する反応性は主に合併精神障害に左右されているように思われた.合併のない11例(症例7,8,12,19,23,30,31,32,33,34,39)では,そのうち8例がおよそ2ヵ月程度で軽快し,経過観察期間中に再発することはなかった.しかし,残りの3例(症例8,23,33)は治療に反応しないか,一時的に反応してもすぐに抑うつ状態となり,抗うつ薬の変更によっても抑うつ症状が改善しなかった.主として非全般性社会恐怖を合併している8例(症例14,15,16,24,25,26,28,36)では6例が治療により2ヵ月以内に軽快した.なお1例(症例26)は治療中断している.恐慌性障害も合併している例(症例14)はimipramineとalprazolamを用いたが,症状が一時的に軽快するもののすぐに抑うつ状態となった.また,発病以前には人格障害と診断することは出来ないが,自己愛傾向をもつ症例23はnuvoxamineにより一時的に抑うつ気分が軽快するも,就職の失敗や男友達との喧嘩で容易にうつ状態となり安定した状態が得られなかった.主として全般性社会恐怖を合併している例(症例2,3,10,11,38)では薬物療法に反応したのは2例(症例11,38)で,服薬を拒否するものが1例(症例3;6ヵ月ほどで自然に軽快),一時的に改善しても些細なストレスで抑うつ的となり1年以上の長期にわたり自宅に引きこもるものが2例(症例2,10)であった.全般性社会恐怖を合併している症例では対人緊張が強いため,生活上のストレスが多く一時的に軽快しても容易にうつ状態へ逆戻りするように思われた.

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うつ病エピソード発症以前から主として大食症を合併している例(症例4,17,21,22)では薬物治療により2ヵ月以内に抑うつ症状が消失し,過食症状も消失したものが1例(症例4),治療により症状は経過するが些細なストレスで抑うつ的となり,軽快と抑うつ状態を繰り返すものが3例(症例17,21,22)であった.境界性人格障害を合併している2例(症例9,27)はいずれも抗うつ薬の効果が乏しく,精神症状は不安定であった.躁病および軽躁病エピソードを伴うものは7例(症例1,5,6,13,18,20,37)であった.このうち1名は精神病性の特徴を伴い(症例1),もう1名は重症で,精神病性の特徴を伴わないものと診断された(症例37).どちらも重症の強迫性障害を伴い,抗うつ薬投与中に躁病エピソードが発症したため入院が必要となった.7名中5名が全般性社会恐怖を合併し,1名が非全般性社会恐怖を合併していた.軽躁病エピソードを伴う5名は抗うつ薬の減量ないし炭酸リチウムの併用により躁状態が軽快した.躁病および軽躁病エピソードを伴う7名は1年以上観察している症例がほとんどであるが,薬物により軽躁状態を呈した症例6を除き,抑うつ状態のため自宅に引きこもり睡眠時間が長くなるというエピソードを繰り返すため安定した精神状態を保てず,予後は不良であった.

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考察
今回の研究で欧米の研究と同様本邦でも非定型うつ病と診断される症例は,発症年齢が若いこと,女性に多いこと,社会恐怖や強迫性障害の合併が多いことが確認できた.非定型うつ病の診断妥当性を検討したこれまでの研究では,主としてメランコリー型のうつ病と比較されることが多かった.しかし,非定型うつ病の診断にはメランコリー型の特徴を有するものは除くという除外基準があるため,得られた結果は非定型うつ病の特徴なのか,メランコリー型以外のうづ病の特徴なのか不明であった.こうした点を考慮してParkerらは270名の大うつ病の患者から精神病像を伴う群とメランコリーの特徴を有する群110名を除いた160名について非定型の特徴の有無を調べ,そのおよそ16%を非定型うつ病と診断し,非定型の特徴間の関連性を調べた.その結果,拒絶に対する過敏性は過眠,過食,鉛様麻痺と弱く関連し,気分の反応性を認める群とそうでない群間で基準B(非定型症状)の特徴の出現率に差異はないことを見出した.この結果から彼らは精神病性ないしメランコリー型のうつ病を除いた場合には気分の反応性は非定型うつ病の診断基準として重要性がないと結論した.彼らは拒絶に対する過敏性の認められる83名と認められない77例について他の非定型症状の有無を比較した.その結果,過眠症状の頻度は拒絶に対する過敏性の認められる群で有意に高かった.また,過去にパニック障害を経験した群とそうでない群を比較すると体重増加はパニック障害経験群で有意に頻度が高かった.彼らはこれらの事実から非定型うつ病で最も重要なものは拒絶に対する過敏性であり,これに何らかのストレスが加わるとうつ状態を引き起こし,その結果,自己治癒的な過眠や過食が生じると考えた.しかし,今回の統計学的検討では拒絶に対する過敏性と過眠の関係は見出せず,過眠はうつ状態の自己治癒的現象であるというParkerらの説明は,我々の経験した症例には必ずしも当てはまらないように思えた.また,拒絶に対する過敏性が目立だない症例も7名(18%)と少なからず混じっており,非定型うつ病を対人過敏に伴う二次的うつ状態と考えることには限界があると思われた.今回の研究では,非定型症状のうち拒絶に対する過敏の説明として,合併する社会恐怖が重要であることが明らかになった.非定型うつ病は社会恐怖と合併することが多く,そのため社会恐怖者の性格特徴である批判に対する過敏性と重複するような形で拒絶に対する過敏性の項目が陽性となると思われた.

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過眠と過食は非定型うつ病の特徴的な症状であるが,鑑別を要する疾患として季節性うつ病,反復性過眠症,摂食障害などがある.季節性うつ病ではうつ状態は比較的軽度で疲労感を強く訴え,過眠,過食,体重増加,炭水化物を食べたがる,三環系抗うつ薬は効果が乏しいなど非定型うつ病に近い特徴を有している.決定的な違いは季節性うつ病では大うつ病エピソードの発症時期と1年の特定の時期(秋か冬に多い)との間に時間的な関係があることである.また批判に対する過敏性といった性格特徴は季節性うつ病の診断に重要ではない.53名の季節性感情障害について調べた日本の研究では,非定型の植物性症状は季節性感情障害の20から30%と比較的低いことも明らかになっている.我々が経験した症例は季節性に乏しく,この疾患の診断基準を満たさなかった.

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反復性過眠症は1週間前後持続する過眠状態を繰り返し,間歇期は全く異常を示さない稀な疾患である.男性に多く思春期に発症するが傾眠期に過食を示すものはKleine-Levin症候群と呼ばれている.傾眠期に意欲の低下,抑うつ気分を呈することもあるが,この場合非定型うつ病との鑑別が必要になる.鑑別点は非定型うつ病ではうつ病相の期間が明らかに反復性過眠症より長いこと,非定型うつ病は女性に多いが反復性過眠症は男子に多く,特にKleine-Levin症候群はほとんどが男性であることなども,鑑別点として重要である.我々が経験した症例はうつ病相が短いものは含まれておらず,さらに眠気を訴えるものも7例と比較的少なく,過眠は眠気というよりは疲労感や気力のなさと関連しているようであった.逃避型抑うつは抑制が主体の逃避的色彩の濃い抑うつ状態を呈するが,うつ病エピソードの時期に睡眠時間が長くなる症例が含まれている点で,非定型うつ病と似通っている.しかし,女性に多い非定型うつ病と比べ,逃避型抑うつはこれまで挫折を知らないエリート男性であることなど相違点も認められる.また,我々が経験した症例にエリートといえる男性はいなかった.本邦で報告された過眠を伴ううつ病の症例検討においても,過食や体重増加を呈する症例が含まれるなど,非定型うつ病と共通する特徴がみうけられる.しかし,温和で社交的な性格が病前性格として特徴的であると報告されており,拒絶に対する過敏さや社会恐怖との合併が多い非定型うつ病とは若干異なっている.しかし,我々が経験した症例の中にも温和で社交的な症例も少数ながら混じっており,臼井ら,笠原らの報告例は非定型うつ病には含まれるが,どちらかといえばその中では例外的な症例といえるのかも知れない.

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神経性大食症では過食の後にしばしば抑うつ的となる.また体重が増加するとやはりうつ状態となる.また摂食障害患者全般に対人関係の過敏さが稀ならず認められる.こうなると神経性大食症患者は非定型うつ病の罹患率が著しく高くなってしまう.ADDSは大食症の既往は除外診断としていないため,過剰診断してしまう可能性は否定できない.今回,我々が経験した症例のうち5例に神経性大食症がうつ病相発症以前から認められたがそのうちの3例はうつ病相が軽減すると過食エピソードもほとんど目立たなくなった.非定型うつ病は元来薬物療法に対する反応性の違いから提唱された概念であり,神経性大食症に伴ううつ病が三環系に比較しMAOIによく反応するという報告もある。今回経験した神経性大食症と非定型うつ病の合併例5例のうち3例はうつ病相に一致して過眠症状がみられたこと,1例は躁病エピソードを過去に経験していたことなどを考慮すると,我々が経験した症例は,大食症の二次的抑うつだけでは説明できないと思われた.

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我々が経験した非定型うつ病発症前の発症状況をみると,異性との別れによる急性ストレスを認めたものが7名いた.Kleinらは恋愛関係で拒絶された際,無気力,過眠,過食で特徴づけられるうつ病エピソードに発展する女性患者について言及し,これら一群の患者をhysteroid dysphoric patientと名づけた.これらの患者は三環系抗うつ薬に比べMAOIに比較的良く反応することから,その後の研究で非定型うつ病に組み入れられた.我々が経験した恋愛破綻を契機に発症した7名のうち6名は女性であり,これらの患者はKleinらが述べたhysteroid dysphoric patientに当てはまるものと考えられた.社会恐怖を合併している患者では恐怖症状のため社会生活が著しく制限され,絶望的になり抑うつ状態になったと考えられる症例も少なからず混じっていた.Van Ameringenらは不安性障害専門の診療所を受診した社会恐怖患者について,社会恐怖の罹病期間とうつ病の関連を調べた.その結果,社会恐怖の罹病期間が短いものほどうつ病の罹患率が低いことから,うつ病は慢性の不安や恐怖症状による機能低下の結果引き起こされたと推測した.Steinらは社会恐怖群と恐慌性障害群の後ろ向き研究において,社会恐怖群ではその35%に,恐慌性障害群では63%に大うつ病の既往があったと報告した.彼らは不安性障害患者では慢性の不安と恐怖症による生活上の制限により意気消沈した結果うつ病になるとの説を紹介し,不安のコントロールが出来ないと抑うつ状態へ発展すると考えた.非定型うつ病では社会恐怖の合併が多いため,うつ病発症前に先立って存在する不安症状の結果としての挫折感や絶望感に注目する必要がある.また,こうした非定型うつ病の発症状況は,職場で過剰適応していた人が少なからず含まれている内因性うつ病とは対照的であるといえる.

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これまでの研究と同様に合併精神障害としてはやはり社会恐怖の頻度が高いことが際立っていた.したがって,非定型うつ病を疑った場合には社会恐怖症状に注意して問診していく必要があるといえる.社会恐怖に注目することは,それ自体をストレス因子と考えることにより症例の理解が深まること,薬物治療に際しては社会恐怖に対する効果も有するSSRIを第一選択薬として用いる根拠となること,うつ病症状改善後の再発防止や,残存する社会恐怖症状の長期的治療計画を治療の早期に立てることができるなどの治療的意義がある.

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強迫性障害を合併しているものは4例であったが,そのうち2例は社会恐怖症状をともなっており,やはり合併精神障害として社会恐怖がとりわけ重要であると思われた.社会恐怖症状がみられず強迫性と同一性の障害を認める2例は,「自分で納得できる容姿,ファッションでないと外出できない,親からの期待が大きく,それに相応しくない今の自分にも罪悪感がある」,「望んだ高校に入学できなかったことと関係あると思う.今の自分にどうしても納得できない」と,自己評価の低下や強迫的こだわりの破綻がうつ状態の背景にあると思われた.

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これまでの研究ではパニック障害の合併が多いことが報告されているが,今回の研究ではパニック障害を合併しているのは2例で,このうち1例は社会恐怖とパニック障害の合併であった.なぜ我々の経験した症例にパニック障害が少ないか不明であるが,一つの理由として症例数が39例と比較的少なく,かつパニック障害では既に催眠作用のある抗不安薬や抗うつ薬が処方されているため,今回の研究対象に含まれなかったせいかも知れない.今後は症例を増やし合併精神障害を正確に把握していきたい.

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Perugiらは重症でかつ全般化している社会恐怖症状,複数の精神障害の合併などは社会恐怖と双極性障害の併存症にもっとも関連があると述べている.双極性障害と診断された7例のうち5例が全般型の社会恐怖を合併していたこと,強迫性障害を伴う2例も重症の強迫行為を伴っていたことなどはPerugiらの報告と矛盾せず,非定型うつ病の診断基準を満たすもので全般性の社会恐怖や重篤な強迫症状を有するものは,双極性障害の診断を視野に入れ治療計画を立てていく必要があると言える.

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薬物療法については本来MAOIを用いるべきであるが,本邦では副作用の問題からうつ病治療に対しMAOIがほとんど使われてこなかった.したがって,非定型うつ病に対しても習慣的に通常の抗うつ薬を用いてきた.すでに述べたように,非定型うつ病は社会恐怖の合併が多く,社会恐怖に対する有効性も認められているSSRIを用いることは理にかなっている.さらに,SSRIは三環系抗うつ薬のように鎮静作用と関連のある抗ヒスタミン作用や抗α1作用がないため,過眠症状を認める非定型うつ病に対して用いることは合理的なことであろう.

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結語

非定型うつ病の診断基準を満たす外来患者39名について発症年齢,合併精神障害について調べ,各々の非定型症状について症例ごとに検討した.さらに,対人過敏性と非定型症状の関連,うつ病発症の誘因,心理的ストレスの有無についても調べた.

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発症年齢の平均は22±6歳と比較的若く,男女比はほぽ1:3と女性に多かった.合併精神障害では51%と社会恐怖が最も多かった.過食は77%,過眠は74%,鉛様の麻痺は49%,拒絶に対する過敏性は82%に認めた.拒絶に対する過敏はLSASおよびBSPSの得点と相関したことから合併する社会恐怖と関連した症状であると思われた.過眠は対人過敏と関連した症状であるとのParkerらの研究をふまえて対人過敏と過眠,過食との関連を調べたが,有意な相関は得られなかった.うつ病発症の誘因としては異性との別れが7例と目立った.また,社会恐怖を合併しているものでは,恐怖症状のため社会生活で自信をなくし絶望することが心理的ストレスとして重要であると考えた.双極性障害を合併しているものは7例であり,そのうち5例が全般型の社会恐怖を合併していた.今回の研究で非定型うつ病の特徴として海外の研究で指摘されている発症年齢が若いこと,女性に多いこと,社会恐怖の合併が多いことが確認された.合併精神障害としては社会恐怖が重要であり,全般性社会恐怖や重症の強迫性障害の合併例では,双極性障害へ発展する可能性があることが示唆された.恐怖症状により自信をなくし絶望することが,うつ病の背景にあるストレスとして重要であることも明らかになった.予後については,合併精神障害のないものや非全般性社会恐怖を合併しているものでは抗うつ薬に対する反応も良く,予後も比較的良いと言えるが,全般性社会恐怖や人格障害,双極性障害を合併しているものでは,予後不良であった.


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---<2005.2.5受理>---
Atypical Depression in Japan-39caseseries-
Koji TADA,Kayoko YAMAYOSHI,Yamato MATSUZAAKI,Takuya KOJIMA
ln Japan,relatively little attention has been paid to atypical depression,which is defined as the presence of mood reactivity and two of four associated features:hyperphagia,hypersomnia,leaden paralysis,rejection sensitivity.The present study was undertaken to obtain detailed clinical information from patients with a diagnosis of atypical depression.We assessed clinical characteristics of each atypical feature,comorbidity of other psychiatric disorders,presence of a stressful life event,and underlying psychological stress in 39 psychiatric outpatients.We also examined the relationship of interpersonal sensitivity to each atypical feature.
Results and Discussion:Mean age of onset was 22土6,74%were female,20 patients(51%) had comorbid socialphobia.Thirty(77%)had hyperphagia and 25 of these were women.Twenty(74%)had hypersomnia.Only seven patients reported daytime sleepiness and others(13)reported difnculty in staying awake due to lack of energy.Nineteen(49%) had leaden paralysis.Thirtytwo patients(82%) had rejection sensitivity and this symptom correlated with scores of FNE(fears of negative evaluation),LSAS(Liebowits social anxiety scale) and Brief social phobia scale(BSPA).Seven patients reported disappointment in love as a stressful life event preceding the depressive episode.
ln patients with comorbid socialphobia,loss of confidence due to hypersensitivity to rejection or criticism seemed to be the most important factor as a chronic psychological stress.Seven patients met criteria for bipolar disorder and five out of seven had comorbid generalized socialphobia.The clinical and theoretical implications of these findings were discussed.
(Authors’abstract)
くKeywords:Atypicaldepression,sodalphobia,hypersomnia,hyperphasia,rejedion sensitivity> .

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