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気分変調症

気分変調症
保坂隆

はじめに●
気分変調症(dysthymia)は比較的若年で発症し,軽症ではあるものの慢性に経過する一群の抑うつ状態に対して提唱されたようであり,わが国で従来より使われていた“神経症性うつ病”や“抑うつ神経症”に相当する概念である.有病率が人口の3%といわれているので,内科臨床の中でも遭遇することはまれではないと思われる.米国では,診断基準DSM-IIまでぱ抑うつ神経症”として神経症圏に含められていたものである.しかし,この抑うつ神経症と診断されていた患者を経過観察したところ,その40%は単極性または双極性障害に移行し,20数%だけが抑うつ神経症のままであったという研究結果から,疾患均一性が問題にされていた.その結果,診断基準DSMⅢ(1980年)からは,抑うつ神経症のかわりに“気分変調症”という用語が使われるようになった(抑うつ神経症はカッコ内に付記されていた)のである.つまり気分変調症とは比較的,新しい疾患概念なのである.
その後は,DSM-ⅢRまでカッコ付きで付記されていた“抑うつ神経症”はDSM-IVでは完全に
姿を消し,呼応するかのように,ICD-9(1978年)の抑うつ神経症も,ICD-10(1992年)では気分変調症にかわった.

気分変調症の診断●
一番新しい診断基準DSM-IVによれば,「気分変調症とは,軽度の抑うつ気分,広範な興味の消失や何事も楽しめないという感じが,長い期間(2年以上)続く状態」をいう.

気分変調症の治療●
気分変調症の治療としては,薬物療法と精神療法がある.
1.薬物療法
気分変調症の薬物療法としては,通常の抗うつ薬,すなわち三環系抗うつ薬やSSRI,SNRIなどでその有効性が確かめられている.しかし,臨床的には薬物療法への反応がわるいケースがあることも事実である.そこでAkiskaHは,気分変調症をその発症年齢と誘因によって,①遅発性の慢性原発性単極性うつ病,②慢性続発性うつ病,③早発性の性格因性うつ病,の3群に分けた.そして,この早発性の性格因性うつ病を薬物への反応によって,準感情病性気分変調性障害と性格スペクトラム障害とに分類した.前者の準感情病性気分変調性障害では,三環系抗うつ薬やlithiumcarbonateなどの気分安定薬に対して反応し,症状としては大うつ病の症状に近く,家族歴にも単極性・双極性障害などがみられた.それに対して,後者の性格スペクトラム障害では薬物療法への反応もわるく,症状も大うつ病障害のそれとは異なり,薬物・アルコール依存などが多くみられる.さらに家族内でもアルコール依存などがみられ,小児期に親を亡くしていることが多く,演技性・反社会性・未熟性・依存性の人格傾向を呈するという.つまり,臨床的に抗うつ薬の効果がある場合と,ない場合が存在するのは,このような臨床的な亜型分類で説明できそうである.言いかえれば,気分変調症は,大うつ病に近い群と,性格的な因子が強い群とに大別できそうである.

2.精神療法
抗うつ薬で治療する場合でも,安定した患者-医師関係の構築と維持のためにも,精神療法が必要であることはいうまでもない.それは,精神疾患すべてにいえることである.さらに,気分変調症の抗うつ薬で反応しないケースでは,特別な精神療法の適応になってくる.気分変調症では,約3ヵ月間の抗うつ薬の服用で寛解する患者は,全体の50%前後にすぎないことが知られ,かなりの患者は抗うつ薬では治らないことがわかっているからである.
さて,気分変調症の精神療法でもっとも効果が期待できるのは,認知(行動)療法である.これまでの報告によれば,認知(行動)療法による寛解率は30~60%であり,これは薬物療法による寛解率に匹敵する.そして,対人関係療法の効果も報告されている.これは,抑うつが対人関係の脈絡で生じることが多いことに注目され,開発された精神療法であり,人格レベルを問題にしないで,あくまでも対人関係に焦点を絞った援助と助言が行われる.

気分変調症の意義●
抑うつ状態の患者の場合,気分変調症と診断する際には,大うつ病と,抑うつ気分を伴う適応障害,薬剤性のものなどが鑑別診断となる.大うつ病とは症状の強さ,適応障害とは明確な誘因の有無と症状の持続期間などから鑑別できる.気分変調症は比較的若年で発症することが多
く,慢性的に抑うつ状態が続くのが特徴的である.このような慢性の抑うつ状態が持続すると,どうしても問題処理能力の低下などがあり,それによる心理的葛藤も出現してくるので,神経症,すなわち抑うつ神経症と診断し,これまでは神経症圏内の疾患を思うことが多かった.その意味で,“気分変調症”の概念は依然として曖昧な部分は残されてはいるものの,神経症圏から気分障害圏に移行したという点は重要である.移行した理由は前述したように,抑うつ神経症と診断されていた患者を経過観察したところ,その40%は単極性または双極性障害に移行し,20数%だけが抑うつ神経症のままであったという研究結果による.そのため,この疾患を疑ったら,しっかりとした抗うつ薬の投与をする必要がある.
さらに,この気分変調症の罹患率は3%と高いため,もう一度,この概念を整理し理解して,日常臨床で抑うつ状態あるいは軽症うつ病の患者を診察する際には,まずは頭に浮かべる必要がある.

文献●
1)李圭博ほか:気分変調の研究史.臨精医27:621,1998
2)田島治:気分変調症の薬物療法.臨精医27:645,1998
3)AkiskalHS:Dysthymic disorder:psychopathology of proposed chronic depressive subtypes.AmJ Psychiatry140:ll,1983
4)大野裕:気分変調性障害とパーソナリティー.臨精医27:637,1998
5)佐藤哲哉ほか:気分変調症の精神療法.臨精医27:



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