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おかげさまで順調です

誰にも相談できなかったとの言葉が重い。

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笑顔で「順調です」と言っていた患者さん

■「おかげさまで順調です」
まだ医師になって数年の頃、定期的に外来に通ってくる初老の男性患者さんがいた。
かつては、病状が悪化すると同じ病気の娘に暴力をふるうなどの行為があり、何回か精神科に入院したこともあったようだが、外来では笑顔で「おかげさまで順調です。先生のおかげです」と礼を言って診察室を出ていくのが常だった。「先生のおかげ」というのは、さすがに社交辞令と思いつつ、その患者さんが特に問題なく過ごしていらっしゃることは疑わなかった。

■ある日、警察から電話が
ところがある日、警察から電話が入り、この患者さんが縊死したという。私は絶句してしまった。
結局、その患者さんが自ら死を選んだ理由はよくわからなかった。突然に死を思い立ったのか、ずっと思い悩んでいたのかさえ、わからなかった。
しかし一つはっきりしていることは、その患者さんは自分の悩みごとを話すほど私のことを当てにしていなかったということである。もちろん、私だけではなく、誰にも相談できなかったから死を選ばれたのだと思う。

■肝に銘じたこと
私はこの一件以来、「順調です」「先生のおかげです」と患者さんやご家族に言われても、「本当かな」とちょっと疑う性癖が身についてしまった。
患者さんは、病気になったつらさに加えて、この世で生きていくつらさに日々直面しているはずである。それをいつでも気軽に話してもらえるのが理想だが、本当に必要なとき、必ず話してくれるような関係でありたい。そしていつもと違う悩みやつらさを訴えられたら、それを真剣に受け止めて傾聴することを、改めて肝に銘じた。

(白石弘巳)


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消えることのなかった深い傷

36年。大切なことなので収録。

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36年後の出来事

去る2006年で55歳になった女性。高校2年生(17歳)の秋に独語、興奮のため大学病院を受診し、beginnende Schizophrenieと診断される。その後、自宅近くにあった筆者の勤務先病院に紹介入院となった。思考化声・思考伝播・思考吹入などが見られるも、約9か月で軽快退院し外来通院へと移行、レボメプロマジン25mgを1日1~2錠で寛解を維持していた。

■筆者の転勤先に通院し続けた
20歳からは会社の事務員として働き、物静かな中にも青春の輝きが感じられたことを、今は懐かしく思い出す。
もともと無口な女性だったこともあって、家庭の事情(姓が3回変わった)や個人的な問題に立ち入ることはまったくなかった。
その後、筆者の転勤に伴い、公立病院の神経科に29歳から36歳までの7年間通う。37歳で会社を辞めたが理由も語らず、その後は自宅(実母と義父の3人暮らし)で家事の手伝いをしながらひっそりと暮らすようになった。友人はいないが、猫を飼っており、強いて趣味と言えば一人で映画を観に行くか家での読書ぐらいだが、家事で結構忙しく退屈はしないと言っていた。
さらに52歳までの17年間は、筆者の異動先である大学病院へ2か月に1回通院した。

■消えることのなかった深い傷……
最初の入院から36年が過ぎた。筆者は大学を定年退職し、診療所を開業した。最後の受診日にその旨を伝え診療所の住所を教えておいたが、ある日、母親から手紙がきた。
本人が受診するつもりで場所を調べたら、そこへ行く途中に昔入院していた病院があるのがわかって、その方向にはどうしても行きたくないと言っている。ついては今の大学病院で後任の医師を紹介してほしいとのことだった。
精神科病院に入院したことが、どれほど深い傷となってこの女性の心に刻印されていたか。それに気づかなかった自分の不明を恥じながら、晩年の心の平安を祈って後任の医師への紹介状をしたためた。

(八木剛平)


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診察室の中では見え難い部分

大切な指摘と思うので、収録。一部修正。

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私の診療スタイルを変えたA氏

現在29歳のA氏は、人なつこくて気配りの細やかな好青年である。大学在学中に「同級生等が自分のことを知っていて噂している」といった自己漏洩、関係妄想があらわれ発症した。ハロペリドールが奏効し、短期間で関係妄想などの症状は消退した。

■診察室の中では見え難い部分
しかし大学を卒業して以降、一向に仕事が長続きしない。「上司に恵まれない、同僚との相性が悪い、仕事がきつい」など、退職のたびにそれなりの理由はあった。私も「運が悪かったのだろう」くらいに考えていた。
ところが彼の何回目かの失職中、私の知人がやっている経理事務所のアルバイトを紹介すると、10日後にその知人から苦情がきた。「まるで駄目だ」と言う。指示したことが全然呑み込めない、何度も同じことを聞いてくる、とんでもない事務処理をしてしまう、とにかくミスが多い、仕事が遅い……散々な評価であった。実直で心根の優しい知人の報告は、誇張とも思えない。
私は初診以来6年間彼を診ていながら、彼の作業能力についてまるで把握していなかったのである。
統合失調症による生活障害は、診察室の中だけでは見え難い部分がある。A氏に生活障害があることはわかっていたつもりだったが、その程度は私の予想を遥かに超えていた。

■診療スタイルが変わった
A氏のことがあって以来、私の診療スタイルは少し変わった。生活場面の様子をできるだけ聴取するように努めている。また、診療だけでは見えない部分を補うのに、心理検査が「意外に役立つ」ことにも気付いた。
診療スタイルをわずかに変えただけだが、それがもたらした効果は、私にはとても大きかった。これまで見えていなかったことが、たくさん見えてきたように感じている。その多くは、近年「認知行動障害」として捉えられていることである。

(羽藤邦利)


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統合失調症の認知機能テスト

統合失調症の認知機能テストバッテリーの開発。

近年、統合失調症の認知機能障害が、
特に薬物治療の効果判定や社会機能(社会的予後)との関連で注目されている。
評価テストとして
米国NIMH(The National Institute of Mental Health:国立精神衛生研究所)で作成されているMATRICS-CCB、
BACS(統合失調症認知機能簡易評価尺度:日本語版)などがある。

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側頭-前頭葉二段階発症仮説

側頭-前頭葉二段階発症仮説:側頭葉の形態変化が統合失調症への脆弱性に関連し、それに前頭葉の形態変化が加わることによって、側頭葉の変化が顕在化、統合失調症が発症するという仮説のこと。発症前の胎生期神経発達障害による脆弱性をベースとして、発症に関わる進行性脳病態が加わり発症に至るというtwo-hit model。

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サイコエデュケーション

サイコエデュケーション・プログラムの主な対象は家族である。
患者さんも含めた数回のグループセッションで
疾患や薬、治療法に関する説明を行う。
家族へ安心感を与えることが患者さんの予後改善にもつながる。

「ストレス脆弱性モデル」を取り上げることが多い。
病気の長期経過を説明する。
薬は患者さんの持っているストレス脆弱性を回復して、
病気から立ち直っていく過程を援助する治療であること。
薬物療法とその他の治療法、特にSSTや認知療法などをどう組み合わせていくか、大切であること。
その他、High-EEなども説明する。

ともに学ぶ。



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発症リスクの高い状態(ARMS:アームス/at risk mental state)

統合失調症の前駆状態の診断は困難ですが、発症リスクの高い状態(ARMS:アームス/at risk mental state)として国際的に共通の診断基準が用いられます。もちろんARMSにある方すべてが統合失調症になるわけではありません。実際に発症する率は30~40%と言われています。ですが、発症しない場合も、助けを求めているわけですから、適切なアプローチが必要となります。

ARMSとは
前駆状態が疑われるARMSの患者さんの症状は、統合失調症と似ていますが、一般に程度が軽いのです。診断基準では次の3つに分けられています。

1) 弱い精神病症状
2) はっきり症状があっても一週間程度で自然に収まる一過性の精神病体験
3) 家族歴などのある方で最近の社会的機能レベルの低下

* ARMS(アームス/at risk mental state):発症リスクの高い状態

 



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アルコール依存症の新しい治療法となる可能性

アルコール依存症の新しい治療法となる可能性
Possible New Treatment for Alcohol Dependence
2008 April 08
 
 アルコール依存症の患者は、ストレスに関連した神経伝達物質の濃度が上昇している。こうした神経伝達物質のひとつのsubstance Pがあり、これはneurokinin 1受容体(neurokinin 1 receptor:NK1R)と呼ばれる受容体と結合することで、生理学的作用を発揮する。

多国籍のチームは、NK1R遺伝子をノックアウトしたマウスを作成した。正常なNK1R遺伝子を有するマウスと比べて、ノックアウトマウスは自発的な飲酒が大幅に減少し、アルコールによる鎮静も容易であった。

その後、このチームは、アルコール依存症の治療中で不安のレベルが高い入院患者50人を対象としたランダム化比較試験を実施した。一方の群にはNK1Rと結合し不活性化する薬物(LY686017)を投与し、他方の群にはプラセボを投与した。患者は入院のまま最大1週間注意深く観察した。アルコール飲料の写真を提示したところ、実薬群はプラセボ群に比べて、アルコールへの自発的渇望が大幅に抑制され、渇望が鈍麻した。妥当性の確認されたストレス誘発試験を実施するか、アルコール飲料の写真を提示したところ、実薬群では、コルチゾール反応が低下し、ストレスに関与する脳領域における代謝活性が減少した(機能的磁気共鳴画像スキャン)。有害作用は報告されなかった。

コメント:げっ歯類、次いでヒトで実施されたこれらの研究は、NK1Rを阻害する薬物はアルコール依存症の患者の治療に有用である可能性を示している。次の段階は、これらの化合物がより長期間忍容可能かどうか、アルコール飲料への渇望と飲酒量を低下させるかどうか明らかにすることである。

— Anthony L. Komaroff, MD
Published in Journal Watch General Medicine April 8, 2008
George DT et al. Neurokinin 1 receptor antagonism as a possible therapy for alcoholism. Science 2008 Mar 14; 319:1536.



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賦活系SSRIの二つの違いsertralineとparoxetine

前の論文で、
「sertralineとparoxetine は賦活系」とひとくくりにしていたが、
その後、プロファイルの違いとして最近言われていることは、
sertralineは用量に比例する形で血中濃度が上昇し、
効果も、比較的用量比例的である。
一方、 paroxetineは直線性はなく、容量を増やしていくと、急激に血中濃度が上昇することが分かっている。自己分解酵素を阻害するためである。
と言うことは、急速飽和が可能であるということで、急ぎたいときには、有用である。

逆に、薬を減らしていくとき、sertraline は半分にすれば、血中濃度は素直に半分であるが、
sertraline は半分にすれば、有効血中濃度は1/4になってしまうようなものだ。
そしてことが、肝心の脳の局所のシナプスでその通りになっているのか、よくわかない。

1/2で急激に下がるなら、3/4に下げればいいだけである。
一度知ってしまえば対処はいくらでもあるものだ。
対処法があるのだから、そのようにすれはよい。

いずれにしてこのあたりがsertraline とparoxetineのプロフィールの違いの、入門編である。

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賦活するのぱアモキサン、作用が速いのもアモキサンと言われているのも有名である。



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サラリーマンのうつ病の難しさ

前に紹介した論文で、離脱症候群について記述がある。

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離脱症候群
 SSRIを急激に中断したり、減量した場合、気分の悪化、激越、神経過敏、易疲労性、頭痛、めまい、ふらつき、入眠困難などの中断症状が現れることがある。一般的には一過性で軽症であるが、稀に重症となることがある。
 英国NHS (National Health Service) の報告によると、paroxetine は fluvoxamine の 11倍、sertraline の 7倍以上の中断(離脱)症状が発現していた。Stahl は、paroxetine について、アカシジア、落ち着きのなさ、悪心なとの消化器症状、ふらつき、知覚異常といった離脱症状が他の SSRI より生じやすいと述べており、多くの患者では、3日間で 50%、さらに残りの 50%を 3日で減量しその後中止するのが良いとしている。
 paroxetine の中断症状発現には、セロトニン作用に対するリバウンド、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗作用、力価の高さなどが関与していると考察されている。

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これは、気まぐれに、勝手に、急にやめれば、まずいですと言っているだけで、薬をやめられないと言っているわけではない。
SSRIはやめられない薬との流言もあるが、みんなきちんと手順を踏んでやめている。

治っていないのに、無理をしてやめると、苦しいというのは、他の薬でも同じ。

paroxetineについてよく言われるのは、比較的難治性の症例にも使うからで、
また、早く治したいときにもparoxetineを使うからで、
軽い症状で、ゆっくり治してもいい場合には、paroxetineを使っても、やっぱりうまく行くはずである。
重い症状で、早く治したいときにparoxetineを使うけれど、うまく行かないこともあり、それでparoxetineが非難されたりする。

重症の人を治そうとする薬は、苦労の割りに、感謝されないのが実情である。

すっかり回復するタイプの人は、
よくなってくると自然に薬を飲み忘れて、
一週間したら2個くらい余っているなどということがよくある。

すっかりは回復しないタイプの人も現実にはいるので、
そういう人が断薬を強行するときついことになる。
その場合には、現実を認識する能力が弱っていることもよくある。
冷静に考えれば、理由のない断薬は危険だとすぐに分かる。

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さらに付け加えると、
実はサラリーマンは、厳しい立場である。
うつが治った後、どうなるかといえば、当然仕事の負荷が増す。ぎりぎりまで増える。
自営業ではないので、仕事を自分で決めることができない。
組織の中にいる限り、仕事の負荷は増える。
だからいつもうつの再発の危険を抱えている。
したがって、抗うつ剤を早くやめるのはとても危険だということになる。

たとえば、自営業で八百屋さんをしていたとすれば、
仕事の量は自分で調整できる。
仕事を減らそうと思ったら、近所の八百屋さんに頼んで、お得意さんを分けてあげればいいのだ。
司法書士とかも同じ。クライアントを制限して、振り分けていればいい。
収入は自分で決められる。木曜日を定休日にしてもいい。
自営業が楽だなんて全然思わないが、特有のきつさもあるし、
特にうつで判断が鈍っているとき、決断の全部が結果に反映されてしまうので、
きついけれど、それでも、
できる範囲で収入を確保すればいいと居直ることもできる。

サラリーマンはそうはいかない。
定休日を自分で決められるサラリーマンはいない。
わたしは給料は頭打ちでいいから、無理しないで長く勤め続けたいと言ったとして、
組織はそれを許さない。
その働き方は、派遣労働者になる。
派遣なら、仕事を選んで、通勤先を選んで、曜日を選ぶこともできる。
正社員で、会社の人事の流れに乗っている限りは、
やることはやってもらわなければならないし、
やらないなら、それなりの処遇を受け入れてもらわなければならない。
まったく厳しい話だが、最近の会社は、昔のような生活互助会ではないので、仕方がない。
松下でさえも、互助会をやめた。
こうした場合は、抗うつ剤をある程度長く続けないと、体質改善はできないし、
役職も続けられない。

万年平社員という言い方もあるが、
万年平社員が気楽でいい商売かどうかは、
本人が一番よく知っている。
うつ病の現実が示している通りである。
気の毒なこと限りない。

まったく厳しい現実である。
なるべく慎重に対処するしかない。

本人以外に苦しみは分からないのだ。
好き勝手なことを言うことはできるが、
痛みを感じていない人に何を言ってもらっても、どうしようもない面もある。

冷静によく考えれば、どうしたらいいかは分かるのではないかと思う。
その判断が曇るときは、病状がかなり悪化しているといえる。

重々分かってはいるが、
一時の気の迷いは誰にもある。
しかし、思い直したら、また一緒に治療していこう。
先は長いが、悪いことばかりではない。

昔に比べたらずいぶんいい薬になって、
患者さんは助かっているのだ。

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