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逃避型抑うつとディスチミア親和型うつ病

広瀬先生が逃避型抑うつとディスチミア親和型うつ病の違いについて詳述

文中で
逃避型抑うつという名称は知られても,その本質についてはまだ正しく理解されているとはいえない。
としているのは印象深い。

自己愛性格との関係が言及されている。

*****
臨床精神医学37(9):1179-1182,2008

逃避型抑うつとディスチミア親和型うつ病
広瀬徹也
Keywords:逃避型抑うつ(Depression of avoidant type),ディスチミア親和型うつ病(Depression of dysthymic type),新型うつ病(New types of depression),若年勤労者(young adult workers),欠勤症(Absenteeism)

はじめに
近年うつ病の増加とともにうつ病概念の拡散が話題となり,専門家の間でも「偽うつ」,「うつ病もどき」などと語られることを見聞するようになっている。DSMやICDのうつ病エピソードの基準に依拠するだけでは容易に大うつ病との診断がつくだけでなく,少なくとも特定不能のカテゴリーには該当することも,うつ病のoverdiagnosisに関係することは多くの方の指摘どおり事実であろう。しかし,詐病でないかぎり,患者が症状を訴え,日頃できていた仕事や家事ができなくなっている事実があれば,その事態をどう診断し,治療すべきかは医療者に課せられた義務でもある。診断は単なるレッテルでなく,治療方針に連動する見立ての意味であることはいうまでもない。そういう点からは典型的でない,多くは軽症慢性うつ病の臨床単位についての知見の増大と,臨床家のそれへの認識の深まりが要請されているといえよう。

この分野の先駆的研究は笠原・木村の「うつ状態に関する臨床的分類」(1975)5)であり,その後の笠原の退却神経症6)であることは周知の事実である。それに触発されて筆者が「逃避型抑うつ」3)を提唱したのが1977年であるからすでに30年も経過している。まだその名称が引用され,そのような例が今日の厳しい経済環境でもみられることは事実であるので,その類型の存在意義は失われていないと思われる。

最近の類型で注目されるのは樽見らのディスチミア親和型うつ病(2005)7)8)であろう。すでにうつ病概念の拡散が問題になっていた時期も追い風になって,あっという間にその名が知られ,用いられるようになった経過は,「逃避型抑うつ」が知られるようになるのに約10年近くかかったことを思うと,雲泥の差があることに驚きの念を禁じ得ない。現代ではディスチミア親和型うつ病の頻度が桁違いに多く,樽見の記載,命名が適切であったことがインパクトになったのであろう。「逃避型抑うつや未熟型うつ病とめ鑑別は今後の課題である」7)と述べたまま亡くなった樽見に代わってその辺の考察を加えながら,逃避型抑うつの明確化に努めたい。

1.逃避型抑うつの本質的特徴
逃避型抑うつという名称は知られても,その本質についてはまだ正しく理解されているとはいえない。そこで本稿では診断のポイントを挙げることで本質を明示したい。

①連休後や月曜日に欠勤しがち。

②職場(会社)恐怖の症状が出やすく,会社に近づくと不安が強くなり,引き返すことがある。極端な場合は遁走がみられる。

③抑うつ気分や希死念慮は目立たず,おっくう,だるさなどの抑制,倦怠感,易疲労性が前景に出て,寝込みから欠勤に至る。ただし,身体化症状や心気症状はみられない。

④一般の過労気味な勤労者が週末は寝だめをしたり,家でごろごろしがちなのと対照的に,週末は朝早く起きたり,外出やドライブに行くなど活発に過ごす。長い休職にある者が臆面もなく海外旅行に行くのもその延長線上の現象ととらえられる。

⑤評価に過敏であり,認めてくれる上司のもとでは軽躁を思わせるほど張り切り,良い成果を上げることもあるが,逆の場合は極端に落胆し,欠勤となりやすい。反省,自責はないが,さりとて会社や上司を攻撃するほどの精力性は示さない。

⑥他人を押しのけるほどの自己顕示性はないが,自己愛的でプライドは高く,それが傷つけられることには耐えがたいため,それを守るのに汲々としがちである。

⑦典型的には30歳前後の高学歴の男性が圧倒的に多く,女性にもてる傾向があり,既婚者や,恋人がいる例がほとんどである(ただし,遷延後の離婚はありうる)。

⑧転職に走ることなく,休職期間満了まで留まる傾向がある。

⑨病識に乏しく,自ら受診することは稀で,上司,妻,親などの強い勧めで受診,入院に至る。

⑩抗うつ薬の効果は初期にはある程度みられるが,次第に目立だなくなる。Sulpiride,SSRIなどが推奨される。

以上の特徴がみられれば逃避型抑うつといってよく,一般のうつ病との相違はほぼ自明であろう。ブルーカラーや女性のケースでは典型例に比してこれらの特徴が薄まり,過食やギャンブル依存などが目立つことがある。彼らは自己愛性格の特徴と弱力性のヒステリー性格の特徴を併せ持ち,それと気分障害特に非定型うつ病の体質と相まって抑うつや不安,恐怖,軽躁を示しやすくなるものと思われる。DSM-IV 1)にも登場した非定型うつ病の拒絶への過敏性は共通した特徴であり,ヒステリー性格もそこで指摘されていたことではあるが,非定型うつ病では自己愛性格についての明確な言及はない。当初,寝込みのような選択的抑制を示したあと,復職時に不安,恐怖,ヒステリー症状を示す点はDavidsonら2)の非定型うつ病の亜型であるV型とA型を,一人のケースで時期を異にして示すとみることもできる。その他の臨床的特徴については非定型うつ病では記載のないものばかりで,わが国独特の特性とみることができそうである。

2.ディスチミア親和型うつ病との相違について
ディスチミア親和型うつ病とは既述したように,樽見が2005年に発表したもので昨今臨床場面に現れ,問題になった自称うつといわれるものを包含する最新のうつ病周辺群の類型である。この名称の由来について彼は価値判断を避けるため,無機的なものとしてこれを選んだとしており,気分変調症(Dysthymia)との関連を否定している7)。気分変調症はDSMでもICDでも,2年以上の持続という経過因子が1つの主要な基準になるが,ディスチミア親和型うつ病では経過の規定はない。関連する気質として退却傾向(笠原)と無気力・スチューデントアパシー(Walters)が挙げられているように,気分変調症で鑑別上問題になる抑うつ性格とは異なっている。ただし,「どこまでが‘生き方”でどこからが“症状経過”か不分明」という特徴は気分変調症の抑うつ神経症的側面と一致していよう。いずれにしても,スチューデントアパシーから発展した笠原の退却神経症に近いことが予想されるが,そこでの無気力は本業でのものであり,副業や趣味の世界では対照的に精力的であるとの指摘を忘れてはならない。ディスチミア親和型うつ病では字義どおりの退却傾向と無気力が特徴であるようであり,その辺の異同の明確化が必要と思われる。

逃避型抑うつでは本業からの逃避傾向が顕著となるが,趣味や家庭生活では活動性を保持できる特徴から選択的抑制と名付けられており,笠原の退却神経症の選択的退却と最も類似した点といえる。熱中性の時期の存在(逃避型抑うつ)や凝り性(退却神経症)の異同にも微妙な点がある。ただし,それ以外は表1 4)からも明らかなようにほとんど対照的といってもよいほど類似点はみられない。ディスチミア親和型うつ病の最大の特徴でもあり,逃避型抑うつや退却神経症と異なる点は前者が‘自称うつ病‘に置き換えられるほどうつ病の診断に協力的なことであろう。逃避型抑うつでは,職場の上司の命令や家族の後押しでやっと医師のもとに現れるのとは全く対照的である。もっとも,彼らもひとたび入院すると模範患者となる特徴を忘れてはならない。

一方,ディスチミア親和型うつ病はその後も「“うつ症状”の存在確認に終始しがちで,“うつの文脈”からの離脱が困難で慢性化する特徴がある」とされる(表2)。結果的には気分変調症同様,2年以上の経過をとる慢性軽症うつ病という形になりうるが,初期段階の彼らについて樽見は次のように述べて相違を強調している。「一般に気分変調症と診断しうるような‘くすんだ感じ‘も彼らにはまだ見られない。彼らはvividとは言えないまでも,慢性化した抑うつによって心的弾力性そのものを長期的に侵食されたかのような現れは,まだないのである。そして臨床場面に現れた彼らは,気分変調性障害の診断基準にも典型像にも合致しないまま,大うつ病エピソードの基準を満たすことになる」と。

ディスチミア親和型うつ病と逃避型抑うつとの類似点を強いて挙げると,両者とも抗うつ薬の効果がある程度,部分的にみられること,休養と服薬のみではしばしば慢性化すること,置かれた場,環境の変化で急速に改善することがある点であろう。最後の特徴は非定型うつ病や適応障害の特性に共通する部分である。また逃避型抑うつの自己愛性格的要素に対してディスチミア親和型うつ病では「自己自身(役割抜き)への愛着」との記載に近似性が認められる。「規範に対しで’ストレスである’と抵抗する」との樽見の記載は逃避型抑うつでもある程度妥当するが,一方で上司に一体感を求め,それが得られると軽躁を思わせる仕事への没頭を示す双極Ⅱ型的特徴は,ディスチミア親和型うつ病の特徴に挙げられている「もともと仕事熱心ではない」とは本質的に異なるものといえよう。

おわりに
逃避型抑うつの本質のレビューと,最近話題になっているディスチミア親和型うつ病と対比しながら考察を行った.両者は頻回ないし長期欠勤になりやすい若手勤労者という点で,昨今のわが国の産業精神保健分野で共通の問題となっているが,既述のように両者の本質はむしろ対照的な面が多いことを強調しておきたい.

文献
1)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,fourthedition(DSM-IV),Washington DC,1994
2)Davidson JR,Miller RD,Turnbull CD et al:Atypical Depression.Arch gen Psychiat 39:527-534,1982
3)広瀬徹也:「逃避型抑うつ」について.宮本忠雄編:蹄うつ病の精神病理2.弘文堂,東京,1977
4)広瀬徹也:「逃避型抑うつ」再考.広瀬徹也,内海健編:うつ病論の現在.星和書店,東京,2005
5)笠原嘉,木村敏:うつ状態の臨床的分類に関する研究.精神経誌77:715-735,1975
6)笠原嘉:退却神経症.講談社,東京,1988
7)樽味伸,神庭重信:うつ病の社会文化的試論一特に「ディスチミア親和型うつ病」について.社会精神医誌13:129-136,2005
8)樽味伸:現代社会が生む“ディスチミア親和型’臨床精神医学34:687-694,2005

1逃避型抑うつと退却神経症の相違点

逃避型抑うつ

退却神経症
①選択的抑制選択的退却
②軽躁状態ありうるなし
③抗うつ薬の効果ありなし
④日内変動ありなし
⑤ヒステリー症状ありなし?
⑥優位な状況でのリーダーシップなし
⑦女性との結びつき強い希薄
⑧熱中の時期あり凝り性
⑧弱力性ヒステリー性格,自己愛的強迫的,分裂気質的
20歳代後半~30歳代20歳前後
 

2

  
ディスチミア親和型うつ病および逃避型抑うつの対比 
 ディスチミア親和型うつ病(樽味ら 2005逃避型抑うつ(広瀬 1977
年齢層青年層30歳前後
関連する病態 student apathy(Walters)退却傾向(笠原)と無気力非定型うつ病 
病前性格自己自身(役割ぬき)への愛着弱力性のヒステリー性格
 規範に対して「ストレス」であると抵抗する自己愛的傾向
 秩序への否定的感情と漠然とした万能感 
 もともと仕事熱心ではない 
症候学的特徴不全感と倦怠選択的抑制
 回避と他罰的感情(他者への非難)出社に際し不安,恐怖症状
 衝動的な自傷,一方で“軽やかな”自殺企図 
治療関係と経過初期から「うつ病」の診断に協力的初期は病識が乏しい
 その後も「うつ症状」の存在確認に終始しがちとなり「うつの文脈」からの離脱が困難,慢性化入院後は模範患者になる
薬物への反応多くは部分的効果にとどまる(病み終えない)初期は比較的良好
認知と行動特性どこまでが「生き方」でどこからが「症状経過」か不分明「(単なる)私」から「うつの私」で固着し,新たな文脈が形成されにくい連休後に欠勤しやすい
女性との強い結びつき
拒絶への過敏
予後と環境変化休養と服薬のみではしばしば慢性化する理解ある上司の下では好調となる可能性,
全体的には不良
 置かれた場・環境の変化で急速に改善することがある 
 



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長期投薬も統合失調症と躁うつ病では意味が違う

統合失調症と躁うつ病に対してそれぞれの薬剤を長期投与した場合の効果はかなり違うと考えられる

1.
統合失調症の場合にはドーパミンレセプターに蓋をする薬であるから、
それが長期にわたるとドーパミンレセプターにはアップレギュレーションが起こる。
これはつまりレセプターの数が増えて敏感になるということで、
薬剤の長期漫然投与は過敏性を増し、再発危険性を増すのである。

特に外泊をしたりして薬剤が一時的に抜けたときなどは、増えたレセプターが存在し、
しかも蓋もなくなるのであるから最高に過敏な状態になってしまう。

そして再発し、主治医は薬剤を増量し、そのままで固定して、さらに一段とアップレギュレーションが進行し、
結果として過敏性は増大する。
こうした悪循環の中で時間が経過する。
統合失調症の場合、長期大量投与するほど、再発の危険を高める。

2.
うつ病の場合。これはセロトニン系薬剤やバルプロ酸などの気分安定薬を使う。
SSRIを入れている間にシナプス間隙のセロトニンは増加し、そのことでセロトニン・レセプターは
ダウンレギュレーションを受ける。
結果としてセロトニン・レセプターは減少し、過敏性を抑制できる。
すると長期使用の結果としては過敏性の抑制ということで、これは統合失調症の場合とは逆の結果になる。
うつ病の場合には長期投与するほど再発を予防できる。

3.
違いはドーパミンレセプターに蓋をするメカニズムと、セロトニンを増やすメカニズムの、メカニズムの違いにある。

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MAD理論推敲の経過

MAD理論の中心部分についてはずっと昔に思いついていて、
そのつもりで読むと、森山論文などは類似の部分をだいぶ含むようだと感じていた。
精力性、強迫性、弱力性と規定して、それらの混合の仕方でいろいろな病前性格を
記述できることは分かった。
この他の性格要素としていろいろ挙げられるが、同調性、対他配慮などが問題として残った。

状況因とかの話になるとうまく結びつかなかった。
その後のSSRIなどのセロトニン説についても結びつきが難しかった。

笠原先生の病前性格の解説は何度も読んでいたけれどもやはりいろいろなことがいわれているのだという印象しかなく、
各病前性格について少しずつ現代的な修正があったりなど、ますます難しくなっている。
そのあたりは
笠原嘉:うつ病の病前性格について.笠原嘉編「躁うつ病の精神病理1」弘文堂,東京,1976 ; 1―29,
でもすでに言及されていて、
いったい何がどういう関係にあるのかとてもわかりにくかった。

しかしながら実際の患者さんについて考察してみると、
それぞれの類型によく当てはまる例も経験するもので、
やはり病前性格類型は有効なものだとも感じていた。

ある日、原田誠一先生の小さな規模の講演会があって、
うつ病の認知療法の話を聞いていると、
原田先生がまとめるには、
笠原先生の説では、うつ病の病前性格の一部は、まとめていえば、
熱中性、几帳面、持続する陰性気分、対他配慮の四点だという。

なんとこの順番で私の考えているMAD+対他配慮となっているわけで、
前者三つと対他配慮は明らかに別物だとひらめいた。
前者は生物学的な要素で、他者配慮は社会的な要素なのだ。

そのようにして整理してみると、各病前性格の位置づけがはっきりするし、
それからどのようなうつ病が発生するのか理解できた。

そしてその上に、現在進行中の、自己愛の肥大化と未熟性のままとどまる傾向を加味すれば、
現代に見られるうつ病の諸類型も分類整理できることが分かった。他者配慮の変質も説明できた。

*****
それでは現在いわれているセロトニン説はどうなるのだろうか。
おそらくセロトニン系のレセプターについてダウンレギュレーションが進行するため
神経細胞の過敏性が抑えられる。
そのことでMA細胞の反応亢進と休止が回避されることになるのだろう。
それはつまり、予防効果があるというに近い様相である。

憂うつ、いらいら、不安が収まるのに一ヶ月、さらに三ヶ月目くらいで興味が戻り、意欲が回復するという説明は、M細胞の回復の進行程度を表していると考えられる。

SSRIの効果はレセプターの過敏性が訂正されることで説明されるだろう。
興味が回復するとは、
ジャクソニスムでいうと興味を抑圧していた成分が弱くなるという解釈になる。
それで本来の興味が発現することになる。
この時間的プロフィールをMAD理論は説明できるかということになる。

これは細胞修復は深部から浅部に向かって時間的に進行するわけで、
そこが関係しているだろう。

破壊が起こるときは多くは浅部から始まって深部に破壊が及ぶ。

従って症状の進行に順序があり、回復は逆の順序になる。
これは大脳皮質の破壊と修復に関する脳内出血後のリハビリテーションの原則となる。

つまり、うつ病では壊れる順序があり、回復する順序がある。
回復する順序に従ってリハビリすべきであるという原則になる。
これがジャクソニスムである。



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