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『SSRIのプロファイルの違いとその使い分け』

SSRI、SNRIの違いと使い分けについては、各人でいろいろな考えがあるだろう。
どのような患者さんに対して、どのような精神療法をしているかも考え合わせて、
薬剤選択を考え、しかも、他剤との併用も考慮しながら、選択しなければいけないので、
単純に、デシジョン・ツリーが描けるものでもない。
最近ではStar*Dの研究で、第一選択として、シタロプラムを使うことになっていて、
日本の我々としてはかなり特殊な環境にいることを自覚すべきだろう。
この論文では、古い抗うつ剤をも含めた薬剤選択という視点はないようだが、
実際には、三環系、四環系、最近ではSDAも含め、さらにmood stabilizerも含めて、選択しなければならないので、
議論としては不充分である。
うつ状態、不安、非定型などの言葉をいちいち定義していないのは、専門家同士の報告だからであるが、
そこの定義が難しいことも確かで、できれば議論を回避したかったというところだろう。
賦活系 SSRI は投与初期のactivation syndrome 、鎮静系 SSRI は長期服用による無気力 frontal lobe-like syndrome に注意と端的に言及していて、分かり易いが、割り切りすぎともいえる。

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臨床精神薬理 10 : 295-307 2007

『SSRIのプロファイルの違いとその使い分け』河田病院 (岡山市)

Ⅰ はじめに

 SSRI (selective serotonin reuptake inhibitor) は選択的セロトニン取り込み阻害作用を持つ抗うつ薬である。
 世界で最初に上市された SSRI は、オランダの Duphar 社が開発した fluvoxamine (ルボックス) で1983年より臨床に応用されている。ついで fluoxetine (プロザック : 1988年) 、sertralin (ゾロフト : 1990年) 、paroxetine (パキシル : 1990年) 、citalopram (セレクサ : 1995年) 、escitalopram (レクサプロ : 1998年) の計 6種類が上市された。
 わが国においては、fluvoxamine (1999年) 、paroxetine (2000年) 、sertraline (2006年) の順に上市された。
 2005年度におけるわが国の抗うつ薬および気分安定薬のシェアは、SSRI + SNRI が80%以上を占めている。
 各国で公表されているうつ病の薬物治療のガイドラインでは、第一選択の抗うつ薬は SSRI であると記載しているものがほとんどである。今や SSRI はうつ病の急性期治療、維持療法、再発予防いずれの時期にも第一選択薬として使用されているのである。
 このたび、わが国においても sertraline が新規に発売され、fluvoxamine 、paroxetine と合わせ 3剤が選択可能になったため、SSRI の使い分けについて考えてみたい。

Ⅱ SSRI の薬理と薬効

 セロトニン (5-HT) は生態内では 90%が消化管に、8%が血小板に、1-2%が中枢神経系に存在しており、睡眠、体温調節、性行動、摂食、神経内分泌、認知、記憶、生体リズムなどの生理機能に関与し、不安、攻撃性、衝動性、強迫、気分障害、統合失調症、自閉症、薬物依存などの病態と深く関係していることが知られている。
 SSRI はセロトニントランスポーターに結合して、セロトニン再取り込み阻害作用を示し、セロトニン神経の伝達機能を増強する。セロトニンの作用を媒介するセロトニン受容体は、14種類のサブタイプが知られているが、これらの親和性は SSRI各々によってそれぞれ異なっている。
 この異なる親和性パターンが臨床効果の違いや個々の患者への反応の違いを生じる可能性もあるが、いかに関係しているかは未知であり今後の研究課題である。
 Stahl は fluvoxamine 、paroxetine 、sertraline の各種受容体への作用の中でも、σ受容体との関連を指摘している。σ受容体は、現在のところ内在性のニューロステロイドによって調整される細胞内受容体と考えられている。223個のアミノ酸からなり、主に小胞体膜に存在し、活性化されると他の細胞内小器官や原型質膜に移行する。σ受容体にはσ1 、σ2 のサブタイプが確認されているが、特にσ1 受容体は記憶、学習過程の変調、ストレス、不安、うつ病、攻撃性、薬物依存症、および統合失調症、さらには神経保護作用との関与が指摘されている。
 fluvoxamine のσ1 受容体に対する親和性は、他の抗うつ薬に比べて高く、このことが精神病性 (妄想性) うつに対する fluvoxamine の効果の高さを裏づけるのではないかと Stahl は指摘している。
 また筆者は、強迫に対しては特に、fluvoxamine の効果は他 SSRI に比べて優れているという印象を持っているが、それもσ受容体への親和性の高さによって説明できるかもしれない。

Ⅲ SSRI の抗うつ作用の比較

 SSRI の抗うつ効果は軽症から重症に至るまで発揮される。しかし抗うつ効果のプロフィールがSSRIにより相違が見られるのか、同一であるのかを研究した系統的な報告は見られていない。

Ⅳ 各SSRIの臨床効果の特徴

 Stahl は以下のようにまとめている (抜粋)

① fluvoxamine
・うつ状態を合併する不安性障害に有効
・性機能障害が少ない
・fluvoxamine は統合失調症の強迫症状に対して抗精神病薬と併用して有効
・σ受容体での作用で、不安性障害、不眠、精神病性うつ病、妄想性うつ病に対する有効性が説明できる
・治療抵抗性OCDに対して fluvoxamine と clomipramine の併用がよい

② paroxetine
・不安の強いうつ病に好まれる
・離脱症状が現れやすい
・弱い抗コリン作用を持つので、抗不安作用、催眠作用が即効性であるが、抗コリン性副作用を持つ
・体重増加や性機能障害が強い
・不安や不眠の患者によい

③ sertraline
・過眠や過食を伴うような非定型うつ病に対する第一選択薬
・パニック発作には他の SSRI より不向き
・プロラクチンへの影響が少ないので、少女・青年女性に対して好まれる

Ⅴ SSRIの用法・用量による抗うつ効果の有効率について

 SSRI の作用速度については薬剤間の差異は認められていない。
 SSRI については一般に、用量や血中濃度と治療反応との相関性が薄い。副作用については用量との相関性あるかどうか知見は一致していない。
 しかし、SSRI の固定用量試験では、十分な観察期間を設けていないことより、SSRIの用法・用量の範囲を超えて用いた場合、有効症例が増える可能性があること知っておく必要はある。
 うつ病の維持療法や予防療法について最近は、十分量をさらに長期に用いると患者の QOL と寛解率が高まるという報告が多い。

Ⅵ SSRI の抗うつ作用プロファイルの差異についての見解

 3種類の SSRI の抗うつ作用を比較すると、三環系抗うつ薬の作用プロファイルほどには差異は認めない。3剤を鎮静系と賦活系に分ければ、

   sertraline < paroxetine  <<< fluvoxamine  <<<<<<< amitriptyline 、mianserin

という印象を筆者は持っている。
 したがって、特に焦燥・不安感の強いうつ病では fluvoxamine が第一選択となるであろう。対して精神運動抑制の強い双極性うつ病、非定型うつ病に対して賦活的な sertraline 、paroxetine がより有効であると考えられるが、そこまでのクリアカットな印象を筆者は持っていない。

Ⅶ SSRI の重症うつ病に対する抗うつ効果

 SSRI の抗うつ効果は、重症うつ病に対しては軽症および中等症のうつ病ほどには明確ではないとする報告がある反面、重症のうつ病に対しても三環系抗うつ薬と同等の効果が認められたとする報告もあり、現在のところ見解は定まってはいない。

Ⅷ SSRI の副作用

① 消化器症状
 SSRIは従来の抗うつ薬と比較すると消化器症状が多いことが報告されている。服薬によって増加した 5-HT が脳幹や消化管における 5-HT3 受容体を刺激するためと考えられている。
 副作用の出現は、投与開始1週間が多く、2~3週間かけて激減する。なんら処置を要しない患者がいる反面、1/3 の患者が服薬を中止してしまうので、sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) などの予防的な投与も考慮する必要がある。

② Activation syndrome (初期刺激症状)
 SSRI の投与初期に現れる不安、焦燥感などを特徴とする中枢神経系の有害事象である。重症となれば、希死念慮、攻撃性、アカシジア、躁状態などが現れることがある。
 発現時期は薬物投与開始直後から 1~2週間の比較的早期が多い。
 治療はまず、原因薬剤を減量・中止することである。しかし急速な断薬は離脱症候群を惹起する危険性があるので、症状緩和のために他の抗不安薬や気分安定薬の併用が必要な場合が多い。
 acivation syndrome の症状が高じて焦燥、不安、自殺衝動が起こるようであれば、入院治療の必要性が生じてくる。

③ 離脱症候群
 SSRIを急激に中断したり、減量した場合、気分の悪化、激越、神経過敏、易疲労性、頭痛、めまい、ふらつき、入眠困難などの中断症状が現れることがある。一般的には一過性で軽症であるが、稀に重症となることがある。
 英国NHS (National Health Service) の報告によると、paroxetine は fluvoxamine の 11倍、sertraline の 7倍以上の中断(離脱)症状が発現していた。Stahl は、paroxetine について、アカシジア、落ち着きのなさ、悪心なとの消化器症状、ふらつき、知覚異常といった離脱症状が他の SSRI より生じやすいと述べており、多くの患者では、3日間で 50%、さらに残りの 50%を 3日で減量しその後中止するのが良いとしている。
 paroxetine の中断症状発現には、セロトニン作用に対するリバウンド、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗作用、力価の高さなどが関与していると考察されている。

④ 性機能障害
 うつ病患者では、もともと性欲の低下やインポテンツ、射精遅延、オルガスムスの欠如などの性機能の低下が見られることが多く、また抗うつ薬が性機能障害を惹起することも知られている。
 性機能障害に関する欧米での質問票による調査では、paroxetine 64.7% 、fluvoxamine 58.9% 、sertraline 56.4% といずれも非常に高頻度である。また「射精時間に及ぼす SSRI の影響」の研究報告では paroxetine が最も射精時間を延長させていた。

⑤ 前頭葉類似症候群 (frontal lobe-like syndrome)
 Zajeckaは SSRI を長期に使用した場合の問題点の1つに無気力状態 ( anti-depressant associated ashenia ) の出現を指摘している。正常気分であるが、無関心で動機付けが起こらず、疲労感があり、精神的に鈍い感じが残る状態である。この状態を彼は frontal lobe-like syndrome (前頭葉類似症候群) と呼称している。これは、強力な SSRI を長期間使用したために、前頭葉や脳幹のノルエピネフリンやドパミン活性が低下し起こると考えられている。この症状が出現したら 1) SSRI を減量する 2) 午後の服用 3) ノルエピネフリンやドパミン神経の刺激作用のある薬物を用いる などを Zajeckka は推奨している。

Ⅸ SSRI の薬物相互作用

 SSRI の代謝は主としてチトクロムP450 が関与するが、citalopram 以外はすべて CYP450 に対する阻害作用を有しているため、他の薬剤の代謝に影響を及ぼす。
 fluvoxamine は 1A2 の阻害作用が強い。また 3A4 への阻害作用もやや強いため、BZD系抗不安薬や睡眠薬の作用を増強する可能性がある。
 paroxetine は 2D6 の強力な阻害薬である。risperidone や三環系抗うつ薬の作用を増強する可能性がある。
 sertraline は 1A2 、2D6 などに対して阻害作用を有するが、その作用は弱いため、fluvoxamine 、paroxetine に比べると薬物相互作用の影響は少ないと考えられる。
 筆者の経験では、相互作用で大きな問題を生じたことはなく、むしろ、相乗効果が得られたのではないかと推測される症例も少なからずあり、戦略的な利用はメリットになると考えている。

Ⅹ. まとめ (抜粋)

・SSRI は抗不安作用の強い抗うつ薬である。
・SSRI の抗うつ作用プロファイルの異なりは精神運動抑制に有効な賦活作用と不安・激越に有効な二極に分けると、sertraline 、paroxetine は賦活系に、fluvoxamine は鎮静系に分けることができる。
・SSRI の抗うつ作用プロファイルの違いから、特に賦活系 SSRI は投与初期の activation syndrome 、鎮静系 SSRI は長期服用による無気力 frontal lobe-like syndrome に注意を要するかもしれない。

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Ⅸ SSRI の薬物相互作用 の項目で、なぜcitalopram が第一選択なのかを説明していることになるが、既存薬剤で発生する薬物相互作用や、Ⅷ SSRI の副作用 で触れられている副作用については、熟知して、むしろ上手に付き合えばいいものであり、過剰に恐れるべきものではない。

「sertraline < paroxetine  <<< fluvoxamine  <<<<<<< amitriptyline 、mianserin」
と書いておいて、
「特に焦燥・不安感の強いうつ病では fluvoxamine が第一選択となるであろう。」
とすぐに書くのは、SSRI三剤の中では比較的、ということであって、臨床的には、ためらわず、amitriptyline 、mianserinを使うべきであると、間接的に示唆していることになる。わたしもそう思う。

「対して精神運動抑制の強い双極性うつ病、非定型うつ病に対して賦活的な sertraline 、paroxetine がより有効であると考えられるが、そこまでのクリアカットな印象を筆者は持っていない。」
の一文は、ためらいが感じられ、双極性うつ病、非定型うつ病に対してこの二剤は使ってくれるなとも読める。
わたしなら、SDAか気分安定剤からはじめる。

「消化器症状」について、「服薬によって増加した 5-HT が脳幹や消化管における 5-HT3 受容体を刺激するためと考えられている。 副作用の出現は、投与開始1週間が多く、2~3週間かけて激減する。なんら処置を要しない患者がいる反面、1/3 の患者が服薬を中止してしまうので、sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) などの予防的な投与も考慮する必要がある。」
と記載がある。sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) の三者はドーパミン系のブロッカーとしての性格があり、心配もあるので、最近はガスモチンを食前に使うことが多い。ところがガスモチンは「セロトニン作動薬(選択的セロトニン5-HT4作動薬)」であって、作用機序としては、疑問もないではないが、実際には問題なく運用できている。



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