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側坐核の脳深部刺激療法(DBS)

Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry.Oct.
側坐核の脳深部刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)は重篤な不安障害と二次的な抑うつ状態の見られたアルコール依存症の寛解をもたらしたという報告。

DBSは、脳の深部に留置した電極からの電気刺激により、その部位の活動を抑えて、従来の外科治療で行われていた脳深部の破壊術と同様な効果を得るという治療法。

手術について

実際には図のように刺激電極を脳内の特定の場所(パーキンソン病では視床下核に、振戦では視床に、ジストニアでは淡蒼球に)に留置し、前胸部皮下に刺激発生装置を埋め込み、それらを皮下の連結ワイヤーでつないで脳内の刺激を行う。

この方法は電極をさしこむのだが、電子レンジの原理で、電磁波を利用する方法もできるだろうと思う。

昔、職員に話した。

将来は、空間内の一点をピンポイントで加熱できる電子レンジの精密版が各家庭に用意される。美容院の加熱器のような形をしているだろう。最近ちょっと調子悪いなと思ったとき、脳の中のどこの位置かを指定して、指定の時間加熱する。するとすっきりして、その日一日過ごせる。薬もいらなくなるかも。

まさかね、という反応だった。
でも、そうなってきたでしょう?

その時大切なのは、三次元空間の中の位置を正確に指定する方法である。
現在のコンピュータモニターは、平面用に作られているので、
三次元としての脳の内部の位置を指定して、
側坐核の部分をマウスでクリックする、なんていうのが実は難しい。

パーキンソン病で刺激を行う視床下核は、直径5mm程度というから、
電子レンジの精度ではまったくだめ。

放射線科では治療に際して、そのような空間指定をすでに日常的にテキパキやっているけれど、
慣れないと簡単ではない。
放射線科でも5mmはまだ無理。

位置決めは、ホログラムのようなものでバーチャルな立体を見せて、
実際に手で動かして位置を指定するような、そのようなものになるだろう。

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虫歯方式と骨折方式 自然治癒力

治療を二つに分けます。

(1)虫歯方式
虫歯になったところを削ってとってしまいます。
肺炎なら、細菌を殺します。
癌なら、手術で取り除きます。

(2)骨折方式
骨折したところをギブスで保護して、あとは自然治癒を待ちます。
風邪ひきのとき、抗生剤を使いません。免疫力を補助します。

心療内科・メンタルでの治療は、
当院としては、(2)の方式で、自然治癒力を引き出す方式です。
自然治癒力を妨げているものがあったら、それを取り除く。
自然治癒力が弱いようなら、それを補助する。
漢方薬とかビタミン剤とかはそんな感じだと納得していただけると思います。

また、睡眠導入剤も、薬で無理に眠らせるというものではありません。
多くは睡眠のきっかけを作るだけです。

抗うつ剤は、いろいろな働きがあるのですが、
結局、ゆっくり休んでいただいて、自然治癒力を引き出す、
そのような働きを主眼としてもいるのです。
セロトニンが増えればすべて解決するのなら、
話はもっと簡単なはずなのです。

虫歯のように原因を取り除けるなら、一番根本的で即効的な治療ですが、
精神的な事柄に関して、そのようなことができるはずもありません。

骨折したときに、「がんばって骨を早くくっつけよう」と思ったとして、
どうすればいいですか?
結局、骨がずれたりしないようにして、時間を待つしかありません。
そして、それで充分にいい治療なのです。

待つ時間はつらいものです。
ついつい、余計なことをしてしまいます。
そこを、ちょっとだけがまんして、待ってください。
骨折したとき、骨がくっつくのを待っているのだ、そうイメージして、待ってください。

そのうち治療が進歩すれば、
骨をくっつける瞬間接着剤ができるかもしれません。
うつになった脳神経細胞を瞬間的に治してしまう方法がみつかるかもしれません。

でも、それまでは、少なくとも、治療の妨げになることはしないで、
ゆっくり待つことです。
体の中で、一所懸命、治療が進んでいるのですから。
自然治癒力を引き出す、邪魔しない。そんな方針です。



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出生時に低体重→ストレスに弱い成人?

Stress response in older adults linked to birth weight
J Clin Endocrinol Metab 2007.
以下、「」内は引用部分。

「成人後期に心理社会的ストレスを受けている時のコルチゾール濃度と出生時体重との間にはU字型の逆相関が見られる。」

という研究である。

「胎児期の状況が心血管疾患や抑うつ状態などの成人に多く見られるいくつかの障害に対する感受性に大きな影響を及ぼすことが徐々に明らかになってきた」とNational Public Health Institute(フィンランド ヘルシンキ)のDr. Eero Kajantieらは言うのであるが、本当か?

背景にあるのは、
「高コルチゾール症と低コルチゾール症が双方とも胎児期にプログラムされるのではないか」という仮説。
それが、調査の結果では、
「成人後期に心理社会的ストレスを受けている時のコルチゾール濃度と出生時体重との間にはU字型の逆相関が見られる。」というのだから、的中である。
つまり、出生時体重が普通くらいなら、成人したとき一番ストレスに強くなり、低体重でも高体重でも、ストレスに弱くなるということ。

出生時体重と、心理社会的ストレス因子(TSST:試験者用社会的ストレス検査)と唾液中のコルチゾール濃度、血漿コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の濃度が測定された。
体重と血漿ACTHとの間には一次関係が認められたのに対して、出生時体重と唾液中および血漿中のコルチゾールの間には二次関係が認められた。

視床下部下垂体副腎系(HPAA)はストレスに対する抵抗システムのひとつであると考えられている。胎児期に視床下部下垂体副腎系(HPAA)の形成に不全があると、成人後のコルチゾール値が低くなり、つまりストレスに弱く、結果として、外傷後ストレス、線維筋痛、慢性疲労症候群などの障害になりやすいと考えているようである。
成人後期としていて、つまり、中年になってからと論じているようで、なぜなのかはっきりしないが、若い頃は、性ホルモンが充分にあることが、視床下部下垂体副腎系(HPAA)の不全を補っているのかもしない。

さて、こうしてみてくると、まあ、ありそうな話ではある。ただ、おそらく、低体重は、胎児期における全体的な発育不全を予想させる指標であり、低体重であれば、身体の各システムに不全はあるかもしれないとの可能性を想定していいだろう。その中のひとつが、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全であり、低体重と視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全の特異的な因果関係を示すものではないだろう。

一部は、何か別の原因があり、低体重と視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が両方結果であるということになるだろう。
また一部は、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が原因となって、低体重が結果となった場合もあるだろう。

出生児高体重の場合も、中年期になって、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全がありそうだという結果も、興味深い。これもいくつも解釈できると思う。
先天性に形成不全があるか、母胎の側に、視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全や血糖システムの不全があるか、あるいは胎児期に何か一時的なストレス要因があったか、など。

視床下部下垂体副腎系(HPAA)不全が胎児期に決定され、その後訂正されない可能性があるというのは、困ったことだが、このシステムを補助することなど、治療的な関与はできるかもしれない。

昔は、うつ病の診断に、視床下部下垂体副腎系(HPAA)の検査をする場合があると、ハリソン内科学に記載があったものだ。



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仕事のストレス(Job strain)と急性冠動脈心疾患再発イベントのリスク

まず記事の紹介。
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仕事のストレス(Job strain)と急性冠動脈心疾患再発イベントのリスク

画像

仕事のストレス(job strain)が、心筋梗塞の2次予防にも重要であることを示す前向き研究のエビデンスが発表された。 これまでにも、仕事のストレスは、冠動脈心疾患の初回発症のリスクを増加させることはすでに報告されているが、すでに一度心筋梗塞を発症した患者の再発のリスクを増加させるかどうかについてのエビデンスはなかった。

本研究は、急性心筋梗塞を初回発症後、仕事に復帰した972名(年齢35歳~59歳)において、その予後を1996年2月10日より2005年6月22日まで追跡した前向き研究である。 追跡研究開始前(平均的には仕事へ復帰後6週目)、および開始後2年目と6年目に聞き取り調査を実施し、仕事のストレスは、精神的職務要求度と自由裁量度により、次の4区分、すなわち、high strain(高要求度、低自由裁量度)、active (高要求度、高自由裁量度)、passive (低要求度、低自由裁量度)、およびlow strain(低要求度、高自由裁量度)、に分け評価した。 複合評価エンドポイント(致死的冠動脈心疾患(CHD)、非致死的心筋梗塞、および不安定狭心症)は206例に発生し、以下の結果が得られた。

1)仕事のストレスは、追跡調査開始から2.2年目以降の後期調査期間のCHD再発と関連している (ハザード比:2.20; 95%信頼区間:1.32-3.66)。
2)慢性的な仕事のストレスに曝されている患者と曝されていない患者のイベント発生率は100 人・年あたりそれぞれ6.18と2.18であった。 
3)通常の心血管リスク因子を含む26の関連因子で補正しても、慢性的な仕事のストレスはCHD再発の独立予測因子として残った(ハザード比:2.00; 95%信頼区間:1.08~3.72)。

本研究で使用されたKarasekのJob Strain Modelは、古くから仕事のストレスの評価指標として使用されている。本モデルでは、仕事のストレス度を、要求度と裁量権の2つの機軸で評価している。これまでの研究では、要求度が高く、裁量権が少ないHigh strain群で、冠動脈疾患の初回発症が増加していることが示されている。今回の研究の新規性は、一度、心筋梗塞を発症した患者の再発にも、仕事のストレスが影響を与えることを明確に示した点である。

また、仕事への復帰2.2年以降の再発に仕事のストレスが、心血管イベント再発のリスクとなっている。本研究対象者では、2次予防薬として、抗血小板療法を90%以上、β遮断薬を70%以上、スタチンを50%以上に投与されている。このような状況においても、さらに、仕事のストレスが2倍程度も再発リスクを増加させていることは、注目に値する。

今後、心筋梗塞後の2次予防には、抗血小板療法、β遮断薬、スタチン、左室機能低下例にはレニンアンジオテンシン系抑制薬を投与し、仕事のストレスにも気をつけるように指導するべきであろう。
(自治医科大学 循環器科 教授 苅尾七臣)
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Job strain and risk of acute recurrent coronary heart disease events.

Unité de Recherché en Santé des Populations, Université Laval, Québec, Canada.

CONTEXT: There is evidence that job strain increases the risk of a first coronary heart disease (CHD) event. However, little is known about its association with the risk of recurrent CHD events after a first myocardial infarction (MI). OBJECTIVE: To determine whether job strain increases the risk of recurrent CHD events. DESIGN, SETTING, AND PATIENTS: Prospective cohort study of 972 men and women aged 35 to 59 years who returned to work after a first MI and were then followed up between February 10, 1996, and June 22, 2005. Patients were interviewed at baseline (on average, 6 weeks after their return to work), then after 2 and 6 years subsequently. Job strain, a combination of high psychological demands and low decision latitude, was evaluated in 4 quadrants: high strain (high demands and low latitude), active (high demands and high latitude), passive (low demands and low latitude), and low strain. A chronic job strain variable was constructed based on the first 2 interviews, and patients were divided into those exposed to high strain at both interviews and those unexposed to high strain at 1 or both interviews. The survival analyses were presented separately for 2 periods: before 2.2 years and at 2.2 years and beyond. MAIN OUTCOME MEASURE: The outcome was a composite of fatal CHD, nonfatal MI, and unstable angina. RESULTS: The outcome was documented in 206 patients. In the unadjusted analysis, chronic job strain was associated with recurrent CHD in the second period after 2.2 years of follow-up (hazard ratio [HR], 2.20; 95% CI, 1.32-3.66; respective event rates for patients exposed and unexposed to chronic job strain, 6.18 and 2.81 per 100 person-years). Chronic job strain remained an independent predictor of recurrent CHD in a multivariate model adjusted for 26 potentially confounding factors (HR, 2.00; 95% CI, 1.08-3.72). CONCLUSION: Chronic job strain after a first MI was associated with an increased risk of recurrent CHD.

PMID: 17925517 [PubMed - indexed for MEDLINE]



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仕事のストレスを job strain と表現している。
仕事のストレスは、精神的職務要求度と自由裁量度により、次の4区分、すなわち、
high strain(高要求度、低自由裁量度)、
active (高要求度、高自由裁量度)、
passive (低要求度、低自由裁量度)、
low strain(低要求度、高自由裁量度)、
以上の4群に分け評価した。
これがKarasekのJob Strain Modelで、精神科関係ではあまり使わない。
むしろ、身体疾患とストレスの関連を論じるときに用いられるようである。
high strain(高要求度、低自由裁量度)が一番よくないという、常識的な結論である。

うつ病からの復帰に際しては、
高自由裁量度では負担なので、むしろ、低自由裁量度、が望ましい。
そして、低要求度が望ましく、分類の中では、passive から開始するのがよい。

誤解を避けるために、
4群の下に、rehabilitation(軽作業、保護的低自由裁量度)を加えたらよいだろう。

high strain(高要求度、低自由裁量度)
active (高要求度、高自由裁量度)
passive (低要求度、低自由裁量度)
low strain(低要求度、高自由裁量度)
rehabilitation(軽作業、保護的低自由裁量度)

と分類して、仕事を準備しておいて、
下から順次、ステップアップしていけばよいと思う。



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企業のメンタルケアをいかにサポートするか EAPと医療 新橋心療内科型

企業のメンタルケアについて感心が高まっている。
うつ病対策を推進し、自殺を予防し、
企業にとって大切な熟練職員を大切に雇用しようという趣旨で、
法律が変わったことも関係している。

企業の総務・人事部門では
メンタルケアの仕組みを作りたいものの、
やはり専門的な仕事なので、外部業者の支援が必要となる。

その受け皿であるEAP会社は、医療機関と連携を強めて、
効果の高いEAP活動を展開しつつある。新橋心療内科はこのタイプ。……(1)
それに連動して、精神科医療の世界でも、
新しい局面が開けつつあると感じる。

また、精神科医療の側からも、EAP的なアプローチを始めている。
こちらは、EAP会社と医療機関がくっつくというものではなく、
医療機関が拡大する形で、EAP+医療 をセットで提供しようとしている。……(2)

つまり、(1)は企業の人事が拡大して、外部EAP会社となり、それが医院と結合するタイプ。
(2)は医院のデイケア部門などが拡大する形でEAP機能を持つようになり、企業の人事と結合するタイプ。

今のところ、こうした活動をしている医院は、外来とデイケアを運営しているところが多く、うつ専門病棟の運営まで一貫しているところはない。紹介しあう形ならばすでに形は出来上がっている。
会社員が利用するには都心部のEAP会社と医院が必要で、一方、入院病棟は、どちらかといえば、郊外に立地しているという事情がある。うつ病専門病棟はあるが、まだ採算ラインには届いていない。
また、医療機関から見ると、EAP活動は、保険診療以外の活動になるので、別組織にしつつ、活動は一体化しなければならない。その点で工夫が必要である。

二つの流れはいずれ収斂すると思うが、
当面は、特色生かしつつ、それぞれで活動すると思う。

新橋心療内科は、となりが第一ホテルなので、ホテルに宿泊しながらの、
うつの療養コースを考えている。
精神病院に入院するよりはいいし、
ホテルみたいな病院ですといって、田舎の病院に高いお金を払うくらいなら、
本当の都心のホテルに泊まって、ゆっくり療養してもらえばよいだろう。

ニューオータニとか帝国ホテルにはすでに他科の類似システムがあるのだが、
第一ホテルはまだこれからのようで、話を進めようと思っている。

地方の人も、旅行に行ってきますといって、しばらく銀座で休養できる。

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