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がん緩和ケア最前線

 がん緩和ケア最前線 坂井かをり著 (新赤版1067)
    
   患者・家族に納得のいく医療の姿とは

 「がん緩和ケア」という言葉から、あなたは何を思い浮かべますか? 終末期医療とか、ホスピス、あるいは目の前に訪れる死……といったものではないでしょうか。
 私の場合、この本を企画・担当することになるまでは、およそそんなところでした。そして、実はこの本の著者自身もまた、実際に取材に入るまでは、同様だったそうです。ところが、これは全くの誤解だというのですから、驚きです。
 著者は大学で薬学を専攻し、NHKで数々の医療番組を企画・制作してきたプロデューサー。そんなキャリアのジャーナリストさえ知らなかった「緩和ケア」とは、では一体、何なのか。

 実は、20年ほど前、WHO(世界保健機関)が定めた定義では、「早期」からがん治療と並行して行われるべき、さまざまな苦痛の除去を意味しているのだそうです。治療断念後の「末期」に、せめて痛みの除去を、というものではないのです。
 けれども、そこが根本的に誤解されてきた日本では、病院でも真の「緩和ケア」がまだまだゆきわたらず、患者やその家族を苦しませ、悩ませているのが実情です。

 そんな中で、2005年3月、東京・江東区に生まれた癌研有明病院は、まさにWHOの考え方に徹した最先端の病院です。全国から注目され、視察に訪れる人が後を絶ちません。
 では、そこで実際にどのような医療が行なわれ、患者や家族はどんな感想をもつに至っているのか。それをじっくり取材し、報告するのが本書です。満足度の高いがん医療の新しい形が、くっきりと浮かび上がってくること請け合いです。

 早期からの緩和ケア――。その推進を厚生労働省もようやく決め、「がん対策基本法」にも、その考え方が盛り込まれています。
 2人に1人が、がんになるという時代。医療をめぐる新しい動きにも、しっかり目を配っていく必要がありそうですね。

(新書編集部 坂巻克巳)
  
*****
「さまざまな苦痛の除去」にあたっては、
精神科関係の薬や、心理療法も大切になる。
抗不安薬、抗うつ剤、抗精神病薬など、有用な薬が多い。
QOL(生活の質)を改善するためにも、役に立つ。
取りあえずぐっすり眠るだけでもずいぶん違う。
寝るのだから睡眠薬でいいのだろうと思うと、そうでもなくて、いろいろな技術がある。

昼の本人の活動にあわせて、薬剤を調整し、QOLを維持する。
そんな時代になっている。
わたしたちはその点では積極調整派だ。
時間が限られているなら、なおさら、合理的に対処して、
生かされている時間を味わいたいと思う。

ベッドの上で写真集を見ているだけではなくて、
新宿御苑に車椅子で連れて行ってあげたいと思う。



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児童虐待―現場からの提言

児童虐待―現場からの提言 川崎二三彦著 (新赤版1030)
   
   深刻化する背景は何か
  ――長年の児童相談所での経験から考える

 痛ましい児童虐待事件が、連日のように新聞、テレビで報道されています。先月(2006年7月)にも、福島県で3歳の男児が両親から十分な食事を与えられずに、死亡するという事件が発生しています。しかも、その男児の姉や兄も両親から虐待を受けていたとのこと。この事件に関して、8月3日付『朝日新聞』に読者からの投稿が寄せられています。その読者は、事件を防げなかった児童相談所の対応を問題視し、次のように批判をしています。

 「児童相談所の職員は、自らの仕事をどうとらえているのでしょうか。(中略)児童相談所がそこで(引用者注:親からの反発に対して)一歩踏み込まないで、誰が子どもを守れるというのでしょう。苦しんでいる子どもたちを、一人でも多く救うことが使命だと肝に銘じてください。それくらい責任の重い仕事なのです。」

 このような意見をもっている方は決して少数ではないでしょう。児童虐待事件が発生するたびに、マスコミから批判を受けるのは我が子を危機に陥れる親であり、そして事件を防げなかった児童相談所の対応です。しかし、日本における児童相談所の仕組み、実態についてどれだけの人が認識をしているでしょうか。

 本書『児童虐待―現場からの提言』の著者・川崎二三彦さんは、長年、児童相談所に勤務し、実際に様々な相談に対応されています。そうした自らの経験をもとに、「児童虐待とは何か」といった根本的な問題からはじめ、虐待対応の実態を報告し、真の解決のために必要なものは何かを真摯に考えたものとなっています。そこでは、一般的にはあまり知られていない児童相談所の過酷な状況が浮き彫りにされています。

 昼夜なく次々と寄せられる緊急かつ深刻な相談に、ごくごく限られた人数で対応を任される。親をはじめ保護者からは暴言を浴びせかけられ、暴力の危機に曝されることも珍しくありません。また、児童相談所の職員の多くは、はじめから児童福祉に携わっている人ではありません。自治体内の「人事異動」によって、児童相談所に勤務することになり、そこで悩みながら問題を解決し、経験を積むこととなります。しかも、児童虐待は、児童相談所が受ける相談の一部でしかありません。非行や病気、家族問題などなど、様々な相談が児童相談所に持ち込まれます。こうした困難な状況のなかで、「子どもを救う」というとても難しい課題と向き合っているのが、児童相談所の実情です。

 確かに、児童相談所の職員の対応に問題がある場合もあるのでしょう。しかし、問題はそうした個別的なものを超えた、もっと組織的、本質的なところにあるのだと、本書をお読みいただければ感じることと思います。児童福祉に限らず、日本の福祉行政は諸外国と比べて、質量ともに貧困です。その貧困な福祉行政をさらに、削減しようとしているのが現在の流れです。したがって、児童相談所を批判することでよしとするのではなく、むしろ、児童相談所を含めた日本の児童福祉をどうするか、という問題こそが問われるべきなのだと思います。

 本書では、虐待をしてしまう親の側についても詳しく考察しています。地域や家族の変容によって、いま、親が社会から切り離され、子育てが孤立する現実が現われています。誰にも頼ることのできない子育てのプレッシャー、そして格差社会の進行は経済的にも親を追い詰めています。こうした背景を考えなければ、繰り返される児童虐待を防ぐことは難しいと感じます。「親のせいだ」「児童相談所が悪い」では、児童虐待の本質は何も解決されません。児童虐待を問うことは、この国の子育てのあり方を問うことにほかならないのだと感じます。児童虐待はなぜ深刻化し、繰り返されるのか――。この大きな問題の手かがりをつかむためにも、ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。

(新書編集部 田中宏幸)
     
  ■目次
  
  序 章 児童虐待への取り組みがはじまる  
  法改正をめぐる意見の対立/児童虐待の社会的発見/児童相談所とは/児童福祉の担い手たち/子どもの安全優先への転換/「児童虐待の防止等に関する法律」の成立  
    
  第一章 児童虐待とは何か  
  児童虐待の定義/身体的虐待/しつけと虐待はどこが違うのか/体罰を考える/児童虐待のエッセンス/懲戒権の是非/ネグレクトとは/はじめてのおるすばん/性的虐待について/戦前にもあった児童虐待防止法/児童虐待の定義を改定/心理的虐待/子育ての風土を変革する運動 
    
  第二章 虐待はなぜ起こるのか  
  虐待するのは誰か/虐待を引き起こす四つの要素/過去の傷に苦しむ親たち/被害者から加害者へ/炎天下に放り出された少女/ストレスが高める虐待のリスク/閉ざされた世界で起こったこと/孤立する家族/悪循環の果てに/意に沿わない子 
    
  第三章 虐待への対応をめぐって  
  1 虐待の通告と発見
岸和田事件の衝撃/知られていない虐待の通告義務/虐待の早期発見・通告にむけて/虐待を発見することの難しさ/社会は誤報を引き受けられるのか

2 虐待から子どもを保護する
小山市の兄弟殺害事件/児童相談所長が判断する一時保護/一時保護と子どもの人権/司法の審査/保護者との対立/家庭への立入調査/防刃チョッキで身を守る/警察はどこまで関与すべきなのか/二つの権利の対立
    
  第四章 虐待する親と向き合う  
  1 保護者への指導
揺れ動く子どもの気持ち/児童虐待の解決とは/指導に従わせることの難しさ/大きく違うDV防止法と児童虐待防止法/いびつな枠組みの改善を

2 親子の分離と再統合
キャッチアップ現象/子どもを保護するための司法の役割/非行への対応と虐待への対応/家庭裁判所の勧告/児童福祉施設の実情/里親への委託/親子の再統合
     
  第五章 児童相談所はいま  
  虐待防止の学術集会/カナダの若者に問われたこと/日本の貧しい児童福祉体制/岸和田事件の教訓/遅れる専門性の確保/新人児童福祉司の研修/職員の過大なストレス/一時保護所の実情/全国児童相談所長会の要請/児童心理司の配置も不十分/虐待相談対応を市町村にも拡大 
    
  第六章 児童虐待を防止するために  
  『三丁目の夕日』の風景/今は昔の村八分/ご近所の底力/虐待防止キャンペーン/子育て支援の重要性/体罰を禁止した川崎市の条例/思い切った社会的コストを
     
  あとがき
主な参考文献

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
  少年事件に取り組む―家裁調査官の現場から 藤原正範著 新赤版995
幼児期―子どもは世界をどうつかむか 岡本夏木著 新赤版949
子どもの社会力 門脇厚司著 新赤版648
思春期の危機をどう見るか 尾木直樹著 新赤版998
日本の社会保障
 広井良典著 新赤版598
 
*****
児童相談所の職員は実際困っていて、
われわれは児童を守るとともに、児童相談所職員を守る立場にもある。
そうした立場で見ると、現実は実に厳しい。

子供を守る、親を守る、児相職員を守る、みんなが大変になってしまっているのはいったいどうしてなのだろう。

 



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誰のための会社にするか ロナルド・ドーア

 誰のための会社にするか ロナルド・ドーア著 (新赤版1025)
   
   新しい会社法に、どのような魂を入れるか。
  アメリカかぶれでない、日本にあった企業制度の提案

 会社とは、いったい何でしょうか。どういう会社なら、健全で働き甲斐を感じることができるのでしょうか。また、どうすれば「理想的な」リーダーを確保できるのでしょうか――。会社法が大幅改正され、堀江氏や村上氏など一世を風靡した時代の寵児たちの逮捕が相次ぐ中で、いま、多くの人が日々働く現場の組織で何が起きているのか、その意味は何なのか、原点から問い直した一冊です。

 長年、日本社会に鋭くも温かい視線を注ぎ続けてきた著者の、日本語による渾身の書き下ろしです。平社員、部長・課長、平取、社外重役、そして社長たち……会社にかかわるすべての方々にお奨めします。

(新書編集部 上田麻里)
    
  ■著者からのメッセージ
 原稿を読んでくれた友人のコメント;「資本主義も、コーポレート・ガバナンスも、『本来の姿なんてない』といっているところが一番痛快だった」と言ってくれました。本の題を「会社は誰のため」などでなくて、『誰のための会社にするか』としたのはまさに、それを強調したかったからです。会社のあり方は――特に、会社が創造する価値(いわゆる付加価値)が、株主と従業員と、銀行と、(税金の形で)国庫の間でどう配分されるかは――政治的選択の問題です。

 と同時に、その社会でどういう思想が「思想的制空権」を握っているか――会社法という仏にどのような魂を入れているか――にもよります。株価維持を世の社長たちの最大関心事にして、“静かなる株主革命”を固めたのは、頻繁に起こり始めた敵対的買収です。むかし、山師の業だった乗っ取りが、「活発なM&A活動」の一環として、紳士も当然使えるビジネス手法となったことです。

 しかし、エルビス・プレズリー宅へお参りまでする総理を始め、アメリカかぶれの政府当局ほど、一般国民の思想はそう変わっていないとおもいます。額に汗を流して働いている人たちが、村上世彰氏の逮捕を見て、手をたたいているのは、彼がうっかりしてインサイダー取引を一回したからではない。彼の日ごろのマネーゲームの儲け方への反発だと思います。それなら、制度を変えればいい。より健全なステークホルダー資本主義への道について、僭越ながら、最後の章でいくつか提案を試みました。
    
  ■著者紹介
ロナルド・ドーア(Ronald Dore)
1925年英国ボーンマス生まれ。戦時中に日本語を習って、1950年に初めて日本に留学した時以来、ロンドン、ブリテイッシュ・コロンビア、サセックス大学開発問題研究所、ハーバード、MITの諸大学で教鞭を取りながら、主として日本の社会経済構造の研究および日本の経済発展史から見た途上国の開発問題の研究に専念してきた。
著書―『日本の農地改革』、『江戸時代の教育』、『学歴社会 新しい文明病』、『イギリスの工場・日本の工場』、『都市の日本人』、『貿易摩擦の社会学』、『日本との対話―不服の諸相』、『日本を問う 日本に問う―続不服の諸相』、『日本型資本主義と市場主義の衝突―日・独対アングロサクソン』、『働くということ』ほか
       
  ■目次
はじめに
  
  第一章 コーポレート・ガバナンス――「治」の時、「乱」の時  
  1 社長追放の諸相
    チェーンソー・ダンラップ/オークマの大隈家/三越の岡田茂社長/二つの解釈
  2 なぜ今、敵対的買収か
    なぜ買収劇が続くのか/M&A促進政策の理論/M&Aの現実/二種類の企業と二種類の経済学  
  
  第二章 グローバル・スタンダードと企業統治の社会的インフラ  
  1 覇権の諸相
    世界普遍な企業形態か/文化的覇権の奇妙な力/覇権文化と覇権国家/より価値中立的な定義/何が問題か
  2 多様性の二つの軸
    国柄/日本は新自由主義に転向したのか/動機付け資源/ありがたい「アメ」と恐ろしい「ムチ」/文化・パーソナリティ・制度
  3 動機付け資源の制度的強化
    社長の座へのさまざまな道/監視と信用/三権分立/「性善説」の国の少数悪への対応 
 
  第三章 どこに改革の必要があったのか  
  1 改革機運はどこから?
  2 自信喪失と重なった要因
    洗脳世代の到来/外資系投資家の日本買い/改革論者の常套句
  3 日本的経営の四つの欠陥
    不祥事/決断力が足りない経営トップ/過剰投資と資本効率/株主の軽視
  4 壊れていなければいじらない方がいい
 
  第四章 組織の変革  
  1 強制された変革・自主的変革
    せわしない法制活動/「親切」な改革/法改正と無関係な組織変革/嘲りの対象となった取締役会
  2 諸変革の普及率
    委員会設置会社の場合/監査役会設置会社の場合
  3 組織の変革・行動の変革
    透明性/社外重役――誰の番犬なのか/助言か“権言”か/緊張感の効能/社外重役の貢献/評価できる面
  4 制度変革の効果
    意思決定の「質」/意思決定のスピードは?/執行と監視/不祥事防止
  5 仏つくって、どの魂を入れるか
 
  第五章 株主パワー  
  1 変わったのは何か
  2 株主パワー――声の部
    大株主――インフォーマルな注意/新しいタイプの「アドバイザー」/投資ファンドの分業/株主還元に「目覚める」ソトー/いまに始まったことではないが/一般株主――株主総会/機関投資家の上陸/国内版株主行動主義/経営層の階級的団結/最近の問題点/市民運動としての株主行動主義/企業の対応
  3 株主パワー――売り逃げの部
    経営者にとっての脅威/株価維持の至上命令/敵対的買収と経営者意識/経営権売買市場の善し悪し
  4 株主天下の確立
    「抵抗勢力」? 
 
  第六章 株主天下の老後問題  
  1 株主はあなた!
    神話(1) 機関投資家が経営者を監視する/神話(2) 「株式市場=機関投資家支配下の市場」/神話(3) 今の貯金は将来の負担を軽減/神話(4) 株式プレミアムは永遠不変
  2 要は惑わされないこと
 
  第七章 ステークホルダー・パワー  
  1 常識の変化
    ステークホルダーとは誰か
  2 「準共同体的企業」の従業員
    どの意味で「準共同体的」なのか/準共同体の融解/分離と格差
  3 労働組合が従業員ステークホルダーの利害代表か?
    なぜ労働組合が抵抗しなかったか/労働組合弱体化の諸要因/労働者の声がほとんど聞こえない 
 
  第八章 考え直す機運  
  1 改革派のつまずき
    ホリエモン失脚の効果
  2 CSRブーム
    改革機運後退の第一期/開明的株主価値論/PRかホンモノの倫理観か/投資家の脅し/CSRと従業員
 
  第九章 ステークホルダー企業の可能性  
  1 何が変わったか、変わりつつあるか
    思潮の動向と現実の動向/敵対的買収制度はこのままでいいのか/ポイズン・ピル活用をめぐる議論
  2 ステークホルダー社会の実現に向けて
    M&A審査委員会/株式持ち合い網の再構築
  3 インサイダー経営企業の活性化
    残る「準共同体的企業」のインフラ/社長の報酬開示の当否/内部規制・部下の突き上げ
  4 インサイダー経営者への規制・刺激
    社外重役/内部告発/従業員の経営参加/企業議会の構想/付加価値計算書の作成
 
  おわりに
なぜ急いだ方がいいか/非民主主義的提案の弁解

謝辞
推薦図書一覧

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
独占禁止法―公正な競争のためのルール 村上政博著 新赤版929
経営者の条件 大沢武志著 新赤版907
日本の経済格差―所得と資産から考える 橘木俊詔著 新赤版590
市場主義の終焉―日本経済をどうするのか 佐和隆光著 新赤版692
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
*****
会社が変質しつつあることはみんなが感じていて、
人生を展開する場所ではなくなっているような不安を抱いていると思う。

出版社風にいえば、いかにして人間性を回復できるかということなのだけれど、
非人間的な企業のほうが収益が大きくて、
結局人間的勢力が負けてしまうとしたら、どうすればいいか。
今後は、政府が規制をかけて守ってくれるわけでもないのだ。

人間的企業で人間的な働き方をしているほうが、
競争にも勝つ、そのような新しい方程式が成立しないと、
現状は打破できないだろう。

非人間的な安い給料か、
非人間的な労働時間か、
いずれにしても、人間的で優雅に暮らせるユートピアは、
今のところ、存在しない。



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医療の値段 リバタリアン 政府統一価格 医師会 武見太郎

 医療の値段―診療報酬と政治 結城康博著(新赤版989)

    ■著者からのメッセージ
 私たちは「医療の値段」と聞くと何か特別な価格であると考えてはいないでしょうか。不運にも入院してしまうことになり、その費用が高いと実感していても、どこか「仕方がない」と諦めてしまってはいないでしょうか。例えば、たまたま手術を受けた医療機関で個室しかないので、高い差額ベッド料金を支払うことになっても、やむをえないと思ってしまうのではないでしょうか。

 もっとも、急性期の病で短期間に完治すれば大きな問題とはなりません。しかし、脳梗塞などで高齢者が倒れ家庭環境で在宅療養ができず、何年も療養型医療施設に入院せざるをえなくなった場合、毎月20万円以上の入院費を支払う家庭が少なくはありません。

 それでも自分たちの生活を切り詰めて、毎月20万円以上の費用を工面している家族を、僕は仕事柄いくつも目の当たりにしてきました。その中で、「医療の値段」はどのように決まっているのかという疑問を抱き、その決定プロセスを紐解いてみようかと思い本書を手がけることになりました。  
 
■目次

  序 章  病気を治すのにいくらかかる   
1 実際の治療費はいくらなのか 
  窓口で支払う医療の値段/医療は財か 
2 医療と政治 
  医療と利益団体のイメージ/医療の値段を浸透させる 
3 本書の構成 
    
  第一章  医療の値段の決められ方   
1 診療報酬と審議会制度 
  診療報酬とは/診療報酬で医療の在り方が変わる/医療の値段を決める審議会(中医協)/医療の値段は二年に一度見直される/中医協改革 
2 専門家集団で決められる医療の値段 
  中医協の構成メンバー/中医協の組織構成/医療系学会の影響力 
     
  第二章  利益団体と医療―医療費をめぐる政治史(1)   
1 日本医師会と日本歯科医師会 
  日本医師会/日本歯科医師会/その他の医療関連団体 
2 利益団体と政治活動 
  日本医師連盟/日本歯科医師連盟/日医連及び日歯連の会員問題 
3 壮烈なライバル意識 
  三師会について/日医と日歯の対立/患者数と収入格差 
     
  第三章  医師会と医療費―医療費をめぐる政治史(2)   
1  政界と太いパイプを築いた武見体制 
  武見太郎とは/武見と政界/医師会会長選挙/武見日医の功罪 
2  武見日医と対立した団体 
  武見日医と日本病院会/武見戦術の数々 
3  武見日医から学ぶもの 
  社会情勢を見極めた力/患者の代弁者機能
     
  第四章  かかりつけ医制度と医療費   
1 かかりつけ医制度 
  かかりつけ医制度の意味/在宅医療の拡充 
2 入院医療と在宅医療
  入院医療の見直し/アメリカとイギリスの影響 
3 史上はじめてのマイナス改定 
  小泉内閣による二〇〇二年医療制度改革/在宅部門における医療の値段/医療サービスをどう提供していくか/二〇〇六年診療報酬改定
     
  第五章  「医療の値段」と政治―日歯連事件からの検証   
1 贈収賄事件はどうして起きたか 
  かかりつけ歯科医初診料/臼田貞夫の登場/日歯連事件の概要 
2 自民党と日歯連 
  日歯連による政治献金/マスコミを賑わす旧橋本派/民主党の動き/高まらない世論 
3 事件の意味と影響 
  医療業界と利益団体/「医療の値段」の決定プロセスが注目される
    
  終 章  公正な医療の値段とは何か   
1 医療の値段の決め方はどう変わるか 
  連合の取り組み/日歯の取り組み/中医協は変わるのか 
2 高度化した医療技術と混合診療 
  医療技術は高度化する?/混合診療について 
3 これからの医療制度 
  膨張する国民医療費/医療制度改革の論点
4 市民にわかりやすく
  医療の値段と消費者感覚
     
  あとがき
参考文献
  
  ■岩波新書にはこんな本もあります  
介護保険 地域格差を考える 中井清美著 新赤版820
定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 広井良典著 新赤版733
日本の社会保障 広井良典著 新赤版598
高齢者医療と福祉
岡本祐三著 新赤版456
政治献金―実態と論理 古賀純一郎著 新赤版889
 
*****
武見太郎とか医師会とか書けば、一般の人には受けるのだろう。
でも、問題はそんなところにはない。
武見太郎の子息である武見敬三は選挙で落選。
医師会も落日である。

根本的には、医学・医療が進歩して、いろいろなことができるようになったが、
お金もかかるようになった。
しかも、お金をかけた最先端医療だからといって、人間の体だから、絶対という保障はない。
むしろ、最先端であるだけ、予測不能の危険要因が大きい。
専門家と一般の人の理解には大きな差がある。
そんな中でどのようにして納得してもらい、最善の医療を実践することができるのか。

実際、最善の選択は何かが、難しいのだ。

命の値段をどう決める?と問題にされると、
フリーマーケットで決めてくださいというしか、答えはないだろう。
リバタリアンのいうように、政府が値段を決めれば、矛盾続出で、腐敗も起こる。
無駄が多い。非効率である。他の方式も、いずれにしても悪い中で、
フリーマーケットが、ほどほどのよい答えであるということになる。
それでいいはずはないのだが、いい考えはあるだろうか。



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壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 金子雅臣著 新赤版996)

   セクハラ事件が激増しつづけるのはなぜなのか?
 「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」という言葉が日本に紹介されて十数年。この間、法による規制も進み、社会的な取り組みはたしかになされてきたと言えます。しかし、一方でセクハラに関連するトラブルは、近年、各種相談件数、裁判件数ともに激増し続けています。それは、いったい、なぜなのでしょうか?

 著者は長年、東京都の労働相談に従事し、セクハラ事件の解決のために被害者・加害者、双方の当事者に多く関わってこられました(東京都は「セクハラ相談窓口」を全国にさきがけて立ち上げ、相談を相談だけに終わらせず実際の解決に導くための「あっせん」というシステムを作り、この問題に取り組んできた実績があります)。本書は、そんな著者の前に現れた加害者男性たちの「言い分」をつぶさに検証することによって、彼らの意識を探り、そこからセクハラ事件が繰り返し起こされる理由、さらにはセクハラを「する男」と「しない男」の違いがどこにあるのかを明らかにしようとしたノンフィクションです。人と人との関係について様々な立場から考えて続けてきた方にはもちろん、「セクハラ」という言葉を聞いて、「いったいどこからがセクハラなのかわからない」「いちいち目くじら立てると人間関係がギスギスする」「この言葉で世の中ややこしくなった」――そんな風に思っている方にこそ、ぜひ手にとっていただきたいと思います。

 さて、本書でも言及されている事例ですが、告発された男性が事の成り行きを次のように説明したケースがあります。

 彼女は、夫を交通事故で亡くし、子どもを抱えて仕事をしに来ていた。当初はパートタイマーとして働いていたが、真面目に働くし、明るい美人だった。仕事で話していても、はきはきしていて好感がもてた。彼女の子どもが病気になり、しばらく仕事に来られなくなったりすることがあって、経済的なことで相談をされて親しくなった。それ以来、何かと相談にのることになったが、経済的な不安を抱えていたので、正社員になることを勧めて力を貸した。そして、念願の正社員になったお祝いということで飲みに行ったときに、ホテルに誘った。いろいろ相談にものり、親しく付き合っていたし、感謝もされていたため、自然の成り行きでそうなった。

 あなたはこれを「セクハラにあたる」と考えますか? それとも「あたらない」と考えますか? それはなぜでしょうか? ちょっと考えてみてから読み始めるのもよいのではないかと思います。

(編集部 太田順子)  
 
  ■著者紹介
金子雅臣(かねこ・まさおみ)1943年生まれ。労働ジャーナリスト。東京都勤務で長年にわたり労働相談の仕事に従事する一方、社会派のルポライターとして活躍。セクハラ問題では第一人者として講演活動などに取り組んでいる。また日本で初めて「ホームレス」という言葉で社会問題を提起し、精力的なルポで実情を紹介した。最近ではパワーハラスメントを職場の新たな問題として取り上げ、警鐘を鳴らしている。
  主な著書に、『裁かれる男たち―告発の行方』(明石書店)、『ホームレスになった―大都会を漂う』(ちくま文庫)、『パワーハラスメント何でも相談』(日本評論社)、『労働相談(裏)現場レポート』(築地書館)などがある。
  
  ■目次
はじめに
  
  第1章 「女性相談窓口」に現れる男たち  
1  男たちが「女性相談窓口」に
2  労働相談にも“男性問題”
3  「こころの相談」にみる男たちの崩壊
4  セクハラで男たちが問われる
5  “男性問題”とは何か 
   
  第2章 男たちのエクスキューズ――「魔が差した」というウソ  
1  訴えられるはずがない 
  神経質そうな男/追いかけてきて/「オレのことが嫌いなのか」/「もう、子どもじゃないんだから」/なぜ、彼女が訴えを……/仕事は口実/「何もしていない」/娘のような気持ち 
2  「大人の女」にかける願望 
  「付き合いも給料のうち」/「これは前戯だ」/被害者意識の強い女/穏便な解決を/「謝ればいいんだろう」/社長の真意/その程度の男 
3 都合のいい女たち 
  派遣先での出来事/プライベートな関係/遊び感覚/水商売のような人たち/退職を決心した/どこまでも別々の理解/仕事はそこそこ/女というものは……/「正社員にしてやる」/「意気投合して」/「もう、止められない」/据え膳喰わぬは男の恥/会社の決断
4 離婚した女性に向けられる視線
  企業トップの奢り/「受け止め方が悪い」/離婚女性に向けられる視線/「あなたはオンナを知らない」/社長が現れない/涙の訴え/起こるべくして起きた事件/方程式のない和解/加害者側弁護士の怒り/逸脱行為の温床
     
  第3章 引き裂かれた性  
1  妻には知られたくない
  想像できない世界/性的には淡白な夫/家庭を大切にする人/妻とは別世界の出来事
2  夫の見せた別の顔
  事実は単純である/追いつめられて/「言わなくともわかる」/平行線のままで幕
3  妻にはない性を求めて
  妻にはわからないこと/引き裂かれた性/夫が崩れた
     
  第4章 男が壊れる  
1  セクハラを“する男”と“しない男”
  セクハラ男の言い分/“誘う性”と“誘われる性”/セクハラは「男性問題」/セクハラを“する男”と“しない男”の岐路/説明不能な“衝動”/フツーの男たちの意識/地続きの意識
2  暴走のスプリングボード
  “軽く肩を押す”もの/男たちの危機感/逸脱のスプリングボード
    
  あとがき

■岩波新書にはこんな本もあります  
男女共同参画の時代 鹿嶋敬著 新赤版867
過労自殺 川人博著 新赤版553
ルポ解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
安心のファシズム―支配されたがる人びと 斎藤貴男著 新赤版897
豊かさの条件 暉峻淑子著 新赤版836
 
*****
セクハラで、男は職も金も家庭も失います。
気をつけましょう。
テレビドラマのようにはいきません。



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自殺予防 高橋祥友

自殺予防 高橋祥友著(新赤版1028)岩波

   長期的に粘り強い取り組みを―― 一人でも多くの命を守るために、家族が、職場が、社会ができることは何か

 日本では、1998年以降8年連続して年間自殺者数が3万人を超えるという、深刻な事態が続いています。また、自殺未遂者数は自殺者の10倍以上、さらに強い絆のある人の自殺や自殺未遂によって深く傷つく人の数は、百数十万人にものぼると推定されており、深刻な社会問題となっています。

 これまで日本社会では、自殺に対して「覚悟の行為である」「予防などできない」「遺族はそっとしておくのが一番」といった考えが根強かったため、自殺予防に対して十分な関心が払われてきませんでした。しかし、自殺者の急増という事実、一連の過労自殺裁判に対する司法判断、あしなが育英会などの活動によって自殺遺族の抱える問題が明らかになってきたこと、などを背景に、ようやく行政も具体的な自殺予防対策に動きはじめ、今年の通常国会では、その一歩となる「自殺対策基本法」が成立しました。

 この本では、精神科医として長年、自殺予防の臨床と研究に従事してきた著者が、現在の日本の自殺の実態、自殺を考えるほどに追いつめられる心理、多くの自殺の背景にあると言われる〈こころの病〉、とくに「うつ病」との関係、さらには不幸にして自殺が起きてしまったときの遺族に対するケアなどについて、事例も交えてわかりやすく解説しています。

 個人で、家族で、職場で、地域で、そして社会で。地道に粘り強く取り組みを続けることによってしか、自殺を防ぐことはできません。いったい何ができるのか、何が求められているのかを知るために、本書を一人でも多くの方にお読みいただきたいと願っています。

(新書編集部 太田順子)
    
  ■目次
はじめに
  
  第1章 自殺という死   
1 青木ヶ原樹海からの生還者――自殺と記憶喪失
2 自殺は「強制された死」である
3 日本における自殺の実態
4 世界との比較から
5 年齢によって異なる危機
6 マスメディアの影響――群発自殺とネット心中  
    
  第2章 自殺の心理   
1 自殺の危険をどうとらえるか
2 自殺する人と自殺しない人の違いは
3 「自殺したい」と打ち明けられたら
4 どのようにして受診につなげるか
5 自殺の心理に関連していること 
    
  第3章 こころの病と自殺   
1 治療を受けずに自殺する人びと
2 自殺予防とうつ病治療の関係
3 うつ病とは
4 うつ病の治療 
    
  第4章 自殺予防の取り組み   
1 国連による自殺予防ガイドライン
2 フィンランドの実践
3 新潟県東頸城郡の自殺予防活動 
    
  第5章 家族を支える、遺族をケアする   
1 家族が抱える問題と自殺行動
2 自殺予防に不可欠な家族の協力
3 自殺が起きたときの遺族へのケア
4 芽生え始めた自助グループ
5 ポストベンションは次の世代のプリベンション 

  あとがき

 ■岩波新書にはこんな本もあります   
過労自殺 川人 博著 新赤版553
働きすぎの時代 森岡孝二著 新赤版963
ルポ 解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
〈こころ〉の定点観測 なだいなだ編著 新赤版718
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
*****
例えば、職場に産業カウンセラー、学校に学校カウンセラーをたくさん配置したとして、
どうなるか。
そのことが結局のところ登校刺激になったりする。

一度経済的に躓くと、
雪だるま式に借金が増え、友人もいなくなるという現実もある。
ローンは抱え、教育費はかさみ、そのような現実にたいしては、
会社なりの緊急融資制度が必要なのだと思う。

休職すれば、ボーナスが減らされ、
ボーナス払いでローンを組んでいる人たちは、
お金の工面に走ることになる。

心理的なサポートと、
現実的なサポートとの、両方が必要である。



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大場久美子さんのパニック障害

大場久美子(女優)
心の病で悩んでいたなんて!

 女優・大場久美子が婦人公論」誌上でパニック障害に悩み、自傷行為にまで及んでいたことを告白した。今年、芸能生活35年。つい2カ月前には記念イベントで久々にホットパンツ姿を披露し、「気持ち悪くならないでくださいね」なんておどけていたのに……。

 同誌によると、大場が“異変”に気づいたのは母が亡くなった直後(99年)のことだったという。ある日突然、激しい動悸(どうき)に襲われ、倦怠(けんたい)感がひどくなり、人込みが怖くて乗り物にも乗れなくなった。当然、マスコミのインタビューもまともに受けられず、個室に入れられるだけで呼吸ができなくなることもあったという。「自傷行為」に及んだのは昨年7月のこと。同誌ではこんなふうに表現している。

〈心臓が飛び出すのではないかと思うほどの動悸に見舞われ、水の中に顔をつけられてしまったかのように息が出来ず、(中略)「死」につながる妄想が次から次に襲ってきて……〉

 大場といえばコメットさんのイメージが強烈で、どちらかというと「明るいおちゃめキャラ」に見られがち。ところが、プライベートではこれまでいろいろ苦労してきた。

「アイドル時代、知人のレストラン経営者に名義を貸したところ、経営が傾き、知人は失踪、巨額の借金を背負わされた。なんとか返済をと頑張ったが、ついに返し切れず自己破産するはめに。ちょうどその頃、前述の母を亡くし、気分一新、年下ダンサーと結婚したが、3年前に離婚した」(芸能記者)

 外見とは違ってストレスを抱えた芸能生活だったに違いない。「心の病」に侵されたのも分かる気がする。

 今回のカミングアウトの理由も、「スッカリ治ったから」というのではなく、「いつ振り出しに戻るか分からないが、上手に付き合っていこうという覚悟を決めたから」と語っている。正直なところだろう。

 芸能生活35周年を記念した別のインタビューでは、こんなことも言っている。

「休みの日にはボランティア活動をやっています。カンボジアの学校を建てたり、栄養支援とかいうスタッフの一員として。ゆくゆくはボランティア活動に専念したいと思っています」

 コメットさんももうすぐ50歳。ちょうど11日からTBSでスタートするドラマ「Around40」で、ちょっと年配の雑誌編集長役を演じるという。これをきっかけに、ちょっと陰りのある等身大の女性にイメージチェンジしてみてはいかがか。「コメットさん」で散々楽しませてもらった同世代ファンも、きっと温かく見守ってくれるに違いない。

【2008年4月11日掲載記事】

*****
上手に付き合っていこうという覚悟を決めたから
とのこと。
〈心臓が飛び出すのではないかと思うほどの動悸に見舞われ、水の中に顔をつけられてしまったかのように息が出来ず、(中略)「死」につながる妄想が次から次に襲ってきて……〉
というあたりは、典型的な、パニック発作。

少なくない人が、苦しんでいます。



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自閉性障害のある児童生徒

http://jupiter.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-184/b-184.pdf
ここに貴重な情報

表1 高機能自閉症・アスペルガー症候群の定義案 (文部科学省,2003)

高機能自閉症
3歳位までに現れ、
①他人との社会的関係の形成の困難さ、
②言葉の発達の遅れ、
③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、
知的発達の遅れを伴わないものをいう。
また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

アスペルガー症候群
アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。
なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害(PDD)に分類されるものである。
本定義は、DSM-Ⅳを参考にした。

*****
1.高機能自閉症・アスペルガー症候群とは?
① 高機能自閉症・アスペルガー症候群は、自閉症グループに属する発達障害です。
② 100~200人に一人ぐらいいると言われています。
③ 最近になって知られるようになった障害です。
④ 家庭環境の問題やしつけ不足が原因で起きるものではありません。
⑤ 従来の自閉症のイメージや障害児の概念とは、かなりかけ離れた子どもたちです。
⑥ 言葉の遅れがなかったり学業成績が良いこともありますが、広範囲にわたる発達上の困難を抱
えています。
⑦ 集団での活動が苦手だったり行動上の問題を起こしやすいために、わがままな子と思われてい
るかもしれません。
※ 知的障害を伴う自閉症児と同様の次のような困難を持っています。
① 物事の一部分に注意が集中しやすく、全体の状況をつかむことが困難。
② 一度に一つのことしかできない。
③ 最初に覚えたことを、なかなか変更できない。
④ パターン化した行動を取ることがある。
⑤ 融通が利かないように見えることがある。
⑥ 人とのかかわり方に大きな特徴がある。
⑦ 独特な言葉遣いをしたり、変わった話し方をする。
⑧ できることとできないことの差が激しい。
⑨ 過去の出来事を突然思い出して(フラッシュバック)、その場に全く関係のないことを言い出し
たりする。

*****
2.高機能自閉症、アスペルガー症候群の児童生徒と接する際の留意点

一見、普通の子どもと変わりませんが、高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、自閉症とし
ての特有な困難を抱えています。「人にではなく物の方に関心が向きやすい」、「通常ではささいなことと
思えるような事柄に強い苦痛を感じパニック状態に陥ってしまう」、「奇妙なしぐさをしたり反復的な行
動をする」といった症状がみられることもあります。
一人一人の違いも非常に大きく、個々のニーズに応じて、個別的な支援や配慮をすることが不可欠で
す。ここでは、よく見られる代表的な特徴とその支援法について簡単に述べてみます。

(1) 人とのかかわり方
全く人と関わろうとしないことはありませんが、形式的だったり、一方的だったりします。かかわり
がないと言うよりも、人とのかかわり方が不適切と言った方が正確です。
人の方を見る、顔の表情や身振りなどから人の気持ちを読み取る、顔の表情や身振りなどで自分の感
情を表すなどの身体的(非言語的)な行動に問題があって、そっけない子・奇妙な子とみられていること
もあります。集団生活はできるものの一人でいる方が好きという子どももいますが、友だちができない
ことに悩んでいる子どももいます。

(2) コミュニケーションの問題
高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもでは、言葉を話すことはできます。しかし、言葉を自分
の意思を人に対して表わす手段として使っていない、相手が聞きたいと思っていることを答えない、最
後まで話が噛み合わない、遣り取りのある会話になっていないといった様子がみられます。話すことは
できるけれど、コミュニケーションが成立していないのです。
また、言葉の表面的な意味しか分からない(字義通りにしか解釈できない)、慣用表現の意味や言外の
意味が分からない、独自の決まり文句や本人にしか意味の通じない言葉を使う、漢語的表現を多用する
といった特徴がみられることもあります。
このようなコミュニケーション障害に基づく言葉の問題が原因で、トラブルが生じていることも非常
に多いものです。

(3) 指示の出し方
人に注意が向かない、自分に向かって話されていることや自分に対して指示されていることがわから
ない、音声として聞き取って行動しているものの本当には理解できていないi、口頭の指示だけでは理解
できず文字や絵などが必要、(視覚と聴覚といった)複数の情報を同時に処理することができないなどの
困難がみられることがあります。
自閉症児すべてに共通する方法があるのではなく、絵や図にした方がわかりやすいという子どももい
れば、言葉にした方がわかりやすい子どももいます。目で見た方が指示が通りやすい子どももいれば、
耳から聞いた方が指示が通る子どももいます。どちらの場合でも、「指示や情報はシンプルに提示する」
「できるだけ省略を避け、何が起き・何をすればいいのか明確にする」といった配慮をすることによって、
トラブルを避けることができるでしょう。

(4) こだわり行動と固執
こだわり行動の中には、不安やストレスを解消するために役に立っているものがあります。時と場所
を選んで個人的に行っているこだわり行動は、特にやめさせる必要はありませんが、社会的に好ましく
ないもの、人に迷惑をかけるもの、エスカレートすると自他共に差し障りが生じると予想がつくものな
i ずっと後になって本当の意味がわかり、突然、思い出したように話し出すことがあります。
どは、制限を加えて妥当なものに変えていく必要があります。
物事の順序に固執する傾向がある場合には、はじめから全部を変えさせようとせずに、最も変えやす
い一部分だけを変更することから取りかかる、初めてのことをする時には順序への固執を逆に利用する、
というような工夫が必要なこともあります。急な予定変更に対処できないこともあるので、「予定の変更
はなるべく避ける」「やむを得ず予定を変更する時は前もって伝える」といった配慮が必要なこともあり
ます。
自閉症児には、「先の見通しが立つようにスケジュールを予め伝えておく」と良いと言われていますが、
時間の概念ができていない段階の子どもの場合は、「言われたことがすぐに起きるもの」と思ってしまう
こともあります。また、あまり早くから伝えると気になって他のことができなくなってしまう子どもも
いるので、個別対応が必要です。

(5) インフォーマルな活動が苦手なこと
休み時間や休日などの自由な時間に、何をしたらよいのか分からないという自閉症児は多いようです。
一般に、任意の小グループに分かれて、その場の話し合いで変わっていく活動に参加することが苦手で
す。
高機能児の場合には特に、休み時間や放課後などのインフォーマルな時間に他の子どもたちの行って
いる活動そのものに興味がないといった問題もあります。自由な時間には、(こだわり行動を含む)好き
なことをやっていたい、図書館や理科室などで興味のあるものを見ていたいと思っていることもありま
す。運動機能の遅れがあって、スポーツやリクリエーションに参加することが苦痛なこともあります。

(6) 感覚の特質
聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚・前庭覚などの感覚が過敏だったり鈍感だったりすることがよくあり
ます。聴覚が過敏で特定の物音や甲高い声に苦痛を感じたり、触覚が過敏で身体接触や衣服の材質に強
い不快感を感じるといった症状を持っている子どもが比較的多いようです。問題行動と呼ばれているも
のの中には、このような感覚の特質に基づく行動がかなりあります。感覚の特質のために引き起こされ
る問題には、以下のことが挙げられます。
① 集団活動や行事に参加できない。(例えば、聴覚が過敏で音楽の授業が苦痛。不快な臭いのする
特定の教室に入れない、など。)
② 突然の物音や特定の物音などでパニックを起こす。
③ その場ではあまり大きな反応をせず長期間我慢し、身体症状や突発的な不適応行動となって現
われることもある。
④ 聴覚・視覚など特定の感覚に注意が向きやすく、何か聞こえたり見えたりする度に活動が止ま
ってしまう。
生来の感覚的なことなので、無理強いは禁物です。環境の方を変えることがベストですが、経済的・
物理的に不可能な場合は、不快な刺激ができるだけ少なくなるように工夫したり、不快感を取り去って
ストレスを解消するための手段を持たせるなどの配慮をします。感覚刺激そのものが苦痛な場合と、感
覚刺激によって注意がそれやすい場合とでは原因が違いますが、どちらも耳栓をするなどの工夫で対応
できることがあります。また、感覚刺激そのものが苦痛というよりも、状況がよくわからなくて不安を
感じている場合には、予測がついたり、(物音などの)理由や原因を明らかにすることで軽減するものも
あります。

(7)パニックや癇癪を起こしやすいこと
パニックや癇癪は、何らかの困難に直面していることを表わしていることが多いものです。そのよう
な時には、本人自身もどうしていいか分からず不安なのですから、パニックや癇癪を起こしたことを責
めても何の意味もありませんii。理由としては、感覚の特質が原因で起こることもありますが、本人の
発達レベルに合わない無理な要求をされている時に頻発します。いずれにせよ、努力によって克服すべ
きものと考えるのではなく、課題のレベルを下げて「本人にできる範囲でちょっと上を目指す」ように
やり方を工夫する必要があります。
パニックや癇癪を起こした時は、本人が落ち着いた後なるべく間をおかずに、本人の不安を解消する
ための理由説明を簡潔に行うことが大切です。時間が長く経ってしまった後では、何のことを言われて
いるのか分かりません。また、くどくどと説明すると効果が半減します。

<第二部> Q & A

【Q1】 人嫌いで孤独を愛する人のことを言うのでしょうか?
① 自分の気持ちを人に話そうとしなかったり、一人で離れていることがありますが、人嫌いでは
ありません。
② 逆に、積極的に人に話しかけて質問攻めにする子どももいますし、いつもおとなしく人の後に
ついていく子どももいます。
③ 顔の表情があまり変わらず、身振りなどで気持ちを表現することが少ないため、人がいても喜
んでいないように見えることがあります。
④ 触覚の過敏があって、人に触られたり抱きしめられることに苦痛を感じることがあります。し
かし、人に触られるのは嫌いなのに自分から人を触るのは好きで、ベタベタと触ってくる子ど
ももいます。
⑤ 一対一でなら人とかかわることができるのに、たくさんの人と同時にかかわることができない
子どももいます。(一見すると、何の問題もなく複数の人と接しているようですが、よく見る
と一対一のかかわりしか持っていないことがよくあります。)
ii ただし、その際に器物を壊したり他人に害を与えてしまった場合には、謝罪を免れるものではありません。
これは、ソーシャルスキルの一つとして重要です。(【Q11】参照)
⑥ 信頼のおける人としか話さなかったり、特定の人の言う事しか聞かなかったりすることもあり
ますが、人懐っこくて、初対面の人なのに旧知の仲のように振る舞うこともあります。
⑦ 人の心情にこたえるような対応や返事を期待しても、何も返ってこないことがあります。この
ような場面では、そのまま動きが止まってしまう(フリーズしてしまう)こともあれば、人の気
をそらすようなことをわざと言うこともあります。本人自身、どうしていいかわからないので
す。これは、障害特性から生ずるものです。

【Q2】 コミュニケーションが不足していると聞きましたが…。
① 幼児期に言葉の遅れが多少あった子どもでは、言葉の数が少なく、うまく話せなかったり、オ
ウム返しが多いといった症状が残っていることがあります。
② 逆に、言葉の遅れはなく、むしろおしゃべりなことがあります。しかし、やりとりのある会話
をすることができないために、「言葉はよく知っているのに、コミュニケーションになってい
ない」ものです。気持ちを表すために人に話すのではなく、知識を並べているだけのこともよ
くあります。
③ 保護者の話しかけが足りないために、言葉の遅れが生ずるのではありません。おしゃべりな場
合は、保護者が話を聞いてくれないので寂しくてよその人に話しかけているのではありません。
また、親子のコミュニケーションが不足しているので、他人と会話する方法を学習していない
のでもありません。
④ 言葉の遅れがなければ発達に異常はないとみられてしまい、コミュニケーションの障害がある
ことを見落とされてしまっていることがあります。

【Q3】 友だちがいないのは、家に閉じこもっているからでしょうか?
① 家に閉じこもって1人遊びばかりしていたり、ゲームばかりしているから、テレビやビデオば
かり見ているから友だちができないのではありません。
② 適切なやり方で人とかかわれない、やりとりのある会話ができないという困難を持っているこ
とが多くあります。そのようなケースでは、本人が不利益を被らないように、人とかかわるた
めの専門的なトレーニング(ソーシャルスキルトレーニング)などを行う必要があります。
③ 適切な対人関係を持つための機会を増やすことも大切ですが、やみくもに同年代の子どもと交
友させることにも問題があります。いじめられたり、本人が自信をなくしてしまう恐れがある
からです。
④ 集団行動に向いておらず、個別指導を主にした方が良いケースもあります。
⑤ 集団活動ができる子どもでも、仲介役の人(大人・子ども)をつけて保護しながら、時間をか
け、様々な場面での人とのかかわり方を教える必要のある子どももいます。
⑥ あまり一般的でないものに強い興味関心を持っている場合は、気の合う(共通の話題がある)
友人を、意識して探す必要があります。

【Q4】 人の気持ちが分からないと言われていますが…。
① 他人の表情やしぐさから感情を読み取ることが苦手で、他人が何をしようとしているのかわか
らないという困難を持っています。
② また、自分の感情を顔の表情やしぐさで表すことが苦手なので、他人の気持ちにうまくこたえ
られないことがあります。
③ かかわり方が一方的で、人の気持ちを無視しているように見えることがあります。
④ 他人に言われた通りのことしかできずに、気が利かないと言われることがあります。
⑤ 自分の考えを強く持っているので、強い信念の持ち主と賞賛されることもあります。しかし、
他人の好意にこたえないと思われてしまうこともあります。

【Q5】 そっけなくて薄情に感じますが…
① 自分の感情を言葉や顔の表情で表わすことが少ないのは自閉症の特徴の一つと言えますが、だ
からといって感情がないわけではありません。
② 発言や顔の表情から相手の気持ちを察し、不快感を与えないように振る舞ったり、自分が不利
にならないように配慮することも苦手です。
③ 儀式などの立ち居振る舞いを覚えることにはさほど苦労しないかもしれませんが、日常の場面
では「決まりきった挨拶しかできない」という印象を与えていることでしょう。
④ 人の顔を覚えることが得意な子どももいれば、人の顔を全く覚えられない子どももいます。ま
た、いつもと違う場所で普段と違う格好をしていると、知っている人だとわからないこともあ
ります。
⑤ 特定の色や音(例えば、赤い物やピアノの音など)、特定の興味の対象(例えば、電車や石など)
に注意が集中しやすいため、人がいることに全く気がつかないことがあります。

【Q6】 自分の思い通りにならないと怒ります。わがままなのではないでしょうか?
① 「自分の思った通りに進行しなかった」「自分の思ったような結果にならなかった」という予定
外の出来事に対応できないことは、自閉症児によくみられます。
② 認知面の偏り、感覚の特質、こだわり・固執といったさまざまな理由から、できないこと、わ
からないこと、苦手なことがたくさんあります。そのために、“いつもと同じ”であることを求
めていることもあります。
③ 社会的な学習の一環として「いつもいつも自分の思い通りに事が運ぶとは限らない」と事前に
教えたり、「我慢できたこと」を誉めると同時に、混乱した際に行動をコントロールできるよう
に粘り強く指導する必要があります。
④ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、前項のような対応やトレーニン
グを行う必要があります。

【Q7】 人と目を合わせなかったり、へんな目つきをすることがあるのはどうしてでしょうか?
① 人と目を合わさないのは、自閉症児によく見られる特徴の一つです。
② 人は、自分に向かって話しかけたり何かを要求してかかわってくる存在です。人に視線を向け
られたり、人に見られることに侵入感を感じてしまうために、相手の方を見ないことがありま
す。 恥ずかしいのではなく、かかわりを持つことが難しいための行動です。
③ 特に、どう答え・どう振る舞って良いか分からない場面や対処し切れない過剰な要求に直面す
ると、不安感と恐怖心が強くなり、意識して視線をそらすようになることがあります。
④ 「人の目を見て話しなさい」と指導すると、逆に相手をにらみつけるようになってしまうこと
もあります。自閉症の特徴を踏まえた上で、ソーシャルスキルの一つとして失礼のないように
相手の方を見るように指導します。
⑤ 幼児期から学童期の前半にかけて人に注意が向かず、全く人を意識していないように見えてい
た自閉症児が、小学校の高学年ごろから急に他人の視線を気にし始めることがあります。ほと
んどの場合は、ちょうど思春期を迎える時期になってやっと他人が目を向けた方向を見ている
ことや自分の方を見ていることに気づき、過剰に気にするようになったと考えた方が良いでし
ょうiii。
⑥ 自閉症児は、自閉症特有の宙を見るような目つきをしていることがあります。また、何かをじ
っと見つめるといった行動をすることがよくあります。

【Q8】 ちょっとからかっただけなのに、本気にして怒りました。なぜでしょうか?
① 「ちょっとしたことで泣いたり怒ったりして大袈裟だ!」と思われてしまうかもしれませんが、
人づきあいの経験が足りなくて傷つきやすいのではありません。言葉の問題(主に、言語の使
用法)や、対人認知の問題(人の行動の意味や意図がわからない)といった理由が考えられます。
② 言われたことを真に受けてしまったり、言葉の表面的な意味しか分からないことがあります。
からかいや冗談は、禁物です。
③ 言葉の問題が原因の場合は、字面の意味と実際の意味との違いや、その言葉の持っている含み
(言外の意味)を、きちんと説明します。(「そんなつもりで言ったのではないのに。」と釈明し
ても通じません。)
④ 独特の感性を持っているので、普通ならなんでもないと思うようなことに怒ってしまうことが
あります。しかし、本人なりの理由が必ずあります。そのような時は、何に対して・どうして
怒ったのか本人に聞いてみましょう。(本人が答えられない場合は、専門の先生に聞くと良い
でしょう。保護者やきょうだいが、なんとなく分かっていることも多いものです。)
⑤ ささいなことに腹を立てていると思われるかもしれませんが、本人にとっては重大なことです。
頭ごなしに否定するようなことはしないようにお願いします。
iii 基本的には、失敗して恥をかくことや人からの非難を恐れるあまりに他人の視線が恐くなる「視線恐怖」(社会
恐怖や対人恐怖によるもの)とは異なるものです。ただし、能力以上の要求をされ続け、失敗経験や人から非難さ
れる経験を多くしていると、人に対して負の感情を抱く傾向が強くなり二次的な情緒障害を合併してしまうことも
あります。

【Q9】 ちょっとした音で大騒ぎします。我慢が足りないのでは?
① 我慢が足りないのではなく、音に敏感なのです。聴覚の過敏は、自閉症に非常によく見られる
ものです。
② このように、特定の感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・前庭覚)が過敏だったり、鈍感だ
ったりすることが、よくあります。生理的なものなので、我慢させると強いストレスになりま
す。
③ 感覚的なものは、叱っても何の意味もありません。ただ、不快感や苦痛が大きいものでなけれ
ば、社会的な状況(いつ・どのような時に起こるか)が分かれば過剰な反応をしなくなること
もあります。また、成長するにつれて穏やかになっていくものや、本人の社会的な状況理解が
進むことでコントロールするようになることもあるので、現在の感覚の特質を常に把握してお
く必要があります。
④ 個人差が大きく、特に思い当たる症状のない子どももいれば、感覚の特質が社会的困難のかな
りのウエイトを占めている子どももいます。一人一人、個別に把握しておく必要があります。

【Q10】 注意したのに聞いてくれません。どうすればいいのでしょうか?
① 具体的に指示しないと、分からないことがあります。(例えば、「列に並んでください」と言う
のではなく、「○○さんと△△さんの間に入ってください」というように。)
② 日常的な何でもない表現の方が分かりにくく、難しい言葉(専門用語など)や標語などを用いて
指示した方がよく分かることもあります。(例えば、「電車が来る」よりも「電車が到着する」
というように。)
③ 物知りでよくしゃべる割には、言葉の意味がよく分かっていないことがあります。
④ 自分に向かって話しかけられていることが、分からないことがあります。その場合は、話しか
ける前に合図をしたり、気を引いてから話すようにすると良いでしょう。
⑤ 耳から聞く「聞き言葉」の意味が伝わりにくい子どもでは、絵や文字で指示すると良いでしょ
う。
⑥ 周囲の状況がよく分かっていないために、注意された内容が理解できないことがあります。本
人がどこまで理解しているか確認しながら、丁寧に状況の説明をすれば分かることも多いもの
です。
⑦ 怒鳴り声や甲高い声、抑揚のある話し方、ちょっと変わったイントネーションをしていたりす
ると、言葉の「音」にとらわれて内容が頭に入っていかないことがあります。
⑧ 自分独自のルールを持っている子どもでは、周囲の状況に合わせて行動を変えられないことが
あります。はじめから無理やり変えようとせずに、周囲の人たちの方が合わせるようにしなが
ら、徐々にいろいろな場面に対応できるようにするための専門的なトレーニングする必要があ
ります。
⑨ 自分とかかわりのある人や信頼関係のある人の指示ならば聞けることでも、他の人から突然注
意されると、聞かないことがあります。場合によっては、「担任の先生以外の大人も、先生と
同じように指示することがある。」と教えておくとよいでしょう。

【Q11】 人をたたくことがあります。どうしたらよいでしょうか?
① 他人を攻撃する意図のない、反射的な行動であることがほとんどです。 視覚的な刺激(本人に
とって不快なものが見えたなど)や触覚的な刺激(本人にとって不快な方法で触られた、または、
人が急に近づいてきたなど)への過敏があるために、とっさに反応して、結果として人をたた
いてしまうことがあります。
② パニックや癇癪を起こしやすい子どもでは、その際に他害行為をしてしまうことがあります。
③ 人に関心を持ち始める時期には、適切なかかわり方ができないための行動であることがありま
す。トラブルになりやすい特定の子どもがいる場合には、その子どもが視野に入ったとたんに
反射的に叩いてしまうこともあります。また、遊んでいる内に、興奮して行動がエスカレート
してしまうこともあります。
④ 周囲の人々の方が恐くなってしまうかもしれませんが、本人自身が混乱していることの現われ
です。本人の負担をなるべく少なくするように環境を調整することで、問題となる行動を減ら
していくことができます。
⑤ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、原因を究明してそれなりの処置
をする必要があります。

【Q12】 だらしないので厳しく指導したいのですが…。
① 「はじめ」と「おわり」がよくわからないために、けじめがついていないように見えることが
あります。「今から何が起き」「自分は何をすればいいのか」予め告げておくとともに、その場
では「はじめ」と「おわり」の合図をしっかりと出すようにすると良いでしょう。
② 空間的な配置や物事の順序がよく分からないために、整理整頓ができず乱雑に見える子どもも
います。物の形を分けて置き場所を決めておいたり、準備から片づけまでの手順を紙に書いて
示したりする必要があることがあります。(逆に、いつもきちんとしていて、ちょっとでも動
かしたり変えたりすると怒る子どももいます。)
③ いつも服の端を握っていたり、だらしない服の着方をしていることがあります。多くは、感覚
(触覚)的なものですので、やみくもに叱らないようにしてください。かといって、全く注意し
てはいけないということはありません、「服がはみ出していることを教えてあげる」ようにす
るとよいでしょう。
④ 自閉症の特性を無視して厳しくしても、ほとんど意味がありません。無理やり抑えつけると、
問題行動をひどくしてしまうことがあります。
⑤ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの監督と指導が必要です。

【Q13】 おかしなことをすることがあるのですが…。
① アスペルガー症候群の子どもにも自閉症と同様のこだわり行動があり、奇妙に見えることがあ
ります。
② こだわり行動にもいろいろあり、本人の精神的な安定のために必要な行動であるものもありま
す。
③ しかし、社会的に不適切なものに関しては、社会的に妥当な行動(他人に迷惑をかけない・他
人を巻き込まない・TPOをわきまえた行動)に置き換えていく必要があります。
④ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの指導と監督が必要です。

【Q14】 運動ができないのは、努力をさせなかったからでしょうか?
① 運動ができないのは、発達性協調運動障害という障害がある場合です。
② 発達性協調運動障害は、アスペルガー症候群に合併することの多い障害です。
③ 通常なら励ましになるはずの「がんばれ」という声援が、負担になってしまうことがあります。
④ 本人の努力だけでは、どうしようもないものです。課題のレベルを下げるとともに、発達段階
に合わせた指導をする必要があります。

【Q15】 親が過保護で、甘やかしすぎているのではないでしょうか?
① 発達の遅れがあって庇護的にならざるを得ないという特殊事情があるために、発達障害児にか
かわったことのない他の父兄から、過保護・過干渉と見られてしまうことがあります。
② 他人とどのようにかかわったら良いか分からず、不安を感じることの多い自閉症児は、自分を
守ってくれる人に依存してしまう傾向を持っていることもあります。
③ アスペルガー症候群の子どもは特に、言葉の遅れがなく、物知りで賢そうに見えるため、障害
があることに気付かれないことが多いものです。他の子どもと違った行動や問題となる行動が
あると、単なるわがままやしつけ不足と思われているかもしれません。
④ 周囲の状況が分からない中でどのように振る舞って良いか分からないという本人の強い不安
を受け留めながら、自発性を育てる必要があります。

【Q16】 親が厳しすぎるのではないでしょうか?
① 発達障害のある子どもには、特有の育てにくさがあります。しかしそれが発達障害によるもの
だと気づかず、保護者が厳しく接してしまうことがあります。
② 発達障害であることには気づかないものの、たいていの保護者は我が子の抱えている困難に気
づいているものです。そのために、良かれと思って厳しく接してしまっていることもあります。
また、保護者の育て方に原因があるのではないかと思い悩んで、厳しくしてしまうこともあり
ます。
③ 発達障害の診断を受けたものの受容できずにいる段階の保護者は、かえって子どもの遅れが目
についてしまい、何とかして直そうと厳しく接してしまうことがあります。
④ 専門機関や支援団体に所属して、適切な治療教育(療育)を受けてトレーニングを行っている場
合でも、その方法が一般に知られていないために、子どもに厳しくしすぎていると言われてし
まうことがあります。
⑤ 保護者が子どもに厳しく接してしまう理由の一つに、「ちょっと変わった子を、安心して学校
や社会に送り出せない不安」と「行動の問題は、家庭環境としつけに原因があると考える社会
の認識」があります。この悪循環を断ち切らない限り、問題は解決できないと考えます。

【Q17】 問題行動がなくなって、だいぶ落ち着いてきました。治ったのでしょうか?
① 生まれつきのものなので、治るということはありません。
② 本人と周囲の人たちの双方が協力することで、障害と上手に付き合っていくことができます。
③ 発達障害を持っていても、その状態は対応や環境によって大きく左右されます。
④ 見かけ上の問題がなくなると放置されがちになりますが、本当は継続した支援が必要です。
(後になって、他の様々な病気となって現われたり、適応障害を起こすことがあります。)
⑤ 教育的な対応をするだけでなく、医学的診断が必要なところです。

支援プラン作成上の留意点
高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、一見普通に見えますが、特別な支援を必要としてい
ます。 「かかわり・コミュニケーション・こだわりの三領域の困難」(表1)という一次的な障害に加え
て、社会的な理解が得られていないことによる精神的・心理的な負担から、二次的な障害に発展しやす
いものです。対人関係に支障をきたしやすい自閉症児への支援プランを作成するに当たっては、以下の
ような観点が不可欠です。
① 信頼関係を形成すること。
この人なら分かってくれる・この人なら安心できる、という人の指示を受け入れ易い傾向があります。
特に、聴覚の過敏性があるケースでは、穏やかで低いトーンで指示すると、聞き入れやすいことが多い
ようです。相手と同じ視点に立つことは、コミュニケーションを成立させるための鉄則です。
② 「本人自身の困難を少しでも減らす」という視点に立って、指導に当たること。
問題行動が増える時には、本人が何らかの困難に直面していることを意味しています。単に行動を改
善することを目標にするのではなく、問題行動は「周囲の状況と本人の発達段階が合っていない」こと
を現わしており、問題行動が起きることで「お互いにとって良くない結果を生んでいる」という悪循環
を断ち切る必要があります。
③ 本人のニーズに応える形で、支援すること。
認知・感覚・身体運動面の障害が大きくて、クラスメイトと同じように行動できないことに悩んでい
る場合と、人に関心が薄く自分なりの考え方を持っている場合とでは、本人のニーズが異なります。そ
れによって、介入方法を変える必要があります。
④ 通常とは違う感じ方や考え方を持っていることを尊重すること。
社会的にふさわしくない行動を減らし、社会的不利をなくすための努力は必要ですが、感じ方・考え
方の違いは尊重されるべきです。これを頭ごなしに否定してしまうと、孤立してしまったり、自信をな
くしてしまうことがあるからです。
⑤ 本人の心情に配慮すること。
本人自身が困っていることを自覚している分野では積極的に指導できるものですが、本人の抵抗や精
神的な負担が大きい分野では、無理強いすると人とのかかわりを拒絶するようになってしまうこととが
あります。また、不安を感じやすいことに配慮して、「できていないこと」を強調せずに「できること」
を増やし、本人が有能感を実感できるように努めることが大切です。



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自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient: AQ)

自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient: AQ)自己診断

1. 何かをするときには,一人でするよりも他の人といっしょにする方が好きだ. 
     
2. 同じやりかたを何度もくりかえし用いることが好きだ. 
     
3. 何かを想像するとき,映像(イメージ)を簡単に思い浮かべることができる. 
     
4. ほかのことがぜんぜん気にならなくなる(目に入らなくなる)くらい,何かに没頭してしまうことがよくある. 
     
5. 他の人が気がつかないような小さい物音に気がつくことがよくある. 
     
6. 車のナンバーや時刻表の数字などの一連の数字や,特に意味のない情報に注目する(こだわる)ことがよくある. 
     
7. 自分ではていねいに話したつもりでも,話し方が失礼だと周囲の人から言われることがよくある. 
     
8. 小説などの物語を読んでいるとき,登場人物がどのような人か(外見など)について簡単にイメージすることができる. 
     
9. 日付についてこだわりがある. 
     
10. パーティーや会合などで,いろいろな人の会話についていくことが簡単にできる。 
     
11. 自分がおかれている社会的な状況(自分の立場)がすぐにわかる. 
     
12. ほかの人が気がつかないような細かいことに,すぐ気づくことが多い. 
     
13. パーティーなどよりも,図書館に行く方が好きだ. 
     
14. 作り話には,すぐに気がつく(すぐわかる). 
     
15. モノよりも人間の方に魅力を感じる. 
     
16. そうすることができないとひどく混乱して(パニックになって)しまうほど,何かに強い興味を持つことがある. 
     
17. 他の人と,雑談のような社交的な会話を楽しむことができる. 
     
18. 自分が話をしているときには,なかなか他の人に横から口をはさませない. 
     
19. 数字に対するこだわりがある. 
     
20. 小説を読んだり,テレビでドラマなどを観ているとき,登場人物の意図をよく理解できないことがある. 
     
21. 小説のようなフィクションを読むのは,あまり好きではない. 
     
22. 新しい友人を作ることは,むずかしい. 
     
23. いつでも,ものごとの中に何らかのパターン(型や決まりなど)のようなものに気づく. 
     
24. 博物館に行くよりも,劇場に行く方が好きだ. 
     
25. 自分の日課が妨害されても,混乱することはない. 
     
26. 会話をどのように進めたらいいのか,わからなくなってしまうことがよくある. 
     
27. 誰かと話をしているときに,相手の話の‘言外の意味’を理解することは容易である. 
     
28. 細部よりも全体像に注意が向くことが多い. 
     
29. 電話番号をおぼえるのは苦手だ. 
     
30. 状況(部屋の様子やものなど)や人間の外見(服装や髪型)などが,いつもとちょっと違っているくらいでは,すぐには気がつかないことが多い. 
     
31. 自分の話を聞いている相手が退屈しているときには,どのように話をすればいいのかわかっている. 
     
32. 同時に2つ以上のことをするのは,かんたんである. 
     
33. 電話で話をしているとき,自分が話しをするタイミングがわからないことがある. 
     
34. 自分から進んで何かをすることは楽しい. 
     
35. 冗談がわからないことがよくある. 
     
36. 相手の顔を見れば,その人が考えていることや感じていることがわかる. 
     
37. じゃまが入って何かを中断されても,すぐにそれまでやっていたことに戻ることができる. 
     
38. 人と雑談のような社交的な会話をすることが得意だ. 
     
39. 同じことを何度も繰り返していると,周囲の人からよく言われる. 
     
40. 子どものころ,友達といっしょに,よく‘○○ごっこ’(ごっこ遊び)をして遊んでいた. 
     
41. 特定の種類のものについての(車について,鳥について,植物についてのような)情報を集めることが好きだ. 
     
42. あること(もの)を,他の人がどのように感じるかを想像するのは苦手だ. 
     
43. 自分がすることはどんなことでも慎重に計画するのが好きだ. 
     
44. 社交的な場面(機会)は楽しい. 
     
45. 他の人の考え(意図)を理解することは苦手だ. 
     
46. 新しい場面(状況)に不安を感じる. 
     
47. 初対面の人と会うことは楽しい. 
     
48. 社交的である. 
     
49. 人の誕生日をおぼえるのは苦手だ. 
     
50. 子どもと‘○○ごっこ’をして遊ぶのがとても得意だ. 
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_f/F-112/05.pdf

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