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早朝高血圧や仮面高血圧

近年の高血圧治療では、家庭血圧計や24時間自動血圧計の普及で、従来の外来随時血圧では見逃されていた早朝高血圧や仮面高血圧の存在が意識されるようになりました。
しかもそうした病態が、より高頻度に脳・心血管病につながることが、数多くのスタディで明らかにされています。
したがって今日の高血圧治療では、24時間にわたって良好で安定した降圧効果を有する薬剤が求められています。

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確かにそうで、やはり家庭血圧計で時間と血圧を記録してみたほうがいいだろう。

朝方は交感神経活性が亢進し、血圧の上昇が起こるのだから、交感神経系の作用を抑制すればいいことは分かるが、どの薬がいいのかは、各人の諸条件による。たいがいどの薬でもいいはずというタイプの人もいるので神経質になる必要はないだろう。



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うつ病と体内リズム

人とマウス、行動そっくり 種を超えた基本法則存在か 
 
記事:共同通信社 提供:共同通信社【2008年4月30日】

 マウスと人間の行動は動きの速さを別にすれば、休息の取り方などのパターンが全く同じであることを大阪バイオサイエンス研究所(大阪府吹田市)や東京大などの研究チームが突き止め、30日付の米科学誌プロスワンに論文を発表した。

 チームは、体内のリズムを生む遺伝子の機能を失ったマウスと、うつ病の人の休息パターンが同じことも発見。生物の行動の背後に種を超えた基本法則が存在する可能性を示すとともに、うつ病の原因究明にもつながる成果として注目される。

 発表したのは、同研究所の内匠透(たくみ・とおる)研究室長(神経科学)や山本義春(やまもと・よしはる)東大教授(生体情報論)ら。マウスはかごに入れ、重みに反応するセンサーを敷いて動きを記録。人には腕時計型の加速度センサーを着けて普通に生活してもらい、体の動きを記録した。

 活動時間や休息時間について、長いものや短いものがどんな頻度で現れるかを分析すると、パターンは全く同じで、人の動きを100倍の速さで早回しすればマウスと同じになることが分かった。

 山本さんは「人とマウスの脳には同じ回路があって、行動を支配する同じ法則を作り出しているのではないか」と語る。

 一方、体内のリズムをつくる「時計遺伝子」のうち「Per2」の機能を失ったマウスと、うつ病の人では、長い休息時間の頻度が高いというパターンが同じだった。

 Per2に変異のある人で睡眠障害が起こることは知られているが、うつ病との関係は不明だ。内匠さんは「時計遺伝子の機能が失われることで、うつ病になる可能性はある」と話している。

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このタイプのうつ病もあると昔から指摘されている。



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Common Mental Disorder

用例として以下がある。

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Poverty and common mental disorders in developing countries.
Patel V, Kleinman A.
London School of Hygiene and Tropical Medicine, India.

A review of English-language journals published since 1990 and three global mental health reports identified 11 community studies on the association between poverty and common mental disorders in six low- and middle-income countries. Most studies showed an association between indicators of poverty and the risk of mental disorders, the most consistent association being with low levels of education. A review of articles exploring the mechanism of the relationship suggested weak evidence to support a specific association with income levels. Factors such as the experience of insecurity and hopelessness, rapid social change and the risks of violence and physical ill-health may explain the greater vulnerability of the poor to common mental disorders. The direct and indirect costs of mental ill-health worsen the economic condition, setting up a vicious cycle of poverty and mental disorder. Common mental disorders need to be placed alongside other diseases associated with poverty by policy-makers and donors. Programmes such as investment in education and provision of microcredit may have unanticipated benefits in reducing the risk of mental disorders. Secondary prevention must focus on strengthening the ability of primary care services to provide effective treatment.

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次の用例では説明を加えている。

Short-term psychodynamic psychotherapies for common mental disorders

Short-term psychodynamic psychotherapies have been subjected to randomised controlled trials for a range of common mental disorders, including anxiety disorders, depression, stress-related physical conditions, certain behaviour disorders and interpersonal or personality problems mixed with symptom disorders. Previous meta-analyses have yielded conflicting results. This review included all RCTs of STPP for common mental disorders, and found modest treatment benefits that were generally maintained in medium and long term follow-up. However, variability in study design means that our conclusions are tentative, and need confirmation with further research.

common mental disorders について
including anxiety disorders, depression, stress-related physical conditions, certain behaviour disorders and interpersonal or personality problems mixed with symptom disorders
と説明がある

interpersonal は哲学用語とてして間主観性だがここでは
interpersonal problems で、要するに対人関係の問題という意味だろう

symptom disorders は
symptom disorders and personality disorders というように対比して用いられる。

この書き方だと
不安性障害、うつ病、ストレス関連疾患、他人からみても明らかに問題のある行為障害・対人関係問題・性格問題
を指しているようで、要するに妄想関係は含んでいないらしい。

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しかしCommon Mental Disorderの語を用いるとき、
統合失調症や認知症の最初期を含み、広く気分障害、不安性障害、性格障害、発達障害までを含むようで、
要するに、軽度ではあるが、何に発展するか分からないような精神の不調を指すようである。発展せずに頓座して終わるものも多いはずで、そのあたりを含めて観察している言葉である。



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MCI(Mild Cognitive Impairment)

MCI(Mild Cognitive Impairment)
軽度認知機能障害
多くは認知症の全段階を指して用いる。

probable AD(Alzheimer disease)といってもほとんど同じと考えられる。

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統合失調症のDUI(duration of untreated illness)

統合失調症の前駆期の始まりから、治療開始までの期間を
未治療疾病期間 DUI(duration of untreated illness)とよぶ。

ARMS(at risk mental state)の患者さんについて、
前駆状態において早期介入すればDUIを短縮することができる。
うまくいけば発症を予防できると期待されている。

DUPはduration of untreated psychosis 未治療精神病期間で、
発症してから治療開始までの期間のこと。



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統合失調症の臨界期 critical period

統合失調症の多くの症例で、
社会的機能の悪化などは、
発症初期に生じ、
発症後2~5年の間に安定化する。
(plateau effect という。)

再発は最初の2年間に高率に起こる。
75%近くが5年以内に再発している。
患者本人や家族への心理社会的影響は発症早期に始まる。
つまり、進学をあきらめたり、会社を辞めたりする。
自殺リスクは発症後2~3年以内が高い。

以上から、発症初期の数年間が予後を決定する重要な時期であり、
臨界期(critical period)と呼ばれている。
約5年と考えられている。

この期間は入念に治療に専念することが大切である。



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過敏性腸症候群(IBS:Irritable bowel syndrome)の診断と治療

過敏性腸症候群(IBS:Irritable bowel syndrome)
は心身症の代表的なもので、
便秘型と下痢型と、その交代型があり、
検査をしても器質性異常がみつからないものを言う。

【診断】
IBSのRome Ⅱ 診断基準がある
腹痛あるいは腹部不快感が12ヶ月中の連続とは限らない12週間以上を占める。
かつ、下記の2項目以上の特徴を示す
1.排便により軽快
2.排便頻度の変化で始まる
3.便性状の変化で始まる

【治療】
専用の薬剤としてコロネル=ポリフルがあり、
消化管運動調整薬、
腹痛には抗コリン薬、下痢には乳酸菌製剤、あるいは下痢止め、
便秘型には少量の下剤、
ストレスや心理的方面に配慮する場合には
抗不安薬や抗うつ剤を用いる。
その場合には精神療法加える。
ガスの悩みを訴える人にはその方で対応する。

【和漢薬】
腹痛時屯服に芍薬甘草湯
持続便秘型に桂枝加芍薬大黄湯
便秘・下痢交代型に桂枝加芍薬湯
持続下痢型に半夏瀉心湯、真武湯
便秘または交代型に大建中湯
などが経験がある。
効果はマイルドで、フルドースを使わなくてもよい印象もある。
他に、心理的な要因が強い場合には、柴胡剤などを使用、
女性で月経周期と関係する場合には女性用の漢方を用いる。
いろいろと工夫の余地がある。

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東京都立中部総合精神保健福祉センター 総合就労支援プログラム トライワークプロジェクト

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/download/files/torai.pdf
ここに情報
東京都立中部総合精神保健福祉センターが運営しています

トライワークプロジェクト
職業レディネスサポートプログラム
復職プログラム
チャレンジプログラム
うつ病リターンワークコース
ワークトレーニングコース

通院しながら働きたいが
仕事に自信がない
仕事が長続きしない
おもにうつ病、統合失調症、神経症の方。



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三つのあ

三つのあ

あわてず
あせらず
あきらめず



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発達障害と学生相談

上司としては役に立つ知識です。

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精神療法 33-5 : 45-51 2007

『発達障害と学生相談』     香川大学

はじめに

 平成17年4月に 「発達障害者支援法」 が施行された。
 この中には大学での支援についても触れられており、「大学および高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」というように示されている。
 平成19年度からは、特別支援教育も始まり、発達障害のある子供に対する教育環境の整備も整いつつある。
 数年後には大学においても、小学校や中学校、高等学校で特別な支援を受けた児童、生徒が受験し入学してくるようになる。
 そこで、本稿では、大学の学生相談の場において発達障害のある学生に対してどのように支援していけばよいのかということについて、その課題も考えながら検討していきたいと思う。

 発達障害という言葉についてであるが、その定義が少し曖昧である。
 本稿では、発達障害を、全般的な知的発達に遅れのない 「学習障害」 「注意血管多動性障害」 「高機能自閉症」 「アスペルガー障害」 として話をすすめていくことにする。

 

Ⅰ. 現状は

 (省略)

 障害のある学生に対する支援については、これまで身体障害のある学生を対象として支援が主に検討されてきた。
 2006年の報告書から発達障害という項目が新たに設けられたことは、特筆すべきことである。

 

Ⅱ. 学生相談の場では

 学生相談の場は、大学においては学生相談室や健康管理センターが主に窓口になっていることが多い。
 このような相談の場を訪れるきっかけは、日頃接することが多い教職員からの紹介によるものと、本人からの訴えによる自主的な相談が考えられる。
 大学が儲けている学生相談の場である学生相談室や保健管理センターが、発達障害のある学生やそれが疑われる学生に対しても相談の場として機能しているということである。

 その一方で、新たな相談の場も増えてくるのではないかと考えられる。
 それは、大学における特別支援教育を専門としている研究者への相談である。
 筆者の研究室に、発達障害が疑われる学生が相談に来る場合、それは筆者が関係している特別支援教育に関する講義がきっかけになっている場合が多い。
 特別支援教育に関する講義を通して学生自身が、自分が困っていることについての原因が発達障害に起因するのではないかと感じ、筆者の研究室に直接訪ねてきたり、電子メールを使って相談をしてきたりするケースが多い。

 

Ⅲ. どのような対応が求められるのか

 では、そのような学生に対し、どのような対応が求められるのであろうか。
 筆者が相談に乗った何人かの学生はいずれも診断は受けていなかったが、その相談内容は、大学生活の中で 「対人関係」や 「コミュニケーションの問題」、「生活の管理」、「レポート等の提出」 といったようなことであり、いずれの相談者も発達障害が疑われる学生であった。
 つまり、実際には、発達障害という診断を受けている大学生よりも、発達障害の疑いのある学生の相談の方が多かったということである。
 西村 (2006) は、「印象として大学に入学する学生で発達障害という診断を持ってくる学生は少なく、ほとんどが未診断のまま入学してきており、実際の学生生活がうまくいかず困り感をもち来談するケースが多いように思われる」と報告しており、筆者もまったく同じ印象をもっている。

 このような場合、その学生は発達障害という診断を受けていないいないのであるから、障害の受容などは経ていないということになる。
 相談を受ける際には、このことを十分に意識していかなければならない。
 発達障害に関する知見を持ち合わせると同時に、その特性を理解した上での援助的な関わりをしていかなればならないということである。

 まず、大学生活を送る中でどのような点に困っているのかを明らかにすることが大切である。
 そして、困っていることに対してそれを解決できるような提案をしていくことが求められるのである。


Ⅳ. 自己効力感と自己有能感を高める

 自己効力感と自己有能感はセルフ・エスティーム (self-esteem) という言葉で表現されることが多い。
 セルフ・エスティーム (esteem : 尊敬、尊重と訳す) という言葉は、発達障害のある学生の相談を考える際のひとつのキーワードになる。
 セルフ・エスティームについて森田 (1999) は欲求の 五階層理論を引用して次のように説明している。

 要求の五階層理論では、
① 「生理的なニーズ」 (最低限の食物、睡眠、性、酸素、在宅など)
② 「安心・安全へのニーズ」 (恐怖や苦痛がないこと)
③ 「帰属感と愛情のニーズ」 (自分を受容してくれる家庭や仲間やグループ、愛し愛される関係のあること)
④ 「承認のニーズ」 (認められること)
⑤ 「自己実現のニーズ」 (社会的存在として自己の個性、能力、可能性を最大限に生かすこと)

 のニーズがあるとしている。
 そして、セルフ・エスティームをこの五段階の階層理論に位置づけ、④の「承認のニーズ」 に含まれるものであると述べている。
 この 「承認のニーズ」 の基盤は、①、②、③ であり、これら 3つは、いずれも、私たちが生きていく上でその動機付けに大きく影響を与えるものである。
 そして、これら 3つのニーズの上に、セルフ・エスティームを含む 「承認のニーズ」 が成立する。
 そのニーズが満たされて初めて、⑤「自己実現のニーズ」 が生まれるとしているのである。

 このようなことから森田は、「セルフ・エスティームを高めるためになによりも大切なことは安心感である」 と結論づけている。

 このように、セルフ・エスティームを考えるならば、それを高めるために、安心感をもつことができるように相談にのっていく必要があるということになる。
 「あなたはあなたで大丈夫だよ」 という安心感をもつことができるようにしていくことが大切なのである。
 では、どのようにして安心感をもつことができるようにしていけばよいのであろうか。


Ⅴ. 自分の得意な面と苦手な面を明らかにする

 発達障害の疑われる学生の相談にのるときに、筆者が特に意識していることは、その学生が得意としていることを明らかにし、ポジティブに考えらながら話を進めようにすることである。
 相談に来た段階では、セルフ・エスティームが下がっている場合が多いと思われるので、自分にはよいところがあるということに気がついてもらえるように進めていく。
 学生によっては、何に対してもネガティブに考える習慣がついてしまっているかもしれない。
 しかし、ちょっと視点を変えることでポジティブなとらえ方に転換できる場合もあるということを伝えるようにする。
 たとえば、「10分しか集中できない」 と考えるのではなく、「今日は 10分も集中できた」 と考えるようにすることを提案するのである。

 また、同時に、今困っていることは何であるのかも明らかにしていかなくてはならない。
 どようになことが苦手であり、その結果どのようなことに困っているのかということについて、その学生とともに考えてみる。
 自分の苦手なことが何であるのかを知ることで、学生自身がそれに応じた手立てを考えることを可能にするためである。
 対応する方法が見つかったら安心感も増すと考えられるからである。


Ⅵ. 具体的な提案を

 学生自身が苦手なことが原因で生じるさまざまな生活上の困難を改善、克服することができるようにするためには、それらを解決する具体的な方法を知る必要がある。
 学生の話を聴いて、しばらく様子を見るというような受身的な解決策ではなく、相談に来た学生が自らアクションを起こすことができるような具体手な提案をしていくことが大切なのである。

 筆者のところに相談に来る学生たちの多くは、「○○ががうまくいかないのです」 などと具体的な課題を訴えてくることが多い。
 彼らは困っている○○を改善、克服するために、自ら行動することができるような具体的な方法を身に付けたいと思っているのである。
 それゆえ、具体的な方法を提案していく必要があるということである。

 その際、大切なことは、苦手なことそのものを改善するように働きかけるのではなく、苦手であることが原因で、その結果として対応に困っていることについて、それを改善することができるように考えていくことである。
 発達障害を直すという発想ではなく、発達障害とうまく付き合っていくという発想である。
 つまり、発達障害が原因で顕在化している社会生活上の困難さを改善することができるような提案が必要なのである。

 

Ⅶ. どのような方法で

 本人が困っていることや、得意なこと、苦手なことを明らかにしていく際に有効な方法の1つは、紙に書いて整理し、1つ1つ視覚的に確認しながら話を進めていくことである。

(省略)

 多くの発達障害のある人たちが、聴覚的な情報処理に比して、視覚的な情報の処理の方が得意であると述べている。
 当事者がそのように言っているのであるから、それらを参考にした支援の方法を考えることは重要なことである。
 今、ここで対象としているのは大学生なので、今の日本のシステムの中で、大学まで進学してきている学生であれば、文字の読み書きについては一定以上の力は身に付けているであろうことは想像に難くない。
 つまり、文字などの情報は支援を行う際に有効に使うことができるということなのである。

 

Ⅷ. 具体的な対応の例

 ここまで、セルフ・エスティームを下げることがないようにすることの大切さと、その学生が自分の得意な面と苦手な面を理解し、それに応じた対応をすることができるように、具体的なアイデアを提案することの必要性を述べてきた。
 ここでは、筆者が対応してきた具体的な例を紹介する。
 ここで紹介する具体的な対応例は一部であるが、対応を考える際の参考にはなるのではないかと思う。

1. 優先順位をつける

 相談に来る学生の中には、今何をすべきなのかの優先順位をつけることができず困っている学生が少なからずいる。
 レポートなどの課題が出たときに、どのレポートから手をつけてよいのか分からなくなり、困っているような学生である。
 いくつかまとまって出されたレポートのどれから手を着けてよいのかが分からず、そのうちに締め切りが迫ってきて焦ってしまっているという場合である。
 なかには、提出期限までに出すことができなかったという話も聞く。
 このような学生に対しては、自分で優先順位をつけることができるように具体的な方法を提案し支援していく必要がある。

 まず、どのレポートからするのかといったことについて共に考えて優先順位をつけていく。
 ここで大切なのは、優先順位をつけたときに、優先順位が高い理由をはっきりと伝えることである。
 締め切りが近いものから優先順位を高くつけるというように理由をはっきりさせるのである。
 そして、優先順位の結果は視覚的な情報にして意識できるところに書き留めておくようにする。
 消えてなくなってしまわない情報にしておくのである。
 筆者の場合は、付箋紙に書き込んで、それをスケジュール帳などにはっておくことを勧めるようにしている。
 そして、終わったらその付箋紙を取り除いていくようにし、残っている課題が何であるのかを確認しやすくするのである。
 スケジュール帳等に直接書いて、自分がしなければならない課題を確認するようにする方法でもかまわない。
 携帯電話や PDA などの機能にあるタスクリストなどを使うこともできるであろう。
 これらはとても当たり前のことのようだが、これらの方法の有効性に気がつかずに悩んでいる学生がいるのである。

 同じ日に締め切りがあるレポートの場合は、筆者は、得意な方からするように勧めることにしている。
 「どちらからでもかまわない」 と助言するよりも、「あなたの得意なこっちから」 と決めた方がよいようである。

2. レポートなどの課題を整理する

 レポートや卒業論文を書くようなときに、どのように書いてよいのか分からない学生もいる。
 自分の考えをまとめることができないということであろう。
 中邑 (2006) は、そのような学生に対しては、パソコンで考えをまとめることができるようなソフトを使うことが効果的ではないかと述べている。
 たとえば FREE MIND というソフトがある。
 このソフトは自分の考えなどを画面上に整理して表示することができるので、視覚的にわかりやすく自分の考えをまとめることができるという点で、レポートなどを書く際に役立つのではないかと考えられる。
 これらのソフトの力を借りて、自分の考えを図にして考えを整理するのである。
 発達障害のある学生の中にはパソコンなどの IT機器については、高い興味と関心を持っている者は少なくない。
 これらのソフトを苦にせず使用することができる学生も多いのではないだろうか。
 実際に筆者も学生の考えを整理するときにこれらのソフトを使って視覚的に分かりやすくして見せるようにしている。

3. 日課を守る習慣を

 相談に来た学生の中に、朝起きることができないために1時間目の授業に間に合わないことが多く、このままでは出席日数が不足し単位を得ることができないので、どのようにしたらよいのかという問題を抱えているものがいた。
 この学生は、特別支援教育に関する授業を受けるなかで、今までの経験を照らし合わせて、自分には発達障害があるのではないかと感じ始め、苦手なことに気づき、解決策を求めて来談したのである。

 この学生の場合には、筆者の研究室に朝挨拶に来るようにという課題を与え、挨拶に来ることができたときには、一緒にコーヒーを飲む時ガンを作るようにした。
 自分ひとりでは意欲がわかない場合でも、そこに人が介在すれば、可能になることがあるということではないかと思う。
 その後学生は、朝起きることができるようになり、「自信がついたので1人でやってみます」 というメールを送ってきた。
 ゼミの担当教官にも確認したが、最近は表情もよく、遅刻もないということであった。

 

Ⅸ. 今後の課題

(省略)


おわりに

 発達障害のある学生を学生相談の場でどのように支援していけばよいかということについて、具体的な支援の方法も提案しながら考えてきた。
 しかし、まだましだ大学における支援は始まったばかりである。
 小学校、中学校では特別支援教育に力を入れるようになってきている。
 いずれ、高等学校、代価くと必要な支援を受けた学生たちが入学してくることになる。
 そのときに、学生を理解したうえで対応ができるようにしておかなければならないのである。
 大学で学んだ学生たちが、日本の社会を築くための力を身につけることができるように育て、送り出していかなければならない。
 そこには、発達障害のある学生も含まれているということを忘れてはならないのである。
 
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いかがだろうか。
上司は
叱っているよりも、このような方向で、部下を伸ばして欲しいものだ。
最近の人たちはコンピュータや携帯の扱いは確実にうまいのでそのあたりから具体策をはじめよう。



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外来クリニックにおける発達障害の治療

少し難しいがお勉強。

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精神療法 33-6 : 724-729 2007

『外来クリニックにおける発達障害の治療』        よこはま発達クリニック

Ⅰ 発達障害とは

 筆者が所属するクリニックは発達障害のある人を対象にした民間の児童精神科クリニックであり、クライアントのほとんどが自閉症スペクトラム (Autistic Spectrum Disorders : 以下 ASD と略す) (Wing , 1997) と診断されている。
 本稿では前思春期以降の高機能 ASD の人たちの柄意における支援について述べる。
 一般にアスペルガー症候群や高機能自閉症、高機能広汎性発達障害といわれる人たちである。

 ここで診断概念について簡単に確認しておきたい。
 発達障害に関しては、国際的診断基準 (ICD-10 と DSM-Ⅳ-TR) は欠点が多く臨床には使いづらい。
 筆者は臨床において広汎性発達障害概念ではなく、Wing の ASD 概念を採用している。
 Wing の提唱する ASD は社会的交流、社会的コミュニケーション (言語性と非言語性) 、社会的イマジネーションのいわゆる 「ウイングの 3つ組」 (Wing & Gould , 1979) によって定義される症候群であり、通常固定した反復的な行動パターンを伴う。

 広汎性発達障害と ASD 、そして DSM/ICD のアスペルガー障害と Wing の提唱したアスペルガー症候群 (Wing , 1981) がしばしば同義語のように使われるが、それは間違った理解である。
 臨床的には重要な問題を内包しており興味のある方は文献 (田中・内山、2007 : 吉田 , 2006) を参照されたい。


Ⅱ 発達障害と治療

 治療や療法という言葉は発達障害になじまない。
 発達障害とは脳が多数派とは異なったあり方で機能していることである。
 脳機能のあり方の偏りは認知や行動のあり方が多数派とは異なるということで明らかになる。

 筆者がアスペルガー症候群の支援を考えるときに基本にしているのは以下の Gillberg C (2002) の言葉である。


「アスペルガー症候群の人とその家族の生活の質を改善するために、もっとも重要な唯一の介入は、周囲の人々の態度を変えようとすることである。
 それは介入の対象が特定のの問題であっても、アスペルガー症候群の本質であっても、アスペルガー症候群のある人自身であっても同じである。
 周囲の態度を変えるためには適切な診断が必要である。」


 Gillberg はアスペルガー症候群を対象に述べているが、この原則はもちろん ASD 全般にあてはまる。
 ASD の人を支援する際には ASD の特性を尊重することが大切である。
 ASD の人はこの世界では少数派であって、多数派向きに構成された社会では不利益をこうむることが多い。
 ASD の特性から受ける不利益を最小限にすることと、その人が持っている特性が最大限に活かせることを目指した支援が望まれる。


Ⅲ 支援を開始するために : 診断・評価の重要性

 ASD の支援を開始するためには、ASD の診断を下さなければならない。
 このことは当然のことだが、非常に重要なことだ。
 ASD の特性は、その人の生活場面の多くを支配する。
 精神療法の基本である 「言語」 によるコミュニケーションにもアスペルガー症候群の特性は大きな影響を与える。
 社会性やイマジネーションの障害もあいまって、知能テストや投影法テストの回答にも影響を与える。
 精神療法の世界においても ASD は少数派であって、ASD の特性を考慮しないで彼らの言動を解釈したり、投影法テストの結果について伝統的な力動的解釈を行うと誤解をすることが多いと思う。

 アスペルガー症候群に限らないが、精神障害や発達障害の診断を下すためには、一定以上のトレーニングを受けた専門家が十分な時間をかけて行うことが望ましい。

 対象が子供であるか成人であるかによって方法は若干異なるが、基本は同じである。
 当院では診断は医師と心理職の 2人以上のチームで1日かけて行う。
 午前中医師は半日かけて保護者 (時には配偶者や兄弟) から発達過程を丹念に聞き出し、心理職はクライアントに知能テストを実施し、さらに休憩時間などの非構造化された場面にゲームや雑談をしながらクライアントの特性を把握する。

 発達歴を聴取する過程で社会性やコミュニケーション、イマジネーションなどの ASD 特性について把握することは当然であるが、感覚刺激への反応、着脱や片付けなどの身辺自律スキル、読書や書字、作文の能力、教科の成績などの過去・現在の情報を確認する。
 思春期以降の場合には抑うつ気分の有無や不安症状などの狭義の精神科的症状の存在も想定する必要がある。
 たとえ、クライアントが成人であっても、親から発達期の情報を聴取することが大切である。

 このように時間をかけて詳細に発達歴・現病歴を聴取することでクライアントの病理的な所見のみならず日常生活における困難や長所や興味のあり方などを含めた全体像をああくするように努める。
 その過程で親はクライアントの行動を改めて確認することになるし、クライアントも自分を理解するために親が努力していることも実感する。
 本人と親が同席の上で聴取するときは親が知らない学校や会社での出来事が面接場面で明らかになることも少なくない。
 このような情報を聞き出す過程で親のクライアントに対する見方が多元的になり、状態への理解が深まることが多い。

 午後には診断・評価の結果について親に伝える。
 単に診断名や心理テストの結果や認知プロファイルを告げるだけでは不十分である。
 心理テストの結果については回答内容を質的に吟味 (黒田・他 , 2007) した上で、すべての情報を総合的に検討しクライアントの認知特性、長所、苦手な部分、学習スタイルなどについてできるだけ具体的に伝えていく。
 クライアントが成人の場合、本人にどこまで初診時伝えるかの判断は難しい。
 クライアントがある程度の予備知識があり診断を知ることを希望しており、診断の内容も本人の想定と同じ場合には初診時に説明することもあるが、自己診断と医学的診断が異なる場合などは、定期的に外来に通ってもらい時間をかけて説明する。

 さらに後日、診断、診断根拠、評価の内容、支援プランの結果を詳細なレポートにまとめて家族のもとに送付する。
 クライアントが成人の場合には本人に対しても情報を提供するつもりで書くことが多い。
 もちろんクライアントの状況によっては、伝える内容について慎重に検討し、家族向けとクライアント向けに 2種類のレポートを準備することもある。
 親やクライアントが欲しているのは単なる診断名ではなく、今後どのようにわが子を育てていくべきか、あるいは自分自身がどのように生きていくべきかというプランや日々の生活の困難に対処する具体的な方略だろう。
 レポートにはできるだけ親・クライアントが必要としている情報を具体的に記載するように留意している。


Ⅳ 認知特性を理解することから支援が始まる

 ASD は発達障害であり、特有の認知障害がある。
 ASD と診断することは、まず認知障害から理解するということである。
 ASD の特性はその人の行動の多くを支配する。
 そのため、その人の行動のあり方を理解するときに、まずは ASD の認知特性から考えるということが診断することの意味である。
 むろん、認知特性だけですべての説明がつくわけでないが、「まずは」 認知特性から考えて支援を考えることが重要である。

 ASD を診断することが臨床的な有益さにつながるためには ASD の認知特性を知っておく必要がある。
 発達障害は治らないから診断だけして、何も支援しないなどと誤解されることが多い。
 もちろん発達障害と診断することは支援のためであって、医師や心理職ができることも多い。
 ただ発達障害と診断することのメリットを一般の精神科医や心理士はあまり認識していないように思う。


Ⅴ ASDの認知特性

 発達障害と診断することのメリットを読者にわかっていただくためには最小限の認知心理学的な知識をまとめておく。
 ASD では認知発達のあり方に特徴がある。
 主な点は視覚による理解が聴覚による理解より得意であること、計画して実行する力の弱さ (実行機能障害) (太田 , 2007) 、状況を考慮して判断する能力の弱さ (弱い中枢性統合) (黒田 , 2007) 、心を読む能力の弱さ (心の理論障害) (飯塚 , 2007) 、注意の障害、感覚の過敏さなどである。

 視覚理解が聴覚理解より得意なのは、カナータイプの自閉症ではよく知られているが高機能自閉症やアスペルガー症候群でも音声言語よりメモやメールなどによる視覚的な手段のほうがコミュニケーションが取りやすいことが多い。

 「実行機能」 (遂行機能や監理機能ともいう) とは何らかの行動を計画し、開始し、自分の行動を監視し、必要な行動を実行し不要な行動は抑制して目的を持った一連の行動を実行する能力である。
 実行機能が障害されるために物事の段取り、計画が苦手、順序づけで混乱することがある。
 例えば予想外の事態が生じたときに状況に応じて計画を変更できなかったり、部屋の整理整頓ができなかったりする。
 ASD に特異的な機能障害ではなく AD/HD や認知症でも認められるが、ASD の人の対人場面以外での日常生活の困難に強く関係する。

 「中枢性統合能力」 とは全体の状況を考慮して、物事を理解する能力である。
 中枢性統合能力が弱いと全体を包括的にとらえるよりも、部分に注目しやすい。
 いわゆる木を見て森を見ない状態になりやすい。
 情報の多い絵や写真を見るときに、全体のストーリーとは関係のない枝葉な (と多数派からは見られる) 部分に注目してしまい、全体の意味を多数派とは違った解釈をする。
 このような事態は認知検査の場面だけでなく対人交流を含む日常生活で常に生じている。
 日常生活は互いに複雑に関連しあった多くの情報が津波のように押し寄せる場であって、アスペルガー症候群の人は全体の意味がとれずに困惑したり、独自の (つまり少数派の) 解釈をし、多数派の世界では浮いてしまいがちだ。

 「心の理論」 とは他者に感情があること、自分とは異なった考えを持つことを理解する本能的な能力である。
 Mentalizing (心理化) の障害ともいう。
 心の理論障害は、相手の表情から気持ちを読み取ることの困難さや、対人交流の場面で相手の意図が読めず、ちぐはぐな対応をしたり、相手の悪意に無頓着で騙されやすいなどの行動で表現される。
 対人関係における困難、社会性障害と関連が深い。

 ASD はしばしば AD/HD を合併し (Yoshida & Uchiyama , 2004) 、多動や不注意を示すことが多い。
 注意の切り替えが苦手だったり、一度注意した対象から注意を離し辛かったり、重要で必要な対象に焦点を当てること (選択的注意) の苦手も認められる。

 感覚情報処理の障害も臨床的には重要であり、聴覚、視覚、嗅覚、温度、痛み、触感、味覚などを適切に感じることが難しい。
 つまり感覚刺激に過敏だったり鈍感だったりする。


Ⅵ 本人より周囲が変わることのほうが大事

 ASD の認知特性について認知の偏りがあるのだから、認知の障害された部分を伸ばそう、正常化しようと考える専門家も親もいるだろう。
 苦手さを克服しよと絶望的なまでの努力をするクライアントもいる。
 発達障害の認知特性の表現は発達によって変化する。
 例えば、幼児期に顕著な言葉の遅れがあった子供が、後年流暢に話すようになることは珍しくない。
 しかし ASD の人の認知特性の本質は一定であって、ASD の人の ASD 特性をなくす、あるいは軽減するということを治療目標にしてはいけない。
 ASD の認知特性を把握することが大切なのは、認知の偏りから生じる不利益を最小限にするために周囲あるいは本人がどのような工夫が必要かを考えるヒントのためであって、苦手な部分を正常に近づけるためではない。
 認知特性に合わせて周囲の人の接し方やクライアントの生活場面の物理的環境を改変する、つまり広い意味の環境を操作することが大切である。
 そのためには ASD 特性とクライアントそれぞれの評価に基づいて、クライアントの現実生活における諸問題に具体的な提案をするのが重要な支援であろう。
 認知特性の本質は基本的に継続するのであって、本人の認知特性を変えるように働きかけるのは、クライアントに向かって 「個性を変えろ」 とか、「あなたの存在そのものが誤謬(ゴビュウ)だ」と言っているようなもので厳に慎むべきである。

 では、このような認知特性を持った人をどう援助するべきだろうか。
 親や教師、雇用主や同僚などが、本人の発達障害の特性を理解して、むやみな声かけやお説教を減らし、仕事の予定をメモに書いて渡すなどの視覚を用いてコミュニケーションをとるようにする。
 静かな環境の設定に心がけるなどの、少しの配慮をするだけでも、受診者の負担が減ることもある。
 実行機能を補うためには 1日あるいは1週間の予定を立てるときに、予定表に一緒に書き込みながらプランをたてる手伝いをすることも有効である。
 具体的な方法については吉田 (2005) が参考になる。


Ⅶ 個別カウンセリング

 個別カウンセリングの基本はクライアントに対して自己の特性の理解を促し、対人場面や日常生活における困難を最小限にし、肯定的な体験を持てるようにするための具体的な体験を持てるようにするための具体的な方法を提案し、クライアントとともによりよい方法を探っていくことである。

 思春期以降の ASD の人は抑うつ的になったり、自己否定的になったり、職場や学校での対人関係や、恋人や配偶者との関係で葛藤を生じることも少なくない。
 そのような場合に精神療法的な個別カウンセリングが必要になる。
 ASD の人を対象に個別カウンセリングを行う際には ASD の認知特性を考慮する必要がある。
 ASD の十分な知識のない治療者が内省や洞察を促すような精神力動的なカウンセリングを行うと、時に破壊的な結果をもたらす。

 Marcus (2005) は伝統的なカウンセリングとの相違点を次の 5点にまとめている。
① カウンセラーは、単刀直入に障害 (ASD) を取り上げて、それについて来談者と話をすること
② カウンセラーは、自分自身について語る (自己開示する) ことも多く、そのため伝統的なカウンセリングで強調されているような治療者と被治療者としての立場を明確にした関係が曖昧になることがありうる、つまり多少は個人的な友人関係の側面が生じることがある
③ 指示的なアプローチであること
④ 視覚的ツールを用いる方法であること
⑤ 来談者との生活場面をともにする第三者 (たとえば、親や雇用主) との連携を図る必要性が高いこと。

 ASD の認知特性やコミュニケーション障害に注意を払い、通常のカウンセリングでは要求されないようないくつかの工夫をする必要がある。
 例えば文章や図などの視覚素材を用いて口頭だけでなく視覚でも情報を伝える、最後あるいは途中で情報をノートにまとめクライアントに渡す、話の要点がすぐには理解できないクライアントには、理解できるように十分な時間の余裕を与える、話題が変わるときには切り替わることを明白に伝える。
 学校や職場などの対人関係が話題になるときは、できるだけ第三者からも情報を得るようにして、状況の正確な再現を心がける。
 その上でできるだけ具体的で公平な解決策を考えるなどである。

 また彼らの関心の対象や彼らの信念を尊重することも心がける。
 成人であっても幼児向けのアニメに強い関心があったり、血液型占いや “スピリチュアル” な話題を信じている場合がある。
 うっかり苦笑したり、疑問を呈したりすると、以後のカウンセリングに支障をきたすことが多い。
 彼らの興味・関心の対象はたとえ内容がいささか奇矯であっても大切な通路であって、治療者が関心を持ち傾聴することでラポールを維持することを心がけたい。


Ⅷ 自己効力感

 多数派向けに構成された我々の社会では ASD の人はどうしても失敗や否定的な体験を積みがちである。
 ASD 概念が教育や医療の現場で浸透してきたことはひとつの進歩ではあるが、ASD の弱点がクローズアップされて、弱点の克服のみに焦点があてられるとしたら、かえって彼らを追い込んでしまうことになり本末転倒である。

 子供の苦手なことを探し出して克服させようとすることが教育や療育だと思っている専門家が多いのは困ったことだと思う。
 「相手の目を見て話す」 「大きな音がしても耳塞ぎをしない」 「偏食を矯正する」 などが支援目標になりがちである。
 そこで ASD の子供が示す表面的な 「問題行動」 がターゲットになり、行動の基底にある認知特性 (簡単には変化しない) の存在が忘却されがちである。
 また、子供になんらかの努力を強いる際に子供の動機や興味、子供の能力にみあっているかどうかが忘れられる傾向があるのも注意したい。

 ASD の子供や成人を支援する場合には、彼らが自己効力感や自己肯定感を持って生きていけるように支援したい。
 自己効力感 (Self Efficacy) は Bandura (1997) の提唱した概念で、これから生じる状況に対処するために必要な行為を、適切にプランをして実行できる能力が自己にあると思えることである。
 自己効力感の弱い人は、課題を実際より難しく感じやすく、抑うつ感や不安感情を持ちやすい。
 自己効力感を持つことができるためには達成体験が必要である。
 一方、失敗体験は自己効力感を下げる。
 自己効力感の低い人は成功しても自信を持ちにくい。

 多数派向けに作られたこの世界は ASD の人にとって苦手なことが多く、ASD の人は肯定的な体験が少なくなりがちであり、自己効力感を持ちづらい。
 また ASD の人は失敗に対して敏感でネガティプな体験が印象に残りやすい。

 したがって ASD の人の成功体験を増やすこと、失敗体験をできるだけ減らすことに留意した支援を幼児期から行うことが大切である。
 自己効力感は task-specific な概念であり、与えられた task を遂行可能と感じることで得られる。
 したがって、ASD の子供や成人にとっての task を可能な限り個々の ASD の人にとって遂行可能であるように工夫する。
 task とは学業課題やソーシャルスキルに限らない。
 他者とのちょっとした会話や明日の行動の計画も task になる。
 ASD の人にとっては対人関係や日常生活全体が困難な task に満ちているのであり、挫折する可能性は無数に存在する。
 しかし彼らは一見して障害があるように見えないために、周囲が彼らの感じている負担を理解しがたい。
 できる限り失敗体験を避けるような環境を操作する工夫をすべきである。
 クライアントの能力や興味、動機を考慮した適切な task を設定すること、そしてその task をどのように達成するかの特別な工夫 (吉田 2005) を行うことが必要だ。
 そのような工夫を行い自己効力感を養っていくことで自己肯定感や自尊心につながっていくことを期待したい。

*****
お勉強で言えば、公文式。
できることだけを反復して、「よくできたねー」と誉めているうちに少しずつ成長する。
次はこれ次はこれと言っていると、「まだだめ」のメッセージになり、
否定的な構えの人間になってしまう。

誉めて育てて時間を待つ。
少数派で結構。
わたしはその主義だ。



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広汎性発達障害 ( PDD : pervasive developmental disorder )とAD/HD

コンパクトにまとめるとこんな風

*****
発達障害 developmental disorder

[定義]

 発達期 (胎生期および生後早期) に様々な原因が作用して、中枢神経系に障害が生じる結果おこる、認知・言語・社会性および運動などの機能獲得の遅れ、あるいは偏り、歪みのこと。
 多くの症例で遺伝的要因が病因として重要な役割を演じている一方、環境要因が障害を受けた機能の発達に影響を及ぼすことがしばしばある。

[分類]

 精神遅滞 === 知的な遅れ
 学習障害 === 認知面の偏り
 運動性能力障害 === 運動面の偏り
 コミュニケーション障害 === コミュニケーション面の偏り
 注意欠陥および破壊的行動障害 === 行動面の偏り
 広汎性発達障害 === 様々な面の偏り、歪み

● 広汎性発達障害 ( PDD : pervasive developmental disorder )

 広汎性発達障害 = 自閉症と同質の社会性の障害を中心とする発達障害の総称 = 自閉症スペクトラム

IQ ≧ 70 の場合

 高機能広汎性発達障害 : 高機能自閉症、アスペルガー症候群、高機能の非定型自閉症

 高機能自閉症 : 幼児期の言葉の遅れが激しい群
 アルペルガー症候群 : 始語の遅れがなく言葉が早くから発達した群

※ 脳の特性から起きる発達の偏り・歪み (発達障害)
   基本的にはしつけの失敗や愛情不足で起きるものではない。

※ 援助者の印象 :
・ つるっとしたのっぺらぼうのような顔、機械的な顔
・ 無表情、表情の動きがぎこちない、視線の合わせ方が不自然、声の単調さ
・ 全身の動き全体に滑らかさがない
・ 会話がかみ合った感じがなく、会話を続けることに疲れを覚える
   話題の中心点が常にずれた状況で会話が続く。形式的で細かなことにこだわる。
   自明なことが共有できにくい。揚げ足取りをされているように感じる。
・ 集団で動くのが苦手。
・ 「自己中心的で融通が極端に利かない。あまりに自分勝手」という印象をもつ。

※ 以下の①~③の三つの特徴 (「三つ組」)がセットで認められるときに診断される。

① 社会性の障害 : 人との関わり方の質的障害

 自分は今、人からどう見えているか、相手をどんな気持ちにしているか、自分の行為がその場の雰囲気にフィットしているかを感じ取る能力が不十分。

・ 関わり方が一方的、場違い (周りの雰囲気、流れが読めない)
・ 同い年の子供と対等な友達関係がもてない (年上や年下とは比較的良好)
・ 年齢相応の常識が身についていない
   (「普通」 「自然なこと」 という感覚が共有できない : 自明性の喪失)
・ 相手と気持ちを共有することが困難
・ 視線や表情で気持ちを伝え合うこと (非言語的コミュニケーション) が苦手

② コミュニケーションの質的障害

 言葉の遅れでは説明のつかないやりとりの深まらなさ、ちぐはぐさ、奇妙さが見られる。

・ 自分で話すほどには相手の言ったことは分からない。
・ オウム返しや独り言、場面に合わない発現がみられる。
   (字義通りの返答、同音異義語が苦手、文脈が読めない)
・ 前に聞いた言葉をパターン的に言うこと (遅延のオウム返し) も多い
・ 困ったときに自分から適切に手助けを求めることが苦手
・ 混乱したときの理解力の低下が著しい

③ 想像性の障害

 目の前にないことに思いを巡らせることが苦手で、物事に臨機応変に対応する力の発達に不全がある。このためにいつも通りを望み、興味や関心が偏る。

・ 考えや気持ちをリセットするのが苦手。
・ 思いがけない出来事に出会うと混乱しやすく、応用がきかない。
・ 新しいことや見通しのもてないことに強い不安を示す。
・ パターン的な行動だと身につきやすく、記憶 (丸暗記) が得意。
・ 極端な道徳性、正義感にこだわる。 (歩きタバコをしている人をいきなり殴るなど)

⇒ 変化への抵抗 (恐怖) 、周囲や環境が一定であることの安心感

 私たちは自分の位置、居場所を確保することで安心感をもつ。
 環境が変化するときには、その変化の規則性を見つけようとする。
 それができないとき ( = 社会性の障害) には 「それ以外の規則性」 に関心をよせて安心を得る。

④ その他の症状

・ 不注意、落ち着きのなさ、衝動性 ⇒ AD/HD との共通性

  PDD の場合 :
   攻撃に至るまでに潜伏期間があり、事前に警告とも受け取れる徴候が見られることが少なくない。
   ⇒ 自己完結的なプログラムに沿って潜在的に進行していること、
     反社会性行動の実行前に社会規範との照合が行われていないこと、
     問題解決のための手段の選択が極端かつ過激
  AD/HD の場合 :
   攻撃の動機が明確ではなく、対象も場当たり的で、自暴自棄の結果として本人に不利益をもたらしていることが多い。

・ 協調運動の異常、不器用
・ 音、光、手触り、痛み、寒さなど (感覚刺激) への反応の異常 (過激と鈍感)
・ 偏食
・ 睡眠の問題 (強固な不眠を訴える人がいる)
・ てんかんの合併

● AD/HD (注意欠陥 / 多動性障害) Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder

[基本症状]

a) 注意力障害 : 適切なコントロール配分ができない
   気が散りやすい、忘れやすい、切り替えがヘタなど。
 (「注意欠陥」 : 注意の払い方、注意の配分が違うという意味で、「注意散漫」とは異なる !!)

b) 多動性
 多動 (席に座っておれない) 、多弁など

c) 衝動性
 待てない、他の人の遊びに強引に介入するなど

 ① 学習が損なわれる
 ② 自己評価が低くなり、自尊心が育ちにくい
 ③ 社会的な問題が生じる
 ④ 家族に混乱をもたらす
 ⑤ 成人まで一部障害を残すことあり

※ 成長とともに自然に行動調節は可能となることが多い (獲得が普通よりも遅れるだけ)
   多動性 ・・・・・ 8~10歳で下がってくる
   注意力障害、衝動性 ・・・・・ 10~12歳で下がってくる

[基本症状のコントロール]

a) 注意の転導性 : 刺激の統制
     ⇒ 不要刺激の除去、刺激の単純・明快化
  注意集中困難 : 時間の統制
     ⇒ 課題量、内容の限定
b) 多動性
     ⇒ 活動エネルギーの発散、「合法的」に動かす
c) 衝動性
     ⇒ 子供の希望聴取 (「何をしたかったの?」) 、具体的な行動指示 (「そういうときにはこうすればよかったのよ」と教える)

*****
個人的には最後の部分、基本症状のコントロールは、
最近の若いサラリーマンの仕事術としてぴったりであると感じている

上司は新人をADHDまたはPDDと仮定して仕事を指導すれば間違いないと思う
繰り返してまとめると、「不要指示の除去、指示の単純・明快化、課題量・内容の限定、活動エネルギーの発散、希望聴取、具体的行動指示」。
なんとなく頷けませんか?

なぜ若い人がこうなっているのか、分かっていない。
胎生期に母親がアルコールを摂取した。
胎生期に母親がたばこを吸った。
胎生期に母親がかぜをひいた。
ゲームやコンピュータ画面が悪影響を与えた。
その他いろいろな話はあるがジャーナリスティックなことだけで、解明されてはいない。



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