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DUP Duration of untreated psychosis 未治療精神病期間

DUP Duration of untreated psychosis 未治療精神病期間または精神病未治療期間

おもに統合失調症などの、精神障害について、発症してから適切な治療が開始されるまでの期間のこと。

DUPが長いほど、6ヵ月後、12ヵ月後の、臨牀症状と全体機能が不良であり、QOLと社会機能も不良となる。また、寛解に到りにくくなる。
さらに、DUPが長いと、治療開始時の陰性症状が強い。
DUPが短いと、治療薬に対する反応がよく、効果も持続する。

DUPの定義と詳細については、議論がある。
何が統合失調症の始まりの症状であるのか、これは病気の本質に関する議論でもあり、
困難がある。
また、DUPが短ければ予後が改善するメカニズムについては、当然であるが、よく分かっていない。
早期発見早期治療がいいことは当たり前のようであるが、何が起こっているのかは不明である。



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early intervention 早期介入

主に統合失調症において、早期介入や発症予防の必要が説かれている。
早期介入はearly interventionと呼ばれ、
オーストラリアでの特定の徴候を持つ臨床的高危険者に対する早期介入が注目された。
早期介入に適した薬剤の開発があったことも寄与している。

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アドヒランスとコンプライアンス

アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること。
コンプライアンスは服薬遵守と翻訳されるように、主体的、積極的関わりという意味合いが薄い。



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統合失調症における薬物療法~薬剤師の立場から~

統合失調症における薬物療法
~薬剤師の立場から~
医療情報公開・開示の動きは精神科領域にも大きく波及しつつあり、薬剤情報などもインターネットから添付文書が自在にダウンロードできる。こうした流れを背景として統合失調症における薬物療法も、かつての「管理」から、患者本人の自覚を待つことにより治療効果を上げる「共同作業」へと移り変わってきている。患者・家族に治療への参加を促すことで、コンプライアンスの維持につながるという。患者・家族、医師の間で、その変遷を見てきた薬剤師・吉尾氏に詳しく聞いた。

薬剤部長 吉尾隆 桜ヶ丘記念病院(東京都)

薬剤情報の氾濫
薬に関して、薬剤師が患者さんやご家族から質問を受けることは多いです。インターネットの影響は大きいと感じています。患者さんもご家族も自分で直接検索できますので、かなり詳しい情報を入手しているのが現状でしょう。日本未発売の薬、海外での使用状況、新薬の治験がどの段階かなどもよくご存知です。「アメリカで先行発売されているアリピプラゾールは?」「日本未発売のクロザピンは?」など、ご家族から質問されることも多くなりました。

しかしインターネットや本などで情報は知っていても、理解・納得されている方は少ないですね。「こういう薬があるって聞いたけど、こういう作用があるって知ってるけど……よくわからない」と言われます。情報の整理ができていないのです。AとBは同じような薬理作用があっても、名前が違えば「2つはまったく違う薬」としか捉えられていない。例えば「セレネースは幻覚や妄想などによく効くけれども錐体外路症状など副作用が起こりやすい。ルーランも幻覚や妄想などに効くが、副作用が起きにくい」と。でも「それが何故なのか」は、あまりよくわかっていらっしゃらない。ですから定型薬と非定型薬についてなど、系統立ててご説明すると非常に喜ばれます。

そして、患者さん・ご家族は常に「医師にどう伝えたら、本人にとってより良い薬を処方してもらえるのだろうか」と悩んでいます。副作用と本来の症状との区別や、その伝え方がよくわからないと言うのです。

不安を与えない副作用の説明とは
今はインターネットで誰でも簡単に添付文書が手に入る時代です。そこに書いてあることを見て、患者さんやご家族が気にされるのは、やはり効果よりも副作用なんですね。一般科の薬はさほど副作用は多くないのですが、精神科の薬で特に抗精神病薬は副作用の発現が多いので。

ですから服薬指導では、添付文書にある副作用に関しては、できる限り詳しくご説明します。まず命に関わる悪性症候群、服薬の継続に影響を与える錐体外路症状、そして今起きていない副作用についても話をします。

副作用についてあまり詳しく伝えると、拒薬してしまうのではないかという懸念もよく聞かれるのですが、「薬剤師が服薬指導をしてから薬を飲まなくなって困った」という話は聞きません。逆によく言われるのは「服薬指導で、患者さんが薬のことを薬剤師によく聞くようになってから、薬をちゃんと飲むようになった」という良い評価です。

ポイントは副作用の前駆症状から対処法まで詳しくご説明することです。副作用の話だけしたら、不安になるのが普通です。けれど対処法をきちんと伝えておくと、「安心しました」と言う方のほうが多いのです。副作用が出たときに、どのように対処すれば軽くやり過ごすことができるのか、前もって知っていれば、前兆があったときに上手く回避することができます。また、どれぐらいの頻度で起こるかもお話しします。「1%」を多いと見るか少ないと見るかは個人差がありますが。

副作用を知り、医療者に上手く伝えられるよう促す
副作用についてよく知らないと、たとえばアカシジアは落ち着かなくてそわそわする副作用ですが、患者さんは「精神症状が悪くなったのかな」と思い込み、薬を余分に飲んでしまうことも起こる。主治医に訴えるときも「何だかイライラする」とだけでは、主治医はいくらプロでも「症状が悪化したのかな」と薬を増量してしまうかもしれない。「薬が多くて不安だ」というご家族によくよくお話を聞いてみると、ご本人がいろいろと症状を訴えて、だんだん薬が増えていったということもあるのです。副作用はさらに出てしまいます。

しかしアカシジアという副作用を患者さんやご家族が知っていれば、主治医に「ソワソワして落ち着かず、動き回りたくなる。で、少し動き回ると楽になる」という訴え方をすることができます。もちろん中には混乱している患者さんもいらっしゃるので、そこを医師がどう汲み取るかは大切ですが。

患者さんが今出ている症状をちゃんと捉え、上手く表現できるようにという観点からも、副作用の説明は本当に大切です。

処方は医師と患者さんの共同作業で
患者さんが薬の副作用を理解し、医師に自分の体験を伝えることで、医師もまたその患者さんにとってより良い薬に変更することもできるわけです。そうすると患者さんは自分の考えや訴えが処方に反映されますから、服薬に対する印象はとても良くなります(表1)。医療者とのさらなる信頼関係づくりにもつながっていきます。医師と患者さんが協力して処方を管理する、患者さんの意見を治療に取り入れるという共同作業はコンプライアンスの向上につながります。 病気本来の症状を抑えるために副作用が出ても使わなければならない薬もありますから、そのこともご本人が納得できるようお伝えする必要があります。また、患者さんの訴える症状の中には、急速にコントロールできないものもあります。すぐに何とかしろと言われても困難なこともあります。でもそこで訴えを聞いて、症状の原因が何かを一緒に考え、ご説明すれば患者さんも安心できるのです。

病気本来の症状を抑えるために副作用が出ても使わなければならない薬もありますから、そのこともご本人が納得できるようお伝えする必要があります。また、患者さんの訴える症状の中には、急速にコントロールできないものもあります。すぐに何とかしろと言われても困難なこともあります。でもそこで訴えを聞いて、症状の原因が何かを一緒に考え、ご説明すれば患者さんも安心できるのです。

ところが、最初からアカシジアを予防するために、抗コリン性の抗パーキンソン薬を使っていると、アカシジアがマスクされてしまって、結局「多少アカシジアは出るけど、大したことないな」で終わってしまう。ですが抗コリン性の抗パーキンソン薬は、それ自体にも副作用があります。便秘や排尿障害、鼻閉などですが、一番生活に影響が大きいのは記銘力障害(認知障害)なんですね。統合失調症にはもともとそういう主症状のある方がいますから、その症状を悪化させてしまうこともありますし、アセチルコリンとドーパミンのバランスが崩れてしまうこともあります。

結局、処方の何が原因でこうなっているのかわからなくなってしまう。本当は副作用の現れ方によって処方を変えるべきなのに、さらに薬剤を上乗せしてしまう危険性があります。こうしたことを避けるためにも、患者さん自身が薬のことを理解する必要があります。多剤併用の問題を改善するためにも薬剤情報の提供は必要なわけです。

治療への参加を促す
薬を飲むことによってディスフォリア(dysphoria:不快気分/全般的な不満、落ち着きのなさ、抑うつ、不安の気分)を感じている患者さんも多いです。飲んでいると身体が重いし、だるいし、本を読んでも頭に入らないし、何か嫌だなと思っていることを、やはりなかなか表現しきれていないんですね。そこでどうなるかと言うと、何も言わず飲まなくなってしまう。だからこそ、薬の選択はご本人やご家族の話を聞いた上で考えていかないと。治療するほうは良かれと思っていても、非常に誤解が生じていて、患者さんが飲まなくなってしまう場合があるわけです。

また、退院して社会へ出て行くときも、就職などの状況変化に応じて薬を変える必要性も出てきます。副作用で手が震えたり、眠くて仕事ができないからと、飲まなくなってしまうケースもあります。

コンプライアンスの維持にもっとも効果的なものは、やはり主治医との信頼関係です。ご家族も患者さんも主治医に対して率直に物が言えて、相談できることは重要ですね。患者さんやご家族が望む薬があったら、その薬について検討し、もしだめならきちんとご説明する。

また、薬の量も種類も多いとだんだん飲まなくなってしまいます。やはり薬を多剤・大量に使うことのメリットはあまりないのです。

薬の数や量が少なく、その上で副作用も少ないことが自覚的薬物体験を向上させるんですね。そうするとコンプライアンスの向上にも結びつくケースが多い。

でもいくらコンプライアンスが良くて、順調に服薬を続けていても、ある拍子に飲まなくなってしまうこともある。「きちんと飲んでいますか?どうですか」と、ときどき聞かなくちゃいけない。服薬の継続は簡単ではありません。

医師と薬剤師の連携
薬物療法について、医師と薬剤師が共通の課題を持っていれば、連携はおのずとスムースにいくと思っています。目指すのは「なるべく少ない種類・用量」で、なるべく飲みやすい形にしていくこと、患者さんが飲み続けるために工夫することですね。

かつては患者さんを鎮静してコントロールしていくという考え方がありましたが、それは当時の医療そのもののコンセプトが「管理」だったためです。医師も看護師も薬剤師も、患者さんの幻覚や妄想を全部なくそうと一所懸命に薬物で治療をした。その結果、患者さんは鎮静され過ぎてしまって元気のない状態になってしまった。でもそれが当時の薬の効果であり、治療の目標だったわけです。ですが今は、「鎮静」ではなくなってきました。患者さんが地域に出て社会復帰、自己実現を目指す中で、幻覚や妄想が多少あっても生活に支障がなければいいではないか、そのかわり薬によって、その人の能力を阻害してはいけないという方向に変わってきています。医師と薬剤師が、そういう薬物療法のあり方をお互いに共有することが、連携には大切だと思います。

医師に伝えたいこと
医師が診断して治療を進めていく中で、その治療プランの中に薬剤師を組み入れていただければと思います。薬剤師の仕事は服薬指導だけでなく、重複投与や相互作用のチェック、疑義照会もあります(図1、2、表2)。そこで薬剤の安全保障にもなります。また、きちんと疑義照会のできる薬剤師を育てるためには、精神科の専門学会などへの参加が効果的です。そして薬剤師を上手く利用して欲しい。われわれ薬剤師は薬物療法に関するセカンドオピニオンになりたいし、ならなければと思っています。そうでないと薬剤師の存在価値がありません。おとなしく調剤だけをしている薬剤師しかいなかったら、その病院は不幸だと思いますよ。


 



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統合失調症 生活臨床 能動型と受動型

統合失調症における「生活臨床」という概念は、1960年代に群馬大学医学部神経精神医学教室を中心として生まれたものでした。これは患者さんの障害を「生活」から見直し、働きかけようとしたもので、現在の生物学的研究・薬物医療中心の医師像からすれば、医師らしくないアプローチだったかも知れません。生活の現場を見るということは科学になり難く、もっと泥臭い部分ですから。ですが昨今、退院促進・社会復帰が謳われ、統合失調症のケアの場が病院から地域に移りつつある中、また見直され始めています。

再発の状況~能動型と受動型

そうすると、再発が起こるのは「患者さんが課題にぶつかって、それが上手く処理できない状況に陥ったとき」が多いことがわかってきました。もちろん断薬などの要因もありましたが、その断薬自体、「仕事をするから眠気が出たら困る」「結婚・出産を望んでおり子供に影響があったら困る」など、生活上の出来事や課題と深く関係していたのです。

ここで患者さんを二つのタイプに分けました。ひとつは自ら課題を見つけ、常に生活を拡大していく“能動型”。もうひとつは黙々と作業所やデイケアに通うなど、不満を表わすこともなく何年も同じ生活をする“受動型”です。能動型の患者さんは、いろいろな生活の変化に直面しやすく、そのたびにうろたえて、再発をしてしまう。受動型は周囲から「そんなことしてないで結婚しろよ」など、働きかけられると、動揺して再発してしまう。

再発を最小限に~タイプ別対処法

このふたつのタイプに応じた働きかけが、再発を最小限に抑え、長期予後改善に結びつくのではないかと考えられたのです。

その結果、受動型への対処は「急激な変化を避け、変化するときには周囲が十分なサポートをすること」だと明らかになりました。

しかし能動型に対しては、どうやって生活の拡大を遮二無二しないよう抑えてもらうか、悩みました。最初のうちは診察室で「○○しちゃダメだよ」と言っていたのですが、そうすると「他の病院に行きます」なんて言われてしまうわけです(笑)。だから「今はダメだけれども、○○頃までにね」と期限をはっきり伝えるようにしたのです。例えば、結婚を望んでいる患者さんに「結婚は難しい」と言うのではなくて、「家事ができるようになってから、お見合いの話を持ってきてもらおうね」と言い換えるなどです。明確な期限と具体的な課題をはっきりさせ、本人の希望を実現させることを約束して、現実に立ち返らせてあげる。これがポイントでした。

(長谷川憲一)



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抗精神病薬による糖尿病発症の機序

新規抗精神病薬と代謝異常

糖尿病、高脂血症などのメタボリックシンドロームは、新規抗精神病薬の使用において注目されている身体合併症です。

統合失調症自体、糖尿病の罹患率が高いのですが、抗精神病薬の種類により糖尿病の罹患率に差があることも事実です。発症リスクが高いのはClozapine(本邦未発売)、続いてオランザピンです。

抗精神病薬による糖尿病発症の機序は、次の3つが考えられます。

<抗精神病薬による糖尿病発症の機序>
1. 薬物誘発性の体重増加
2. 代謝系への直接的な影響
3. その両者

体重増加は糖尿病発症のリスク因子です。また非肥満例におけるHOMA-IR(Homeostasis Model Assessment Insulin Resistance)やレプチンの値を見ますと、Clozapineとオランザピンは高い傾向にあり、インスリン抵抗性を起こしやすいことが推測されます。このように体重増加と無関係な高インスリン血症や血清レプチンの増加は、ある種の抗精神病薬が代謝系へ直接作用することを裏付けるデータと言えます。

また、同じ力価のドーパミン遮断を単剤でなく多剤で行うほうがインスリン抵抗性を起こしやすいと考えられます。統合失調症でメタボリックシンドロームを抱える患者さんを調べたところ、抗精神病薬の量ではなく、剤数が増えると内科薬の数も増加していました。増えた内科薬はインスリン抵抗性を治療する薬でした。多剤併用はインスリン抵抗性を惹起する可能性が考えられます。

(長嶺敬彦)
「非肥満例におけるHOMA-IR(Homeostasis Model Assessment Insulin Resistance)やレプチンの値を見ますと、Clozapineとオランザピンは高い傾向にあり、インスリン抵抗性を起こしやすいことが推測されます。」
との指摘であり、
「インスリン抵抗性」という言葉は、もともとメタボリック心ドーロムの元になった言葉であり、つまりは相対的なエネルギー過剰状態をさすわけで、そうなると、それを「糖尿病」という、病態の部分のみをさす言葉と捉えていいのかどうか、怪しいところがある。

「同じ力価のドーパミン遮断を単剤でなく多剤で行うほうがインスリン抵抗性を起こしやすいと考えられます。」
というので、おやおやと思うと、
「統合失調症でメタボリックシンドロームを抱える患者さんを調べたところ、抗精神病薬の量ではなく、剤数が増えると内科薬の数も増加していました。増えた内科薬はインスリン抵抗性を治療する薬でした。」
とのことで、
「多剤併用はインスリン抵抗性を惹起する可能性が考えられます。」
との結論。
もうすこし論拠がほしい。

「インスリン抵抗性の発現には腸間膜の脂肪沈着が重要といわれている。腸間膜脂肪組織で合成された脂肪酸は直接肝に送られ、肝での中性脂肪合成を促進する。」
ということなので、やはり、運動しないから新規抗精神病薬を使いたいわけだし、
新規抗精神病薬を使っても運動するくらいの元気は出ないということであれば、
やはりメタボリックシンドロームになるだろう。
その単純な悪循環のほかに、
新規抗精神病薬が、薬理的に悪影響を与えることが推定され研究されている。



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統合失調症で見られるうつ状態のさまざま

統合失調症でも、気分が落ち込んでやる気が出なくて物事に興味がもてなくて、
睡眠もとれず食欲もなく、死にたいということはあるもので、
うつ状態に至る経路もいくつかある。

まず陽性症状で悩み始めた時。
どんな精神の病気も、最初は、普段できていたことができなくなって困るものだ。
仕事をしていたら、、ミスだと責められるし、
学生なら、勉強がはかどらなくなる。
これは initial common pathwayのひとつ。

次に陽性症状がもっとはっきりと強くなったとき、
幻聴が聞こえたり、自分は監視されていると思ったり、
ふさぎこむに決まっていて、
そのことを必死に隠しているとすれば、
外側に出るのはうつ状態のみであるかもしれない。

次に陽性症状が一段落したとき。
当然精神的に激しく消耗するのでうつ状態になる。

さらに陰性症状が残った場合。
昔できたことが微妙な感じでうまくいかない。
自分の能力の低下を突きつけられるのでつらい。
当然落ち込む。

その後、統合失調症の病理プロセスが進んだ場合、
認知機能障害が現れ、
これもまたうつ状態につながる。
final common pathwayである。

このどれも、うつ病とははっきり違うし、区別できる。
もともとの性格構造が違うし、
精神病理の構造が違う。

ただ、initial common pathway、
つまりすべて始まりには同じような反応が起こる可能性があることを
考慮して、経過を見ればよい。



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認知矯正法 無誤謬学習

心理社会的リハビリテーション ~動機づけが重要~
従来、リハビリテーションとは日常生活機能をターゲットにしたものが多く、認知療法も行動療法的な色彩が強かったように思います。しかし最近はそれに対して、認知機能そのものを改善しようとするトレーニングが開発されるようになりました。そのひとつに、認知矯正法があります。これは学習障害への援助方法に基づいたアプローチで、具体的な教示・反応直後の正のフィードバック・動機づけ(モチベーション)の強化・無誤謬学習(errorless learning)などを用いて、認知機能の改善を目指します。さらに興味深いことにこの認知矯正法によっても左前頭葉の血流が増加し、言語性記憶が改善することも証明されつつあります。

ただし限界もあり、この方法で改善の難しいケースがあることも事実です。その場合は認知障害を補う方法が必要になります。患者さんの生活や認知機能を客観的かつ十分に把握した上で、たとえば日常生活で洗面を忘れてしまう患者さんには、洗面所に「顔を洗いましょう」と貼り紙をするなど、手がかりを置いてあげる方法も有用です。

リハビリテーションを進めていく上で、もっとも重要なのは患者さんの動機づけです。いくら優れたプログラムを作っても、患者さんがその気にならなければ何もなりません。ですから患者さんが積極的に参加するために、その訓練による改善度を評価して患者さんに知ってもらうことが大切でしょう。
(中込和幸)

Wexler, B. E., Anderson, M., Fulbright, R. K. et al. : Preliminary evidence of improved verbal working memory performance and normalization of task-related frontal lobe activation in schizophrenia following congnitive exercises. Am. J. Psychiatry, 157 ; 1694-1697, 2000.



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主観的QOL評価

主観的QOL評価

統合失調症においては、病識の欠如、認知障害などのために、患者さん自身によるQOLの評価は難しいとされてきました。しかし近年、多くの主観的な評価尺度の信頼性、妥当性が確認されています。

治療目標で重要となるのは、客観的なQOLと同様、患者さん自身の幸福感、満足度を高めること、つまり主観的QOLです。もちろん、病的な状態で患者さん自身が正しい判断のできない場合、あまりにも非現実的な目標を立てたりした場合には十分話し合う必要があります。

主観的QOLを調べる指標に、ドイツのNaberが開発したSWN(Subjective Well-being under Neuroleptic treatment)があります。患者さん自身に記入してもらうのですが、項目数もそう多くないので待合室で20分ほどでできます。これは基本的に薬物治療に対する評価ですが、他にも幅広い主観的QOLを調べるSF-36(Short -Form36 Health Survey)などもあります。

患者さんの主観的QOLを下げてしまう大きな要因には、主観的副作用(アカシジア、薬を飲んだときの不快感であるディスフォリア)、抑うつがあります。主観的QOLおよび心理社会機能に影響する各因子の関連をに示しました。関連の強さを線の太さで表しています。これまでのところ、主観的QOLに対する各因子の影響は、比較的短期間のうちに認められるのに対して、心理社会機能については、その影響が長期的経過の中で見られることが予想されます。また認知機能レベルは、心理社会機能と主観的QOLの関係に大きく影響します。認知機能レベルが低い場合は、心理社会機能が主観的QOLと正の相関を示すのに対して、認知機能レベルの高い場合は、負の相関を示します5)。心理社会機能が改善して、より社会に出ていく機会が増えますと、比較対象が病院内の患者さんから一般の人になります(response shift)。つまり認知機能レベルが高い場合は、環境の把握、自己分析、複雑な刺激処理が可能であるため社会に出て行く機会が多い。そこで高い基準を用いた自己評価を行う傾向がありますが、その心理社会機能は一般と比較すると低いため、主観的QOLは低下することになります。認知機能レベルが低い群では、そうした基準が設けられないために、主観的QOLはそれほど低下しません。

このことは、患者さんのリハビリテーションを進める上で、重要な示唆を与えてくれます。認知機能レベルの改善、心理社会機能の改善を追求していくうちに、知らず知らず患者さんを追い詰めてしまうこともあり得ます。これでは何のために治療しているかわかりません。そこで患者さん自身の感覚をよく聞きながら「無理をせず、徐々に社会復帰を」という慎重なサポートが必要です。

生活の目標についても、診察室で急に「何をしたいの?」と言ってもそれは難しい。ですから無理に聞き出すよりは、じっくり待ってもいいと思います。昔からの経過など一緒に話をしていく中で、患者さんが「自分は昔からこんなことをしたかった」と思い出すこともあります。私の経験から言うと、患者さんの多くが望んでいるのは仕事や学業に関してですね。遊んで暮らしたいという患者さんはあまりいません。真面目な方が多いですね。 (中込和幸)



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EE(Expressed Emotion:感情表出)

家族-患者関係と統合失調症の再発率との関連は、1960年代から70年代にかけてのBrownらのEE(Expressed Emotion:感情表出)研究によって明らかにされました。

患者と同居している家族構成員の患者に対する思いや、対応の仕方をたずねる面接で、批判的なコメントが多い・拒否する・情緒的に巻き込まれ過ぎるなど、過度に侵入的な感情が多く表出されると評価された高EE家族と、そうでない低EE家族に分けてみると、退院後9か月間の再発率は高EE家族で51%、低EEでは13%と明らかに有意な差がありました。
 
EEという指標は、ある家族に対して常に一定の値を示すとは限りません。 また、家族側の属性と一方的に断言できるものでもありません。 例えば患者が暴力を振るう状況ですと、「批判」を中心とした家族のEEが高まり、また、家族が高齢なほど批判的なコメントが増えるという事実があります。 患者が初発間もない場合は、母親を中心に家族が情緒的に巻き込まれやすい傾向もあります。 これらが示していることは、家族にとって混乱、困惑するような症状があり、どう接したらいいかよくわからない状況だと、EEは高くなりがちであるということです。

さらに、家族が疲れたときに愚痴を聞いてくれる人がいないとか、あるいは代わりに患者を見てくれる人がいないなど、家族の負担感や困難感とEEとの間には、かなり高い相関があることもわかっています。

EEは変化し得る指標なのです。 別の例では、入院直後は「批判」を中心に家族のEEも高くなりますが、症状が落ち着いてくればEEは低くなります。 つまり変化し得るということは、必ずしも家族自身の性格や病理に関連する指標ではないということです。 むしろそのときの患者-家族間のコミュニケーションの質が、面接時の感情表出であるEEに影響を与えているといってよいでしょう。 高EEは「病因」ではなく、病気という困難によってもたらされるコミュニケーションの歪みの投影である、と捉えるべきなのです。

家族心理教育によって、いくつかあるEEの指標のうち、Emotional overinvolvement(EOI:情緒的巻き込まれすぎ)は対象群に比べずいぶん改善することがわかりました。Critical comments(CCs:批判的言辞)では対象群との間で有意差は見られませんでしたが、開始直後の入院時と退院時、退院9か月後の間には有意な減少が見られ、患者の状態が落ち着けば自然に改善していく傾向にあることがわかりました 。

高EE家族は患者のために何かしたくても、どう対処していいかわからず、ますます巻き込まれ、かつ敵意や批判も増えてしまう。そんな悪循環に陥っている方が多いのです。そこで、家族心理教育で体験談や対処法を聞き、専門家による情報提供とサポートを実感することで、孤立感が和らぎ患者との距離を適度に置くことができるようになる。それらがEmotional overinvolvementの改善に役立っていると思います。

(伊藤順一郎)



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認知症チェックリスト

MMSE
HDS-R
時計描画テスト(CDT)
が有名。
検索すればすぐに出る。

【認知症チェックリスト】



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主訴「うつかもしれない」ときの診療手順

1.主訴、始まりの時期、きっかけ
2.SDSやSRQ-D、HAM-Dを施行
3.悲哀……涙、将来に希望がない
4.億劫さ……能率低下、ミス
5.興味……新聞、ニュース、趣味
6.希死感
7.イライラ・精神運動抑制のどのあたりに位置するか
8.不安焦燥の程度
9.睡眠
10.食欲・体重・尿・お通じ
11.身体症状・月経・検診結果・既往歴
12.勤怠・職場の現状
13.つらいのは仕事内容か時間か対人関係か
14.性格傾向の概略について
15.家族状況、遺伝関係、生育歴、躁状態の時期があったか
16.全体の表出、表情、話し方、印象について記載
17.必要に応じて心理検査の計画

DSMを念頭において、チェックする。性格の軸、適応の軸についても確認する。
メランコリー親和型が典型であることを念頭において、その典型からの距離を測る。
統合失調症においても、性格障害においても、初老期認知症においても、
あるいはADHD、高次脳機能障害においても、うつ状態は見られるので、見逃さないように鑑別する。

薬剤は現在症状と基本性格を診て選択する。
イライラが強いか、意欲低下が強いか、が大まかな目安になる。
また、対人距離が近い人と遠い人とでは薬剤選択が異なる。
漢方薬を積極的に使う。

思考障害や能力低下が根本的に影響している場合があるので、
見逃さず、原因を特定する。いろいろな可能性がある。



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ACT(アクト/Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)

ACTとは

ACT(アクト/Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)とは、1970年代後半にアメリカで始まった精神障害者地域生活支援プログラムです。 州立病院閉鎖時にその病院にいた職員がチームを組み退院患者を訪問、24時間体制でケアし始めたのがきっかけで、現在は全米の7割の州が認める精神保健福祉サービスとなりました。

ACTの有効性は多くの研究からも明らかにされ、「在院日数の減少」「地域での安定した生活・心理社会的リハビリテーションの促進」「当事者・家族の満足度が高い」などが確認されています1)。 現在はイギリス、オーストラリアなど世界各国で実践されつつあります。

ACTは「本人がいかに質の高い生活を送れるか」に焦点を当てましょうという基本姿勢を持ったサービスです。リカバリー(回復)とは、専門家から見た「状態のよいこと」ではなく、 障害を抱えた人が自分の体験として「快適な状態で、生き甲斐がある」と思えるようになることを言いますが、リカバリーはACTの基本理念の一つです。たとえば従来の医療者の視点では、 利用者に望むことは「服薬をきちんとし、余計なストレスは避けてもらいたい」ですが、それでは、就労も恋愛も止めたほうがいいことになりかねない。 「仕事も恋愛もせず、薬をきちんと飲んで5年間再発しませんでした」とすれば、医療データとしては再発率ゼロで、非常によい成績ということになります。 しかしそれはその人にとって本当に幸せな人生と言えるのかどうか。

ACTはチャレンジする機会、失敗する機会を大切にしようというスタンスをとっています。個人の価値観や希望を尊重し、その実現のために協働していくのです。病気のケアが人生の目標ではなく、 病気を抱えながらもやりたいことになるべくチャレンジして、その中で自分の限界と自分のできることを学んでいく。それに付き合っていくのが援助者としての在り方なんじゃないかということです。 そういうふうに精神科医療も少しずつ変わってきているところだと思います。

日本におけるACT(ACT-J)

日本でも国立精神・神経センターのある国府台(こうのだい)地区(千葉県)で、2003年4月からACT-J(日本版アクト)が実践研究中です2)。 ACTは特に家族と同居している患者が多いわが国で、家族の負担を減少し、かつ本人のQOL(生活の質)を上げることが期待されています。 また、欧米に比べ長い3か月程度の急性期入院治療は確保されますので、急性期症状の安定化を待ってから実施できます。

プログラム実施にあたっては、まず多職種でチームを組みました。構成は精神科医や看護師、作業療法士、当事者であった経験のあるピアカウンセラー、 あるいはご家族でコミュニケーションのトレーニングを積んだ人などです。チームスタッフ10名に対して100名程度の利用者を上限とし、利用者比率は「スタッフ1名:利用者10~12名」にしました。 そのチームスタッフが利用者を訪問し、医療・保健・福祉まで幅広い分野のサービスを提供します。例えば生活背景をよく知ったチームの精神科医が主治医として訪問し、生活を維持するためにちょうどよい処方を書くこともできます。 内科疾患があれば看護師が訪問してチェックしますし、ソーシャルワーカーやピア・カウンセラーが買い物の付き添い等の生活訓練や、就労支援も行います。重い精神障害を抱えている人を対象にしていますので、 夜中のオンコールもある24時間365日対応のシステムです



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過食症治療プログラム

1.過食のメカニズムを勉強する
1-1 食欲中枢の話
1-2 胃の話
1-3 寂しさ、空虚感、不安と食行動の話

2.過食の治療を勉強する
2-1 自分でできること、家族にできること
2-2 食べたものを全部携帯写真に記録しておき、分析する方法
2-3 食糧を買うときの衝動や気持ちについての分析



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嗜癖の治療

嗜癖・依存については、精神療法や行動療法が用いられる。

・モチベーショナル・インタヴューイング(動機付け面接)
・Self-efficacy 自己効力感を引き出す工夫
・行動変容プログラム

アルコール
タバコ
薬物
買い物依存
ギャンブル
対人関係依存
食行動異常
拡大して行為障害まで含めて
など

結局、心の中に、
不安
空虚
むなしさ
寂しさ
報われなさ
があるのではないかと考えられる。



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おかげさまで順調です

誰にも相談できなかったとの言葉が重い。

*****
笑顔で「順調です」と言っていた患者さん

■「おかげさまで順調です」
まだ医師になって数年の頃、定期的に外来に通ってくる初老の男性患者さんがいた。
かつては、病状が悪化すると同じ病気の娘に暴力をふるうなどの行為があり、何回か精神科に入院したこともあったようだが、外来では笑顔で「おかげさまで順調です。先生のおかげです」と礼を言って診察室を出ていくのが常だった。「先生のおかげ」というのは、さすがに社交辞令と思いつつ、その患者さんが特に問題なく過ごしていらっしゃることは疑わなかった。

■ある日、警察から電話が
ところがある日、警察から電話が入り、この患者さんが縊死したという。私は絶句してしまった。
結局、その患者さんが自ら死を選んだ理由はよくわからなかった。突然に死を思い立ったのか、ずっと思い悩んでいたのかさえ、わからなかった。
しかし一つはっきりしていることは、その患者さんは自分の悩みごとを話すほど私のことを当てにしていなかったということである。もちろん、私だけではなく、誰にも相談できなかったから死を選ばれたのだと思う。

■肝に銘じたこと
私はこの一件以来、「順調です」「先生のおかげです」と患者さんやご家族に言われても、「本当かな」とちょっと疑う性癖が身についてしまった。
患者さんは、病気になったつらさに加えて、この世で生きていくつらさに日々直面しているはずである。それをいつでも気軽に話してもらえるのが理想だが、本当に必要なとき、必ず話してくれるような関係でありたい。そしていつもと違う悩みやつらさを訴えられたら、それを真剣に受け止めて傾聴することを、改めて肝に銘じた。

(白石弘巳)


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消えることのなかった深い傷

36年。大切なことなので収録。

*****
36年後の出来事

去る2006年で55歳になった女性。高校2年生(17歳)の秋に独語、興奮のため大学病院を受診し、beginnende Schizophrenieと診断される。その後、自宅近くにあった筆者の勤務先病院に紹介入院となった。思考化声・思考伝播・思考吹入などが見られるも、約9か月で軽快退院し外来通院へと移行、レボメプロマジン25mgを1日1~2錠で寛解を維持していた。

■筆者の転勤先に通院し続けた
20歳からは会社の事務員として働き、物静かな中にも青春の輝きが感じられたことを、今は懐かしく思い出す。
もともと無口な女性だったこともあって、家庭の事情(姓が3回変わった)や個人的な問題に立ち入ることはまったくなかった。
その後、筆者の転勤に伴い、公立病院の神経科に29歳から36歳までの7年間通う。37歳で会社を辞めたが理由も語らず、その後は自宅(実母と義父の3人暮らし)で家事の手伝いをしながらひっそりと暮らすようになった。友人はいないが、猫を飼っており、強いて趣味と言えば一人で映画を観に行くか家での読書ぐらいだが、家事で結構忙しく退屈はしないと言っていた。
さらに52歳までの17年間は、筆者の異動先である大学病院へ2か月に1回通院した。

■消えることのなかった深い傷……
最初の入院から36年が過ぎた。筆者は大学を定年退職し、診療所を開業した。最後の受診日にその旨を伝え診療所の住所を教えておいたが、ある日、母親から手紙がきた。
本人が受診するつもりで場所を調べたら、そこへ行く途中に昔入院していた病院があるのがわかって、その方向にはどうしても行きたくないと言っている。ついては今の大学病院で後任の医師を紹介してほしいとのことだった。
精神科病院に入院したことが、どれほど深い傷となってこの女性の心に刻印されていたか。それに気づかなかった自分の不明を恥じながら、晩年の心の平安を祈って後任の医師への紹介状をしたためた。

(八木剛平)


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診察室の中では見え難い部分

大切な指摘と思うので、収録。一部修正。

*****
私の診療スタイルを変えたA氏

現在29歳のA氏は、人なつこくて気配りの細やかな好青年である。大学在学中に「同級生等が自分のことを知っていて噂している」といった自己漏洩、関係妄想があらわれ発症した。ハロペリドールが奏効し、短期間で関係妄想などの症状は消退した。

■診察室の中では見え難い部分
しかし大学を卒業して以降、一向に仕事が長続きしない。「上司に恵まれない、同僚との相性が悪い、仕事がきつい」など、退職のたびにそれなりの理由はあった。私も「運が悪かったのだろう」くらいに考えていた。
ところが彼の何回目かの失職中、私の知人がやっている経理事務所のアルバイトを紹介すると、10日後にその知人から苦情がきた。「まるで駄目だ」と言う。指示したことが全然呑み込めない、何度も同じことを聞いてくる、とんでもない事務処理をしてしまう、とにかくミスが多い、仕事が遅い……散々な評価であった。実直で心根の優しい知人の報告は、誇張とも思えない。
私は初診以来6年間彼を診ていながら、彼の作業能力についてまるで把握していなかったのである。
統合失調症による生活障害は、診察室の中だけでは見え難い部分がある。A氏に生活障害があることはわかっていたつもりだったが、その程度は私の予想を遥かに超えていた。

■診療スタイルが変わった
A氏のことがあって以来、私の診療スタイルは少し変わった。生活場面の様子をできるだけ聴取するように努めている。また、診療だけでは見えない部分を補うのに、心理検査が「意外に役立つ」ことにも気付いた。
診療スタイルをわずかに変えただけだが、それがもたらした効果は、私にはとても大きかった。これまで見えていなかったことが、たくさん見えてきたように感じている。その多くは、近年「認知行動障害」として捉えられていることである。

(羽藤邦利)


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統合失調症の認知機能テスト

統合失調症の認知機能テストバッテリーの開発。

近年、統合失調症の認知機能障害が、
特に薬物治療の効果判定や社会機能(社会的予後)との関連で注目されている。
評価テストとして
米国NIMH(The National Institute of Mental Health:国立精神衛生研究所)で作成されているMATRICS-CCB、
BACS(統合失調症認知機能簡易評価尺度:日本語版)などがある。

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側頭-前頭葉二段階発症仮説

側頭-前頭葉二段階発症仮説:側頭葉の形態変化が統合失調症への脆弱性に関連し、それに前頭葉の形態変化が加わることによって、側頭葉の変化が顕在化、統合失調症が発症するという仮説のこと。発症前の胎生期神経発達障害による脆弱性をベースとして、発症に関わる進行性脳病態が加わり発症に至るというtwo-hit model。

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サイコエデュケーション

サイコエデュケーション・プログラムの主な対象は家族である。
患者さんも含めた数回のグループセッションで
疾患や薬、治療法に関する説明を行う。
家族へ安心感を与えることが患者さんの予後改善にもつながる。

「ストレス脆弱性モデル」を取り上げることが多い。
病気の長期経過を説明する。
薬は患者さんの持っているストレス脆弱性を回復して、
病気から立ち直っていく過程を援助する治療であること。
薬物療法とその他の治療法、特にSSTや認知療法などをどう組み合わせていくか、大切であること。
その他、High-EEなども説明する。

ともに学ぶ。



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発症リスクの高い状態(ARMS:アームス/at risk mental state)

統合失調症の前駆状態の診断は困難ですが、発症リスクの高い状態(ARMS:アームス/at risk mental state)として国際的に共通の診断基準が用いられます。もちろんARMSにある方すべてが統合失調症になるわけではありません。実際に発症する率は30~40%と言われています。ですが、発症しない場合も、助けを求めているわけですから、適切なアプローチが必要となります。

ARMSとは
前駆状態が疑われるARMSの患者さんの症状は、統合失調症と似ていますが、一般に程度が軽いのです。診断基準では次の3つに分けられています。

1) 弱い精神病症状
2) はっきり症状があっても一週間程度で自然に収まる一過性の精神病体験
3) 家族歴などのある方で最近の社会的機能レベルの低下

* ARMS(アームス/at risk mental state):発症リスクの高い状態

 



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アルコール依存症の新しい治療法となる可能性

アルコール依存症の新しい治療法となる可能性
Possible New Treatment for Alcohol Dependence
2008 April 08
 
 アルコール依存症の患者は、ストレスに関連した神経伝達物質の濃度が上昇している。こうした神経伝達物質のひとつのsubstance Pがあり、これはneurokinin 1受容体(neurokinin 1 receptor:NK1R)と呼ばれる受容体と結合することで、生理学的作用を発揮する。

多国籍のチームは、NK1R遺伝子をノックアウトしたマウスを作成した。正常なNK1R遺伝子を有するマウスと比べて、ノックアウトマウスは自発的な飲酒が大幅に減少し、アルコールによる鎮静も容易であった。

その後、このチームは、アルコール依存症の治療中で不安のレベルが高い入院患者50人を対象としたランダム化比較試験を実施した。一方の群にはNK1Rと結合し不活性化する薬物(LY686017)を投与し、他方の群にはプラセボを投与した。患者は入院のまま最大1週間注意深く観察した。アルコール飲料の写真を提示したところ、実薬群はプラセボ群に比べて、アルコールへの自発的渇望が大幅に抑制され、渇望が鈍麻した。妥当性の確認されたストレス誘発試験を実施するか、アルコール飲料の写真を提示したところ、実薬群では、コルチゾール反応が低下し、ストレスに関与する脳領域における代謝活性が減少した(機能的磁気共鳴画像スキャン)。有害作用は報告されなかった。

コメント:げっ歯類、次いでヒトで実施されたこれらの研究は、NK1Rを阻害する薬物はアルコール依存症の患者の治療に有用である可能性を示している。次の段階は、これらの化合物がより長期間忍容可能かどうか、アルコール飲料への渇望と飲酒量を低下させるかどうか明らかにすることである。

— Anthony L. Komaroff, MD
Published in Journal Watch General Medicine April 8, 2008
George DT et al. Neurokinin 1 receptor antagonism as a possible therapy for alcoholism. Science 2008 Mar 14; 319:1536.



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賦活系SSRIの二つの違いsertralineとparoxetine

前の論文で、
「sertralineとparoxetine は賦活系」とひとくくりにしていたが、
その後、プロファイルの違いとして最近言われていることは、
sertralineは用量に比例する形で血中濃度が上昇し、
効果も、比較的用量比例的である。
一方、 paroxetineは直線性はなく、容量を増やしていくと、急激に血中濃度が上昇することが分かっている。自己分解酵素を阻害するためである。
と言うことは、急速飽和が可能であるということで、急ぎたいときには、有用である。

逆に、薬を減らしていくとき、sertraline は半分にすれば、血中濃度は素直に半分であるが、
sertraline は半分にすれば、有効血中濃度は1/4になってしまうようなものだ。
そしてことが、肝心の脳の局所のシナプスでその通りになっているのか、よくわかない。

1/2で急激に下がるなら、3/4に下げればいいだけである。
一度知ってしまえば対処はいくらでもあるものだ。
対処法があるのだから、そのようにすれはよい。

いずれにしてこのあたりがsertraline とparoxetineのプロフィールの違いの、入門編である。

*****
賦活するのぱアモキサン、作用が速いのもアモキサンと言われているのも有名である。



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サラリーマンのうつ病の難しさ

前に紹介した論文で、離脱症候群について記述がある。

*****
離脱症候群
 SSRIを急激に中断したり、減量した場合、気分の悪化、激越、神経過敏、易疲労性、頭痛、めまい、ふらつき、入眠困難などの中断症状が現れることがある。一般的には一過性で軽症であるが、稀に重症となることがある。
 英国NHS (National Health Service) の報告によると、paroxetine は fluvoxamine の 11倍、sertraline の 7倍以上の中断(離脱)症状が発現していた。Stahl は、paroxetine について、アカシジア、落ち着きのなさ、悪心なとの消化器症状、ふらつき、知覚異常といった離脱症状が他の SSRI より生じやすいと述べており、多くの患者では、3日間で 50%、さらに残りの 50%を 3日で減量しその後中止するのが良いとしている。
 paroxetine の中断症状発現には、セロトニン作用に対するリバウンド、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗作用、力価の高さなどが関与していると考察されている。

*****
これは、気まぐれに、勝手に、急にやめれば、まずいですと言っているだけで、薬をやめられないと言っているわけではない。
SSRIはやめられない薬との流言もあるが、みんなきちんと手順を踏んでやめている。

治っていないのに、無理をしてやめると、苦しいというのは、他の薬でも同じ。

paroxetineについてよく言われるのは、比較的難治性の症例にも使うからで、
また、早く治したいときにもparoxetineを使うからで、
軽い症状で、ゆっくり治してもいい場合には、paroxetineを使っても、やっぱりうまく行くはずである。
重い症状で、早く治したいときにparoxetineを使うけれど、うまく行かないこともあり、それでparoxetineが非難されたりする。

重症の人を治そうとする薬は、苦労の割りに、感謝されないのが実情である。

すっかり回復するタイプの人は、
よくなってくると自然に薬を飲み忘れて、
一週間したら2個くらい余っているなどということがよくある。

すっかりは回復しないタイプの人も現実にはいるので、
そういう人が断薬を強行するときついことになる。
その場合には、現実を認識する能力が弱っていることもよくある。
冷静に考えれば、理由のない断薬は危険だとすぐに分かる。

*****
さらに付け加えると、
実はサラリーマンは、厳しい立場である。
うつが治った後、どうなるかといえば、当然仕事の負荷が増す。ぎりぎりまで増える。
自営業ではないので、仕事を自分で決めることができない。
組織の中にいる限り、仕事の負荷は増える。
だからいつもうつの再発の危険を抱えている。
したがって、抗うつ剤を早くやめるのはとても危険だということになる。

たとえば、自営業で八百屋さんをしていたとすれば、
仕事の量は自分で調整できる。
仕事を減らそうと思ったら、近所の八百屋さんに頼んで、お得意さんを分けてあげればいいのだ。
司法書士とかも同じ。クライアントを制限して、振り分けていればいい。
収入は自分で決められる。木曜日を定休日にしてもいい。
自営業が楽だなんて全然思わないが、特有のきつさもあるし、
特にうつで判断が鈍っているとき、決断の全部が結果に反映されてしまうので、
きついけれど、それでも、
できる範囲で収入を確保すればいいと居直ることもできる。

サラリーマンはそうはいかない。
定休日を自分で決められるサラリーマンはいない。
わたしは給料は頭打ちでいいから、無理しないで長く勤め続けたいと言ったとして、
組織はそれを許さない。
その働き方は、派遣労働者になる。
派遣なら、仕事を選んで、通勤先を選んで、曜日を選ぶこともできる。
正社員で、会社の人事の流れに乗っている限りは、
やることはやってもらわなければならないし、
やらないなら、それなりの処遇を受け入れてもらわなければならない。
まったく厳しい話だが、最近の会社は、昔のような生活互助会ではないので、仕方がない。
松下でさえも、互助会をやめた。
こうした場合は、抗うつ剤をある程度長く続けないと、体質改善はできないし、
役職も続けられない。

万年平社員という言い方もあるが、
万年平社員が気楽でいい商売かどうかは、
本人が一番よく知っている。
うつ病の現実が示している通りである。
気の毒なこと限りない。

まったく厳しい現実である。
なるべく慎重に対処するしかない。

本人以外に苦しみは分からないのだ。
好き勝手なことを言うことはできるが、
痛みを感じていない人に何を言ってもらっても、どうしようもない面もある。

冷静によく考えれば、どうしたらいいかは分かるのではないかと思う。
その判断が曇るときは、病状がかなり悪化しているといえる。

重々分かってはいるが、
一時の気の迷いは誰にもある。
しかし、思い直したら、また一緒に治療していこう。
先は長いが、悪いことばかりではない。

昔に比べたらずいぶんいい薬になって、
患者さんは助かっているのだ。

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柳澤桂子先生に効いた薬

30年もの間、慢性痛に苦しんだ柳澤桂子先生は、アモキサピンとクロナゼパム(抗けいれん薬)、そして1週間後に投与されたイミプラミンが奏効して、日常生活を回復された。

SSRIでも、SDAでもなかった。

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抗うつ剤一覧表

http://www.geocities.jp/ssn837555/paindrugs.html
ペインコントロールの立場で、抗うつ剤その他をまとめたもの。

SSRIとリチウムなどセロトニン作用薬との併用は避けるべきである。肝臓のcytochrome P450 (CYP 450)系酵素を阻害する。
当院では原則、リチウム併用は避けている。
しかし、酵素を阻害するということは、お互い少量でコントロール可能かもしれないということで、絶対に禁忌というわけでもない。

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『SSRIのプロファイルの違いとその使い分け』

SSRI、SNRIの違いと使い分けについては、各人でいろいろな考えがあるだろう。
どのような患者さんに対して、どのような精神療法をしているかも考え合わせて、
薬剤選択を考え、しかも、他剤との併用も考慮しながら、選択しなければいけないので、
単純に、デシジョン・ツリーが描けるものでもない。
最近ではStar*Dの研究で、第一選択として、シタロプラムを使うことになっていて、
日本の我々としてはかなり特殊な環境にいることを自覚すべきだろう。
この論文では、古い抗うつ剤をも含めた薬剤選択という視点はないようだが、
実際には、三環系、四環系、最近ではSDAも含め、さらにmood stabilizerも含めて、選択しなければならないので、
議論としては不充分である。
うつ状態、不安、非定型などの言葉をいちいち定義していないのは、専門家同士の報告だからであるが、
そこの定義が難しいことも確かで、できれば議論を回避したかったというところだろう。
賦活系 SSRI は投与初期のactivation syndrome 、鎮静系 SSRI は長期服用による無気力 frontal lobe-like syndrome に注意と端的に言及していて、分かり易いが、割り切りすぎともいえる。

*****
臨床精神薬理 10 : 295-307 2007

『SSRIのプロファイルの違いとその使い分け』河田病院 (岡山市)

Ⅰ はじめに

 SSRI (selective serotonin reuptake inhibitor) は選択的セロトニン取り込み阻害作用を持つ抗うつ薬である。
 世界で最初に上市された SSRI は、オランダの Duphar 社が開発した fluvoxamine (ルボックス) で1983年より臨床に応用されている。ついで fluoxetine (プロザック : 1988年) 、sertralin (ゾロフト : 1990年) 、paroxetine (パキシル : 1990年) 、citalopram (セレクサ : 1995年) 、escitalopram (レクサプロ : 1998年) の計 6種類が上市された。
 わが国においては、fluvoxamine (1999年) 、paroxetine (2000年) 、sertraline (2006年) の順に上市された。
 2005年度におけるわが国の抗うつ薬および気分安定薬のシェアは、SSRI + SNRI が80%以上を占めている。
 各国で公表されているうつ病の薬物治療のガイドラインでは、第一選択の抗うつ薬は SSRI であると記載しているものがほとんどである。今や SSRI はうつ病の急性期治療、維持療法、再発予防いずれの時期にも第一選択薬として使用されているのである。
 このたび、わが国においても sertraline が新規に発売され、fluvoxamine 、paroxetine と合わせ 3剤が選択可能になったため、SSRI の使い分けについて考えてみたい。

Ⅱ SSRI の薬理と薬効

 セロトニン (5-HT) は生態内では 90%が消化管に、8%が血小板に、1-2%が中枢神経系に存在しており、睡眠、体温調節、性行動、摂食、神経内分泌、認知、記憶、生体リズムなどの生理機能に関与し、不安、攻撃性、衝動性、強迫、気分障害、統合失調症、自閉症、薬物依存などの病態と深く関係していることが知られている。
 SSRI はセロトニントランスポーターに結合して、セロトニン再取り込み阻害作用を示し、セロトニン神経の伝達機能を増強する。セロトニンの作用を媒介するセロトニン受容体は、14種類のサブタイプが知られているが、これらの親和性は SSRI各々によってそれぞれ異なっている。
 この異なる親和性パターンが臨床効果の違いや個々の患者への反応の違いを生じる可能性もあるが、いかに関係しているかは未知であり今後の研究課題である。
 Stahl は fluvoxamine 、paroxetine 、sertraline の各種受容体への作用の中でも、σ受容体との関連を指摘している。σ受容体は、現在のところ内在性のニューロステロイドによって調整される細胞内受容体と考えられている。223個のアミノ酸からなり、主に小胞体膜に存在し、活性化されると他の細胞内小器官や原型質膜に移行する。σ受容体にはσ1 、σ2 のサブタイプが確認されているが、特にσ1 受容体は記憶、学習過程の変調、ストレス、不安、うつ病、攻撃性、薬物依存症、および統合失調症、さらには神経保護作用との関与が指摘されている。
 fluvoxamine のσ1 受容体に対する親和性は、他の抗うつ薬に比べて高く、このことが精神病性 (妄想性) うつに対する fluvoxamine の効果の高さを裏づけるのではないかと Stahl は指摘している。
 また筆者は、強迫に対しては特に、fluvoxamine の効果は他 SSRI に比べて優れているという印象を持っているが、それもσ受容体への親和性の高さによって説明できるかもしれない。

Ⅲ SSRI の抗うつ作用の比較

 SSRI の抗うつ効果は軽症から重症に至るまで発揮される。しかし抗うつ効果のプロフィールがSSRIにより相違が見られるのか、同一であるのかを研究した系統的な報告は見られていない。

Ⅳ 各SSRIの臨床効果の特徴

 Stahl は以下のようにまとめている (抜粋)

① fluvoxamine
・うつ状態を合併する不安性障害に有効
・性機能障害が少ない
・fluvoxamine は統合失調症の強迫症状に対して抗精神病薬と併用して有効
・σ受容体での作用で、不安性障害、不眠、精神病性うつ病、妄想性うつ病に対する有効性が説明できる
・治療抵抗性OCDに対して fluvoxamine と clomipramine の併用がよい

② paroxetine
・不安の強いうつ病に好まれる
・離脱症状が現れやすい
・弱い抗コリン作用を持つので、抗不安作用、催眠作用が即効性であるが、抗コリン性副作用を持つ
・体重増加や性機能障害が強い
・不安や不眠の患者によい

③ sertraline
・過眠や過食を伴うような非定型うつ病に対する第一選択薬
・パニック発作には他の SSRI より不向き
・プロラクチンへの影響が少ないので、少女・青年女性に対して好まれる

Ⅴ SSRIの用法・用量による抗うつ効果の有効率について

 SSRI の作用速度については薬剤間の差異は認められていない。
 SSRI については一般に、用量や血中濃度と治療反応との相関性が薄い。副作用については用量との相関性あるかどうか知見は一致していない。
 しかし、SSRI の固定用量試験では、十分な観察期間を設けていないことより、SSRIの用法・用量の範囲を超えて用いた場合、有効症例が増える可能性があること知っておく必要はある。
 うつ病の維持療法や予防療法について最近は、十分量をさらに長期に用いると患者の QOL と寛解率が高まるという報告が多い。

Ⅵ SSRI の抗うつ作用プロファイルの差異についての見解

 3種類の SSRI の抗うつ作用を比較すると、三環系抗うつ薬の作用プロファイルほどには差異は認めない。3剤を鎮静系と賦活系に分ければ、

   sertraline < paroxetine  <<< fluvoxamine  <<<<<<< amitriptyline 、mianserin

という印象を筆者は持っている。
 したがって、特に焦燥・不安感の強いうつ病では fluvoxamine が第一選択となるであろう。対して精神運動抑制の強い双極性うつ病、非定型うつ病に対して賦活的な sertraline 、paroxetine がより有効であると考えられるが、そこまでのクリアカットな印象を筆者は持っていない。

Ⅶ SSRI の重症うつ病に対する抗うつ効果

 SSRI の抗うつ効果は、重症うつ病に対しては軽症および中等症のうつ病ほどには明確ではないとする報告がある反面、重症のうつ病に対しても三環系抗うつ薬と同等の効果が認められたとする報告もあり、現在のところ見解は定まってはいない。

Ⅷ SSRI の副作用

① 消化器症状
 SSRIは従来の抗うつ薬と比較すると消化器症状が多いことが報告されている。服薬によって増加した 5-HT が脳幹や消化管における 5-HT3 受容体を刺激するためと考えられている。
 副作用の出現は、投与開始1週間が多く、2~3週間かけて激減する。なんら処置を要しない患者がいる反面、1/3 の患者が服薬を中止してしまうので、sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) などの予防的な投与も考慮する必要がある。

② Activation syndrome (初期刺激症状)
 SSRI の投与初期に現れる不安、焦燥感などを特徴とする中枢神経系の有害事象である。重症となれば、希死念慮、攻撃性、アカシジア、躁状態などが現れることがある。
 発現時期は薬物投与開始直後から 1~2週間の比較的早期が多い。
 治療はまず、原因薬剤を減量・中止することである。しかし急速な断薬は離脱症候群を惹起する危険性があるので、症状緩和のために他の抗不安薬や気分安定薬の併用が必要な場合が多い。
 acivation syndrome の症状が高じて焦燥、不安、自殺衝動が起こるようであれば、入院治療の必要性が生じてくる。

③ 離脱症候群
 SSRIを急激に中断したり、減量した場合、気分の悪化、激越、神経過敏、易疲労性、頭痛、めまい、ふらつき、入眠困難などの中断症状が現れることがある。一般的には一過性で軽症であるが、稀に重症となることがある。
 英国NHS (National Health Service) の報告によると、paroxetine は fluvoxamine の 11倍、sertraline の 7倍以上の中断(離脱)症状が発現していた。Stahl は、paroxetine について、アカシジア、落ち着きのなさ、悪心なとの消化器症状、ふらつき、知覚異常といった離脱症状が他の SSRI より生じやすいと述べており、多くの患者では、3日間で 50%、さらに残りの 50%を 3日で減量しその後中止するのが良いとしている。
 paroxetine の中断症状発現には、セロトニン作用に対するリバウンド、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗作用、力価の高さなどが関与していると考察されている。

④ 性機能障害
 うつ病患者では、もともと性欲の低下やインポテンツ、射精遅延、オルガスムスの欠如などの性機能の低下が見られることが多く、また抗うつ薬が性機能障害を惹起することも知られている。
 性機能障害に関する欧米での質問票による調査では、paroxetine 64.7% 、fluvoxamine 58.9% 、sertraline 56.4% といずれも非常に高頻度である。また「射精時間に及ぼす SSRI の影響」の研究報告では paroxetine が最も射精時間を延長させていた。

⑤ 前頭葉類似症候群 (frontal lobe-like syndrome)
 Zajeckaは SSRI を長期に使用した場合の問題点の1つに無気力状態 ( anti-depressant associated ashenia ) の出現を指摘している。正常気分であるが、無関心で動機付けが起こらず、疲労感があり、精神的に鈍い感じが残る状態である。この状態を彼は frontal lobe-like syndrome (前頭葉類似症候群) と呼称している。これは、強力な SSRI を長期間使用したために、前頭葉や脳幹のノルエピネフリンやドパミン活性が低下し起こると考えられている。この症状が出現したら 1) SSRI を減量する 2) 午後の服用 3) ノルエピネフリンやドパミン神経の刺激作用のある薬物を用いる などを Zajeckka は推奨している。

Ⅸ SSRI の薬物相互作用

 SSRI の代謝は主としてチトクロムP450 が関与するが、citalopram 以外はすべて CYP450 に対する阻害作用を有しているため、他の薬剤の代謝に影響を及ぼす。
 fluvoxamine は 1A2 の阻害作用が強い。また 3A4 への阻害作用もやや強いため、BZD系抗不安薬や睡眠薬の作用を増強する可能性がある。
 paroxetine は 2D6 の強力な阻害薬である。risperidone や三環系抗うつ薬の作用を増強する可能性がある。
 sertraline は 1A2 、2D6 などに対して阻害作用を有するが、その作用は弱いため、fluvoxamine 、paroxetine に比べると薬物相互作用の影響は少ないと考えられる。
 筆者の経験では、相互作用で大きな問題を生じたことはなく、むしろ、相乗効果が得られたのではないかと推測される症例も少なからずあり、戦略的な利用はメリットになると考えている。

Ⅹ. まとめ (抜粋)

・SSRI は抗不安作用の強い抗うつ薬である。
・SSRI の抗うつ作用プロファイルの異なりは精神運動抑制に有効な賦活作用と不安・激越に有効な二極に分けると、sertraline 、paroxetine は賦活系に、fluvoxamine は鎮静系に分けることができる。
・SSRI の抗うつ作用プロファイルの違いから、特に賦活系 SSRI は投与初期の activation syndrome 、鎮静系 SSRI は長期服用による無気力 frontal lobe-like syndrome に注意を要するかもしれない。

*****
Ⅸ SSRI の薬物相互作用 の項目で、なぜcitalopram が第一選択なのかを説明していることになるが、既存薬剤で発生する薬物相互作用や、Ⅷ SSRI の副作用 で触れられている副作用については、熟知して、むしろ上手に付き合えばいいものであり、過剰に恐れるべきものではない。

「sertraline < paroxetine  <<< fluvoxamine  <<<<<<< amitriptyline 、mianserin」
と書いておいて、
「特に焦燥・不安感の強いうつ病では fluvoxamine が第一選択となるであろう。」
とすぐに書くのは、SSRI三剤の中では比較的、ということであって、臨床的には、ためらわず、amitriptyline 、mianserinを使うべきであると、間接的に示唆していることになる。わたしもそう思う。

「対して精神運動抑制の強い双極性うつ病、非定型うつ病に対して賦活的な sertraline 、paroxetine がより有効であると考えられるが、そこまでのクリアカットな印象を筆者は持っていない。」
の一文は、ためらいが感じられ、双極性うつ病、非定型うつ病に対してこの二剤は使ってくれるなとも読める。
わたしなら、SDAか気分安定剤からはじめる。

「消化器症状」について、「服薬によって増加した 5-HT が脳幹や消化管における 5-HT3 受容体を刺激するためと考えられている。 副作用の出現は、投与開始1週間が多く、2~3週間かけて激減する。なんら処置を要しない患者がいる反面、1/3 の患者が服薬を中止してしまうので、sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) などの予防的な投与も考慮する必要がある。」
と記載がある。sulpiride (ドグマチール) 、domperidone (ナウゼリン) 、metochropramide (プリンペラン) の三者はドーパミン系のブロッカーとしての性格があり、心配もあるので、最近はガスモチンを食前に使うことが多い。ところがガスモチンは「セロトニン作動薬(選択的セロトニン5-HT4作動薬)」であって、作用機序としては、疑問もないではないが、実際には問題なく運用できている。



共通テーマ:健康

『Clozapine の薬理』 -主たる作用部位はどこか?-

最初のSDAであるClozapineを主題として、
Kapur らと Meltzer らとの論争。
fast dissociation hypothesisについて。

D2受容体から解離しやすい性質がいいのか、
ぴったりくっついて解離しないのがいい性質なのか、
議論がある。
最近は、適当にくっついたり離れたりするほうが陰性症状の固定化を回避できるのではないかとの論調と個人的には見ている。
これは統合失調症の軽症化や陰性症状化と関係してもいると思う。

*****
臨床精神薬理 6 : 11-19 2003

『Clozapine の薬理』 -主たる作用部位はどこか?- 九州大学

Ⅰ. はじめに

 1988年、clozapine は、Kane らにより治療抵抗性統合失調症に対する有効性が報告され、一躍脚光を浴びることになる。
 以来十数年間、clozapine の作用機序は何か、また如何に clozapine-like antipsychotic drug を開発するかが、抗精神病薬の薬理学最大のテーマであったといってよい。
 事実、risperideone や olanzapine などの clozapine をモデルとして開発された新しい非定型抗精神病薬は、商業的にも大きな成功をおさめ、今日、統合失調症に対する薬物治療の主流となりつつある。

 clozapine の薬理の最大の特徴は、ドーパミン D2 受容体遮断作用が弱い点にあり、まさにこの点において 「非定型」 的であるといえよう。
 positron emission tomography (PET) を用いた研究から、HPD のような定型抗精神病薬は脳内の D2受容体を約 70%占拠すると抗精神病作用を発揮し、それをやや上回って 80%付近まで占拠すると extrapyramidal symptoms (EPS) が発生することが明らかになっている。
 一方、clozapine の占拠率は 50%に達しない。
 この所見は、clozapine による EPS の発生が乏しいことを説明する。
 では、clozapine の主たる作用部位はどこなのだろうか ?
 しかし、同薬は実に数多くの受容体に対して親和性を有し、際立った特異性がないことから、逆にさまざまな作用部位が想定されてきたのであった。
 本稿では、clozapine の作用機序に関する代表的な仮説を紹介し、同薬の薬理研究をめぐる問題点について考えてみたい。

Ⅱ. in vitro 受容体結合能

 米国の Meltzer らは、clozapine がセロトニン (5-HT)2A受容体の down-regulation を速やかに誘導することを発見し、1989年、EPSが乏しいことで特徴づけられる殆どの非定型抗精神病薬は、D2受容体よりも 5-HT2A受容体に対する結合能が相対的に高いことを報告し、以後の抗精神病薬の開発研究に1つの方針を与えた。
 重要な点は、単に 5-HT2A受容体結合能が高いだけでは非定型抗精神病薬の指標とはならないことで、このことから 5-HT2A受容体遮断作用と D2受容体遮断作用の相互作用が、非定型抗精神病薬の作用機序において重要な役割を担っているという仮説 (serotonin-dopamine hypothesis) が提唱され、以後登場する様々な理論のモデルとなった。

 さらに、clozapine が D1 、α1 、α2-アドレナリン、ヒスタミンH1 、アセチルコリンM1受容体等にも比較的高い親和性を有することから、これら複数の神経伝達物質受容体を介する相互作用を重視する理論 (multi-receptor hypothesis) も提唱されており、clozapine と同様に多種類の受容体に対する親和性を有する薬物や多剤併用療法 (clozapinization) を推奨する考え方も登場するに至った。
 これらの仮説は魅力的ではあるが、実証することが困難で、薬理学的には十分な根拠があるとはいい難い。

Ⅲ. PET研究 : in vivo 受容体結合能

 これまでの PET 研究の結果は、clozapine の基底核 D2受容体占拠率を 50%以下と報告している。
 一方、RIS や Ola の D2受容体占拠率は、臨床用量の範囲では、定型抗精神病薬の場合とほぼ同等 (60~90%) であった。
 この所見は、臨床的に RIS や Ola が、とくに高用量で EPS を生じやすいことを説明しており、clozapine と新しく登場した一連の非定型抗精神病薬の薬理は必ずしも同一ではないと認識されるようになった。

 皮質の 5-HT2A 受容体占拠率は、clozapine 、RIS 、Ola のいずれも 90%以上と報告されているが、Que ではやや低い。
 しかし、いずれの非定型抗精神病薬も D2受容体と比較すれば、明らかに高率に 5-HT2A受容体を占拠しており、in vitro における受容体結合能と同様の傾向にある。

 clozapine の作用機序として 5-HT2A受容体の関与を疑問視する PET研究の報告も出てきた。
 例えば、CP も、高用量 (700mg/day) では皮質の 5-HT2A 受容体の大部分を占拠することが報告されている。
 また、clozapine で治療された患者の臨床症状の改善と皮質 5-HT2A受容体の占拠状態が相関しなかったという報告もある。
 臨床的にも、5-HT2A受容体アンタゴニストには、期待に反して十分な抗精神病作用が見い出されておらず、clozapine の作用部位として 5-HT2A受容体の役割は未だ不明の点が多い。

Ⅳ. Fast dissociation hypothesis

 抗精神病薬の臨床的な力価と D2受容体結合能が相関することを発見した Toronto大学の Seeman は、D4受容体を主張していた頃もあったが、1990年代後半には clozapine の作用部位として D2受容体の関与を強調しはじめた。
 彼は、benzamide系抗精神病薬 (amisulpride など) が選択的 D2受容体アンタゴニストにもかかわらず、EPS の発生が少ない点について、D2受容体にゆるく結合して、解離しやすい特徴を有するために、内在性のドーパミンと競合して、基底核のドーパミン神経伝達を低下させないのであろうと説明している。
 さらに Kapur らは、PET 所見上、Que は投与 1, 2時間後は 60~70%の D2受容体を占拠しているが、12~24時間後は 20~30%の占拠率に低下していることを見出し、clozapine も同様の動態を示すと報告した。
 これは、clozapine や Que も、D2受容体から容易に解離しやすい性質を持つためであって、測定に用いる放射性リガンドと競合して、見かけ上の受容体結合が低下しているのであるという。

 こうした考えをまとめて、最近、Kapur と Seeman は、D2受容体から急速に解離するという性質が非定型抗精神病薬の臨床的特徴を決定するという仮説 (fast dissociation hypothesis) を提唱し、5-HT2A受容体結合能を重視する Melter らとの間で論争が起きている。
 Kapur らの仮説では、5-HT2A 受容体結合能は非定型抗精神病薬に必要ではなく、依然として D2受容体のみが主要な作用部位であると結論付けている。
 しかも、従来考えられていたように抗精神病薬は D2受容体を持続性に遮断しなくとも、一過性に遮断するだけでもその臨床的効果を十分に発揮できるのではないかと推測している。
 clozapine が D2受容体から解離しやすいという特徴は、同薬の断薬は急激な精神症状の悪化を招きやすい (withdrawal psychosis) という事実も説明する。

 Kapur らの仮説は、分子レベルの現象を、実際には複雑な薬物の体内動態が絡む PETで観察される現象に強引に関連付けているきらいがある。
 しかし霊長類 (アカゲザル) を用いた PET研究では、彼らの仮説を支持する結果が得られている。
 Suhara らの研究では、5.0mg/ kg の用量を静注すると D2受容体占拠率は 80%以上に達したが、その後急速に減衰し、半減期は 7.2時間であったと報告している。
 以上のように、投与直後には clozapine も定型抗精神病薬と同じくらい高率に D2受容体を占拠するらしい。

 Kapur らの主張のように、定型、非定型を問わず、依然として D2受容体遮断作用 - ただしあまり強力でなくともよい - のみが抗精神病薬の必要条件であるとすれば、結局、両者には薬理学的に本質的な差異はないといえる。
 このことは、最近、EPS の発生が少ない低用量であれば haloperidol と非定型抗精神病薬の有用性はほぼ同等であると結論付ける総説が発表されてきている趨勢とも符号する。
 このように、Kapur らの仮説が非定型抗精神病薬の臨床と薬理について本質的な議論を提起したのは確かである。
 しかし、clozapine に限った場合、fast dissociation hypothesis のみで、その臨床的効果のすべて - とりわけ治療抵抗性統合失調症に対する有効性 - を説明できるのかという疑問は残されている。
 もし D2受容体を持続性に遮断するよりも、一過性に遮断する方が、むしろ優れているというのであれば、薬物大量投与療法への反省も含めて、臨床的に豊かな示唆を与えるだろうが・・・・・。
 逆に、従来のように受容体結合能をもって clozapine の薬理を解明することにはもはや限界があると考えることもできよう。

Ⅴ. Clozapine の薬理作用 : 受容体結合能以外

(省略)

Ⅵ. Clozapine 薬理研究の基本問題

 現在の非定型抗精神病薬の薬理は、clozapine を基準にしており、これらの薬理作用を指標に定型と非定型薬物の判別がおこなわれている。
 しかしながら実際には、いずれの非定型抗精神病薬も clozapine とまったく同一の薬理作用を有するわけではないのである。
 非定型抗精神病薬の基本的な臨床的特徴である EPS の発生が比較的少ない点 1つ取り上げても、それを統一的に説明する共通の薬理学的基礎を見い出すことはできない。

 実は、clozapine の薬理学的指標を用いて新しく登場する非定型抗精神病薬の臨床的な clozapine-like effect を根拠づけようとする試みこそが、むしろ clozapine の薬理研究に混乱を招いている感すらある。
 というのも、臨床の側からみると、clozapine と同一の効能を有する抗精神病薬は未だ見い出されていないからである。
 例えば、治療抵抗性統合失調症に対する有用性に関しては、risperidone も olanzapine も及ばない。
 したがって、clozapine は他の非定型抗精神病薬とは全く異なる固有の薬理作用を有している可能性も否定できない。

 それどころか逆に、clozapine の抗精神病作用も定型抗精神病薬のそれと本質的には変わらないのではないか、という意見さえある。
 Maryland 精神医学研究所の Carpenter は、clozapine に反応する統合失調症は大体 8週間までに精神症状の改善がみられることから、HPD に反応する場合と質的な差異はないのではないか、と指摘する。
 確かに、一般に抗精神病作用なるものの実態が明確になっていない以上、clozapine の作用が 「非定型」 的であると断言する明確な根拠があるわけではないということになる。
 それを隔週の薬理作用で定義付けること自体、現時点では無理があるのだろう。

 今のところ、clozapine の薬理はまだまだ不明な点が多く、Kapur らと Meltzer らとの論争にみるように、その研究の動向からは片時も目が離せない。
 近い将来、わが国の精神科臨床においても、ようやく clozapine を手にすることができるようになった暁には、各臨床家の直感によってこの薬物の特性を是非評価していただきたいと思う。
 現場の臨床家の手応えの中から、clozapine のより確かな作用機序を解明する手掛かりが必ず得られるように期待している。

*****
日本ではclozapineは発売されず、risperideone や olanzapine の使用が始まった。
しかし製薬会社の研究も、自社の製品の二次代謝産物が clozapine-like effect を持つことを強調するなど、いまだに clozapine は重要であるとの認識である。
各受容体を占拠する働きについても、強さ、持続などが次第に議論されてきており、その特性を生かした臨床的使用が提案されていて、それは合理的であると感じられる。
研究としては、ターゲットとする症状をどのようにして客観的に限定するか、その改善度をどのように測定できるか、私の考える「測定問題」で結局は立ち止まっているように思われる。
臨床応用としては、これはかなり劇的な進歩があったので、各自の経験をいかにして客観的な広場に持ち寄り、比較検討できるか、その工夫が問われると思う。



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『三環系・四環系抗うつ薬の現状と役割』

2007年の時点でSSRI、SNRI、三環系、四環系を再考した論文。

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臨床精神薬理 10 : 1843-1852 2007
『三環系・四環系抗うつ薬の現状と役割』 橘クリニック (神奈川県)

はじめに

 SSRI ならびに SNRI の使用はうつ病治療アルゴリズムの浸透とともに、著しい増加を示しているといわれている。
 一方、日本では軽症・中等症うつ病のアルゴリズムガイドラインの上で、ファーストラインに記載されなかった三環系・四環系抗うつ薬あるいは、sulpiride が未だに根強く処方されているという情報もあり、現実はどのような状況になっているのか今回調査した。
 実際の診療場面では軽症うつといっても SSRI や SNRI だけではうつ病の治療には不十分であるという印象を受けることが多く、新規抗うつ薬の投与量を増やしただけでは改善せず、三環系抗うつ薬あるいは他の治療法が必要になる場合が多いと思われる。
 アルゴリズムに則した薬物治療とは言え、あまりに不都合である。
 このような不都合はなぜ起こってきたのであろうか。
 1つの理由として SSRI や SNRI が本質的にうつ病の治療には力量不足なのではないかという疑問は当然である。
 2つ目の理由として診断分類に根本的な原因があるのではないかとの印象が拭いきれない。
 SSRI による深刻な副作用や治療上の問題点が顕在化しつつある今、現在のアルゴリズムそのものを見直す時期に来ていると思われる。

Ⅰ. 現状における抗うつ薬の使われ方・使い方

1. 処方の状況について

 最近の抗うつ薬の市場について、過去4年間 (2002年 - 2006年) の抗うつ薬の売り上げ金額と、売り上げ錠数を調べてみた。
 抗うつ薬市場において、新規型と従来型では、売り上げ実績は、ほぼ 9 : 1 であるが、売り上げ錠数では、5.5 : 4.5 の比率をなしていた。
 この売り上げ金額の差は何に由来するのか。
 これは新規抗うつ薬の高薬価と、うつ病・うつ病性障害と診断される新たな患者の爆発的な増加にあることは明らかである。
 また処方錠数については、従来薬の処方は減少しているわけではなく、むしろ増加している現実がある。
  [ 2002年 692百万錠 ⇒ 2004年 722百万錠 ⇒ 2006年 748百万錠]
 この実情を見ると、少なくとも日本においては従来型抗うつ薬の使用は根強く、多くの精神科医の従来型抗うつ薬に対する信頼感は高いと思われる。

 日本精神科診療所協会が行った全国規模のアンケート調査を示す (平成 17年度会員基礎調査報告書) 。
 -- 回答者平均年齢 56.6歳、平均開院年数 13.2年、医師としての平均経験年数 19.8年 --

 よく使う薬の第一選択薬群は、paroxetine 、fluvoxamine 、sulpiride 、milnacipran 、amoxapine 、imipramine の順であり、新規抗うつ薬 (特に SSRI) の使用頻度は高いが、一方、第一選択薬群の中に sulpiride や amoxapine が上位に入るというのは、日常の臨床実感に近いデータである。
 第一選択薬群から第三選択薬群までの合計範囲においては、fluvoxamine 、paroxetine 、milnacipran 、amoxapine 、sulpiride 、amitriptyline 、clomipramine 、maprotiline という順であり、新規抗うつ薬の使用頻度は高いものの、予想以上に診療所レベルでは従来薬がしようされている事実を示している。
 これは各診療所の医師が患者の症状により、柔軟に対応している状況をよく示していると思われる。

2. 精神科クリニックと大学の外来を比較して

 ここで抗うつ薬の大学レベルの処方調査を見ると、新規抗うつ薬の圧倒的なシェアと、従来型の抗うつ薬の低い使用頻度が分かる。
(特に paroxetine の使用頻度は 35%近くを占め、新規抗うつ薬の処方率は 3種類合計で 71.6%と著しく高頻度である)
 クリニックと比べて大学病院を受診する患者の病状の違いは存在すると思うが、研修する医師に (大学レベルでは) アルゴリズム通りの投与指導が行われており、それから外れる書法を認めていないのではないかと思われるような処方である。
 加えて、メーカー宣伝コピーで 「副作用の少ない良い薬ができました」 と言い募る販売戦略の効果や、三環系抗うつ薬の副作用の誇張・強調により大学レベルの医師達は当然として、精神科クリニックの医師達ですら新規の抗うつ薬を優先して使用しているように思える。
 ここで再度明確にしたいことは、SSRI や SNRI などの新規抗うつ薬でも副作用は十分に存在することである。
 従来薬と比べて単に副作用の種類や出方が異なるだけなのである。
 たとえば自殺未遂や自殺衝動などの重大な副作用については、抗うつ薬非使用群との比較で、自殺未遂のリスクは有意に高いというデータが出ている。
 更に自殺手法が過激な点も注意すべきことではないかと思われる。
 これら地道な検証から見て 「副作用は少ない」 という表現は明らかに不適切であることを認識すべきであろう。

 更に、次々に SSRI についての注意点・問題点が国内外から指摘されているが、不思議なことに、国内でこの危険性を指摘するのは一部の医師のみであり、多くの指導的医師や研究者はこの点について少なくとも公的には触れない姿勢をとっている現状は奇妙としか言いようがない。

3. 新規抗うつ薬の限界と新たな問題点について

 効果という面では、新薬臨床試験で新規抗うつ薬 3剤の臨床治験の成績は、① fluvoxamine vs. amitriptyline 、② paroxetine vs. trazodone 、③ milncipran vs. imipramine and miansern と比較されているが、新規抗うつ薬で効果が優れていたのは ② の治験のみで、その他の抗うつ薬はいずれも従来薬と比べて効果が優れているわけではない。

 また、クリニックでは一定割合で従来型のうつ病 (メランコリー型患者) の中核群の患者が受診にくるが、SSRI などを単独投与してもなかなか好ましい結果が得られない印象がある。
 メーカーの勧めで投与量を上限まで増量したところで、SSRI の持つ奇妙で多彩な副作用が出現してしまい、せいぜい 40% ~ 50%くらいの改善率にとどまるという報告もある。
 すなわち意欲・気力が湧かず、気分の改善度は低めで不安定のまま社会復帰までには至らない。
 つまり新規抗うつ薬に対して反応性の悪い患者群が少なくとも 50%くらいの頻度で存在している。
 これを改善するには、三環系などの抗うつ薬が最初から必要であったと思わざるを得ない。
 あるいは最近発売された非定型抗精神病薬との併用を考える必要もあるだろう。

(症例呈示 : 省略)

Ⅱ 抗うつ薬の選択について

 DSM診断基準あるいは ICD-10 の診断基準は今更言うまでもないが、操作的なものである。
 これについて笠原が述べているものを引用しよう。

 「初心者に使いやゆすいし、世界のどこでも通用する利点は大きいものの、診断のラベル貼りで終わることに終始しているようなもの足りなさを感じる部不文もある。特に気分障害のように中長期の治療・予後を考える可能性の生じた対象については、多少仮説的になっても、もう少し原因論に踏み込んでも、また経過の予測が大胆すぎても、別種の診断学があってもよい」

 現在の治療を難しくしているもう1つの要因は診断の中味の問題である。
 診断基準が患者の述べる表面的な症状に限定されていることである。
 患者の雰囲気を感知して、語る口調を読む、あるいは現症を深く洞察するという部分に全く触れられていないことである。
 更には背景や原因についての考察を踏まえた上での総合的な診断とは言えないと思われる。
 要するに精神科医が持つ独特の感性の部分を外しており、あくまでも統計学的な基準に偏倚したものであることが、診療上厄介な問題をはらんでいる原因であると思われる。
 この診断基準に準拠した治療アルゴリズムはいかにも浅薄であり、症状の数合わせのような診断基準であるから、非定型例も 「うつ」 の中に紛れ込んでしまったと感じてしまう。
 これでは治療も難しくなるはずである。
 誰でもできるうつ病診断・うつ病治療は本質的には存在しないし、操作的診断・アルゴリズムが浸透すればするほど臨床能力の低い医師が増えていくように思えるのは筆者らの加齢現症であろうか。

 典型的な狭い意味の 「うつ」 (例えばメランコリー型うつ - 不安焦燥期から始まり抑制症状が残るタイプ) の治療であれば、従来型抗うつ薬と支持的精神療法による治療で対応が可能であり、ほぼそれで妥当であろう。
 非定型の 「うつ」 にはおよそ薬は何をしようしても十分な効果は期待しにくいという印象がある。
 むしろ SSRI や SNRI という薬は非定型の 「うつ」 に対して多少の効果が期待される程度のものではなかろうか。
 現実は 「うつ」 と言われる患者でも実態は他の疾患の初期症状の場合もある。
 微妙な病状の把握についてはマニュアルには書かれていない。
 ここが正に精神科医の経験や感性から診断を下す部分であろう。
 機械的なマニュアル - アルゴリズム治療に頼るしかない医師にとっては治療が困難な時代になってきていると思われる。
 今、必要とされているのは科学的な根拠を持ちながら、五感を働かせて、冷静な診断を下すことのできる精神科医ではないか。
 プロの精神科医たるものは経験を積むごとに常にマニュアルに対する疑問や違和感を自覚して治療に望みたいと思われる。

 アメリカの精神医学界の中に、うつ病治療のアルゴリズムはこのままで良いのかという疑問の声が挙がっている。
 この中で語られていることは、アルゴリズムの完成度をもっと上げるべきであり、より科学的で正確な根拠を求めて現実的 (real-world prctice) なアルゴリズムに変えていく必要があるという議論である。
 その中で、最初から単剤投与にする意味があるのか、あるいは初期治療を SSRI などに限定するのは臨床的に適切なのかという疑問が呈されている。
 彼らの中でも解答はまだ出ていないが、その議論を見て感じることは、常に EBM をより現実に近いものに作り替えてゆく努力の積み重ねが必要であり、現状とズレが少しでも生じた場合には更なる検証と改善を行うべきであるという強い信念である。

2. 薬剤の選択の問題について

 現状の一元的なうつ病アルゴリズム通りの処方パターンが席巻している中で、対極にあるのは、症状と副作用のバランスを考えた処方の組み立てである。
 症状から抗うつ薬の選択を提唱する森信のアルゴリズムを挙げてみよう。

● 臨床症状からみた抗うつ薬の選択

・抑うつ気分・悲哀感に、不安焦燥感を伴う場合

 抗コリン作用耐性 (+)
   ⇒ clomipramine 点滴 、あるいは amitriptyline ( or amoxapine) と trazodone の併用

 抗コリン作用耐性 (-)
   ⇒ paroxetine と trazodone ( or 抗不安薬) の併用、あるいは mianserin

・ 抑うつ気分・悲哀感に、不安焦燥感を伴わない場合

 抗コリン作用耐性 (+)
   ⇒ clomipramine 、あるいは amoxapine

 抗コリン作用耐性 (-)
   ⇒ paroxetine 、あるいは fluvoxamnine 、あるいは sertraline

・ 精神運動抑制に、不安・抑うつを伴う場合

 抗コリン作用耐性 (+)
   ⇒ amoxapine 、あるいは clomipramine

 抗コリン作用耐性 (-)
   ⇒ milnacipran と 抗不安薬 との併用

・ 精神運動抑制に、不安・抑うつ気分を伴わない場合

 抗コリン作用耐性 (+)
   ⇒ nortriptyline 、あるいは amoxapine

 抗コリン作用耐性 (-)
   ⇒ milnaciplan

 -- 臨床精神医学2006年増刊号 341-346 --

 この中でうまく副作用を避けながら、更に症状をよく見極めて三環系、四環系、あるいは SSRI や SNRI の区別なく適切に使う、実際の臨床場面での処方組み立てに近いものがあると思われる。
 臨床医にとって三環系、四環系の抗うつ薬あるいは SSRI や SNRI という区別は不要であり、症状と副作用のバランスを計った治療戦略を考えるのは当然のことであろう。

 三環系や四環系の抗うつ薬と SSRI や SNRI は異なったスペクトラムを持っており、それぞれの長所を生かす処方を組み立てる時期ではないかと考える。
 初診の患者に処方する場合、何に最も注意して処方を組み立てるのか、概略を述べれば SSRI を躊躇する理由は投与初期の嘔気や胃のもたれ感である。また初期にその副作用を訴えない患者も、4週目や 5週目になって初めて 「常に胃がもたれているようで、どうも気持ちが悪い」 「なんとくなく吐き気がある」 という人もいる。
 副作用頻度報告を見ると胃腸障害の頻度はせいぜい 7-14%くらいとそれほど高くない。
 胃薬を同時に処方してしまえば消えてしまうという意見もあるが、消えてしまう人とそうでない人と大体半々くらいの印象がある。
 胃腸障害が消えないで苦しいと述べる人は結局 SSRI は中止するのだが、この減量の仕方に工夫が必要で、これも使用上厄介なポイントと考えてよいと思われる。

 次も著者らの臨床的印象であるが、従来の三環系抗うつ薬と SSRI などの新規抗うつ薬の効き方を比べてみると、三環系の方が効果発現が早く自然な治り方と感じるのに比べて、SSRI などの新規抗うつ薬は効果発現が遅く、ようやく効いてきてもどこか無理やり背中を押されて突き動かされているような不安定な回復をする印象があり、SSRI は不自然な効き方ではないかと感じるところがある。

(症例提示 : 省略)

 1997年に報告された162編の RCT の meta-analysis では、副作用発現率は三環系抗うつ薬と SSRI とは差が無く、種類が異なっていただけであり、また治験からの脱落率も有意差を認めていない。
 更に SSRI は副作用は服薬早期のみの問題とされ長期的な忍容性は高いと言われているものの、EBM に乏しく相互作用の問題などを考慮すると SSRI が副作用の面で特に優れていると言えないのが現状である。

 上述のように、「副作用の少ない良い薬が出てきた」 という宣伝コピーは不適切であり、十分に副作用はある。
 一方の三環系・四環系の薬は初期に胃腸症状が出てくることは少なく、宣伝されているほど副作用は気にならない場合が多いように思われる。
 筆者らの疑問は、なぜこの時期に従来型抗うつ薬を販売しているメーカー各社は新規抗うつ薬メーカーの治療成績に対して反論しないのかという点があり、これほど一方的な市場も珍しいのではないかと考えるものである。
 商業主義の敗者は臨床上の敗者でないことを銘記したい。
 世界中の抗うつ薬治療において、ほとんどの国々は SSRI を初めとする新規抗うつ薬を主体とした治療が主流であるが、これが果たして正しい治療法なのかどうか、今後の研究の流れをしっかりと見定めたいと思う。

Ⅲ まとめ - 予想される今後のうつ病薬物療法の展開について

 おそらく今後数年以内に、アルゴリズムに示された薬物治療法は見直しが必至と思われる。

 1つ目の理由は、SSRI と従来型の三環系とは副作用の種類は異なるものの、起こることにかわりはないということ。

 2つ目は、薬価のことについてもう少し医師は敏感になるべきではないかという点。
 特に SSRI の 3種類は異様に高いと思われる。
 近い将来、先発発売された SSRI もパテントが切れるのでその時にどうなるかは不明だが、全体として医療費抑制政策の中でうつ病治療費のみ突出した伸び率などは容認されないであろう。
 SSRI は最近、精神科医外の診療科でもよく使われており、一種の社会現象といってもよいくらいの流行である。
 これはいかにも目立ち過ぎの感は否めない。

 3つ目として、根本的なことではあるが、そもそもなぜ画一的な単剤スタートなのか。単剤投与もよいが、もうそろそろ現実に似合った見直しをしてもよい時期ではないのか。
 多剤は副作用が出やすいとか、どの薬が効いているのか分からないとか、あるいは訴訟で不利になるという話もあるが、十分検討しながらの投与であれば、過度にそれを恐れる必要はないであろう。
 augmentation として多剤になってしまうケースもありうる。
 結果として多剤になるのと、最初から意図してそうするのは本質的に違うという声もあると思うが、型にはまらぬフランクな姿勢で治療に取り組んでみて、結果として多剤になってしまったら、これは仕方ないと思われる。

 4つ目は、このまま現在のアルゴリズムを浸透させてしまうと、効果の期待できる三環系抗うつ薬を放棄して、使用利用が不明確な新規抗うつ薬を第一選択にすることになり、そのような指導を受けている若い精神科医の臨床能力を著しく削いでしまう結果を引き起こすのではないか。
 確実な効果の期待できる三環系などの従来薬を見直すべきであり、はじめから固定的に考えない姿勢が求められると思われる。
 我々が抗うつ薬としての SSRI という薬を使用した経験から唯一学んだことは、単一のレセプターしか影響しないといわれる薬ほど薬効の乏しい抗うつ薬はないということではなかろうか。
 精神科医同士の雑談の中でしばしば冗談のように語られているが、各医師が頭の中で症状をターゲットにしてレセプターをイメージしながらカクテルを作るような処方がお勧めかもしれない。

 5つ目として、現在のアルゴリズムの中に、うつ病の軽症、中等症という分類を作ったことが原因の 1つであり、医療機関を受診してくるような 「うつ」患者を診たら、すべて重症のアルゴリズムを念頭に置いて対応することにより、いままで述べた問題のいくつかは解決できるのではないかと思われる。
 これは医療の常道として極めて常識的な結論に立ち返ることであり、臨床医としての基本的な心構えではないかというのが筆者らの提言である。

*****
大切な警鐘である。
森信のアルゴリズムにはわたしは部分的にしか賛成しない。

もっと深い診断が本質的に重要なことには賛成。
精神科の薬の効き方には精神療法との関連が重大であり、そのことについて、今後論じて欲しい。



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