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動機づけ面接法 基礎・実践編

動機づけ面接法 基礎・実践編
ウイリアム・R.ミラー/著 ステファン・ロルニック/著 松島義博/訳 後藤恵/訳
2007年6月

[要旨]
クライアントがアンビバレントな状態にあるとき、あなたはどう援助しますか?
なぜ人は変わることができるのでしょうか?
その答えが…本書の中にあります。
依存症の治療に革命をもたらし、
精神科を越えてあらゆる領域で応用されている面接法。
世界標準の技法となった「Motivational Interviewing」の邦訳。 
 
[目次]
第1部 基礎理論編
 なぜ人は変わるのだろう?;アンビバレンス(両価性)変わることのジレンマ;変化を促進する
第2部 実践編 動機づけ面接法とは;変化と抵抗―硬貨の両面
 第1段階 変化への動機を構築する;チェインジ・トークへの応答;抵抗への応答;自信を深める
 第2段階 「変わる」決意を評価する;実際の症例;倫理的考察
第3部 動機づけ面接の学習編
 学習を振り返って;学習を促進する 



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モチベーショナル・インタヴューイング(動機付け面接)

モチベーショナル・インタヴューイング(動機付け面接) について
甲府住吉病院の院長先生のブログから収録。

*****
今日は「退院準備プログラム委員会」がありました。私たちの持っている退院準備プログラムには、(主に)長期入院されている方が地域生活に再参加するために必要なスキルのうち、どういったものを提供しているのかという分析をしてみました。

いくつかのスキルをあげていくうちに「退院についてのモチベーションをどうやってあげるか」という課題が残りました。

最近、モチベーションをあげる方法としては「モチベーショナル・インタヴューイング(動機付け面接)」というものを聞いたことがあります。

Motivational Intervewing(MI)は、困難な状況でにっちもさっちもいかない、”今のままで仕方がない,と考えている人と話し、変化する方向に向けていく”ためのスキルとされています。

人が行動を変えない理由は何でしょうか。

・今までのやり方をかえることと、今までのやり方を変える必要がない理由を証明すること、
 どちらかを自分で選びなさいと言われたら、ほとんどの人は証明の方を選ぶ
 (John Galbraith)

・ストレスが高まり、そしてその反応として何か変えようとするときに、人はいつも自分自身の
 行動レパートリーの中で最もよく使う問題解決法で必要を満たそうとする。
 たとえその方法が役立たないとしても。

これらを変化させていくためのスキルがMIというわけです。MIにはいくつかの原則やプリンシパルがありますが、その中のひとつに、OARSという面接者の手順が示されています。それは、

1.開かれた質問(Open-ended questions)
2.是認(Affirmations)
3.聞き返し(Reflections)
4.要約(Summaries)

です。開かれた質問は、クライエントが自由に自分自身の考えを述べ、その中から解決法を自分で探し出していけるように配慮した質問の方法です。したがって「はい/いいえ」で答えられる質問ではなく、「どうやって?」とか「どう思い/感じますか?」など、答えを引き出すような質問になっています。その質問によって、クライエント自身によって

1.問題の認識
2.気がかりな点
3.変化への意思
4.希望を持つこと

が構成されるように会話をつなげていくものです。クライエントの自由な考えを引き出していくためには、善悪の価値判断は避けるべきで、会話の冒頭に「しかし」「でも」は禁句です。「なるほど!」と感心したり、違った意見を述べる場合には「一方では」というようにすると良いようです。

カウンセリング・スキルとしてのMIも重要ですが、そのマインドは日常のかかわりの中でもいかされるべきものと思われます。

*****
Motivational Intervewingの領域
・MIに関するMillerの最初論文発表(1983)
・Motivational Intervewing初版(1989)
•著者:Miller,Rollnick(心理学者)
アルコール依存薬物依存などアディクションの治療
•MI訓練ネットワーキング(1995)設立
•MIビデオ出版(中国・伊・仏・独などで翻訳)
・Motivational Intervewing第2版(2002)
Motivational Intervewingの理論的基盤
実践における適用など25章から構成
アルコール依存・肥満・糖尿病・心疾患・禁煙・精神疾患

Motivational Intervewingの定義
クライエント中心技法であり、
アンビバレンス(反対感情の並存)
を探り、解決することによって、
変化への内的なモチベーションを高めるものである。
治療(Treatment)や療法(Therapy)とは本質的に異なる

Motivational Intervewingの基盤となるスピリット
•協働(Collaboration)
•実践者と対象者との関係は同じ水平的立場
•実践者は、肯定的な人間関係的環境を創る
•喚起(Evocation):呼び起こす
•協働する時の実践者の姿勢や声の調子は
•何かを他者に授けるというものではない
•自律(Autonomy)
•変化に対する個人の能力を信じること
•What  do you want to do?
•変容を促す会話(Change Talk)

行動変化を促すための動機づけ質問技法の進め方
•課題の設定
•重要性を認識する(Identify Personal Values)
•不協和状態を作る(Create Dissonance)
•個人の価値と最近の行動を比較する
•目標をたてる(Set Goals)
•計画を立てて実行する(Develop Plan and Implement)
From G.Welch

課題の設定ー扉を開ける
(協働的関係を作り出す)
・患者が変えたいと思う部分について、十分に話し合う機会を提供する
・緊急の課題
・医療職者にとって、重要な課題
ドアをノックするようなもの
「個人的な事柄についてお聞きしてよいでしょうか」
「もしよろしければ、計画について説明しようと思いますが・・・」

重要性を認識する・・・20の項目の中から、5選ぶ
•心丈夫・安全・生活力や他への影響力
•友情・人生を楽しむことや挑戦
•良好な健康状態・退職後の満足
•配偶者や子どもとの関係・長寿
•他の家族との関係・旅行の機会
•仕事や昇格・他人からの尊敬を得る
•有意義な職場環境・精神的な達成感
•経済力・社会の役に立つ
•地域環境での生活・自由な時間がある
•自信に満ちた外見や容貌
・名声や社会からの尊敬

最も価値のある(Highest)ものを明確にすることが、行動変容への動機づけにつながる

Set Goals目標を立てる
•可能性のある解決策は、その個人から生まれる。
•自分自身をささえるために、責任を自分自身がもつ。
•患者自身が、障碍にうまく対処できるようになる。
•解決策は、医療職者の処方から生まれるのではない。
•医療職者は、患者のたてた解決策が、科学的根拠にもとづくか?判断する役割を担う。

*****
概略このような感じ。
アルコールをやめるとか、糖尿病でカロリーコントロールするとか、
そのあたりのことらしい。

「今のままでは仕方がない」と思いつつ、
「どうすればいいか分からない」と思う人は多いので、
このような方法を技法として意識すれば、
「何をすればいいか」がはっきりしてくると思います。



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睡眠導入抗ヒスタミン剤 ドリエル ナイトール

日本では睡眠導入薬と名づけられた店頭販売医薬品(OTC)が、半年で100万個も売れたそうです。よく眠れない、良い睡眠が欲しいという程度の人を加えれば、不眠に悩む人は日本だけでも2千万人を超えるのではないかといわれていますから、快眠を求める市場は非常に大きいといえます。
睡眠薬の多くはベンゾジアゼピン系誘導体であり、最も普及しているのがトリアゾラムを配合したハルシオン(注1)ですが、ハルシオンは医師が処方する医薬品であり、OTCではありません。

エスエス製薬が2003年4月1日に売り出した、店頭販売医薬品(OTC)ドリエルの成分はヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン剤)の塩酸ジフェンヒドラミン(注2)です。グラクソのナイトールも主成分は塩酸ジフェンヒドラミン。

簡単に言えば、アレルギー性鼻炎の昔の薬の副作用で眠くなることを利用している。
医療用でいえば、ポララミンとかヒベルナ、アタラックスがそれにあたる。

風邪薬や鼻炎カプセルなどに配合される抗ヒスタミン剤に、催眠効果のあることはよく知られています(注5)が、ドリエルはその作用を利用した抗ヒスタミン剤であり、ハルシオンや米国ではOTCで販売されているメラトニン(Melatonin (N-acetyl-5-methoxytryptamine) とは作用が異なります。
したがって睡眠導入抗ヒスタミン剤は精神神経に関する疾病や、不眠症を治療するものではありません。

米国では、塩酸ジフェンヒドラミンは、主として、枯れ草病hay fever、花粉症、風邪などの鼻炎、涙目などのアレルギー症状や、虫さされのかゆみ止めに使用されている成分です。
塩酸ジフェンヒドラミンを配合した抗アレルギー薬品ではワーナーランバート社 Warner-Lambert CompanyのベナドリルBenadrylが最も著名といえます。(2000年にファイザー社Pfizer Incと合併したため、現在はファイザー社が販売しています)

米国にはレム睡眠(注4)を防ぎ、睡眠援助sleep aidというような表現で、睡眠導入効果を謳う店頭販売医薬品(OTC)が数多くあり、ほとんどがドリエルと同じ抗ヒスタミン剤ですが、使用されている成分は、やや異なります。 米国で最も著名な睡眠導入抗ヒスタミン剤は、ベナドリルを販売しているファイザー社のユニサムUnisomです。
抗ヒスタミン剤には大別して15種類の成分があります(注6)が、ユニサムはコハク酸ドキシラミン(注3)を配合しています。この他、ユニサムに競合する睡眠導入抗ヒスタミン剤にはマレイン酸クロフェニラミンChlorpheniramineやフマル酸クレマスチンClemastineを配合した商品があります。(これら抗ヒスタミン剤は日本の大衆風邪薬や目薬にも配合されています)

抗ヒスタミン剤類は副作用もありますから、連用することや、妊婦、幼児、アレルギー体質の方は避けることが賢明です。またドーピング禁止剤に指定されている成分もあります。胃腸疾患や代謝異常も不眠の原因になりますから、その治療も必要です。 軽度の不眠は食生活など生活習慣の変換により解消することが多いと言われていますから、生活習慣を再度チェックなさることをお奨めいたします。

ドリエルのサイトはよくできている。睡眠についてちょっとチェックしたいときに参考になる。
http://www.ssp.co.jp/drewell/05-01.html
http://www.ssp.co.jp/drewell/05-02.html
http://www.ssp.co.jp/drewell/05-03.html
http://www.ssp.co.jp/drewell/06.html

ナイトールのサイトはこちら
http://nytol.jp/pc/nebusoku/index.html
http://nytol.jp/pc/hint/index.html

注1)ハルシオンHalcion 成分名トリアゾラム triazolam C17H12Cl2N4 ベンゾジアゼピン系誘導体 benzodiazepine
ファルマシア株式会社Pharmacia& Upjohn Company (ファルマシア社は 2003.8.1ファイザー社Pfizer Incと合併)
注2)塩酸ジフェンヒドラミン Diphenhydramine hydrochloride、Antihistaminic, H 1 -receptor  2-(Diphenylmethoxy)-N,N-dimethylethylamine  C17H21NO・HCl.
 塩酸ジフェンヒドラミンは厚生労働省の作用別分類ガイドラインでは、抗炎症と鎮痛剤に分類されています。抗炎症と鎮痛剤は5種類に分類されていますが、塩酸ジフェンヒドラミンは、その内のヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン剤)に分類されます(注6)。
注3)コハク酸ドキシラミンDoxylamine Succinate Antihistaminic, H 1 -receptor  2-[alpha-(2-dimethylaminoethoxy)-alpha-methylbenzyl] pyridine, succinate C17H22N2O.C4H6O4
注4)レム睡眠 REM(Rapid Eye Movement)急速眼球運動
レム睡眠とは肉体が睡眠状態でも、眼球が動いたりする状態を指します。反語としてノンレム睡眠がありますが、これは脳が眠る状態です。一般的には、一回の睡眠中にレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返されるようです。お酒に強い方は、深酒時にはレム睡眠時間が長くなり、すっきりした目覚めが無いことを感じているでしょう。
注5)脳の睡眠・覚醒に関係が深い視床下部の後部には、興奮性ニューロンといわれるヒスタミンニューロンが多く存在しています。その末端から放出されるヒスタミンは、大脳皮質をはじめ脳の様々な部位の神経細胞を興奮させることによって覚醒の維持・調節をしています。塩酸ジフェンヒドラミンは、このヒスタミンの作用を抑制して、睡眠鎮静作用をあらわすと考えられています(エスエス製薬)。
注6)ヒスタミンH1受容体拮抗薬成分 Antihistaminic, H 1 -receptor
アザタディンAzatadine
ブロムフェニラミンBrompheniramine
セティラジンCetirizine
クロフェニラミンChlorpheniramine
クレマスティンClemastine
シプロヘプタディンCyproheptadine
デスロラタディンDesloratadine
デクスクロフェニラミンDexchlorpheniramine
ディメンヒドリネイトDimenhydrinate
ディフェンヒドラミンDiphenhydramine
ドキシラミンDoxylamine
フェクソフェナディンFexofenadine
ヒドロキシジンHydroxyzine
ロラタディンLoratadine
フェニンダミンPhenindamine:



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語りえないものを語り 聞き得ないものを聞く

一方は語りえないものを語り 
一方は聞き得ないものを聞く

なんという困難だろう

語りえないことには沈黙せよという人もいる中で、
なおも試みること

これは言語というものに騎乗している人間の病理だろう
言語が語るとき、
その外側が必ず存在する
苦労してそこまでで語ったとすれば、
さらにその外側が存在する

宇宙のへりに行って、手を伸ばしたら、宇宙はその分拡がるけれど、
またその外側は常にある感じ

共有されない体験を伝えることは何という困難だろう

たとえば真珠を知らない人に
真珠を10万円出してでも買いたい人の気持ちを
どのようにして伝えられるだろう

よく考えて、10万円でいいと思うなら買いなさいとアドバイスするのは
誰でもできる
10万円は大金なのか
真珠はどれだけ美しいのか

またたとえば、黒真珠の輝き
黒真珠の魅力をどう伝えたらいいのだろう

真珠は一個一個違うので、
実際、ほれ込んだら、欲しくなるだろう
しかし値段に値するかどうか

よく考えて、自己責任で、そういったアドバイスは、
個人の体験の内側に踏み込んでいない
形式的なもの、いわば公式である

その人は何を体験してるのか
そのことを理解できるのか

理解できないとすれば
どうしてあげられるのか

語りえないものを語り
聞き得ないものを聞く

そうとしかいえない

共有できる体験ならば
語りあうこともできる

たとえば操作的に説明することもできる
六本木ヒルズの展望台で富士山を眺めているときに
震度5の地震が起こって、そばの壁の突起をつかもうとしたら、するりとすり抜けて、
7段の跳び箱を飛ぼうとして踏み切ったときに突然跳び箱が消えたような感じ
など

しかしそのような
比喩も、
操作的な追体験も、
不可能なものをいかにして伝達すればいいのか。

救ってもらおうにも、
相手はそれを理解しないし、知らないとしたら、
何と絶望的なことだろう。

地球の表面は限りがある。
すべてをグーグルの地図に収録できる
しかし体験と言葉の関係は常に体験の側に残余がある
言葉はいつも足りない
だから比喩などを用いて拡張しようとする
新語も造語もする
しかしそれは集団の試みであって
個人の体験を表現するものではない

鈍感であるなら、大雑把な表現で満足するだろう
新橋も銀座も日比谷も含めて、そこら辺だ。
しかし精密な理解をして欲しい人は、
日比谷でもない、銀座でもない、新橋という場所を指し示したいのだ。
そのための言葉が見つからず、
たとえもできず、体験してもらうこともできないとしたら。

その地点で精神科医と患者は出会っている。

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ゼチーア錠10mg 新機序の高脂血症治療薬

一年前の話ですが、収録。

*****
ゼチーア:新機序の高脂血症治療薬が日本上陸へ

 2007年4月18日、高脂血症治療薬エゼチミブ(商品名:ゼチーア錠10mg)が製造承認を取得した。高脂血症の薬物治療では、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)やフィブラート系薬剤が主流となっているが、エゼチミブはこれら既存薬とは異なる作用機序を持つ薬剤であり、わが国の高脂血症治療に新たな選択肢が登場する。

 高脂血症の1つである高コレステロール血症の治療では、生体内でのコレステロールの生合成を阻害するか、食事などからのコレステロールの吸収を阻害することが基本となる。現在の高コレステロール治療の主流であるスタチン系薬は、主に肝臓でのコレステロールの生合成を阻害する薬剤であるが、これに対し、今回承認されたエゼチミブは、小腸からのコレステロールの吸収を阻害することで高コレステロール血症を改善する。具体的には、小腸からのコレステロール吸収に関与する「小腸コレステロールトランスポーター」を阻害する作用を有する。

 エゼチミブの標的であるこのトランスポーターは、小腸壁におけるコレステロール輸送機能を担っており、小腸上部の刷上縁膜上に存在する。同薬は、これを阻害することで、胆汁性および食事性コレステロールの吸収を54%低下させる。また、欧米でのデータでは、作用機序の異なるスタチン系薬剤との併用により、スタチン系薬剤単独投与では十分な効果を示さなかった症例においても、相加効果として有意なコレステロール低下(LDLコレステロール低下)効果が認められている。

 このほかにも、(1)高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症のほかに、既存の経口薬にはない「ホモ接合体性シトステロール血症」の適応を有している、(2)エゼチミブは腸肝循環し小腸局所で長時間作用するため、1日1回投与が可能。錠剤も小さく、良好なコンプライアンスが期待できる、(3)主要代謝経路はグルクロン酸抱合であり、生体内で肝薬物代謝酵素チトクロームP450が関与する代謝を受けないため、薬物相互作用が少ない――といった特徴がある。エゼチミブは、2002年に米国で発売されて以来、現在までに世界90カ国以上で承認され、既に1000万人以上の患者に使用されている。

 今後、エゼチミブは、高脂血症の薬物治療における新しい選択肢として、わが国でも広く使用されていくものと考えられるが、これまでにない新しい作用機序を持つ薬剤でもあり、使用に際しては、副作用などについて十分な注意を払う必要があるだろう。

 国内臨床試験における副作用発現率は18.8%で、主なものとしては便秘、発疹、下痢、腹痛、腹部膨満感、悪心・嘔吐であった。臨床検査値異常は12.1%に認められ、γ-GTP上昇、CK上昇、ALT上昇などが報告されている。また重大な副作用としては、アナフィラキシー、血管神経性浮腫、発疹を含む過敏症、横紋筋融解症、ミオパシーの報告がある。これらのうち、横紋筋融解症の発症した症例は、ほとんどがエゼチミブ投与前にスタチン系薬が投与されていた。なお現時点では、フィブラート系薬との併用に関しては、有効性及び安全性が十分に確認されていないとの理由から、避けることが望ましいとされている。



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「反応性抑うつ」「心因反応」「適応障害」について

企業に提出される診断書に書かれる診断名として、最も多いのが「うつ病」「抑うつ状態」「うつ状態」「反応性抑うつ」などである。

 このうち「抑うつ状態」「うつ状態」は、状態像の診断であり、「うつ病」は疾患名である。したがって、抑うつ状態やうつ状態を呈する疾患は、うつ病に限らず、神経症(今でいう不安障害のことで、パニック障害なども含まれる)、統合失調症、認知症、薬物因性精神障害(ステロイド薬服用中など)、身体疾患に合併する精神障害(クッシング症候群など)などがあるということになる。

 一方、うつ病という病名は、限定的な意味合いで使用されることがある。その一例が、最近増えている「反応性うつ病」(反応性抑うつ)のみを指す場合である。反応性うつ病とは、何かはっきりした原因をきっかけにうつ状態を呈した場合をいう。例えば、仕事上でミスをしたとか、行きたくない部署(医師の場合なら行きたくない病院)に異動になったという出来事が、きっかけになる。

 また「内因性で単極性のうつ病」のみを、うつ病と呼ぶこともある。内因性のうつ病は、原因が明らかではなく、素質や遺伝的素因が関係していると考えられるうつ病である。単極性うつ病は、躁とうつの両相を持つ双極性うつ病(躁うつ病)と区別する意味で使用される分類で、うつ病相のみの病態をいう。

 なお、すべての精神障害は、その原因によって「内因性」「心因性」「外因性」の3つに分類される(表1)。

表1 精神障害の原因による分類

1) 外因性 : 薬物、物質(アルコールなど)、身体疾患、脳器質性疾患
2) 心因性 : 心因や葛藤
3) 内因性 : 遺伝、素質

 外因性の精神障害は、「心の外側に原因がある精神障害」という意味である。服用している薬剤による場合や、アルコール性の場合などであり、何らかの身体疾患が原因で生じる場合も外因性に分類される。脳腫瘍などの脳内の器質性疾患は少し分かりにくいが、「心の外側に原因がある」という定義から考えれば、外因性に分類されることが分かるだろう。外因性のうつ病は意外に多く、例えば糖尿病患者の10~20%にうつ病が合併するし、パーキンソン病に至っては30%以上にうつ病が合併すると言われている。

 心因性の精神障害は、心理的な原因や性格的な葛藤があって生ずる精神障害のことである。従来の「神経症」が典型例であり、しばしば話題になるPTSD(心的外傷後ストレス障害)や、先述の反応性うつ病も、この心因性精神障害に入る。

 内因性の精神障害は、素質や遺伝によって生ずるもので、統合失調症、躁うつ病、再発を繰り返す単極性うつ病などが、これに分類される。

「心因反応」から「適応障害」へ
 「心因反応」という診断もよく聞くが、これは医師側からすると、とても使いやすい病名である。何らかの心理的なきっかけがあり、その反応として生じた精神障害のすべてを包含した病名だからである。症状は何でもよく、不安でも、不眠でも、幻覚や妄想でも、抑うつ症状でも、躁症状でもよい。つまり、「心因反応」という診断に比べると、「反応性うつ病」は、とても正確な診断ということになる。

 現実には、統合失調症も心因があって発症することが多いため、特に初期の段階での患者や家族への説明、診断書やカルテの記載に、「心因反応」という診断名が使われることが多いようである。

 この心因反応は、精神医学の臨床でも以前は多用されていたが、最近ではこれに代わって「適応障害」が使われるようになっている。適応障害という病名は、ショックがあっても人間はそれに適応するように努力することが前提となっており、それに失敗すると心身の症状が現れるという考え方である。心因反応と同じように広い病態を指すが、病気の主体が「イベント」から「人間」にシフトしてきたことで、新たに登場した病名と言えるだろう。具体的には、新しい職場に慣れずに不眠気味になるなど、職場への不適応が続いている状態が「適応障害」である。

 



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うつの性格と対象喪失

うつ病になりやすい性格としては、次の2つが有名である。

■メランコリー親和型性格
 ドイツの精神科医テレンバッハが指摘したもの。ルールや秩序への志向性が強く、仕事上では責任感が強く、周囲から期待される性格である。対人関係も、「相手がいて自分がいる」という考え方で接する。いわば「いい人」であり、友人も多く、職場でも信頼される。

■執着気質
 わが国の精神科医である下田光造が指摘したもので、熱中性、執着性、徹底性、律儀、強い責任感などが特徴である。いわば「真面目な人」であり、職場では絶対的に信頼されて、仕事を任されることが多い。

 メランコリー親和型性格の人は、連続性や一貫性を大切にする。他人を大事にしながら、与えられた課題を完全に達成する「責任感が強い性格」である。こうした性格の人にとっての危機は、その連続性がとぎれることであり、一貫性がなくなる時である。これがいわゆる「喪失体験」であり、心理学的には「対象喪失」と呼ばれる。メランコリー親和型性格の人は、対象喪失をきっかけにうつ病を発症しやすい。

 対象喪失には、大まかにいうと、次の3種類がある。

 1つめは「もの」を失うことである。財布を落としたり、大切にしていた物を盗まれたりするなど、物理的・外的な「もの」だけでなく、心理的・内的な「もの」をなくすこともこれに含まれる。例えば、死別や失恋はもちろんのこと、けんかをして友情関係を失ったり、子供が成人して家を出ていったり、娘が嫁いでいくことなどである。

 2つめは、自己と一体化していた環境・地位・役割を失うことである。具体的には、住み慣れた家からの転居や故郷からの別れ、定年退職、転勤、卒業、転校などである。病気やけがによって、それまでの社会の中での役職や、家庭内での役割を失うことも、これに含まれる。

 3つめは、自分自身の機能や体の一部を失う場合である。けがをしたり、手術などで身体の一部やその機能を失ったりすることはもちろんだが、心筋梗塞などの病気に罹患して、仕事上や日常生活の制約を受けたり、性欲や野心などを失ったりする場合も含まれる。

 こうした対象喪失は、当然のことながら、そうそう簡単に忘れることはできず、長い時間をかけて様々な心理状態をくり返しながら、対象喪失を知的に理解しつつ、失った対象を情緒的にも断念していくという過程を経る。さまざまな情緒状態や防衛機制をくり返す、こうした一連の心理過程のことを「悲哀の仕事」と呼ぶ。「対象喪失」に続く「悲哀の仕事」を理解しておくことは、うつ病の発生過程を理解するのに非常に有益である。

否認、現実検討、怒り、躁的防衛、自責…
 「悲哀の仕事」の最初は「否認」である。これは、現実に起こっていることを無意識的に認めまいとする防衛機制であり、対象を失ったということを認めまいとする心理機制である。具体的には、「まさか」「そんな馬鹿なことはない」「何かの間違いだ」などと表現されることが多い。「否認」という心理機制は、次の段階である「現実検討」と交錯しながら進んでいく。現実検討がなされた時点から、真の「悲哀の仕事」が始まることになる。

 悲哀の仕事の経過中には、様々な心理・情緒状態や心理的防衛機制が混在して見られる。例えば、一時的にせよ、失った対象に対する「執着」が高じると、「ああ、オレも昔は○○だったんだなあ」と、失った対象への「理想化」が始まる。一方で、「なぜ自分だけが、こんなにつらい目に遭わなければいけないんだ」という「怒り」の感情も現われてくる。

 怒りを、より身近な例で説明するとすれば、医局のチームでやってきた仕事が失敗したという対象喪失に際して、「あんなに頑張ってやってきたのに教授に叱られるなんて。まったく同僚のAは何をしているんだ。言ってくれれば手伝ってやったのに…」とイライラしたり、「うまくいかなかったのは、元はといえば、部長が俺ばっかりに仕事を押しつけたからじゃないか」と憤ったりする。このような上司や同僚への「怒り」が、家族への八つ当たりになるとすれば、それは「置換」という防衛機制が働いていると考えることができる。

 一方で、特にメランコリー親和型性格の人は、相手を責めるばかりではなく、「悔やみ」や「自責」が見られるようにもなる。「なぜ、もっと自分自身がもっと頑張れなかったんだろう」とか、「自分さえもっと気をつけていれば、こんな失敗にはならなかったんだ」といった具合である。逆に、いつもよりも明るくふるまうケースもあるが、これは「躁的防衛」と呼ばれるもので、抑うつ的になることへの防衛機制であると理解できる。

 このような心理過程を経ながら、抑うつを克服して(抑うつを軽い程度にとどめて)、新しい状況に再適応していければ、うつ病に至らずに済むことになる。しかし、どんなに誤魔化そうとしても、どんなに忘れようとしても、「現実的な状況は少しも変化していない」「自分たちが大きな失敗をしたことはやはり事実なのだ」などと認識してしまうと、少しずつ「抑うつ」という最終的な段階に進んでしまうのである。

執着基質の人は「過労」が原因に
 一方、執着気質の人は、いったん仕事を始めたら、最後まで完璧に仕上げるようと精一杯の努力をする。そのため、上司も「あいつに任せておけば安心できる」という信頼感を寄せ、結果として、「仕事ができるやつ」「真面目な人」という評価が、上司からだけでなく、同僚や後輩からも得られるようになる。しかし、あまりに真面目すぎて、臨機応変に対応するとか、休むとか、気を抜くといった対応ができないという欠点がある。

 このような人がうつ病になるとしたら、それは過労がきっかけである。自分自身が過労状況であることに気付かずに、与えられた仕事を最後までやり通そうとするため、知らず知らずのうちに、抜け出すことができないほどの疲弊状況に陥ってしまうのである。

 

 



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風景構成法再再論

風景構成法が終り、最後に患者さんに感想を聞く。
「へんです」「へたです」と語り、
どこが変なのか、語りだす。すると、その一つ一つの指摘は正しい。
すると、空間構成を支配している脳の部分は、書くという運動に通じる部分と、見るという感覚する部分とに分かれていて、
これで上手だとは思わないで、書かざるを得なくて書いているに過ぎない。
書いたものを見れば、おかしいと分かるし、他人の作品を見れば、それがずっと上手だということも分かる。

だとすれば、もし、線を引くときに無限に訂正ができたとすれば、
正しい線の位置を選び出すはずであり、
そのことは、脳の中の風景の構成は正しいのだから、表現の技術だけが間違っているということになるだろう。

観察したときに、どちらが風景として自然かが分かっていること、それだけが、脳の内面での、風景の構成である。
それは慣れとか技術の問題である。

従って、風景構成法を患者さんが描くということには意味はないのではないか。
繰り返していれば、コツをつかみ、自分のスタイルをつかんだりするだろう。
それだけのことだ。続けて描いていればそれらしいものになり、
つまりは普通の意味でまとまりの良いものになる。
そのこと自体に治療的な意義があるのか、議論がある。

どんどん平均からずれてゆく傾向を示すことはまれで、
それは明白に、その描写が、平均からの逸脱を志向していると考えざるを得ない。

何しろ自分は画面を見ながら、一瞬先をイメージしながら描いているはずであって、
自動書記でもないのだから。

しかし一方、理屈はともかくとして、
風景構成法は私は大好きで、
そこには治療者が介在しないで成立する患者がいる。
そして治療者の解釈を許容する以前の患者がいる。
実におもしろいものだ。



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COPDの図

無題200804161.JPG

COPDと喘息をきちんと区別しようとのこと。
スピリーバという薬で楽になります。
進歩したものです。

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症状に名づける

症状に名づけるから、
正体が分かる。
対策も分かり、危険の程度も分かる。
我慢もできて、
つらさに付き合うこともできるようになる。
まず名づけて正体を知ることだ。

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苦しみにニックネームをつけること

心の苦しみは
形に見えないから
扱いにくい。

扱いやすくするために、
ニックネームをつける。

数学でも、……をXとすると、次の式が成り立つ、

などという。
式を立てるためにも、名づけることが必要である。
名づけた後は、移項ができたり、微分ができたりする。

XでもAでもαでもいいのだが、
例えば、「元彼とのことが気持ちの中で整理し切れなくて、
考え始めるとつらい」ようなことを、まとめて、
「元彼発作」と名づける。

すると話がまとまりやすくなり、
扱いやすくなる。

疲れていてスケジュールがいっぱいなのに断りきれない癖を
「いい人発作」と名づけて、
「イイ人発作」が起こりそうになったら、気をつけてもらう。

名前をつけることで、
客観的に扱うことができるようになる。
患者さんと治療者が言葉でのやり取りがしやすくなる。

その不快感に
なにかニックネームをつけましょう。

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言葉で語りえないもの

患者さんの言葉を聴いていていると、
例えば、平面に上に浮かんだ、ふわふわした雲のようなイメージが浮かぶ。

言葉で語れるのは、平面上の位置だけだある。
つまり、雲の影だけを語ることができる。
影の位置と変化については語ることができる。
しかし雲そのものについて、もっとくっきり、立体的に語ることはなかなかに難しい。

言葉をどんなに精密にしても、
依然として、平面内での指し示しなのであって、
上の方向についての描写はできない。

上の方向については、
ある種の超越になる。

これは科学ではなく、アートというもので、再現性もないし、追試もできないだろう。
しかしそのような心理現象に魅入られる人間もいるもので、
仕方がない。

そもそも、日本語にしても、英語にしても、
精神の変調を精密に描写する言葉は持っていないはずなのだ。
共有される言葉になるのならば、
それは共有されている体験であり、
だれもこんなにも恐れるはずはない。
共有されない体験を共通の言葉で語ることはできないはずである。

言葉で共有される体験ならば、
解釈可能であり、精神病と呼ぶほどのこともない。
ただの変調である。
語り得る変調。

しかし私たちは語りえない変調を扱う。

語りえないものだからこそ不気味なのであり、
異様なのである。
語りえないものを必死に語る。
それは比喩を用い、あるいは目の力で、表情の力で、
言葉の一段上の階層の理解・共感を探ることだ。
にじみ出る何かが、
言葉の平面状だけからは分からないはずの何かを
伝えてくれる。

このような一回限りのアートに似た体験は、
どう名づけたらいいのか分からないが。
これが精神療法なのである。



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週間活動記録表

http://www.geocities.jp/ssn837555/CBT-sheets/weekrecord.xls

上をコピーして、アドレスボックスに入れる。
印刷に適したように横印刷にして、一枚にはいるように余白を調整。

http://www.geocities.jp/ssn837555/CBT-sheets/weeklyrecord.html

これを開いて、範囲をコピーして、エクセルに貼り付けてもできます。

自分で作っても、すぐですけどね。

一ページに
・状況
・気分
・自動思考
・根拠
・反証
・適応的思考
・心の変化
などを記入しますが、
ここで紹介したのは、最初の二つだけのものです。
二つだけでも役に立ちますから、
可能なだけ書いて、持参してください。
それをもとに、話し合いましょう。

weeklysheet2.jpg

こんな形で書いてもいいですね。

日付時間状況気分自動思考合理的な考え
○月○日○時休日の今日は、ベッドで一日中ゴロゴロしていた憂うつ
自己嫌悪
自分は、ダメな人間だ。
 活動的になれないし、物事に対して興味をもてない。
 何もしていな..


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癌患者 死にたい人のほとんどは 助けてほしいと 願っている

第6回日本臨床腫瘍学会学術集会

“死にたい”という癌患者のほとんどは生きることへの援助を求めている【臨床腫瘍学会2008】

 入院中に自殺した患者の3分の1以上が癌に罹患していたというデータがある。“死にたい”という癌患者に対して医師はどう対応すればよいのだろうか。その答えの一部を示す講演が3月20日~21日に福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会の教育セッションで示された。

 同教育セッションで「がん患者はなぜ死を望むのか?」と題した講演を行った名古屋市立大学医学部准教授の明智龍男氏は、これまでの国内外の研究成果を総括し、進行・終末期の癌患者において希死念慮が見られることは稀ではないと述べた。また、これまでの癌患者の自殺に関する統計から、男性は女性よりも自殺のリスクが高く(約2倍)、診断後1年以内の進行癌患者が最も自殺リスクが高いというデータを示した。また、自殺の最大の要因としてはうつ状態があるとした。これらのことから、明智氏は、進行癌の告知後の心理的援助は非常に重要と語った。

 また、患者の希死念慮の底には、身体的機能の低下や、痛み、うつ状態や家族への負担を気にするなど、様々な苦痛が複雑に絡み合っていると分析した。

 ただし明智氏は、「“死にたい”という癌患者のほとんどは、生きることに対する援助を求めている」と語り、今ある苦痛から逃れたいという気持ちから、希死念慮が生じていると分析した。

 希死念慮を持つ患者に対して医師がどのように対応すべきか。明智氏は、「オープンで非審判的なコミュニケーションが何よりも重要」という。オープンで非審判的なコミュニケーションとは、患者が“はい”、“いいえ”以外の言葉で答えられるような質問をし、患者の回答に寄り添うような姿勢を示すこと。

 具体例として明智氏は、実際にあった患者との対話の一例を披露した。


患者:「もう死にたい、、、」

医師:「きっと、つらいことや心配がおありなのでしょうね。もう少しお話いただけますか?」(これがオープンな質問)

患者:「これからのことをいろいろ考えてしまうんです。最近、不安で夜も眠れないんです」

医師:「これからのことが不安で、そんな気持ちになられるのですね」(苦痛を理解し寄り添う姿勢)

 

 また明智氏は、「うつ状態と思われる患者がいた場合、専門家に紹介して欲しい。ただし、紹介ができないような場合には、安易に睡眠導入剤や抗不安薬を使うのではなく、抗うつ剤を処方して欲しい」と訴えた。その理由として、「睡眠導入剤や抗不安薬は、効果がないことが多いばかりでなく、害を生じる危険性もあるため」と解説していた。

*****
抗うつ剤と精神療法が必要な場面である。

このような危機に際しては、ナムネス(無感覚、Numbness)や離人症(depersonalization)が起こり、
人格の傷つきやすい部分を守ることも多い。



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認知療法で自殺の反復を50%予防できる

認知療法で自殺の反復を50%予防できる-米国の研究結果から

 自殺増加に悩む日本にとっても注目すべき研究成果が発表された。米Pennsylvania大学のGregory K. Brown氏らは、自殺企図者(=自殺未遂者)に対し、通常のケアに加えて、10セッションの認知療法を実施した場合の、反復性自殺企図の予防効果を調べた。その結果、認知療法がうつを軽減し、自殺企図の繰り返しを50%予防できることが明らかになった。詳細は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌2005年8月6日号に報告された。

 自殺は、2002年の米国における18~65歳の死因の第4位を占めた。米公衆衛生局が作成した「自殺予防のための国家戦略」は、自殺リスクが高い人を特定して治療を行うことを推奨している。

 自殺の強力なリスク因子の一つが、自殺企図だ。追跡死亡率のメタ分析の結果は、自殺企図者の自殺既遂率は、自殺企図歴のない人の38~40倍にも及ぶことを示唆している。前向き研究でも、自殺企図の、リスク因子としての確実性を示している。

 しかし、自殺企図の反復を予防する治療に関するエビデンスは少ない。これまでに、強力な追跡または症例管理、対人関係療法、認知療法などが評価され、認知療法または問題解決法の効果が示唆されたが、無作為割付比較対照試験(RCT)の必要性は高かった。

 今回の試験では、自殺を試み、病院の救急部門で48時間以内に医学的、精神医学的評価を受けた成人120人が対象。平均年齢は35歳で61%が女性。全員にケース・マネージャーによる通常のケアを実施。半数には認知療法を追加した。

 認知療法は、毎週または1週おきに行った。自殺企図に至る考え方や概念を認知し、それらに対処する方法を学ぶ。また、ストレスをもたらす刺激に対抗する方法を会得、絶望感、困難、孤独と戦う方法を知る。最終段階で、自殺企図の際の感情やイメージを呼び起こし、それらに適切に対応する能力を獲得しているかどうかを評価する。

 ベースライン時に77%が大うつ病、68%が薬物依存(30%がアルコール、23%がコカイン、17%がヘロイン)で、85%の患者が1つ以上の精神疾患の診断を受けていた。58%が薬物過剰摂取、17%は貫通性外傷、7%は飛び降りなどの方法で自殺を図っていた。

 追跡期間のうつの程度は、医師によるHamiltonスケールと自己申告式のBeck抑うつ尺度IIを用いて評価。絶望感はBeck絶望尺度で、自殺念慮は自殺念慮尺度で評価した。リスクが大きいと判断された患者は、外来での治療でなく、専門の救急部門に搬送、入院ベースで試験を継続した。追跡期間中の脱落者の数に有意な差はなかった。

 ベースラインから18カ月目まで評価。認知療法群の13人(24.1%)と通常ケア群の23人(41.6%)がその間に1回以上自殺を試みた。Kaplan Meier法を用いて、6カ月間自殺企図なしでいる確率を推算すると、認知療法群で0.86(95%信頼区間0.74-0.93)、通常ケア群で0.68(0.54-0.79)。18カ月間では、0.76(0.62-0.85)と0.58(0.44-0.70)と、認知療法群の自殺企図率は有意に低く、ハザード比0.51(0.26-0.997)となった。自己申告によるうつの程度は、認知療法群で有意に低かった(6カ月時のP=0.02、12カ月時のP=0.009、18カ月時のP=0.046)。認知療法群の絶望感は、6カ月の時点で有意に少なかった(P=0.045)。自殺念慮については、評価されたすべての時期で有意差は認められなかった。

 得られた結果は、比較的短いセッションの認知療法によって、自殺企図の反復をほぼ半減できることを示した。うつの軽減は自殺企図抑制をもたらす可能性がある。著者たちは、今回の知見を基に、地域の精神保健センターなどで自殺企図者に短期的な治療を行う方法が、自殺予防に有効と期待している。

 本論文の原題は「Cognitive Therapy for the Prevention of Suicide Atgtempts」

*****
まず薬剤でいったん落ち着いていただいて、
その後で、認知療法を行う。

認知療法は、毎週1回。
自殺企図に至る考え方や概念を認知し、
それらに対処する方法を学ぶ。
ストレスにさらされたとき、どうして打つになり、死にたくなるのか、
認知の癖をつかむ。
ストレスをもたらす刺激に対抗する方法を会得、
絶望感、困難、孤独と戦う方法を知る。



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本態性振戦の話


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メタボ基準、女性のウエスト周囲径は「80cm以上」が適切?

メタボ基準、女性のウエスト周囲径は「80cm以上」が適切?

 メタボリックシンドロームの診断基準におけるウエスト周囲径のカットオフ値は、男性85cm、女性80cmが適切であるということが、器質的心疾患の患者を対象とした調査で分かった。東北大循環器病態学の多田智洋氏らのグループが、第105回日本内科学会総会・講演会で発表した。

 多田氏のグループは、東北慢性心不全登録2CHART2)に登録されている、器質的心疾患を有する患者5791人(男性4070人、女性1721人)を対象に、血圧値異常(130/85mmHg以上)、脂質代謝異常(中性脂肪150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満)、および空腹時高血糖(110mg/dL以上)の保有状況と、ウエスト周囲径の関連を調べた。

 その結果、平均で男性2.04個、女性1.98個のリスクを有しており、男女ともに、ウエスト周囲径が増えるほど、保有するリスクの数も増えていた。さらに、ROC(受信者動作特性)解析により、2個以上のリスクを持つ人のウエスト周囲径の至適カットオフ値を求めたところ、男性84.8cm、女性81.8cmだった。

 これらの結果から多田氏は「女性の場合、ウエスト周囲径の基準は、現行の90cmではなく80cmが適切ではないか」と述べた。

 なお今回の総会・講演会に先立って、日本内科学会は3月18日付けで「メタボリックシンドローム診断基準についてのステートメント」を発表した。この中で、「(前略)それぞれの基準値(腹囲の数値、血清脂質、血糖値、血圧)の問題など、診断基準についてはさまざまな議論がある。本学会としては現時点で直ちに変更することはないものの、今後、新たな疫学研究および臨床研究を踏まえて科学的検討を行うこととする(後略)」との考えを示している。

*****
ウエスト周囲径を測ることと、総合的な命のリスクとの間に、どの程度の因果関係があるものか。
こういう研究は、特別なテクニックが必要ではないので、報告しやすい。
一般の人も計りやすいので、記事になっても、読まれやすい。
それだけのことで、メタボと腹囲が一人歩きしている。



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高齢者の血圧管理

 NEJM誌より。
80歳以上の高血圧患者に対する治療の利益については議論がある。これまで、後ろ向きコホート研究では、80歳以上の高血圧患者で降圧薬を使用しているグループでは、血圧は高めの方が生存期間が長いとの報告があった。一方、無作為化試験の場合、対象に80歳以上が含まれることは希だが、あえて行われたメタ分析では、脳卒中リスクは36%減少する一方で、全死因死亡リスクが14%上昇した(P=0.05)と報告されていた。

 Beckett氏らは、高齢高血圧患者に対する降圧治療の利益とリスクを明らかにすべく、二重盲検の無作為化比較試験を13カ国の195医療機関で行った。

東欧と西欧、中国、オーストラリア、チュニジア。
利尿薬インダパミドとアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)のペリドプリルを使用。

治療群では患者の50%近くが目標血圧値150/80mmHgを達成していたことから、著者らは「目標値の設定は適切と考えている。インダパミド単剤またはペリンドプリルを併用して、この目標値を達成することにより、80歳以上の脳卒中死亡、全死因死亡、心不全リスクを低減できる」と述べている。

*****
原則的に、血管を傷つけない限りは、血圧は程度高いほうが元気がい
血圧が低すぎると元気がなくなる。
脳卒中、心不全リスクを低くするためには150/80でよいとの報告である。

*****
このあたりは難しい。
コレステロールも高めの高齢者のほうが元気なようだ。

元気でころりの「ピンコロ」には、血圧も、コレステロールも、高めでいいのかもしれない。

しかし問題はあって、血圧が高めだから元気と解釈していいかどうかだ。血圧が高めであるにもかかわらず、長寿であると解釈すべき場合もあるだろうからである。

例えば、高齢者は、タバコをたくさん吸っていたりする。だからタバコが長寿にいいというべきものではなくて、タバコをすうにもかかわらず、長寿であると解釈すべきだろう。
長生きの傾向があるから、多少の害悪も気にならないということになるのではないか。

元気、長寿には多様な要素がある。
どんな環境でも、長生きする遺伝子を持った人がいるということなのではないか。

*****
研究としては、逆のトライアルがほしい。
老齢者を、140/80以下の血圧にコントロールしたとして、何かマイナスはあるかという研究。

*****
今回は150/80をカットオフポイントにしたのだが、
上下の差が大きすぎないかな?
これも人種差だろうか。

*****
男女の差は大きいはずで、これをひっくるめて平均しているのでは、
精密な話はできないだろう。



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標準的な健診・保健指導の在り方 厚生労働省健康局

厚生労働省健康局
 
標準的な健診・保健指導の在り方に
  関する検討会資料

◆ 標準的な健診・保健指導プログラム(確定版

      ※全体をまとめてダウンロードしたい方 ⇒ http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/kenshin/data/zentai.pdf

      ※目次から細かくダウンロードしたい方 ⇒ http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/kenshin/index.htm

◆ 保健指導における学習教材集(確定版http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/kyozai/index.htm

(以上のダウンロードはhttp://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/index.html
で可能。)

厚生労働省HPで下記の資料がご覧いただけます。ご参照下さい。

 

 生活習慣病予防(健康づくり)特集

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/index.html

 

 「禁煙支援マニュアル」

http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/manual/index.html

 

 「特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集」

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info03e.html

◆ 国立保健医療科学院 平成19年度 特定研修

     http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/tokutei/index.html


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高齢者において疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤

高齢者において疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤 
薬剤名のみを抽出した。このほかに「高齢患者における特定の疾患・病態において使用を避けることが望ましい薬剤」もある。重篤度「低」のものは除いた。
国立保健医療科学院疫学部部長の今井博久氏は、65歳以上の高齢者における不適切な薬物処方のリストを公開した
米国で用いられている高齢患者の薬剤処方の基準「Beers Criteria」の日本版に相当するもの。

今井氏は、「リストに記載のある薬剤を高齢者に使っている場合は、できるだけ代替薬に変更してほしい」と話す。例えば、長期間作用型ベンゾジアゼピン系薬は、高齢者が服用すると半減期が延長しがちで、転倒・骨折の原因になりやすいため、中~短期作用型ベンゾジアゼピン系薬を一定の用量以内で使用するべき、といった具合だ。「薬剤名は代表的なものを記載してあるので、具体的な薬剤名がリストに記載されていなくても、同じ系統の薬剤であれば、代替薬に変更した方がよい」(同氏)。


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がん緩和ケア最前線

 がん緩和ケア最前線 坂井かをり著 (新赤版1067)
    
   患者・家族に納得のいく医療の姿とは

 「がん緩和ケア」という言葉から、あなたは何を思い浮かべますか? 終末期医療とか、ホスピス、あるいは目の前に訪れる死……といったものではないでしょうか。
 私の場合、この本を企画・担当することになるまでは、およそそんなところでした。そして、実はこの本の著者自身もまた、実際に取材に入るまでは、同様だったそうです。ところが、これは全くの誤解だというのですから、驚きです。
 著者は大学で薬学を専攻し、NHKで数々の医療番組を企画・制作してきたプロデューサー。そんなキャリアのジャーナリストさえ知らなかった「緩和ケア」とは、では一体、何なのか。

 実は、20年ほど前、WHO(世界保健機関)が定めた定義では、「早期」からがん治療と並行して行われるべき、さまざまな苦痛の除去を意味しているのだそうです。治療断念後の「末期」に、せめて痛みの除去を、というものではないのです。
 けれども、そこが根本的に誤解されてきた日本では、病院でも真の「緩和ケア」がまだまだゆきわたらず、患者やその家族を苦しませ、悩ませているのが実情です。

 そんな中で、2005年3月、東京・江東区に生まれた癌研有明病院は、まさにWHOの考え方に徹した最先端の病院です。全国から注目され、視察に訪れる人が後を絶ちません。
 では、そこで実際にどのような医療が行なわれ、患者や家族はどんな感想をもつに至っているのか。それをじっくり取材し、報告するのが本書です。満足度の高いがん医療の新しい形が、くっきりと浮かび上がってくること請け合いです。

 早期からの緩和ケア――。その推進を厚生労働省もようやく決め、「がん対策基本法」にも、その考え方が盛り込まれています。
 2人に1人が、がんになるという時代。医療をめぐる新しい動きにも、しっかり目を配っていく必要がありそうですね。

(新書編集部 坂巻克巳)
  
*****
「さまざまな苦痛の除去」にあたっては、
精神科関係の薬や、心理療法も大切になる。
抗不安薬、抗うつ剤、抗精神病薬など、有用な薬が多い。
QOL(生活の質)を改善するためにも、役に立つ。
取りあえずぐっすり眠るだけでもずいぶん違う。
寝るのだから睡眠薬でいいのだろうと思うと、そうでもなくて、いろいろな技術がある。

昼の本人の活動にあわせて、薬剤を調整し、QOLを維持する。
そんな時代になっている。
わたしたちはその点では積極調整派だ。
時間が限られているなら、なおさら、合理的に対処して、
生かされている時間を味わいたいと思う。

ベッドの上で写真集を見ているだけではなくて、
新宿御苑に車椅子で連れて行ってあげたいと思う。



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児童虐待―現場からの提言

児童虐待―現場からの提言 川崎二三彦著 (新赤版1030)
   
   深刻化する背景は何か
  ――長年の児童相談所での経験から考える

 痛ましい児童虐待事件が、連日のように新聞、テレビで報道されています。先月(2006年7月)にも、福島県で3歳の男児が両親から十分な食事を与えられずに、死亡するという事件が発生しています。しかも、その男児の姉や兄も両親から虐待を受けていたとのこと。この事件に関して、8月3日付『朝日新聞』に読者からの投稿が寄せられています。その読者は、事件を防げなかった児童相談所の対応を問題視し、次のように批判をしています。

 「児童相談所の職員は、自らの仕事をどうとらえているのでしょうか。(中略)児童相談所がそこで(引用者注:親からの反発に対して)一歩踏み込まないで、誰が子どもを守れるというのでしょう。苦しんでいる子どもたちを、一人でも多く救うことが使命だと肝に銘じてください。それくらい責任の重い仕事なのです。」

 このような意見をもっている方は決して少数ではないでしょう。児童虐待事件が発生するたびに、マスコミから批判を受けるのは我が子を危機に陥れる親であり、そして事件を防げなかった児童相談所の対応です。しかし、日本における児童相談所の仕組み、実態についてどれだけの人が認識をしているでしょうか。

 本書『児童虐待―現場からの提言』の著者・川崎二三彦さんは、長年、児童相談所に勤務し、実際に様々な相談に対応されています。そうした自らの経験をもとに、「児童虐待とは何か」といった根本的な問題からはじめ、虐待対応の実態を報告し、真の解決のために必要なものは何かを真摯に考えたものとなっています。そこでは、一般的にはあまり知られていない児童相談所の過酷な状況が浮き彫りにされています。

 昼夜なく次々と寄せられる緊急かつ深刻な相談に、ごくごく限られた人数で対応を任される。親をはじめ保護者からは暴言を浴びせかけられ、暴力の危機に曝されることも珍しくありません。また、児童相談所の職員の多くは、はじめから児童福祉に携わっている人ではありません。自治体内の「人事異動」によって、児童相談所に勤務することになり、そこで悩みながら問題を解決し、経験を積むこととなります。しかも、児童虐待は、児童相談所が受ける相談の一部でしかありません。非行や病気、家族問題などなど、様々な相談が児童相談所に持ち込まれます。こうした困難な状況のなかで、「子どもを救う」というとても難しい課題と向き合っているのが、児童相談所の実情です。

 確かに、児童相談所の職員の対応に問題がある場合もあるのでしょう。しかし、問題はそうした個別的なものを超えた、もっと組織的、本質的なところにあるのだと、本書をお読みいただければ感じることと思います。児童福祉に限らず、日本の福祉行政は諸外国と比べて、質量ともに貧困です。その貧困な福祉行政をさらに、削減しようとしているのが現在の流れです。したがって、児童相談所を批判することでよしとするのではなく、むしろ、児童相談所を含めた日本の児童福祉をどうするか、という問題こそが問われるべきなのだと思います。

 本書では、虐待をしてしまう親の側についても詳しく考察しています。地域や家族の変容によって、いま、親が社会から切り離され、子育てが孤立する現実が現われています。誰にも頼ることのできない子育てのプレッシャー、そして格差社会の進行は経済的にも親を追い詰めています。こうした背景を考えなければ、繰り返される児童虐待を防ぐことは難しいと感じます。「親のせいだ」「児童相談所が悪い」では、児童虐待の本質は何も解決されません。児童虐待を問うことは、この国の子育てのあり方を問うことにほかならないのだと感じます。児童虐待はなぜ深刻化し、繰り返されるのか――。この大きな問題の手かがりをつかむためにも、ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。

(新書編集部 田中宏幸)
     
  ■目次
  
  序 章 児童虐待への取り組みがはじまる  
  法改正をめぐる意見の対立/児童虐待の社会的発見/児童相談所とは/児童福祉の担い手たち/子どもの安全優先への転換/「児童虐待の防止等に関する法律」の成立  
    
  第一章 児童虐待とは何か  
  児童虐待の定義/身体的虐待/しつけと虐待はどこが違うのか/体罰を考える/児童虐待のエッセンス/懲戒権の是非/ネグレクトとは/はじめてのおるすばん/性的虐待について/戦前にもあった児童虐待防止法/児童虐待の定義を改定/心理的虐待/子育ての風土を変革する運動 
    
  第二章 虐待はなぜ起こるのか  
  虐待するのは誰か/虐待を引き起こす四つの要素/過去の傷に苦しむ親たち/被害者から加害者へ/炎天下に放り出された少女/ストレスが高める虐待のリスク/閉ざされた世界で起こったこと/孤立する家族/悪循環の果てに/意に沿わない子 
    
  第三章 虐待への対応をめぐって  
  1 虐待の通告と発見
岸和田事件の衝撃/知られていない虐待の通告義務/虐待の早期発見・通告にむけて/虐待を発見することの難しさ/社会は誤報を引き受けられるのか

2 虐待から子どもを保護する
小山市の兄弟殺害事件/児童相談所長が判断する一時保護/一時保護と子どもの人権/司法の審査/保護者との対立/家庭への立入調査/防刃チョッキで身を守る/警察はどこまで関与すべきなのか/二つの権利の対立
    
  第四章 虐待する親と向き合う  
  1 保護者への指導
揺れ動く子どもの気持ち/児童虐待の解決とは/指導に従わせることの難しさ/大きく違うDV防止法と児童虐待防止法/いびつな枠組みの改善を

2 親子の分離と再統合
キャッチアップ現象/子どもを保護するための司法の役割/非行への対応と虐待への対応/家庭裁判所の勧告/児童福祉施設の実情/里親への委託/親子の再統合
     
  第五章 児童相談所はいま  
  虐待防止の学術集会/カナダの若者に問われたこと/日本の貧しい児童福祉体制/岸和田事件の教訓/遅れる専門性の確保/新人児童福祉司の研修/職員の過大なストレス/一時保護所の実情/全国児童相談所長会の要請/児童心理司の配置も不十分/虐待相談対応を市町村にも拡大 
    
  第六章 児童虐待を防止するために  
  『三丁目の夕日』の風景/今は昔の村八分/ご近所の底力/虐待防止キャンペーン/子育て支援の重要性/体罰を禁止した川崎市の条例/思い切った社会的コストを
     
  あとがき
主な参考文献

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
  少年事件に取り組む―家裁調査官の現場から 藤原正範著 新赤版995
幼児期―子どもは世界をどうつかむか 岡本夏木著 新赤版949
子どもの社会力 門脇厚司著 新赤版648
思春期の危機をどう見るか 尾木直樹著 新赤版998
日本の社会保障
 広井良典著 新赤版598
 
*****
児童相談所の職員は実際困っていて、
われわれは児童を守るとともに、児童相談所職員を守る立場にもある。
そうした立場で見ると、現実は実に厳しい。

子供を守る、親を守る、児相職員を守る、みんなが大変になってしまっているのはいったいどうしてなのだろう。

 



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誰のための会社にするか ロナルド・ドーア

 誰のための会社にするか ロナルド・ドーア著 (新赤版1025)
   
   新しい会社法に、どのような魂を入れるか。
  アメリカかぶれでない、日本にあった企業制度の提案

 会社とは、いったい何でしょうか。どういう会社なら、健全で働き甲斐を感じることができるのでしょうか。また、どうすれば「理想的な」リーダーを確保できるのでしょうか――。会社法が大幅改正され、堀江氏や村上氏など一世を風靡した時代の寵児たちの逮捕が相次ぐ中で、いま、多くの人が日々働く現場の組織で何が起きているのか、その意味は何なのか、原点から問い直した一冊です。

 長年、日本社会に鋭くも温かい視線を注ぎ続けてきた著者の、日本語による渾身の書き下ろしです。平社員、部長・課長、平取、社外重役、そして社長たち……会社にかかわるすべての方々にお奨めします。

(新書編集部 上田麻里)
    
  ■著者からのメッセージ
 原稿を読んでくれた友人のコメント;「資本主義も、コーポレート・ガバナンスも、『本来の姿なんてない』といっているところが一番痛快だった」と言ってくれました。本の題を「会社は誰のため」などでなくて、『誰のための会社にするか』としたのはまさに、それを強調したかったからです。会社のあり方は――特に、会社が創造する価値(いわゆる付加価値)が、株主と従業員と、銀行と、(税金の形で)国庫の間でどう配分されるかは――政治的選択の問題です。

 と同時に、その社会でどういう思想が「思想的制空権」を握っているか――会社法という仏にどのような魂を入れているか――にもよります。株価維持を世の社長たちの最大関心事にして、“静かなる株主革命”を固めたのは、頻繁に起こり始めた敵対的買収です。むかし、山師の業だった乗っ取りが、「活発なM&A活動」の一環として、紳士も当然使えるビジネス手法となったことです。

 しかし、エルビス・プレズリー宅へお参りまでする総理を始め、アメリカかぶれの政府当局ほど、一般国民の思想はそう変わっていないとおもいます。額に汗を流して働いている人たちが、村上世彰氏の逮捕を見て、手をたたいているのは、彼がうっかりしてインサイダー取引を一回したからではない。彼の日ごろのマネーゲームの儲け方への反発だと思います。それなら、制度を変えればいい。より健全なステークホルダー資本主義への道について、僭越ながら、最後の章でいくつか提案を試みました。
    
  ■著者紹介
ロナルド・ドーア(Ronald Dore)
1925年英国ボーンマス生まれ。戦時中に日本語を習って、1950年に初めて日本に留学した時以来、ロンドン、ブリテイッシュ・コロンビア、サセックス大学開発問題研究所、ハーバード、MITの諸大学で教鞭を取りながら、主として日本の社会経済構造の研究および日本の経済発展史から見た途上国の開発問題の研究に専念してきた。
著書―『日本の農地改革』、『江戸時代の教育』、『学歴社会 新しい文明病』、『イギリスの工場・日本の工場』、『都市の日本人』、『貿易摩擦の社会学』、『日本との対話―不服の諸相』、『日本を問う 日本に問う―続不服の諸相』、『日本型資本主義と市場主義の衝突―日・独対アングロサクソン』、『働くということ』ほか
       
  ■目次
はじめに
  
  第一章 コーポレート・ガバナンス――「治」の時、「乱」の時  
  1 社長追放の諸相
    チェーンソー・ダンラップ/オークマの大隈家/三越の岡田茂社長/二つの解釈
  2 なぜ今、敵対的買収か
    なぜ買収劇が続くのか/M&A促進政策の理論/M&Aの現実/二種類の企業と二種類の経済学  
  
  第二章 グローバル・スタンダードと企業統治の社会的インフラ  
  1 覇権の諸相
    世界普遍な企業形態か/文化的覇権の奇妙な力/覇権文化と覇権国家/より価値中立的な定義/何が問題か
  2 多様性の二つの軸
    国柄/日本は新自由主義に転向したのか/動機付け資源/ありがたい「アメ」と恐ろしい「ムチ」/文化・パーソナリティ・制度
  3 動機付け資源の制度的強化
    社長の座へのさまざまな道/監視と信用/三権分立/「性善説」の国の少数悪への対応 
 
  第三章 どこに改革の必要があったのか  
  1 改革機運はどこから?
  2 自信喪失と重なった要因
    洗脳世代の到来/外資系投資家の日本買い/改革論者の常套句
  3 日本的経営の四つの欠陥
    不祥事/決断力が足りない経営トップ/過剰投資と資本効率/株主の軽視
  4 壊れていなければいじらない方がいい
 
  第四章 組織の変革  
  1 強制された変革・自主的変革
    せわしない法制活動/「親切」な改革/法改正と無関係な組織変革/嘲りの対象となった取締役会
  2 諸変革の普及率
    委員会設置会社の場合/監査役会設置会社の場合
  3 組織の変革・行動の変革
    透明性/社外重役――誰の番犬なのか/助言か“権言”か/緊張感の効能/社外重役の貢献/評価できる面
  4 制度変革の効果
    意思決定の「質」/意思決定のスピードは?/執行と監視/不祥事防止
  5 仏つくって、どの魂を入れるか
 
  第五章 株主パワー  
  1 変わったのは何か
  2 株主パワー――声の部
    大株主――インフォーマルな注意/新しいタイプの「アドバイザー」/投資ファンドの分業/株主還元に「目覚める」ソトー/いまに始まったことではないが/一般株主――株主総会/機関投資家の上陸/国内版株主行動主義/経営層の階級的団結/最近の問題点/市民運動としての株主行動主義/企業の対応
  3 株主パワー――売り逃げの部
    経営者にとっての脅威/株価維持の至上命令/敵対的買収と経営者意識/経営権売買市場の善し悪し
  4 株主天下の確立
    「抵抗勢力」? 
 
  第六章 株主天下の老後問題  
  1 株主はあなた!
    神話(1) 機関投資家が経営者を監視する/神話(2) 「株式市場=機関投資家支配下の市場」/神話(3) 今の貯金は将来の負担を軽減/神話(4) 株式プレミアムは永遠不変
  2 要は惑わされないこと
 
  第七章 ステークホルダー・パワー  
  1 常識の変化
    ステークホルダーとは誰か
  2 「準共同体的企業」の従業員
    どの意味で「準共同体的」なのか/準共同体の融解/分離と格差
  3 労働組合が従業員ステークホルダーの利害代表か?
    なぜ労働組合が抵抗しなかったか/労働組合弱体化の諸要因/労働者の声がほとんど聞こえない 
 
  第八章 考え直す機運  
  1 改革派のつまずき
    ホリエモン失脚の効果
  2 CSRブーム
    改革機運後退の第一期/開明的株主価値論/PRかホンモノの倫理観か/投資家の脅し/CSRと従業員
 
  第九章 ステークホルダー企業の可能性  
  1 何が変わったか、変わりつつあるか
    思潮の動向と現実の動向/敵対的買収制度はこのままでいいのか/ポイズン・ピル活用をめぐる議論
  2 ステークホルダー社会の実現に向けて
    M&A審査委員会/株式持ち合い網の再構築
  3 インサイダー経営企業の活性化
    残る「準共同体的企業」のインフラ/社長の報酬開示の当否/内部規制・部下の突き上げ
  4 インサイダー経営者への規制・刺激
    社外重役/内部告発/従業員の経営参加/企業議会の構想/付加価値計算書の作成
 
  おわりに
なぜ急いだ方がいいか/非民主主義的提案の弁解

謝辞
推薦図書一覧

  ■岩波新書にはこんな本もあります  
独占禁止法―公正な競争のためのルール 村上政博著 新赤版929
経営者の条件 大沢武志著 新赤版907
日本の経済格差―所得と資産から考える 橘木俊詔著 新赤版590
市場主義の終焉―日本経済をどうするのか 佐和隆光著 新赤版692
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
*****
会社が変質しつつあることはみんなが感じていて、
人生を展開する場所ではなくなっているような不安を抱いていると思う。

出版社風にいえば、いかにして人間性を回復できるかということなのだけれど、
非人間的な企業のほうが収益が大きくて、
結局人間的勢力が負けてしまうとしたら、どうすればいいか。
今後は、政府が規制をかけて守ってくれるわけでもないのだ。

人間的企業で人間的な働き方をしているほうが、
競争にも勝つ、そのような新しい方程式が成立しないと、
現状は打破できないだろう。

非人間的な安い給料か、
非人間的な労働時間か、
いずれにしても、人間的で優雅に暮らせるユートピアは、
今のところ、存在しない。



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医療の値段 リバタリアン 政府統一価格 医師会 武見太郎

 医療の値段―診療報酬と政治 結城康博著(新赤版989)

    ■著者からのメッセージ
 私たちは「医療の値段」と聞くと何か特別な価格であると考えてはいないでしょうか。不運にも入院してしまうことになり、その費用が高いと実感していても、どこか「仕方がない」と諦めてしまってはいないでしょうか。例えば、たまたま手術を受けた医療機関で個室しかないので、高い差額ベッド料金を支払うことになっても、やむをえないと思ってしまうのではないでしょうか。

 もっとも、急性期の病で短期間に完治すれば大きな問題とはなりません。しかし、脳梗塞などで高齢者が倒れ家庭環境で在宅療養ができず、何年も療養型医療施設に入院せざるをえなくなった場合、毎月20万円以上の入院費を支払う家庭が少なくはありません。

 それでも自分たちの生活を切り詰めて、毎月20万円以上の費用を工面している家族を、僕は仕事柄いくつも目の当たりにしてきました。その中で、「医療の値段」はどのように決まっているのかという疑問を抱き、その決定プロセスを紐解いてみようかと思い本書を手がけることになりました。  
 
■目次

  序 章  病気を治すのにいくらかかる   
1 実際の治療費はいくらなのか 
  窓口で支払う医療の値段/医療は財か 
2 医療と政治 
  医療と利益団体のイメージ/医療の値段を浸透させる 
3 本書の構成 
    
  第一章  医療の値段の決められ方   
1 診療報酬と審議会制度 
  診療報酬とは/診療報酬で医療の在り方が変わる/医療の値段を決める審議会(中医協)/医療の値段は二年に一度見直される/中医協改革 
2 専門家集団で決められる医療の値段 
  中医協の構成メンバー/中医協の組織構成/医療系学会の影響力 
     
  第二章  利益団体と医療―医療費をめぐる政治史(1)   
1 日本医師会と日本歯科医師会 
  日本医師会/日本歯科医師会/その他の医療関連団体 
2 利益団体と政治活動 
  日本医師連盟/日本歯科医師連盟/日医連及び日歯連の会員問題 
3 壮烈なライバル意識 
  三師会について/日医と日歯の対立/患者数と収入格差 
     
  第三章  医師会と医療費―医療費をめぐる政治史(2)   
1  政界と太いパイプを築いた武見体制 
  武見太郎とは/武見と政界/医師会会長選挙/武見日医の功罪 
2  武見日医と対立した団体 
  武見日医と日本病院会/武見戦術の数々 
3  武見日医から学ぶもの 
  社会情勢を見極めた力/患者の代弁者機能
     
  第四章  かかりつけ医制度と医療費   
1 かかりつけ医制度 
  かかりつけ医制度の意味/在宅医療の拡充 
2 入院医療と在宅医療
  入院医療の見直し/アメリカとイギリスの影響 
3 史上はじめてのマイナス改定 
  小泉内閣による二〇〇二年医療制度改革/在宅部門における医療の値段/医療サービスをどう提供していくか/二〇〇六年診療報酬改定
     
  第五章  「医療の値段」と政治―日歯連事件からの検証   
1 贈収賄事件はどうして起きたか 
  かかりつけ歯科医初診料/臼田貞夫の登場/日歯連事件の概要 
2 自民党と日歯連 
  日歯連による政治献金/マスコミを賑わす旧橋本派/民主党の動き/高まらない世論 
3 事件の意味と影響 
  医療業界と利益団体/「医療の値段」の決定プロセスが注目される
    
  終 章  公正な医療の値段とは何か   
1 医療の値段の決め方はどう変わるか 
  連合の取り組み/日歯の取り組み/中医協は変わるのか 
2 高度化した医療技術と混合診療 
  医療技術は高度化する?/混合診療について 
3 これからの医療制度 
  膨張する国民医療費/医療制度改革の論点
4 市民にわかりやすく
  医療の値段と消費者感覚
     
  あとがき
参考文献
  
  ■岩波新書にはこんな本もあります  
介護保険 地域格差を考える 中井清美著 新赤版820
定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 広井良典著 新赤版733
日本の社会保障 広井良典著 新赤版598
高齢者医療と福祉
岡本祐三著 新赤版456
政治献金―実態と論理 古賀純一郎著 新赤版889
 
*****
武見太郎とか医師会とか書けば、一般の人には受けるのだろう。
でも、問題はそんなところにはない。
武見太郎の子息である武見敬三は選挙で落選。
医師会も落日である。

根本的には、医学・医療が進歩して、いろいろなことができるようになったが、
お金もかかるようになった。
しかも、お金をかけた最先端医療だからといって、人間の体だから、絶対という保障はない。
むしろ、最先端であるだけ、予測不能の危険要因が大きい。
専門家と一般の人の理解には大きな差がある。
そんな中でどのようにして納得してもらい、最善の医療を実践することができるのか。

実際、最善の選択は何かが、難しいのだ。

命の値段をどう決める?と問題にされると、
フリーマーケットで決めてくださいというしか、答えはないだろう。
リバタリアンのいうように、政府が値段を決めれば、矛盾続出で、腐敗も起こる。
無駄が多い。非効率である。他の方式も、いずれにしても悪い中で、
フリーマーケットが、ほどほどのよい答えであるということになる。
それでいいはずはないのだが、いい考えはあるだろうか。



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壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 

壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか 金子雅臣著 新赤版996)

   セクハラ事件が激増しつづけるのはなぜなのか?
 「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」という言葉が日本に紹介されて十数年。この間、法による規制も進み、社会的な取り組みはたしかになされてきたと言えます。しかし、一方でセクハラに関連するトラブルは、近年、各種相談件数、裁判件数ともに激増し続けています。それは、いったい、なぜなのでしょうか?

 著者は長年、東京都の労働相談に従事し、セクハラ事件の解決のために被害者・加害者、双方の当事者に多く関わってこられました(東京都は「セクハラ相談窓口」を全国にさきがけて立ち上げ、相談を相談だけに終わらせず実際の解決に導くための「あっせん」というシステムを作り、この問題に取り組んできた実績があります)。本書は、そんな著者の前に現れた加害者男性たちの「言い分」をつぶさに検証することによって、彼らの意識を探り、そこからセクハラ事件が繰り返し起こされる理由、さらにはセクハラを「する男」と「しない男」の違いがどこにあるのかを明らかにしようとしたノンフィクションです。人と人との関係について様々な立場から考えて続けてきた方にはもちろん、「セクハラ」という言葉を聞いて、「いったいどこからがセクハラなのかわからない」「いちいち目くじら立てると人間関係がギスギスする」「この言葉で世の中ややこしくなった」――そんな風に思っている方にこそ、ぜひ手にとっていただきたいと思います。

 さて、本書でも言及されている事例ですが、告発された男性が事の成り行きを次のように説明したケースがあります。

 彼女は、夫を交通事故で亡くし、子どもを抱えて仕事をしに来ていた。当初はパートタイマーとして働いていたが、真面目に働くし、明るい美人だった。仕事で話していても、はきはきしていて好感がもてた。彼女の子どもが病気になり、しばらく仕事に来られなくなったりすることがあって、経済的なことで相談をされて親しくなった。それ以来、何かと相談にのることになったが、経済的な不安を抱えていたので、正社員になることを勧めて力を貸した。そして、念願の正社員になったお祝いということで飲みに行ったときに、ホテルに誘った。いろいろ相談にものり、親しく付き合っていたし、感謝もされていたため、自然の成り行きでそうなった。

 あなたはこれを「セクハラにあたる」と考えますか? それとも「あたらない」と考えますか? それはなぜでしょうか? ちょっと考えてみてから読み始めるのもよいのではないかと思います。

(編集部 太田順子)  
 
  ■著者紹介
金子雅臣(かねこ・まさおみ)1943年生まれ。労働ジャーナリスト。東京都勤務で長年にわたり労働相談の仕事に従事する一方、社会派のルポライターとして活躍。セクハラ問題では第一人者として講演活動などに取り組んでいる。また日本で初めて「ホームレス」という言葉で社会問題を提起し、精力的なルポで実情を紹介した。最近ではパワーハラスメントを職場の新たな問題として取り上げ、警鐘を鳴らしている。
  主な著書に、『裁かれる男たち―告発の行方』(明石書店)、『ホームレスになった―大都会を漂う』(ちくま文庫)、『パワーハラスメント何でも相談』(日本評論社)、『労働相談(裏)現場レポート』(築地書館)などがある。
  
  ■目次
はじめに
  
  第1章 「女性相談窓口」に現れる男たち  
1  男たちが「女性相談窓口」に
2  労働相談にも“男性問題”
3  「こころの相談」にみる男たちの崩壊
4  セクハラで男たちが問われる
5  “男性問題”とは何か 
   
  第2章 男たちのエクスキューズ――「魔が差した」というウソ  
1  訴えられるはずがない 
  神経質そうな男/追いかけてきて/「オレのことが嫌いなのか」/「もう、子どもじゃないんだから」/なぜ、彼女が訴えを……/仕事は口実/「何もしていない」/娘のような気持ち 
2  「大人の女」にかける願望 
  「付き合いも給料のうち」/「これは前戯だ」/被害者意識の強い女/穏便な解決を/「謝ればいいんだろう」/社長の真意/その程度の男 
3 都合のいい女たち 
  派遣先での出来事/プライベートな関係/遊び感覚/水商売のような人たち/退職を決心した/どこまでも別々の理解/仕事はそこそこ/女というものは……/「正社員にしてやる」/「意気投合して」/「もう、止められない」/据え膳喰わぬは男の恥/会社の決断
4 離婚した女性に向けられる視線
  企業トップの奢り/「受け止め方が悪い」/離婚女性に向けられる視線/「あなたはオンナを知らない」/社長が現れない/涙の訴え/起こるべくして起きた事件/方程式のない和解/加害者側弁護士の怒り/逸脱行為の温床
     
  第3章 引き裂かれた性  
1  妻には知られたくない
  想像できない世界/性的には淡白な夫/家庭を大切にする人/妻とは別世界の出来事
2  夫の見せた別の顔
  事実は単純である/追いつめられて/「言わなくともわかる」/平行線のままで幕
3  妻にはない性を求めて
  妻にはわからないこと/引き裂かれた性/夫が崩れた
     
  第4章 男が壊れる  
1  セクハラを“する男”と“しない男”
  セクハラ男の言い分/“誘う性”と“誘われる性”/セクハラは「男性問題」/セクハラを“する男”と“しない男”の岐路/説明不能な“衝動”/フツーの男たちの意識/地続きの意識
2  暴走のスプリングボード
  “軽く肩を押す”もの/男たちの危機感/逸脱のスプリングボード
    
  あとがき

■岩波新書にはこんな本もあります  
男女共同参画の時代 鹿嶋敬著 新赤版867
過労自殺 川人博著 新赤版553
ルポ解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
安心のファシズム―支配されたがる人びと 斎藤貴男著 新赤版897
豊かさの条件 暉峻淑子著 新赤版836
 
*****
セクハラで、男は職も金も家庭も失います。
気をつけましょう。
テレビドラマのようにはいきません。



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自殺予防 高橋祥友

自殺予防 高橋祥友著(新赤版1028)岩波

   長期的に粘り強い取り組みを―― 一人でも多くの命を守るために、家族が、職場が、社会ができることは何か

 日本では、1998年以降8年連続して年間自殺者数が3万人を超えるという、深刻な事態が続いています。また、自殺未遂者数は自殺者の10倍以上、さらに強い絆のある人の自殺や自殺未遂によって深く傷つく人の数は、百数十万人にものぼると推定されており、深刻な社会問題となっています。

 これまで日本社会では、自殺に対して「覚悟の行為である」「予防などできない」「遺族はそっとしておくのが一番」といった考えが根強かったため、自殺予防に対して十分な関心が払われてきませんでした。しかし、自殺者の急増という事実、一連の過労自殺裁判に対する司法判断、あしなが育英会などの活動によって自殺遺族の抱える問題が明らかになってきたこと、などを背景に、ようやく行政も具体的な自殺予防対策に動きはじめ、今年の通常国会では、その一歩となる「自殺対策基本法」が成立しました。

 この本では、精神科医として長年、自殺予防の臨床と研究に従事してきた著者が、現在の日本の自殺の実態、自殺を考えるほどに追いつめられる心理、多くの自殺の背景にあると言われる〈こころの病〉、とくに「うつ病」との関係、さらには不幸にして自殺が起きてしまったときの遺族に対するケアなどについて、事例も交えてわかりやすく解説しています。

 個人で、家族で、職場で、地域で、そして社会で。地道に粘り強く取り組みを続けることによってしか、自殺を防ぐことはできません。いったい何ができるのか、何が求められているのかを知るために、本書を一人でも多くの方にお読みいただきたいと願っています。

(新書編集部 太田順子)
    
  ■目次
はじめに
  
  第1章 自殺という死   
1 青木ヶ原樹海からの生還者――自殺と記憶喪失
2 自殺は「強制された死」である
3 日本における自殺の実態
4 世界との比較から
5 年齢によって異なる危機
6 マスメディアの影響――群発自殺とネット心中  
    
  第2章 自殺の心理   
1 自殺の危険をどうとらえるか
2 自殺する人と自殺しない人の違いは
3 「自殺したい」と打ち明けられたら
4 どのようにして受診につなげるか
5 自殺の心理に関連していること 
    
  第3章 こころの病と自殺   
1 治療を受けずに自殺する人びと
2 自殺予防とうつ病治療の関係
3 うつ病とは
4 うつ病の治療 
    
  第4章 自殺予防の取り組み   
1 国連による自殺予防ガイドライン
2 フィンランドの実践
3 新潟県東頸城郡の自殺予防活動 
    
  第5章 家族を支える、遺族をケアする   
1 家族が抱える問題と自殺行動
2 自殺予防に不可欠な家族の協力
3 自殺が起きたときの遺族へのケア
4 芽生え始めた自助グループ
5 ポストベンションは次の世代のプリベンション 

  あとがき

 ■岩波新書にはこんな本もあります   
過労自殺 川人 博著 新赤版553
働きすぎの時代 森岡孝二著 新赤版963
ルポ 解雇―この国でいま起きていること 島本慈子著 新赤版859
〈こころ〉の定点観測 なだいなだ編著 新赤版718
人間回復の経済学 神野直彦著 新赤版782
 
*****
例えば、職場に産業カウンセラー、学校に学校カウンセラーをたくさん配置したとして、
どうなるか。
そのことが結局のところ登校刺激になったりする。

一度経済的に躓くと、
雪だるま式に借金が増え、友人もいなくなるという現実もある。
ローンは抱え、教育費はかさみ、そのような現実にたいしては、
会社なりの緊急融資制度が必要なのだと思う。

休職すれば、ボーナスが減らされ、
ボーナス払いでローンを組んでいる人たちは、
お金の工面に走ることになる。

心理的なサポートと、
現実的なサポートとの、両方が必要である。



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大場久美子さんのパニック障害

大場久美子(女優)
心の病で悩んでいたなんて!

 女優・大場久美子が婦人公論」誌上でパニック障害に悩み、自傷行為にまで及んでいたことを告白した。今年、芸能生活35年。つい2カ月前には記念イベントで久々にホットパンツ姿を披露し、「気持ち悪くならないでくださいね」なんておどけていたのに……。

 同誌によると、大場が“異変”に気づいたのは母が亡くなった直後(99年)のことだったという。ある日突然、激しい動悸(どうき)に襲われ、倦怠(けんたい)感がひどくなり、人込みが怖くて乗り物にも乗れなくなった。当然、マスコミのインタビューもまともに受けられず、個室に入れられるだけで呼吸ができなくなることもあったという。「自傷行為」に及んだのは昨年7月のこと。同誌ではこんなふうに表現している。

〈心臓が飛び出すのではないかと思うほどの動悸に見舞われ、水の中に顔をつけられてしまったかのように息が出来ず、(中略)「死」につながる妄想が次から次に襲ってきて……〉

 大場といえばコメットさんのイメージが強烈で、どちらかというと「明るいおちゃめキャラ」に見られがち。ところが、プライベートではこれまでいろいろ苦労してきた。

「アイドル時代、知人のレストラン経営者に名義を貸したところ、経営が傾き、知人は失踪、巨額の借金を背負わされた。なんとか返済をと頑張ったが、ついに返し切れず自己破産するはめに。ちょうどその頃、前述の母を亡くし、気分一新、年下ダンサーと結婚したが、3年前に離婚した」(芸能記者)

 外見とは違ってストレスを抱えた芸能生活だったに違いない。「心の病」に侵されたのも分かる気がする。

 今回のカミングアウトの理由も、「スッカリ治ったから」というのではなく、「いつ振り出しに戻るか分からないが、上手に付き合っていこうという覚悟を決めたから」と語っている。正直なところだろう。

 芸能生活35周年を記念した別のインタビューでは、こんなことも言っている。

「休みの日にはボランティア活動をやっています。カンボジアの学校を建てたり、栄養支援とかいうスタッフの一員として。ゆくゆくはボランティア活動に専念したいと思っています」

 コメットさんももうすぐ50歳。ちょうど11日からTBSでスタートするドラマ「Around40」で、ちょっと年配の雑誌編集長役を演じるという。これをきっかけに、ちょっと陰りのある等身大の女性にイメージチェンジしてみてはいかがか。「コメットさん」で散々楽しませてもらった同世代ファンも、きっと温かく見守ってくれるに違いない。

【2008年4月11日掲載記事】

*****
上手に付き合っていこうという覚悟を決めたから
とのこと。
〈心臓が飛び出すのではないかと思うほどの動悸に見舞われ、水の中に顔をつけられてしまったかのように息が出来ず、(中略)「死」につながる妄想が次から次に襲ってきて……〉
というあたりは、典型的な、パニック発作。

少なくない人が、苦しんでいます。



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自閉性障害のある児童生徒

http://jupiter.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-184/b-184.pdf
ここに貴重な情報

表1 高機能自閉症・アスペルガー症候群の定義案 (文部科学省,2003)

高機能自閉症
3歳位までに現れ、
①他人との社会的関係の形成の困難さ、
②言葉の発達の遅れ、
③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、
知的発達の遅れを伴わないものをいう。
また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

アスペルガー症候群
アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。
なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害(PDD)に分類されるものである。
本定義は、DSM-Ⅳを参考にした。

*****
1.高機能自閉症・アスペルガー症候群とは?
① 高機能自閉症・アスペルガー症候群は、自閉症グループに属する発達障害です。
② 100~200人に一人ぐらいいると言われています。
③ 最近になって知られるようになった障害です。
④ 家庭環境の問題やしつけ不足が原因で起きるものではありません。
⑤ 従来の自閉症のイメージや障害児の概念とは、かなりかけ離れた子どもたちです。
⑥ 言葉の遅れがなかったり学業成績が良いこともありますが、広範囲にわたる発達上の困難を抱
えています。
⑦ 集団での活動が苦手だったり行動上の問題を起こしやすいために、わがままな子と思われてい
るかもしれません。
※ 知的障害を伴う自閉症児と同様の次のような困難を持っています。
① 物事の一部分に注意が集中しやすく、全体の状況をつかむことが困難。
② 一度に一つのことしかできない。
③ 最初に覚えたことを、なかなか変更できない。
④ パターン化した行動を取ることがある。
⑤ 融通が利かないように見えることがある。
⑥ 人とのかかわり方に大きな特徴がある。
⑦ 独特な言葉遣いをしたり、変わった話し方をする。
⑧ できることとできないことの差が激しい。
⑨ 過去の出来事を突然思い出して(フラッシュバック)、その場に全く関係のないことを言い出し
たりする。

*****
2.高機能自閉症、アスペルガー症候群の児童生徒と接する際の留意点

一見、普通の子どもと変わりませんが、高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、自閉症とし
ての特有な困難を抱えています。「人にではなく物の方に関心が向きやすい」、「通常ではささいなことと
思えるような事柄に強い苦痛を感じパニック状態に陥ってしまう」、「奇妙なしぐさをしたり反復的な行
動をする」といった症状がみられることもあります。
一人一人の違いも非常に大きく、個々のニーズに応じて、個別的な支援や配慮をすることが不可欠で
す。ここでは、よく見られる代表的な特徴とその支援法について簡単に述べてみます。

(1) 人とのかかわり方
全く人と関わろうとしないことはありませんが、形式的だったり、一方的だったりします。かかわり
がないと言うよりも、人とのかかわり方が不適切と言った方が正確です。
人の方を見る、顔の表情や身振りなどから人の気持ちを読み取る、顔の表情や身振りなどで自分の感
情を表すなどの身体的(非言語的)な行動に問題があって、そっけない子・奇妙な子とみられていること
もあります。集団生活はできるものの一人でいる方が好きという子どももいますが、友だちができない
ことに悩んでいる子どももいます。

(2) コミュニケーションの問題
高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもでは、言葉を話すことはできます。しかし、言葉を自分
の意思を人に対して表わす手段として使っていない、相手が聞きたいと思っていることを答えない、最
後まで話が噛み合わない、遣り取りのある会話になっていないといった様子がみられます。話すことは
できるけれど、コミュニケーションが成立していないのです。
また、言葉の表面的な意味しか分からない(字義通りにしか解釈できない)、慣用表現の意味や言外の
意味が分からない、独自の決まり文句や本人にしか意味の通じない言葉を使う、漢語的表現を多用する
といった特徴がみられることもあります。
このようなコミュニケーション障害に基づく言葉の問題が原因で、トラブルが生じていることも非常
に多いものです。

(3) 指示の出し方
人に注意が向かない、自分に向かって話されていることや自分に対して指示されていることがわから
ない、音声として聞き取って行動しているものの本当には理解できていないi、口頭の指示だけでは理解
できず文字や絵などが必要、(視覚と聴覚といった)複数の情報を同時に処理することができないなどの
困難がみられることがあります。
自閉症児すべてに共通する方法があるのではなく、絵や図にした方がわかりやすいという子どももい
れば、言葉にした方がわかりやすい子どももいます。目で見た方が指示が通りやすい子どももいれば、
耳から聞いた方が指示が通る子どももいます。どちらの場合でも、「指示や情報はシンプルに提示する」
「できるだけ省略を避け、何が起き・何をすればいいのか明確にする」といった配慮をすることによって、
トラブルを避けることができるでしょう。

(4) こだわり行動と固執
こだわり行動の中には、不安やストレスを解消するために役に立っているものがあります。時と場所
を選んで個人的に行っているこだわり行動は、特にやめさせる必要はありませんが、社会的に好ましく
ないもの、人に迷惑をかけるもの、エスカレートすると自他共に差し障りが生じると予想がつくものな
i ずっと後になって本当の意味がわかり、突然、思い出したように話し出すことがあります。
どは、制限を加えて妥当なものに変えていく必要があります。
物事の順序に固執する傾向がある場合には、はじめから全部を変えさせようとせずに、最も変えやす
い一部分だけを変更することから取りかかる、初めてのことをする時には順序への固執を逆に利用する、
というような工夫が必要なこともあります。急な予定変更に対処できないこともあるので、「予定の変更
はなるべく避ける」「やむを得ず予定を変更する時は前もって伝える」といった配慮が必要なこともあり
ます。
自閉症児には、「先の見通しが立つようにスケジュールを予め伝えておく」と良いと言われていますが、
時間の概念ができていない段階の子どもの場合は、「言われたことがすぐに起きるもの」と思ってしまう
こともあります。また、あまり早くから伝えると気になって他のことができなくなってしまう子どもも
いるので、個別対応が必要です。

(5) インフォーマルな活動が苦手なこと
休み時間や休日などの自由な時間に、何をしたらよいのか分からないという自閉症児は多いようです。
一般に、任意の小グループに分かれて、その場の話し合いで変わっていく活動に参加することが苦手で
す。
高機能児の場合には特に、休み時間や放課後などのインフォーマルな時間に他の子どもたちの行って
いる活動そのものに興味がないといった問題もあります。自由な時間には、(こだわり行動を含む)好き
なことをやっていたい、図書館や理科室などで興味のあるものを見ていたいと思っていることもありま
す。運動機能の遅れがあって、スポーツやリクリエーションに参加することが苦痛なこともあります。

(6) 感覚の特質
聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚・前庭覚などの感覚が過敏だったり鈍感だったりすることがよくあり
ます。聴覚が過敏で特定の物音や甲高い声に苦痛を感じたり、触覚が過敏で身体接触や衣服の材質に強
い不快感を感じるといった症状を持っている子どもが比較的多いようです。問題行動と呼ばれているも
のの中には、このような感覚の特質に基づく行動がかなりあります。感覚の特質のために引き起こされ
る問題には、以下のことが挙げられます。
① 集団活動や行事に参加できない。(例えば、聴覚が過敏で音楽の授業が苦痛。不快な臭いのする
特定の教室に入れない、など。)
② 突然の物音や特定の物音などでパニックを起こす。
③ その場ではあまり大きな反応をせず長期間我慢し、身体症状や突発的な不適応行動となって現
われることもある。
④ 聴覚・視覚など特定の感覚に注意が向きやすく、何か聞こえたり見えたりする度に活動が止ま
ってしまう。
生来の感覚的なことなので、無理強いは禁物です。環境の方を変えることがベストですが、経済的・
物理的に不可能な場合は、不快な刺激ができるだけ少なくなるように工夫したり、不快感を取り去って
ストレスを解消するための手段を持たせるなどの配慮をします。感覚刺激そのものが苦痛な場合と、感
覚刺激によって注意がそれやすい場合とでは原因が違いますが、どちらも耳栓をするなどの工夫で対応
できることがあります。また、感覚刺激そのものが苦痛というよりも、状況がよくわからなくて不安を
感じている場合には、予測がついたり、(物音などの)理由や原因を明らかにすることで軽減するものも
あります。

(7)パニックや癇癪を起こしやすいこと
パニックや癇癪は、何らかの困難に直面していることを表わしていることが多いものです。そのよう
な時には、本人自身もどうしていいか分からず不安なのですから、パニックや癇癪を起こしたことを責
めても何の意味もありませんii。理由としては、感覚の特質が原因で起こることもありますが、本人の
発達レベルに合わない無理な要求をされている時に頻発します。いずれにせよ、努力によって克服すべ
きものと考えるのではなく、課題のレベルを下げて「本人にできる範囲でちょっと上を目指す」ように
やり方を工夫する必要があります。
パニックや癇癪を起こした時は、本人が落ち着いた後なるべく間をおかずに、本人の不安を解消する
ための理由説明を簡潔に行うことが大切です。時間が長く経ってしまった後では、何のことを言われて
いるのか分かりません。また、くどくどと説明すると効果が半減します。

<第二部> Q & A

【Q1】 人嫌いで孤独を愛する人のことを言うのでしょうか?
① 自分の気持ちを人に話そうとしなかったり、一人で離れていることがありますが、人嫌いでは
ありません。
② 逆に、積極的に人に話しかけて質問攻めにする子どももいますし、いつもおとなしく人の後に
ついていく子どももいます。
③ 顔の表情があまり変わらず、身振りなどで気持ちを表現することが少ないため、人がいても喜
んでいないように見えることがあります。
④ 触覚の過敏があって、人に触られたり抱きしめられることに苦痛を感じることがあります。し
かし、人に触られるのは嫌いなのに自分から人を触るのは好きで、ベタベタと触ってくる子ど
ももいます。
⑤ 一対一でなら人とかかわることができるのに、たくさんの人と同時にかかわることができない
子どももいます。(一見すると、何の問題もなく複数の人と接しているようですが、よく見る
と一対一のかかわりしか持っていないことがよくあります。)
ii ただし、その際に器物を壊したり他人に害を与えてしまった場合には、謝罪を免れるものではありません。
これは、ソーシャルスキルの一つとして重要です。(【Q11】参照)
⑥ 信頼のおける人としか話さなかったり、特定の人の言う事しか聞かなかったりすることもあり
ますが、人懐っこくて、初対面の人なのに旧知の仲のように振る舞うこともあります。
⑦ 人の心情にこたえるような対応や返事を期待しても、何も返ってこないことがあります。この
ような場面では、そのまま動きが止まってしまう(フリーズしてしまう)こともあれば、人の気
をそらすようなことをわざと言うこともあります。本人自身、どうしていいかわからないので
す。これは、障害特性から生ずるものです。

【Q2】 コミュニケーションが不足していると聞きましたが…。
① 幼児期に言葉の遅れが多少あった子どもでは、言葉の数が少なく、うまく話せなかったり、オ
ウム返しが多いといった症状が残っていることがあります。
② 逆に、言葉の遅れはなく、むしろおしゃべりなことがあります。しかし、やりとりのある会話
をすることができないために、「言葉はよく知っているのに、コミュニケーションになってい
ない」ものです。気持ちを表すために人に話すのではなく、知識を並べているだけのこともよ
くあります。
③ 保護者の話しかけが足りないために、言葉の遅れが生ずるのではありません。おしゃべりな場
合は、保護者が話を聞いてくれないので寂しくてよその人に話しかけているのではありません。
また、親子のコミュニケーションが不足しているので、他人と会話する方法を学習していない
のでもありません。
④ 言葉の遅れがなければ発達に異常はないとみられてしまい、コミュニケーションの障害がある
ことを見落とされてしまっていることがあります。

【Q3】 友だちがいないのは、家に閉じこもっているからでしょうか?
① 家に閉じこもって1人遊びばかりしていたり、ゲームばかりしているから、テレビやビデオば
かり見ているから友だちができないのではありません。
② 適切なやり方で人とかかわれない、やりとりのある会話ができないという困難を持っているこ
とが多くあります。そのようなケースでは、本人が不利益を被らないように、人とかかわるた
めの専門的なトレーニング(ソーシャルスキルトレーニング)などを行う必要があります。
③ 適切な対人関係を持つための機会を増やすことも大切ですが、やみくもに同年代の子どもと交
友させることにも問題があります。いじめられたり、本人が自信をなくしてしまう恐れがある
からです。
④ 集団行動に向いておらず、個別指導を主にした方が良いケースもあります。
⑤ 集団活動ができる子どもでも、仲介役の人(大人・子ども)をつけて保護しながら、時間をか
け、様々な場面での人とのかかわり方を教える必要のある子どももいます。
⑥ あまり一般的でないものに強い興味関心を持っている場合は、気の合う(共通の話題がある)
友人を、意識して探す必要があります。

【Q4】 人の気持ちが分からないと言われていますが…。
① 他人の表情やしぐさから感情を読み取ることが苦手で、他人が何をしようとしているのかわか
らないという困難を持っています。
② また、自分の感情を顔の表情やしぐさで表すことが苦手なので、他人の気持ちにうまくこたえ
られないことがあります。
③ かかわり方が一方的で、人の気持ちを無視しているように見えることがあります。
④ 他人に言われた通りのことしかできずに、気が利かないと言われることがあります。
⑤ 自分の考えを強く持っているので、強い信念の持ち主と賞賛されることもあります。しかし、
他人の好意にこたえないと思われてしまうこともあります。

【Q5】 そっけなくて薄情に感じますが…
① 自分の感情を言葉や顔の表情で表わすことが少ないのは自閉症の特徴の一つと言えますが、だ
からといって感情がないわけではありません。
② 発言や顔の表情から相手の気持ちを察し、不快感を与えないように振る舞ったり、自分が不利
にならないように配慮することも苦手です。
③ 儀式などの立ち居振る舞いを覚えることにはさほど苦労しないかもしれませんが、日常の場面
では「決まりきった挨拶しかできない」という印象を与えていることでしょう。
④ 人の顔を覚えることが得意な子どももいれば、人の顔を全く覚えられない子どももいます。ま
た、いつもと違う場所で普段と違う格好をしていると、知っている人だとわからないこともあ
ります。
⑤ 特定の色や音(例えば、赤い物やピアノの音など)、特定の興味の対象(例えば、電車や石など)
に注意が集中しやすいため、人がいることに全く気がつかないことがあります。

【Q6】 自分の思い通りにならないと怒ります。わがままなのではないでしょうか?
① 「自分の思った通りに進行しなかった」「自分の思ったような結果にならなかった」という予定
外の出来事に対応できないことは、自閉症児によくみられます。
② 認知面の偏り、感覚の特質、こだわり・固執といったさまざまな理由から、できないこと、わ
からないこと、苦手なことがたくさんあります。そのために、“いつもと同じ”であることを求
めていることもあります。
③ 社会的な学習の一環として「いつもいつも自分の思い通りに事が運ぶとは限らない」と事前に
教えたり、「我慢できたこと」を誉めると同時に、混乱した際に行動をコントロールできるよう
に粘り強く指導する必要があります。
④ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、前項のような対応やトレーニン
グを行う必要があります。

【Q7】 人と目を合わせなかったり、へんな目つきをすることがあるのはどうしてでしょうか?
① 人と目を合わさないのは、自閉症児によく見られる特徴の一つです。
② 人は、自分に向かって話しかけたり何かを要求してかかわってくる存在です。人に視線を向け
られたり、人に見られることに侵入感を感じてしまうために、相手の方を見ないことがありま
す。 恥ずかしいのではなく、かかわりを持つことが難しいための行動です。
③ 特に、どう答え・どう振る舞って良いか分からない場面や対処し切れない過剰な要求に直面す
ると、不安感と恐怖心が強くなり、意識して視線をそらすようになることがあります。
④ 「人の目を見て話しなさい」と指導すると、逆に相手をにらみつけるようになってしまうこと
もあります。自閉症の特徴を踏まえた上で、ソーシャルスキルの一つとして失礼のないように
相手の方を見るように指導します。
⑤ 幼児期から学童期の前半にかけて人に注意が向かず、全く人を意識していないように見えてい
た自閉症児が、小学校の高学年ごろから急に他人の視線を気にし始めることがあります。ほと
んどの場合は、ちょうど思春期を迎える時期になってやっと他人が目を向けた方向を見ている
ことや自分の方を見ていることに気づき、過剰に気にするようになったと考えた方が良いでし
ょうiii。
⑥ 自閉症児は、自閉症特有の宙を見るような目つきをしていることがあります。また、何かをじ
っと見つめるといった行動をすることがよくあります。

【Q8】 ちょっとからかっただけなのに、本気にして怒りました。なぜでしょうか?
① 「ちょっとしたことで泣いたり怒ったりして大袈裟だ!」と思われてしまうかもしれませんが、
人づきあいの経験が足りなくて傷つきやすいのではありません。言葉の問題(主に、言語の使
用法)や、対人認知の問題(人の行動の意味や意図がわからない)といった理由が考えられます。
② 言われたことを真に受けてしまったり、言葉の表面的な意味しか分からないことがあります。
からかいや冗談は、禁物です。
③ 言葉の問題が原因の場合は、字面の意味と実際の意味との違いや、その言葉の持っている含み
(言外の意味)を、きちんと説明します。(「そんなつもりで言ったのではないのに。」と釈明し
ても通じません。)
④ 独特の感性を持っているので、普通ならなんでもないと思うようなことに怒ってしまうことが
あります。しかし、本人なりの理由が必ずあります。そのような時は、何に対して・どうして
怒ったのか本人に聞いてみましょう。(本人が答えられない場合は、専門の先生に聞くと良い
でしょう。保護者やきょうだいが、なんとなく分かっていることも多いものです。)
⑤ ささいなことに腹を立てていると思われるかもしれませんが、本人にとっては重大なことです。
頭ごなしに否定するようなことはしないようにお願いします。
iii 基本的には、失敗して恥をかくことや人からの非難を恐れるあまりに他人の視線が恐くなる「視線恐怖」(社会
恐怖や対人恐怖によるもの)とは異なるものです。ただし、能力以上の要求をされ続け、失敗経験や人から非難さ
れる経験を多くしていると、人に対して負の感情を抱く傾向が強くなり二次的な情緒障害を合併してしまうことも
あります。

【Q9】 ちょっとした音で大騒ぎします。我慢が足りないのでは?
① 我慢が足りないのではなく、音に敏感なのです。聴覚の過敏は、自閉症に非常によく見られる
ものです。
② このように、特定の感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・前庭覚)が過敏だったり、鈍感だ
ったりすることが、よくあります。生理的なものなので、我慢させると強いストレスになりま
す。
③ 感覚的なものは、叱っても何の意味もありません。ただ、不快感や苦痛が大きいものでなけれ
ば、社会的な状況(いつ・どのような時に起こるか)が分かれば過剰な反応をしなくなること
もあります。また、成長するにつれて穏やかになっていくものや、本人の社会的な状況理解が
進むことでコントロールするようになることもあるので、現在の感覚の特質を常に把握してお
く必要があります。
④ 個人差が大きく、特に思い当たる症状のない子どももいれば、感覚の特質が社会的困難のかな
りのウエイトを占めている子どももいます。一人一人、個別に把握しておく必要があります。

【Q10】 注意したのに聞いてくれません。どうすればいいのでしょうか?
① 具体的に指示しないと、分からないことがあります。(例えば、「列に並んでください」と言う
のではなく、「○○さんと△△さんの間に入ってください」というように。)
② 日常的な何でもない表現の方が分かりにくく、難しい言葉(専門用語など)や標語などを用いて
指示した方がよく分かることもあります。(例えば、「電車が来る」よりも「電車が到着する」
というように。)
③ 物知りでよくしゃべる割には、言葉の意味がよく分かっていないことがあります。
④ 自分に向かって話しかけられていることが、分からないことがあります。その場合は、話しか
ける前に合図をしたり、気を引いてから話すようにすると良いでしょう。
⑤ 耳から聞く「聞き言葉」の意味が伝わりにくい子どもでは、絵や文字で指示すると良いでしょ
う。
⑥ 周囲の状況がよく分かっていないために、注意された内容が理解できないことがあります。本
人がどこまで理解しているか確認しながら、丁寧に状況の説明をすれば分かることも多いもの
です。
⑦ 怒鳴り声や甲高い声、抑揚のある話し方、ちょっと変わったイントネーションをしていたりす
ると、言葉の「音」にとらわれて内容が頭に入っていかないことがあります。
⑧ 自分独自のルールを持っている子どもでは、周囲の状況に合わせて行動を変えられないことが
あります。はじめから無理やり変えようとせずに、周囲の人たちの方が合わせるようにしなが
ら、徐々にいろいろな場面に対応できるようにするための専門的なトレーニングする必要があ
ります。
⑨ 自分とかかわりのある人や信頼関係のある人の指示ならば聞けることでも、他の人から突然注
意されると、聞かないことがあります。場合によっては、「担任の先生以外の大人も、先生と
同じように指示することがある。」と教えておくとよいでしょう。

【Q11】 人をたたくことがあります。どうしたらよいでしょうか?
① 他人を攻撃する意図のない、反射的な行動であることがほとんどです。 視覚的な刺激(本人に
とって不快なものが見えたなど)や触覚的な刺激(本人にとって不快な方法で触られた、または、
人が急に近づいてきたなど)への過敏があるために、とっさに反応して、結果として人をたた
いてしまうことがあります。
② パニックや癇癪を起こしやすい子どもでは、その際に他害行為をしてしまうことがあります。
③ 人に関心を持ち始める時期には、適切なかかわり方ができないための行動であることがありま
す。トラブルになりやすい特定の子どもがいる場合には、その子どもが視野に入ったとたんに
反射的に叩いてしまうこともあります。また、遊んでいる内に、興奮して行動がエスカレート
してしまうこともあります。
④ 周囲の人々の方が恐くなってしまうかもしれませんが、本人自身が混乱していることの現われ
です。本人の負担をなるべく少なくするように環境を調整することで、問題となる行動を減ら
していくことができます。
⑤ 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単
に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、原因を究明してそれなりの処置
をする必要があります。

【Q12】 だらしないので厳しく指導したいのですが…。
① 「はじめ」と「おわり」がよくわからないために、けじめがついていないように見えることが
あります。「今から何が起き」「自分は何をすればいいのか」予め告げておくとともに、その場
では「はじめ」と「おわり」の合図をしっかりと出すようにすると良いでしょう。
② 空間的な配置や物事の順序がよく分からないために、整理整頓ができず乱雑に見える子どもも
います。物の形を分けて置き場所を決めておいたり、準備から片づけまでの手順を紙に書いて
示したりする必要があることがあります。(逆に、いつもきちんとしていて、ちょっとでも動
かしたり変えたりすると怒る子どももいます。)
③ いつも服の端を握っていたり、だらしない服の着方をしていることがあります。多くは、感覚
(触覚)的なものですので、やみくもに叱らないようにしてください。かといって、全く注意し
てはいけないということはありません、「服がはみ出していることを教えてあげる」ようにす
るとよいでしょう。
④ 自閉症の特性を無視して厳しくしても、ほとんど意味がありません。無理やり抑えつけると、
問題行動をひどくしてしまうことがあります。
⑤ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの監督と指導が必要です。

【Q13】 おかしなことをすることがあるのですが…。
① アスペルガー症候群の子どもにも自閉症と同様のこだわり行動があり、奇妙に見えることがあ
ります。
② こだわり行動にもいろいろあり、本人の精神的な安定のために必要な行動であるものもありま
す。
③ しかし、社会的に不適切なものに関しては、社会的に妥当な行動(他人に迷惑をかけない・他
人を巻き込まない・TPOをわきまえた行動)に置き換えていく必要があります。
④ これらの様子から、他の子どもからいじめられることがあります。いじめを受けると、強い心
的外傷になりますので、他の子どもへの指導と監督が必要です。

【Q14】 運動ができないのは、努力をさせなかったからでしょうか?
① 運動ができないのは、発達性協調運動障害という障害がある場合です。
② 発達性協調運動障害は、アスペルガー症候群に合併することの多い障害です。
③ 通常なら励ましになるはずの「がんばれ」という声援が、負担になってしまうことがあります。
④ 本人の努力だけでは、どうしようもないものです。課題のレベルを下げるとともに、発達段階
に合わせた指導をする必要があります。

【Q15】 親が過保護で、甘やかしすぎているのではないでしょうか?
① 発達の遅れがあって庇護的にならざるを得ないという特殊事情があるために、発達障害児にか
かわったことのない他の父兄から、過保護・過干渉と見られてしまうことがあります。
② 他人とどのようにかかわったら良いか分からず、不安を感じることの多い自閉症児は、自分を
守ってくれる人に依存してしまう傾向を持っていることもあります。
③ アスペルガー症候群の子どもは特に、言葉の遅れがなく、物知りで賢そうに見えるため、障害
があることに気付かれないことが多いものです。他の子どもと違った行動や問題となる行動が
あると、単なるわがままやしつけ不足と思われているかもしれません。
④ 周囲の状況が分からない中でどのように振る舞って良いか分からないという本人の強い不安
を受け留めながら、自発性を育てる必要があります。

【Q16】 親が厳しすぎるのではないでしょうか?
① 発達障害のある子どもには、特有の育てにくさがあります。しかしそれが発達障害によるもの
だと気づかず、保護者が厳しく接してしまうことがあります。
② 発達障害であることには気づかないものの、たいていの保護者は我が子の抱えている困難に気
づいているものです。そのために、良かれと思って厳しく接してしまっていることもあります。
また、保護者の育て方に原因があるのではないかと思い悩んで、厳しくしてしまうこともあり
ます。
③ 発達障害の診断を受けたものの受容できずにいる段階の保護者は、かえって子どもの遅れが目
についてしまい、何とかして直そうと厳しく接してしまうことがあります。
④ 専門機関や支援団体に所属して、適切な治療教育(療育)を受けてトレーニングを行っている場
合でも、その方法が一般に知られていないために、子どもに厳しくしすぎていると言われてし
まうことがあります。
⑤ 保護者が子どもに厳しく接してしまう理由の一つに、「ちょっと変わった子を、安心して学校
や社会に送り出せない不安」と「行動の問題は、家庭環境としつけに原因があると考える社会
の認識」があります。この悪循環を断ち切らない限り、問題は解決できないと考えます。

【Q17】 問題行動がなくなって、だいぶ落ち着いてきました。治ったのでしょうか?
① 生まれつきのものなので、治るということはありません。
② 本人と周囲の人たちの双方が協力することで、障害と上手に付き合っていくことができます。
③ 発達障害を持っていても、その状態は対応や環境によって大きく左右されます。
④ 見かけ上の問題がなくなると放置されがちになりますが、本当は継続した支援が必要です。
(後になって、他の様々な病気となって現われたり、適応障害を起こすことがあります。)
⑤ 教育的な対応をするだけでなく、医学的診断が必要なところです。

支援プラン作成上の留意点
高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもは、一見普通に見えますが、特別な支援を必要としてい
ます。 「かかわり・コミュニケーション・こだわりの三領域の困難」(表1)という一次的な障害に加え
て、社会的な理解が得られていないことによる精神的・心理的な負担から、二次的な障害に発展しやす
いものです。対人関係に支障をきたしやすい自閉症児への支援プランを作成するに当たっては、以下の
ような観点が不可欠です。
① 信頼関係を形成すること。
この人なら分かってくれる・この人なら安心できる、という人の指示を受け入れ易い傾向があります。
特に、聴覚の過敏性があるケースでは、穏やかで低いトーンで指示すると、聞き入れやすいことが多い
ようです。相手と同じ視点に立つことは、コミュニケーションを成立させるための鉄則です。
② 「本人自身の困難を少しでも減らす」という視点に立って、指導に当たること。
問題行動が増える時には、本人が何らかの困難に直面していることを意味しています。単に行動を改
善することを目標にするのではなく、問題行動は「周囲の状況と本人の発達段階が合っていない」こと
を現わしており、問題行動が起きることで「お互いにとって良くない結果を生んでいる」という悪循環
を断ち切る必要があります。
③ 本人のニーズに応える形で、支援すること。
認知・感覚・身体運動面の障害が大きくて、クラスメイトと同じように行動できないことに悩んでい
る場合と、人に関心が薄く自分なりの考え方を持っている場合とでは、本人のニーズが異なります。そ
れによって、介入方法を変える必要があります。
④ 通常とは違う感じ方や考え方を持っていることを尊重すること。
社会的にふさわしくない行動を減らし、社会的不利をなくすための努力は必要ですが、感じ方・考え
方の違いは尊重されるべきです。これを頭ごなしに否定してしまうと、孤立してしまったり、自信をな
くしてしまうことがあるからです。
⑤ 本人の心情に配慮すること。
本人自身が困っていることを自覚している分野では積極的に指導できるものですが、本人の抵抗や精
神的な負担が大きい分野では、無理強いすると人とのかかわりを拒絶するようになってしまうこととが
あります。また、不安を感じやすいことに配慮して、「できていないこと」を強調せずに「できること」
を増やし、本人が有能感を実感できるように努めることが大切です。



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自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient: AQ)

自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient: AQ)自己診断

1. 何かをするときには,一人でするよりも他の人といっしょにする方が好きだ. 
     
2. 同じやりかたを何度もくりかえし用いることが好きだ. 
     
3. 何かを想像するとき,映像(イメージ)を簡単に思い浮かべることができる. 
     
4. ほかのことがぜんぜん気にならなくなる(目に入らなくなる)くらい,何かに没頭してしまうことがよくある. 
     
5. 他の人が気がつかないような小さい物音に気がつくことがよくある. 
     
6. 車のナンバーや時刻表の数字などの一連の数字や,特に意味のない情報に注目する(こだわる)ことがよくある. 
     
7. 自分ではていねいに話したつもりでも,話し方が失礼だと周囲の人から言われることがよくある. 
     
8. 小説などの物語を読んでいるとき,登場人物がどのような人か(外見など)について簡単にイメージすることができる. 
     
9. 日付についてこだわりがある. 
     
10. パーティーや会合などで,いろいろな人の会話についていくことが簡単にできる。 
     
11. 自分がおかれている社会的な状況(自分の立場)がすぐにわかる. 
     
12. ほかの人が気がつかないような細かいことに,すぐ気づくことが多い. 
     
13. パーティーなどよりも,図書館に行く方が好きだ. 
     
14. 作り話には,すぐに気がつく(すぐわかる). 
     
15. モノよりも人間の方に魅力を感じる. 
     
16. そうすることができないとひどく混乱して(パニックになって)しまうほど,何かに強い興味を持つことがある. 
     
17. 他の人と,雑談のような社交的な会話を楽しむことができる. 
     
18. 自分が話をしているときには,なかなか他の人に横から口をはさませない. 
     
19. 数字に対するこだわりがある. 
     
20. 小説を読んだり,テレビでドラマなどを観ているとき,登場人物の意図をよく理解できないことがある. 
     
21. 小説のようなフィクションを読むのは,あまり好きではない. 
     
22. 新しい友人を作ることは,むずかしい. 
     
23. いつでも,ものごとの中に何らかのパターン(型や決まりなど)のようなものに気づく. 
     
24. 博物館に行くよりも,劇場に行く方が好きだ. 
     
25. 自分の日課が妨害されても,混乱することはない. 
     
26. 会話をどのように進めたらいいのか,わからなくなってしまうことがよくある. 
     
27. 誰かと話をしているときに,相手の話の‘言外の意味’を理解することは容易である. 
     
28. 細部よりも全体像に注意が向くことが多い. 
     
29. 電話番号をおぼえるのは苦手だ. 
     
30. 状況(部屋の様子やものなど)や人間の外見(服装や髪型)などが,いつもとちょっと違っているくらいでは,すぐには気がつかないことが多い. 
     
31. 自分の話を聞いている相手が退屈しているときには,どのように話をすればいいのかわかっている. 
     
32. 同時に2つ以上のことをするのは,かんたんである. 
     
33. 電話で話をしているとき,自分が話しをするタイミングがわからないことがある. 
     
34. 自分から進んで何かをすることは楽しい. 
     
35. 冗談がわからないことがよくある. 
     
36. 相手の顔を見れば,その人が考えていることや感じていることがわかる. 
     
37. じゃまが入って何かを中断されても,すぐにそれまでやっていたことに戻ることができる. 
     
38. 人と雑談のような社交的な会話をすることが得意だ. 
     
39. 同じことを何度も繰り返していると,周囲の人からよく言われる. 
     
40. 子どものころ,友達といっしょに,よく‘○○ごっこ’(ごっこ遊び)をして遊んでいた. 
     
41. 特定の種類のものについての(車について,鳥について,植物についてのような)情報を集めることが好きだ. 
     
42. あること(もの)を,他の人がどのように感じるかを想像するのは苦手だ. 
     
43. 自分がすることはどんなことでも慎重に計画するのが好きだ. 
     
44. 社交的な場面(機会)は楽しい. 
     
45. 他の人の考え(意図)を理解することは苦手だ. 
     
46. 新しい場面(状況)に不安を感じる. 
     
47. 初対面の人と会うことは楽しい. 
     
48. 社交的である. 
     
49. 人の誕生日をおぼえるのは苦手だ. 
     
50. 子どもと‘○○ごっこ’をして遊ぶのがとても得意だ. 
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_f/F-112/05.pdf

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心療内科の本質

ある先生の話

高血圧で内科にかかっている患者さんが
心療内科に紹介されたきた
薬をもらっても眠れないという。
話を聞いて、ストレス要因について整理した。
心理療法の後、
偶然ジェネリック薬に切り替えていたので、
同じ薬でいいから、ジェネリック薬を出しますと説明。

患者さんは、内科に血圧の薬をもらいに行ったときに、
紹介してもらってありがとうございます、
おかげさまで眠れるようになりましたと感謝した。
お医者さんは薬を見て、
これは同じ薬なんだよ、
同じ薬で眠れたり眠れなかったりするなんて、
いわしの頭も信心からって言うからな、
眠れるはずだったのに、
と言って患者さんに少し当たったらしい。

この話をさらに患者さんに聞いて、
その先生は考えた。
半分は、うれしい。心理療法がやはり効いているのだから。
半分は、悲しい。内科の先生は、よかったね、眠れるようになって、
と言えばそれだけでよかったはずだ。
どうせ同じ薬だなどという必要があるだろうか。
患者さんの利益になるだろうか。
そんなことをお医者さんに言わせたのは、
わたしも親切じゃなかったということか。

*****
とりあえずこの話から分かることは、
同じ薬をもらっても、
誰から、どのような説明で、どのような態度でもらうかによって、
効き目が全然違うことだ。
そして患者さんにとっての、薬の意味が違ってくる。

よい説明のあとでは、薬を飲むたびに、
その説明を思いだし、あの先生がわたしにはついていてくれると感じることになる。

このようなエピソードを先輩の先生から聞くと、
たしかに心理療法は効いているし、大切なのだと思う。



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